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第二部 二人のクリスマスと年越しの巻
第九話 クリスマス狂想曲 2
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とは言うものの。
そんなことで諦めたりしないのが私、宮内愛海、二十一歳です。若さとアイデアで突っ走っちゃうよ!! 別に私はプレゼントがもらえなくても構わないけど、部長には何か渡したいって思っていたのでどうしたものかと、隣で眠っている部長の顔を眺めながら色々と考えました。
題して“気が付かない内にこっそり小人さんがやって来ちゃいましたよ作戦”!! な、長いっ!
クリスマス当日までに部長のお家に訪問できるのは週末あと二回。その間に渡したいプレゼントをこっそり日常品の中に紛れ込ませちゃうという限りなく自己満足に近いサプライズ。ネクタイとかネクタイピンとか小物って意外と気付かないと思う。いや、気が付くかもしれないけど何がどう増えたのかまでは分からないんじゃないかな、少なくとも実家の父親を見ている限りそんな感じだし。クリスマスのラッピングが出来ないのが残念だけど、こっそり小人さんが置いていくんだから仕方ない、うん、そう考えよう。
「こんな時間になに人の顔みてニヤニヤしてるんだ」
目を閉じたままで何で分かるのか未だに謎。っていうかいつのまに目を覚ましていたの?
「ニヤニヤなんてしてません。ニヤニヤしてるのは部長の方じゃないですかあ」
この辺がニヤニヤしているぞと口の端っこを指で軽く叩く。
「そんな風に起きて俺の顔を覗き込んでいるってことはお誘いなのか?とわくわくしてるんだがな、違うのか」
「違いますよーだ。そうじゃないことは部長だって分かってるくせに」
そう、今週末は女の子の日に当たってしまっていた。だからお泊りは無しで?と言ったら、別にセックスしたいだけでお前を呼んでいるわけじゃないんだから構わず来いと言われての今夜のお泊りなのだ。お風呂とか色々と黙ったままで気を遣ってくれているのが分かったので嬉しかったのと同時にちょっと恥ずかしかった。
そして一緒に寝る時も、何もすることなくただ抱き合って眠るだけなのにとっても充実した気分。こういうのって部長が年上だからなのかな、それともどんな恋人同士でも同じなのかな、などと考えているうちに眠ってしまったのだ。
「いま何時だ?」
「まだ四時です。トイレで起きちゃったら眠れなくなっちゃって」
「起きるにはまだ早いな。お前が身体を起こしているから布団の中に冷たい空気が入ってくるぞ、さっさと横になれ」
「あ、ごめんなさい」
それで目が覚めちゃったのか。お布団の中に潜り込むと部長の腕がしっかりと回された。部長はそのまま再び夢の中に戻って行っちゃったみたいだけど、私の方はプレゼントを何にしようかと引き続き考え中。好きな人の為にプレゼントを選ぶのがこんなに楽しいなんて知らなかったです、ありがとう、正樹さん。
頭の中で部長の名前を呼んだら恥ずかしくなってバカみたいに一人悶えていたら、当の本人が顔をしかめながらなにやらブツブツ言ってギュッと抱き締めてきた。大人しく寝ろってことらしい。はい、寝ます、おやすみなさい、部長。
+++++
「で、それを愛海ちゃんに言ったのか」
「ああ」
「バカだろ、お前」
こういうのを一刀両断というのだろうか。本当に長野は俺に対して容赦がない。特に愛海が俺の前に現れてから拍車がかかった感じだ。
「愛海ちゃんはいい子だよな。お前があの女を引き合いに出してクリスマスは何もしたくないって言っても文句を言わずに引き下がってくれるんだもんなぁ。それに比べてお前ときたら」
五年も女と付き合わないとこれだよ、とぼやくぼやく。
