恋もバイトも24時間営業?

鏡野ゆう

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本編 2

第十五話 テスト慰労会

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「へえ、駐屯地内のコンビニのバイトさんとは。意外なところで出会いってあるものなのね。あそこのバイトのお仕事、バイト募集のサイトで見つけたの?」

 りかさんが質問をしてきた。

「いえ。前にいたコンビニのオーナーさんと仰木おうぎさんがお知り合いになって、そこで転勤が決まったと言いますか」
「へー、そんなことあるんだ!」

 えみさんが目を丸くする。

「まあ苦肉の策みたいです。なかなかバイトさんがいつかなくて、仰木さんも困ってたみたいで」
「そこはわかる。そういうのが好きな雰囲気の子が来てたの何度か見かけたけど、好きすぎて続かないだろうなって思ってた」
「そうなのか?」

 えみさんの言葉に、斎藤さいとうさんが首をかしげた。

「そういうのが好きな子って、そういうのが見たくて来るんでしょ? お店でジッとしてるのなんて、耐えられなくなるだろうなって」
「そこは仰木さんも言ってましたよ。自分が思っていたようなバイト環境じゃないから、すぐにやめちゃうって」

 私が言葉をはさむと、斎藤さんはため息をつく。

「そんなに好きなら、入隊してこれば良いのにな」
「そこがたくみ達とマニアの違いかもねー」

 頼んだお料理がやってくると、山南やまなみさん達が話を中断して、それぞれの取り皿にわけていく。そのテキパキした動作はさすが自衛官さんだ。

「でも山南君、御厨みくりやさんがバイトに来てくれて良かったねー。あそこだと出会いなんてほとんどないから、どうなることかと心配してたんだよー」
「出会い、ないんですか?」

 りかさんのしみじみした言葉に思わず質問をした。

「ないない。そりゃ女性隊員も増えてはきたけど、圧倒的に男が多いから。しかもコンパをセッティングしても、カピバラモードでぜんぜんだったし。保志やすしさんと斎藤君には私達がいるのに、ぜんぜん焦る気配すらなかったんだもの」
「カピバラモード」
「温泉でまったりしてるカピバラさんは見たことある? 山南君、ずっとあんな調子なんだから。そりゃ、ガツガツしているより、落ち着いている大人の男が好きな子もいるけどさ」

 尾形おがたさんと斎藤さんが、うんうんとうなづいている。

「あの、中学生の時からの同級生さんなんですよね? そのころからずっとなんですか?」
「御厨さん、なんてこと言うんですか」
「そりゃお年頃だから、ずっとそうだったとは言わないけど、ここ最近はずっとこんな感じよ?」
「しかもなに? 敬語なの?」

 えみさんが山南さんの言葉遣いにツッコミを入れた。

「あ、敬語に関してはお互いに納得ずみなので、そこは気にしないでください」

 一応フォローは入れておく。

「なるほど。カピバラさんの相手にはカピバラさんってわけね」
「え? 私もカピバラなんですか?!」
「巧達はそう言ってるみたいだけど」

 えみさんの横で斎藤さんが「余計なことを」と舌打ちしながら顔をしかめた。

「え、私もカピバラって言われてるんですか?! ちょっと山南さん?」
「そこは斎藤と尾形に質問してください。俺はその手の会話に参加したことないので」

 山南さんは、シレッとした顔で二人に話を放り投げる。そう言えば、カピバラなにがしの話って、尾形さんと斎藤さんしかしていなかった。ということは、ここで詰め寄るべきは尾形さんと斎藤さんだ。

「尾形さん? 斎藤さん? どういうことですか?」
「え? いやあ、ほら」
「ほらなんですか」

 視線を明後日あさっての方向に向けた尾形さんにつめよる。

「んー? 俺達、そんな話をしたっけな?」
「とぼけてないで話してください」
「つまり、山南と御厨さんはお似合いだってことさ」
「そうそう。お似合いお似合い」

 二人は実に胡散臭うさんくさげな笑みをそろって浮かべた。

「ほら、料理が冷めるからさ、そろそろちゃんと食べないか? 今日は俺達のテスト慰労会なんだから」
「そうそう。カピバラの話はまた今度ってことで。な、山南?」
「まあ、料理が冷めるのは本当なので」

