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番外小話 お酒は二十歳になってから
後編
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「誕生、酒?」
聞き慣れない単語に花菜が首を傾げる。
「そう、誕生酒。誕生石とかそういうのは有名だけどお酒にもそういうのがあるらしい。俺もマスターに聞いて初めて知ったんだけどね」
黒猫のカウンター席に落ち着いてから二十歳になったお祝いだから記念に何かカクテルを作りましょうかって話になった時、何を頼もうか悩んでいる花菜にマスターの透さんが助け舟を出してくれたのがこの誕生酒の話だった。
「花菜さんの誕生日は今日? 7月22日ならマリブオレンジだね。それを先ずは作ろうか。オレンジジュースがベースだから初心者にも飲みやすいよ」
「はい、じゃあそれでお願いします!」
透さんが作る準備を始めるのをワクワクした顔でそれを見ていた花菜が口を開いた。
「誕生酒ってことはカクテルだけで365種類もあるってこと?」
「そういうことだな、実際はもっとあるらしいけど」
そして更に凄いのはその365種類のカクテルを透さんが全て作れるらしいということ。先代マスターの杜さんもアルコールの造詣が深い人だったが透さんは更にそれを多方面で極めたという感じだ。
「凄いね、カクテルだけでもそんなに種類あるんだ。あ、蓮さんの誕生酒は何だったの?」
「俺? 俺はゴッドファーザーだと」
「え?! 警察官なのにゴッドファーザーって……」
映画好きの花菜、やはりそこに食いついてきたか。
「だろ? 最初に聞いた時は何の冗談かと思った。アルカポネもあるらしいからそっちよりマシだよな」
「ゴッドファーザーはどんなカクテル? 蓮さんは飲んだことある?」
「実のところ俺も誕生日にマスターに作ってもらったクチ。ウイスキーがベースだから花菜のよりずっとアルコール度が高いカクテルだ」
ウイスキーとアマレットのカクテルで甘さに騙されて飲み過ぎた為に酷い二日酔いの頭痛に悩まされたのは俺だけの秘密だ。できあがったカクテルが花菜の前に置かれると彼女は嬉しそうにグラスを口につける。
「初のお酒が自分の誕生酒って素敵ですね」
「お誕生日のサービスみたいなものかな。気に入ってくれたならこれからも黒猫をご贔屓に」
さすがマスター、商売上手なところは相変わらずだ。
+++
「えへへ、ちょっと酔っ払っちゃったかな」
店を出たところで花菜がヘニャと笑ってこっちを見上げてきた。
「いきなり飲み過ぎだぞ」
「だってマスターのカクテルの薀蓄が楽しかったんだもん」
最初に誕生酒であるマリブオレンジを飲んでからは、ジャズの生演奏を聴きながらあれこれと透さんに酒の話やワインの話を聞きながらカクテルをあれこれ試していた花菜、かなり酒が回っているようだ。店を出る時に透さんがアルコールは通常レシピよりも控えておいたから大丈夫だと思うけどねとこっそりと教えてくれたんだが、それでも今日まで俺の言いつけを律儀に守っていた彼女にとっては酔っ払うには十分な量だったのだろう。もしかしたら明日は二日酔いかもな。
「蓮さーん」
「ん?」
「今日は蓮さんちにお泊りしちゃ駄目?」
いきなりの言葉にエレベーターホールで固まってしまった。
「やっぱり駄目ぇ?」
こちらが固まってしまったことを誤解したらしく少しだけ悲しそうな顔をしてこっちを見上げてきた。そんな可愛い顔をされて見詰められたら断りたくても断れないだろう。
「いや、俺は構わないけど、花菜は良いのか? 家の人には今夜は泊るって言ってあるのか?」
「言ってあるよ。今日は蓮さんがお誕生日をお祝いしてくれるって」
「祝うのは良いとして泊まるとかどうとかってのも言ったのか?」