「何もしたくないとは言ってない。ただ、いい印象が無いと言っただけで……」
「そんなの下らん言い訳だって自分でも分かってるんだろうが」
「だが嫌々付き合ったところであいつのことだ、絶対に気がついてバレる」
「まーったく……下らん事だけは次から次へと並べ立てるんだな、お前ってやつは」
この年になってクリスマスを若者のように過ごせと言っても無理だろうと密かに突っ込む。
「クリスマスが終わったら年明けまで会えないわけだろ? ちゃんと一緒に過ごすようにしておいた方が俺は良いと思うがね」
愛海の実家は信州ということで仕事納めの後は長野新幹線で里帰りすると言っていた。今年最後の週末は彼女のいない、久し振りに一人で過ごす週末となる訳だ。
「地元に戻れば高校時代の友達とかいるわけじゃないか。こっちに出てきている人間もいるだろうが、基本的にあっちで久し振りに皆で会おうかって話になった時にさ、お前みたいな枯れオヤジと付き合っている愛海ちゃんが悲しい気分にならなければ良いけどな。悲しい気持ちならまだマシか、もしかしたらもっと優しい男が現れたりするんじゃないの? 初恋の男とか甘酸っぱい青春の思い出を共有した友達がたくさんいるだろうし」
「……」
「バカなお前の為に要約すると、そんなことしていたら逃げられるぞっと。そういうことだ」
黙り込んだ俺の前で頬杖をついてこちらを見ていた長野は、やれやれと言いながら溜め息をついた。
「あと三週間あるんだ、せめてプレゼントぐらいは贈れよ? 恋人なんだからさ」
「……分かっている」
「まさかそれすらしないつもりだったんじゃないだろうな」
「そんなことはない」
ムスッとしたままで答えた。そこまでバカじゃないつもりだ。特別なことをする気が無くてもプレゼントぐらいは渡すつもりでいるのだから。ただ……。
「あの年頃の女の子が喜びそうなプレゼントは良く分からん。アクセサリーなんぞ好みというものもあるだろうし、その好みを把握できるほど長く付き合っているわけでもないからな」
元嫁が自分の好みでないとか言ってちくちくと文句を言っていたことを思い出して顔をしかめる。思っている以上に当時のことが堪えているみたいだ。
「愛海ちゃんはあの女とは違う。どんなものであっても、お前が選んでくれたものを喜ばないわけがないだろうが。あの子はあの女とは違う、そこを間違えるな」
“あの女”……長野は元嫁のことを名前では決して呼ばない。元嫁とも言わないな、そう言えば。常に“あの女”呼ばわりだ。“あの女に人生をぶっ壊されたままでいいのか”というのが、この三年間のこいつの口癖だった。最近では“お前、バカか?”と“バカだろ、お前?”に変わりつつあるが。
「なんだ、ニヤニヤして気持ち悪いぞ」
こちらを不気味なものを見てしまったという顔をして見る長野。
「いや、お前っていい友達だよな」
「なんだよ急に。褒めてもこれ以上のアドバイスはないぞ」
「感謝してるんだよ、お前にはさ」
「何を今更。俺は親友が不幸になるのを黙って見ていられなかっただけだよ。愛海ちゃんならお前を幸せにしてくれると見込んで後押しをしただけだ」
「つまりはお前が黒幕か」
プレゼンの後、やたらと俺のところへ愛海が来るようになっておかしいとは思っていたのだ。そうか、こいつの差し金だったのか。
「全くの脈無しだったら俺だってスルーしていたさ。だがどう見たってお前の反応はだな、脈、大いに有りだっただろうが。だからちょっとだけ背中に蹴りを入れてやっただけのことだよ。そして今は、愛海ちゃんに対してお前を押し付けた責任がある訳だから、しっかりとアフターサービスをしてやっているわけだ、感謝しろ」
だから指で人の顔を指すな。
「俺の方がかよ」
「そうだよ、お前だよ。愛海ちゃんは良い子だ、問題が色々とあるのはお前の方だろうが。いい加減にあの女のことは吹っ切れよ」