 そんなわけで私達は、テーブルにならんだお料理に意識を向けることにした。

+++

「あ、このデザート、新しく加わったんじゃないかな」
「どれどれー? あ、そうかも! あやさん、甘いモノはどれにする?」
「やっぱり新しく加わったこれですかね」

 慰労会も終盤。そろそろデザートを注文しようと、私達はメニューをのぞきこむ。女性にとって、甘いモノは別腹というのは真理だ。

「山南さん達はどうしますか?」
「俺達はもう満腹。デザートはそっちで好きなのを選んでください」
「じゃあ遠慮なく」

 ここはやはり、一度も食べたことがないデザートにしてみるべきでは?という話をしていると、山南さん達が笑った。

「いつも思うけど、こういう時の御厨さんを含めたお前達って、けっこうチャレンジャーだよな」

 斎藤さんが笑いながら言った。

「チャレンジャーですかね?」
「そう思うよ。だってそれ、どんなものかわからないでしょ」
「一応、入っているフルーツとかは書かれてますよ?」

 メニューの下に書かれた簡単な説明文を指でさす。

「それでもだよ」
「りか達、たまにそれ頼むかよ?!って時あるよな」

 りかさんがムッとした顔をしたのがわかった。

「ヘビやカエルを食べる人達に言われたくないです」
「あれは訓練の一環で、日常的に食べてるわけじゃないぞ」
「あの、自衛隊って、ヘビやカエルも食べるんですか?」

 しかも訓練の一環でって一体どういうこと?

「念のために言っておくけど、普段の食事でってことじゃないからね? さっきも尾形が言ったけど、訓練でだから」
「それから通常の訓練でのことではなく、レンジャー課程という特別な訓練での話なので」
「でも食べるんだ……」

 山の中でヘビやカエルを捕まえている山南さん達の姿が頭に浮かんだ。

「御厨さん、なにを考えているか想像つくので先に言っておくけど、そのへんのヘビやカエルを捕まえて食べるわけじゃないからね?」
「今は衛生上の問題もあって、それ用に加工されたものを納入してもらっているので、安心してください」
「山南、それあまりフォローになっていないような」
「そうか?」
「おいー、お前のせいで俺達がゲテモノ食いみたいに思われたじゃないかー」

 尾形さんがりかさんに文句を言う。

「だって食べたのは事実でしょ?」
「だからそれは、レンジャー課程の時だけ。それ以外で食べることはないから」
「あと、食べられる草とか治療に使える草とかも、現地調達するのよね?」
「……草も食べるんだ」

 草まで! しかも食用と治療用!

「山南、時間がある時にレンジャー課程のこと、御厨さんに説明しておいてくれ」
「わかった」

 尾形さんとりかさんが言い合いをしている横で、斎藤さんがため息まじりにそう言って、山南さんがうなづいた。

+++

 学生の頃だと、食事会が終わったら二次会三次会とお店をハシゴしたものだけど、門限がある山南さん達はそうはいかない。

「ごちそうさまでした。あの、私の分のお支払いはー?」
「今日は初めての参加だし、俺達が誘ったんだから気にしないで。次からはちゃんと割り勘にさせてもらうから」

 お店を出たところで、お支払いをしようと財布を出して待っていたら、尾形さんにそう言われた。

「良いんですか?」
「良いの良いの。今日は御厨さんの歓迎会みたいなものだから。あ、そうだ、連絡先を交換しておきましょ。次からのお店を決める時に必要だから」

 りかさんにそう言われ、私はりかさんとえみさんと連絡先を交換する。

「正確には俺達のテスト慰労会なんだけどなー」
「完全に乗っ取られたよな」

 その様子を見ながら男性陣がぼやいていた。

「じゃあ、ここで解散。斎藤も山南も、ちゃんとそれぞれのパートナーを送り届けろよ? それから門限までにはちゃんと帰るようにな」

 尾形さんが腕時計を見ながら言った。

「「了解」」

 山南さんと斎藤さんがうなづく。そして私達はそれぞれの帰路についた。

「私が一番近いんだから、送ってもらわなくても大丈夫なのに」
「いくら治安が良いと言っても、最近は物騒なこともありますからね。ここはおとなしく送迎されてください」
「そりゃまあ、自衛官さんが一緒なら安心ですけど」

 そう言いながら二人で歩く。金曜日の夜ということで、駅近くのこのへんはまだ人通りはかなり多い。でもアパートの近くまでくると、さすがに歩いている人の姿はほとんど見られなくなった。バイク通勤だからあまり気にならなかったけど、徒歩だとさすがに怖いかもしれない。

「あ、そうそう」

 それまで黙って歩いていた山南さんが、急に声をあげた。

「なんでしょう」
「ちゃんと言っておかないといけないですね。今日の服も可愛かったですよ。っていうか、今回のほうが前の時より、じゃっかん大人っぽかったかな」
「あ、気づいてもらえました? もー、本当に悩んだんですよー。正直、映画の時と同じ服にしようかとまで考えました!」
「それでも良かったと思いますけどね。俺はあっちのほうが好きかも」

 映画の時より大人っぽいという山南さんの感想は当たっている。私もそれを意識していたから。ちゃんとわかってもらえたみたいで良かった。

「なるほど。山南さんの好みは、ああいうコーディネートだと」
「もちろん俺が着たいと思ってるわけじゃないですよ?」
「変な想像させないでください」

 頭の中にあの時の服を着た山南さんの姿が浮かんで、思わず噴き出してしまった。

 とりあえず、尾形さんの奥さんと斎藤さんのカノジョさんとの初対面は、成功だったと思う。
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