「それも言ってある。お母さんがガンバ♪って」
……花菜もそうだが花菜の両親も話を聞いているとかなりぶっ飛んだ性格だよな。そりゃ変にお堅いよりかはマシだが、なにがガンバ♪なんだか。頑張るのは俺の方じゃないのか?と思ったり。あ、それで思い出した、帰る途中でコンビニに寄らないと。
「花菜んちのお母さんって何気に自由人だよなあ……」
「蓮さんちのお母さんだってそうじゃない? 私、何度かお花屋さんで話したことあるけどうちのお母さんと似た感じがするなって思ったもの」
「……そうなのか」
否定はしない。呑気で自由な芸術家肌の母親にはうちの父親も色々と苦労したようだし。ただその苦労話もよくよく聞いていると単なる惚気話にしか聞こえないのが不思議なんだが。
「で、お泊りしちゃ駄目ぇ?」
「俺は明日は仕事だから朝から出るけどそれでも良いか?」
「うん、それでも行くー」
「分かった。じゃあ行くか」
一人で暮らしているマンションに二人で行く途中、コンビニに寄ってスポーツドリンクを買った。俺はそんなに飲んでいないがこれまでの経験上、花菜は起きたらすぐに飲みたくなるだろうから。それから彼女があっちを見ている隙に必要になるであろう物もこっそりと。
「蓮さんの家族って商店街に住んでるのに何で蓮さんは家を出ちゃったの? しかもこんな近く、別にわざわざ家を出なくても良かったんじゃ?」
「んー……何て言うかな、親がさっさと自立しろってうるさかったんだ」
「別に仲が悪いとかじゃないんだよね?」
「家族関係は良好な方だな」
たまに実家に帰れば何故かピンク色の空気が流れているのが見えるようだし自立しろと最もらしいことを言っていたが、本当のところは子供達を追い出して夫婦だけでイチャコラしたかったのではないかと密かに思っている。
「だけど俺が一人暮らししていて良かったろ? 実家住まいだったらお泊りなんてちょっと無理だろ」
「そりゃそうなんだけどね」
かくして花菜と俺はマンションに到着したわけだが、花菜ときたらいきなりベッドでゴロンと横になったかと思ったらあっと言う間に寝る体勢に入ってしまった。おいおい、酔っ払っているにしてもそれはあんまりなんじゃないのか?
「おーい、花菜ちゃん、そのまま寝ちまうつもりなのか?」
「ふにゃあ、蓮さんのベッド、寝心地最高~」
「そりゃどうも」
そりゃマットレスは良いものをと奮発したからな……じゃなくて。お母さんのガンバレは何処に行った? やれやれと溜め息をつきながら買ってきたスポーツドリンクを冷蔵庫にしまう。
「……これ、今回は使えないかもな」
レジ袋に入っていた箱を見下ろしてポツリと呟く。ま、仕方がないか……。
「蓮さーん」
洗面所の棚にそれを片付けていると部屋から花が呼ぶ声が聞こえてきた。
「なんだ?」
「一緒に寝るー?」
「一体どんな拷問だ……」
「なあに? きこえなーい」
さっさと寝ちまえ、この酔っぱらいめ。
「俺は適当に寝るから心配するな」
「あーい、お休みー」
やれやれ、今夜はリビングのソファで寝ることになりそうだ。引っ越しの時に姉ちゃんがこっちでも寝られるように寝心地の良いソファを買いなさい(なぜ座り心地ではなく寝心地なんだと突っ込んだんだがその時はまったく無視された)と煩く言っていたのを感謝する日がこようとは。
「一歩進んだ大人のお付き合いになるのはもう少し先になりそうだなあ……」
そう呟きながら眠ってしまった酔っぱらい娘が暑くないように冷房を一番弱い風量でつけてから着替えをする。自分の横で男が半裸になってウロウロしているというのに呑気なものだな。ここで無理やり起こして事に及ばない俺のことを誰か褒めて欲しいものだ。
「……なんか親父の気持ちが分かった気がする」
うちの両親が出会った頃、親父は呑気な母親に散々振り回されたという話を聞かされたことがあったが、その時の親父の気持ちってこういうものだったのかもしれないなと思った。