「そうは言うがな、離婚してからまだ五年だぞ。結婚生活も十年以上続いていたし、まだ生々しいんだよ、あの泥沼の記憶が」
人によっては“もう五年”なんだろうが、俺にとっては“まだ五年”だ。断じて元嫁に未練がある訳ではないが、とにかく当時の不毛とも言うべき泥沼裁判が強烈過ぎて、あれを忘れるのは容易ではないと思っている。
「だからってその記憶に愛海ちゃんを巻き込むなよ?」
「当たり前だ」
「まったく俺は一体いつになったらお前のお世話から解放されるんかねえ……」
「頼んでないだろ、そんなこと」
「俺がお世話しなかったら誰がお世話するんだよ、お前みたいなやつ」
いや、話はそこじゃないと思うぞ。
「不良品を押し付けたんだ、きちんと最後まで面倒は見てやる。敬え、有難がれ」
「感謝の押し付けをするな」
「だが感謝はしてるんだろうが、俺に」
「だから、押し付けるなって話だ」
「あ。あともう一つアドバイスな。いい加減に“元嫁”というのはやめろ。あの女は“あの女”呼ばわりで十分だ」
こいつ、どんだけあいつを嫌っているんだ。今更だがちょっとその辺の事情が気になる。
「お前、なんであいつのことをそこまで嫌ってるんだ?」
その問い掛けにあいつの顔が一瞬だけ硬くなり黙り込んでしまった。ということは、何か俺には言いたくない理由があるんだな。何となく察しはつくんだが。
「あいつ、西條さんと不倫してただろ。その前に社内の何人かと浮気していたのは知っているよな」
「ああ」
「最初にこの会社であの女に声をかられたのが俺なんだよ。お陰で嫁……あの時は嫁じゃなかったが、とにかく嫁との関係がこじれてだな散々な目に遭ったのさ」
「おい、そんな話、初めて聴いたぞ」
「あの時はまさか諦めずに他の奴にまで手をのばすとは思ってなかったんだ。離婚であれ以上ごねるようなら有責の累積カウンター回してやるつもりで話すつもりだったんだがな」
肩をすくめてみせた。
「あの時、俺がお前に直ぐ話していたらあんな泥沼はなかったんじゃないかと後悔はしてる」
その後悔が今の“お世話”に繋がる訳か。
「気にするな。あそこで関係修復をしても、恐らくあいつは同じ事を繰り返した筈だ。離婚が早まるかどうかの違いだったんだよ、俺とあいつの夫婦関係は」
「だが派閥争いにまでには発展しなかっただろ? まあお陰で社内はすっきりしたわけで俺達の出世も早まった訳だが」
それこそ怪我の功名というやつだったわけだが、お陰で長野曰く俺は五年間を抜け殻で無駄に過ごしたらしい。しかし五年間を抜け殻(奴曰く)で過ごしたお陰で愛海と付き合えているわけなのだが。それを考えればこの五年間は無駄ではなかったのかもしれない。恐らく。多分。
そんなことで諦めたりしないのが私、宮内愛海、二十一歳です。若さとアイデアで突っ走っちゃうよ!! 別に私はプレゼントがもらえなくても構わないけど、部長には何か渡したいって思っていたのでどうしたものかと、隣で眠っている部長の顔を眺めながら色々と考えました。
題して“気が付かない内にこっそり小人さんがやって来ちゃいましたよ作戦”!! な、長いっ!
クリスマス当日までに部長のお家に訪問できるのは週末あと二回。その間に渡したいプレゼントをこっそり日常品の中に紛れ込ませちゃうという限りなく自己満足に近いサプライズ。ネクタイとかネクタイピンとか小物って意外と気付かないと思う。いや、気が付くかもしれないけど何がどう増えたのかまでは分からないんじゃないかな、少なくとも実家の父親を見ている限りそんな感じだし。クリスマスのラッピングが出来ないのが残念だけど、こっそり小人さんが置いていくんだから仕方ない、うん、そう考えよう。
「こんな時間になに人の顔みてニヤニヤしてるんだ」
目を閉じたままで何で分かるのか未だに謎。っていうかいつのまに目を覚ましていたの?
「ニヤニヤなんてしてません。ニヤニヤしてるのは部長の方じゃないですかあ」
この辺がニヤニヤしているぞと口の端っこを指で軽く叩く。
「そんな風に起きて俺の顔を覗き込んでいるってことはお誘いなのか?とわくわくしてるんだがな、違うのか」
「違いますよーだ。そうじゃないことは部長だって分かってるくせに」
そう、今週末は女の子の日に当たってしまっていた。だからお泊りは無しで?と言ったら、別にセックスしたいだけでお前を呼んでいるわけじゃないんだから構わず来いと言われての今夜のお泊りなのだ。お風呂とか色々と黙ったままで気を遣ってくれているのが分かったので嬉しかったのと同時にちょっと恥ずかしかった。
そして一緒に寝る時も、何もすることなくただ抱き合って眠るだけなのにとっても充実した気分。こういうのって部長が年上だからなのかな、それともどんな恋人同士でも同じなのかな、などと考えているうちに眠ってしまったのだ。
「いま何時だ?」
「まだ四時です。トイレで起きちゃったら眠れなくなっちゃって」
「起きるにはまだ早いな。お前が身体を起こしているから布団の中に冷たい空気が入ってくるぞ、さっさと横になれ」
「あ、ごめんなさい」
それで目が覚めちゃったのか。お布団の中に潜り込むと部長の腕がしっかりと回された。部長はそのまま再び夢の中に戻って行っちゃったみたいだけど、私の方はプレゼントを何にしようかと引き続き考え中。好きな人の為にプレゼントを選ぶのがこんなに楽しいなんて知らなかったです、ありがとう、正樹さん。
頭の中で部長の名前を呼んだら恥ずかしくなってバカみたいに一人悶えていたら、当の本人が顔をしかめながらなにやらブツブツ言ってギュッと抱き締めてきた。大人しく寝ろってことらしい。はい、寝ます、おやすみなさい、部長。
+++++
「で、それを愛海ちゃんに言ったのか」
「ああ」
「バカだろ、お前」
こういうのを一刀両断というのだろうか。本当に長野は俺に対して容赦がない。特に愛海が俺の前に現れてから拍車がかかった感じだ。
「愛海ちゃんはいい子だよな。お前があの女を引き合いに出してクリスマスは何もしたくないって言っても文句を言わずに引き下がってくれるんだもんなぁ。それに比べてお前ときたら」
五年も女と付き合わないとこれだよ、とぼやくぼやく。
「何もしたくないとは言ってない。ただ、いい印象が無いと言っただけで……」
「そんなの下らん言い訳だって自分でも分かってるんだろうが」
「だが嫌々付き合ったところであいつのことだ、絶対に気がついてバレる」
「まーったく……下らん事だけは次から次へと並べ立てるんだな、お前ってやつは」
この年になってクリスマスを若者のように過ごせと言っても無理だろうと密かに突っ込む。
「クリスマスが終わったら年明けまで会えないわけだろ? ちゃんと一緒に過ごすようにしておいた方が俺は良いと思うがね」
愛海の実家は信州ということで仕事納めの後は長野新幹線で里帰りすると言っていた。今年最後の週末は彼女のいない、久し振りに一人で過ごす週末となる訳だ。
「地元に戻れば高校時代の友達とかいるわけじゃないか。こっちに出てきている人間もいるだろうが、基本的にあっちで久し振りに皆で会おうかって話になった時にさ、お前みたいな枯れオヤジと付き合っている愛海ちゃんが悲しい気分にならなければ良いけどな。悲しい気持ちならまだマシか、もしかしたらもっと優しい男が現れたりするんじゃないの? 初恋の男とか甘酸っぱい青春の思い出を共有した友達がたくさんいるだろうし」
「……」
「バカなお前の為に要約すると、そんなことしていたら逃げられるぞっと。そういうことだ」
黙り込んだ俺の前で頬杖をついてこちらを見ていた長野は、やれやれと言いながら溜め息をついた。
「あと三週間あるんだ、せめてプレゼントぐらいは贈れよ? 恋人なんだからさ」
「……分かっている」
「まさかそれすらしないつもりだったんじゃないだろうな」
「そんなことはない」
ムスッとしたままで答えた。そこまでバカじゃないつもりだ。特別なことをする気が無くてもプレゼントぐらいは渡すつもりでいるのだから。ただ……。
「あの年頃の女の子が喜びそうなプレゼントは良く分からん。アクセサリーなんぞ好みというものもあるだろうし、その好みを把握できるほど長く付き合っているわけでもないからな」
元嫁が自分の好みでないとか言ってちくちくと文句を言っていたことを思い出して顔をしかめる。思っている以上に当時のことが堪えているみたいだ。