「ってことは花菜はお袋に似てるってことか?」
そう気が付いてしばらく複雑な気分に陥ったのは言うまでもない。
+++
そして次の日の朝、俺が起き出すと共に花菜も目を覚ました。だがその顔からして爽やかな朝を迎えたというわけではなさそうだ。
「うにゃあ、頭いたいよお……」
そう言いながら頭を両手で押さえている。
「そりゃそうだろ、あれだけ飲んだら二日酔いになっても不思議じゃないからな」
「最悪だあ……せっかくのお誕生日だったのに」
「これで少しは懲りたか? 自分で飲める量を見定められるようにならないとな。それが出来て初めて大人ってことだろ」
「朝からお説教とかありえなーい」
「そりゃ説教もしたくなる、こっちだって最悪な気分なんだから」
最後の方はブツブツと呟いたので花菜は何を言っているか分からなかったようだが、男だって色々と大変なんだそういうことも分かれよと言いたい。
「で、学校は?」
「もう夏休みだもん」
「バイトも休みなんだっけ?」
「うん」
「じゃあ気分が良くなるまで寝てろ」
そう言ってスポーツドリンクと薬、それから着替えのTシャツとスエットの下をベッドに置いた。
「いいの?」
「そんな酷い二日酔い状態のまま一人で家に帰すわけにはいかないだろ。帰ってきたら送ってやるから。腹が減ったら……」
「今は食べるなんて考えられない……」
呻くように呟いた花菜に思わず笑ってしまった。
「笑いごとじゃないよ……」
「今はそんな気分でもそのうち腹が減るだろ? その時は冷蔵庫の中に色々と入ってるから適当に食え」
「分かった。もしかしたら外で食べるかも」
「そうしたいならそれでも良い。寝るならこっちに着替えろよ、その方が楽だから」
「うん」
結局のところ期待していたような大人の付き合いを始めることは出来なかったが、俺達なりに一歩進んだ一日にはなったと思う……多分。
聞き慣れない単語に花菜が首を傾げる。
「そう、誕生酒。誕生石とかそういうのは有名だけどお酒にもそういうのがあるらしい。俺もマスターに聞いて初めて知ったんだけどね」
黒猫のカウンター席に落ち着いてから二十歳になったお祝いだから記念に何かカクテルを作りましょうかって話になった時、何を頼もうか悩んでいる花菜にマスターの透さんが助け舟を出してくれたのがこの誕生酒の話だった。
「花菜さんの誕生日は今日? 7月22日ならマリブオレンジだね。それを先ずは作ろうか。オレンジジュースがベースだから初心者にも飲みやすいよ」
「はい、じゃあそれでお願いします!」
透さんが作る準備を始めるのをワクワクした顔でそれを見ていた花菜が口を開いた。
「誕生酒ってことはカクテルだけで365種類もあるってこと?」
「そういうことだな、実際はもっとあるらしいけど」
そして更に凄いのはその365種類のカクテルを透さんが全て作れるらしいということ。先代マスターの杜さんもアルコールの造詣が深い人だったが透さんは更にそれを多方面で極めたという感じだ。
「凄いね、カクテルだけでもそんなに種類あるんだ。あ、蓮さんの誕生酒は何だったの?」
「俺? 俺はゴッドファーザーだと」
「え?! 警察官なのにゴッドファーザーって……」
映画好きの花菜、やはりそこに食いついてきたか。
「だろ? 最初に聞いた時は何の冗談かと思った。アルカポネもあるらしいからそっちよりマシだよな」
「ゴッドファーザーはどんなカクテル? 蓮さんは飲んだことある?」
「実のところ俺も誕生日にマスターに作ってもらったクチ。ウイスキーがベースだから花菜のよりずっとアルコール度が高いカクテルだ」
ウイスキーとアマレットのカクテルで甘さに騙されて飲み過ぎた為に酷い二日酔いの頭痛に悩まされたのは俺だけの秘密だ。できあがったカクテルが花菜の前に置かれると彼女は嬉しそうにグラスを口につける。