「愛海ちゃんはあの女とは違う。どんなものであっても、お前が選んでくれたものを喜ばないわけがないだろうが。あの子はあの女とは違う、そこを間違えるな」
“あの女”……長野は元嫁のことを名前では決して呼ばない。元嫁とも言わないな、そう言えば。常に“あの女”呼ばわりだ。“あの女に人生をぶっ壊されたままでいいのか”というのが、この三年間のこいつの口癖だった。最近では“お前、バカか?”と“バカだろ、お前?”に変わりつつあるが。
「なんだ、ニヤニヤして気持ち悪いぞ」
こちらを不気味なものを見てしまったという顔をして見る長野。
「いや、お前っていい友達だよな」
「なんだよ急に。褒めてもこれ以上のアドバイスはないぞ」
「感謝してるんだよ、お前にはさ」
「何を今更。俺は親友が不幸になるのを黙って見ていられなかっただけだよ。愛海ちゃんならお前を幸せにしてくれると見込んで後押しをしただけだ」
「つまりはお前が黒幕か」
プレゼンの後、やたらと俺のところへ愛海が来るようになっておかしいとは思っていたのだ。そうか、こいつの差し金だったのか。
「全くの脈無しだったら俺だってスルーしていたさ。だがどう見たってお前の反応はだな、脈、大いに有りだっただろうが。だからちょっとだけ背中に蹴りを入れてやっただけのことだよ。そして今は、愛海ちゃんに対してお前を押し付けた責任がある訳だから、しっかりとアフターサービスをしてやっているわけだ、感謝しろ」
だから指で人の顔を指すな。
「俺の方がかよ」
「そうだよ、お前だよ。愛海ちゃんは良い子だ、問題が色々とあるのはお前の方だろうが。いい加減にあの女のことは吹っ切れよ」
「そうは言うがな、離婚してからまだ五年だぞ。結婚生活も十年以上続いていたし、まだ生々しいんだよ、あの泥沼の記憶が」
人によっては“もう五年”なんだろうが、俺にとっては“まだ五年”だ。断じて元嫁に未練がある訳ではないが、とにかく当時の不毛とも言うべき泥沼裁判が強烈過ぎて、あれを忘れるのは容易ではないと思っている。
「だからってその記憶に愛海ちゃんを巻き込むなよ?」
「当たり前だ」
「まったく俺は一体いつになったらお前のお世話から解放されるんかねえ……」
「頼んでないだろ、そんなこと」
「俺がお世話しなかったら誰がお世話するんだよ、お前みたいなやつ」
いや、話はそこじゃないと思うぞ。
「不良品を押し付けたんだ、きちんと最後まで面倒は見てやる。敬え、有難がれ」
「感謝の押し付けをするな」
「だが感謝はしてるんだろうが、俺に」
「だから、押し付けるなって話だ」
「あ。あともう一つアドバイスな。いい加減に“元嫁”というのはやめろ。あの女は“あの女”呼ばわりで十分だ」
こいつ、どんだけあいつを嫌っているんだ。今更だがちょっとその辺の事情が気になる。
「お前、なんであいつのことをそこまで嫌ってるんだ?」
その問い掛けにあいつの顔が一瞬だけ硬くなり黙り込んでしまった。ということは、何か俺には言いたくない理由があるんだな。何となく察しはつくんだが。
「あいつ、西條さんと不倫してただろ。その前に社内の何人かと浮気していたのは知っているよな」
「ああ」
「最初にこの会社であの女に声をかられたのが俺なんだよ。お陰で嫁……あの時は嫁じゃなかったが、とにかく嫁との関係がこじれてだな散々な目に遭ったのさ」
「おい、そんな話、初めて聴いたぞ」
「あの時はまさか諦めずに他の奴にまで手をのばすとは思ってなかったんだ。離婚であれ以上ごねるようなら有責の累積カウンター回してやるつもりで話すつもりだったんだがな」
肩をすくめてみせた。
「あの時、俺がお前に直ぐ話していたらあんな泥沼はなかったんじゃないかと後悔はしてる」
その後悔が今の“お世話”に繋がる訳か。
「気にするな。あそこで関係修復をしても、恐らくあいつは同じ事を繰り返した筈だ。離婚が早まるかどうかの違いだったんだよ、俺とあいつの夫婦関係は」
「だが派閥争いにまでには発展しなかっただろ? まあお陰で社内はすっきりしたわけで俺達の出世も早まった訳だが」
それこそ怪我の功名というやつだったわけだが、お陰で長野曰く俺は五年間を抜け殻で無駄に過ごしたらしい。しかし五年間を抜け殻(奴曰く)で過ごしたお陰で愛海と付き合えているわけなのだが。それを考えればこの五年間は無駄ではなかったのかもしれない。恐らく。多分。
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