「初のお酒が自分の誕生酒って素敵ですね」
「お誕生日のサービスみたいなものかな。気に入ってくれたならこれからも黒猫をご贔屓に」
さすがマスター、商売上手なところは相変わらずだ。
+++
「えへへ、ちょっと酔っ払っちゃったかな」
店を出たところで花菜がヘニャと笑ってこっちを見上げてきた。
「いきなり飲み過ぎだぞ」
「だってマスターのカクテルの薀蓄が楽しかったんだもん」
最初に誕生酒であるマリブオレンジを飲んでからは、ジャズの生演奏を聴きながらあれこれと透さんに酒の話やワインの話を聞きながらカクテルをあれこれ試していた花菜、かなり酒が回っているようだ。店を出る時に透さんがアルコールは通常レシピよりも控えておいたから大丈夫だと思うけどねとこっそりと教えてくれたんだが、それでも今日まで俺の言いつけを律儀に守っていた彼女にとっては酔っ払うには十分な量だったのだろう。もしかしたら明日は二日酔いかもな。
「蓮さーん」
「ん?」
「今日は蓮さんちにお泊りしちゃ駄目?」
いきなりの言葉にエレベーターホールで固まってしまった。
「やっぱり駄目ぇ?」
こちらが固まってしまったことを誤解したらしく少しだけ悲しそうな顔をしてこっちを見上げてきた。そんな可愛い顔をされて見詰められたら断りたくても断れないだろう。
「いや、俺は構わないけど、花菜は良いのか? 家の人には今夜は泊るって言ってあるのか?」
「言ってあるよ。今日は蓮さんがお誕生日をお祝いしてくれるって」
「祝うのは良いとして泊まるとかどうとかってのも言ったのか?」
「それも言ってある。お母さんがガンバ♪って」
……花菜もそうだが花菜の両親も話を聞いているとかなりぶっ飛んだ性格だよな。そりゃ変にお堅いよりかはマシだが、なにがガンバ♪なんだか。頑張るのは俺の方じゃないのか?と思ったり。あ、それで思い出した、帰る途中でコンビニに寄らないと。
「花菜んちのお母さんって何気に自由人だよなあ……」
「蓮さんちのお母さんだってそうじゃない? 私、何度かお花屋さんで話したことあるけどうちのお母さんと似た感じがするなって思ったもの」
「……そうなのか」
否定はしない。呑気で自由な芸術家肌の母親にはうちの父親も色々と苦労したようだし。ただその苦労話もよくよく聞いていると単なる惚気話にしか聞こえないのが不思議なんだが。
「で、お泊りしちゃ駄目ぇ?」
「俺は明日は仕事だから朝から出るけどそれでも良いか?」
「うん、それでも行くー」
「分かった。じゃあ行くか」
一人で暮らしているマンションに二人で行く途中、コンビニに寄ってスポーツドリンクを買った。俺はそんなに飲んでいないがこれまでの経験上、花菜は起きたらすぐに飲みたくなるだろうから。それから彼女があっちを見ている隙に必要になるであろう物もこっそりと。
「蓮さんの家族って商店街に住んでるのに何で蓮さんは家を出ちゃったの? しかもこんな近く、別にわざわざ家を出なくても良かったんじゃ?」
「んー……何て言うかな、親がさっさと自立しろってうるさかったんだ」
「別に仲が悪いとかじゃないんだよね?」
「家族関係は良好な方だな」
たまに実家に帰れば何故かピンク色の空気が流れているのが見えるようだし自立しろと最もらしいことを言っていたが、本当のところは子供達を追い出して夫婦だけでイチャコラしたかったのではないかと密かに思っている。
「だけど俺が一人暮らししていて良かったろ? 実家住まいだったらお泊りなんてちょっと無理だろ」
「そりゃそうなんだけどね」
かくして花菜と俺はマンションに到着したわけだが、花菜ときたらいきなりベッドでゴロンと横になったかと思ったらあっと言う間に寝る体勢に入ってしまった。おいおい、酔っ払っているにしてもそれはあんまりなんじゃないのか?
「おーい、花菜ちゃん、そのまま寝ちまうつもりなのか?」
「ふにゃあ、蓮さんのベッド、寝心地最高~」
「そりゃどうも」
そりゃマットレスは良いものをと奮発したからな……じゃなくて。お母さんのガンバレは何処に行った? やれやれと溜め息をつきながら買ってきたスポーツドリンクを冷蔵庫にしまう。
「……これ、今回は使えないかもな」
レジ袋に入っていた箱を見下ろしてポツリと呟く。ま、仕方がないか……。
「蓮さーん」
洗面所の棚にそれを片付けていると部屋から花が呼ぶ声が聞こえてきた。
「なんだ?」
「一緒に寝るー?」
「一体どんな拷問だ……」
「なあに? きこえなーい」
さっさと寝ちまえ、この酔っぱらいめ。
「俺は適当に寝るから心配するな」
「あーい、お休みー」
やれやれ、今夜はリビングのソファで寝ることになりそうだ。引っ越しの時に姉ちゃんがこっちでも寝られるように寝心地の良いソファを買いなさい(なぜ座り心地ではなく寝心地なんだと突っ込んだんだがその時はまったく無視された)と煩く言っていたのを感謝する日がこようとは。
「一歩進んだ大人のお付き合いになるのはもう少し先になりそうだなあ……」
そう呟きながら眠ってしまった酔っぱらい娘が暑くないように冷房を一番弱い風量でつけてから着替えをする。自分の横で男が半裸になってウロウロしているというのに呑気なものだな。ここで無理やり起こして事に及ばない俺のことを誰か褒めて欲しいものだ。
「……なんか親父の気持ちが分かった気がする」
うちの両親が出会った頃、親父は呑気な母親に散々振り回されたという話を聞かされたことがあったが、その時の親父の気持ちってこういうものだったのかもしれないなと思った。
「ってことは花菜はお袋に似てるってことか?」
そう気が付いてしばらく複雑な気分に陥ったのは言うまでもない。
+++
そして次の日の朝、俺が起き出すと共に花菜も目を覚ました。だがその顔からして爽やかな朝を迎えたというわけではなさそうだ。
「うにゃあ、頭いたいよお……」
そう言いながら頭を両手で押さえている。
「そりゃそうだろ、あれだけ飲んだら二日酔いになっても不思議じゃないからな」
「最悪だあ……せっかくのお誕生日だったのに」
「これで少しは懲りたか? 自分で飲める量を見定められるようにならないとな。それが出来て初めて大人ってことだろ」
「朝からお説教とかありえなーい」
「そりゃ説教もしたくなる、こっちだって最悪な気分なんだから」
最後の方はブツブツと呟いたので花菜は何を言っているか分からなかったようだが、男だって色々と大変なんだそういうことも分かれよと言いたい。
「で、学校は?」
「もう夏休みだもん」
「バイトも休みなんだっけ?」
「うん」
「じゃあ気分が良くなるまで寝てろ」
そう言ってスポーツドリンクと薬、それから着替えのTシャツとスエットの下をベッドに置いた。
「いいの?」
「そんな酷い二日酔い状態のまま一人で家に帰すわけにはいかないだろ。帰ってきたら送ってやるから。腹が減ったら……」
「今は食べるなんて考えられない……」
呻くように呟いた花菜に思わず笑ってしまった。
「笑いごとじゃないよ……」
「今はそんな気分でもそのうち腹が減るだろ? その時は冷蔵庫の中に色々と入ってるから適当に食え」
「分かった。もしかしたら外で食べるかも」
「そうしたいならそれでも良い。寝るならこっちに着替えろよ、その方が楽だから」
「うん」
結局のところ期待していたような大人の付き合いを始めることは出来なかったが、俺達なりに一歩進んだ一日にはなったと思う……多分。
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