拝啓 愛しの部長様

鏡野ゆう

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第二部 二人のクリスマスと年越しの巻

第十五話 ゆく年くる年 3

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「そう言えば愛海、ここからも除夜の鐘の音が聴こえるぞ」

 夕飯を食べ終えてから今度は内風呂にしようと言うことで部長と一緒に入ってみた。こちらも屋根がかかってはいるものの露天風呂形式になっていてなかなか素敵。

「温泉に入りながら除夜の鐘を聞くっていうのはなかなか出来ない体験ですよね」
「去年の今頃はまさかこんなふうに年越しをするなんて考えもしなかったな」
「それは私もですよ」

 温かいお湯の中でぴったりとくっつきながらしばらく感慨にふける。

「去年の今頃は、実家でコタツにミカンで弟と年越しゲームしてました」
「じゃあ今年は大人の年越しだな」
「大人の年越し?」

 その言葉に首を傾げた。年越しに大人も子供もないと思うんだけど、何だろう大人の年越しって。私が首を傾げている間に部長は立ち上がって湯船から出ると、私を引っ張り出した。バスタオルで体を拭いていた時に、部長の肩の赤い指の跡に気がつく。

「あ、ここに肩をもんだ時の跡がついてますよ」
「お前が力任せにやったからなあ……」

 部長は肩の水気を取っていた私の手からバスタオルを取り上げると放り投げた。そして抱き上げられて寝室へ。

「お、大人の年越しってそういう意味?」
「そういう意味だ」

 ベッドに降ろされると起き上がる間もなく部長が覆いかぶさってきた。

「除夜の鐘、由来を知ってるか?」
「えっと……いや、待って下さい。そんな無謀なことはやめましょう」

 何だか凄く嫌な予感というか確信に近いことが頭に浮かんだので、とにかく止めた方が賢明だと思うんだよね。お互いの為に、いや私の為にっ!

「なんだ、煩悩を祓いたくないのか?」
「ほら、煩悩なくなると悟りを開いて仏様になっちゃうわけですし、私は人間のままがいいです。それにこれって祓うよりも膨れ上がりそうな気がしますけど、煩悩……」

 当ってるんだか間違ってるんだか分からないような理屈を並べてみる。

「したくないのか」
「そういう意味じゃなくてですね。何事も程々がいいと思うんですよ。明日も長い時間の運転が待っているんですし」
「そうだな、確かに明日の移動距離は結構な時間がかかる」
「でしょ?」

 ふむと考え込む部長。分かってくれて良かった。

「そんなに長い時間、愛海が隣にいるのに何も出来ないなんて拷問に近いな」

 いや、そういう話ではなくて。

「だから今のうちに充電をしておかないとな」
「ちょっ……やぁっ」

 いきなり部長のものが入ってきた。そこはもう濡れていたみたいで、痛みを感じることなく受け入れていく。奥まで入ってしまうと部長は満足そうな溜息をついて私のことを見下ろした。

「もう、いきなりって酷いです」
「痛かったか?」

 その問い掛けに首を横に振る。

「でも部長ぉ、ゴムつけるの忘れてる……」
「あ……」

 すまんと呟きながら身体を離し自分のキャリーバッグの方へと向かう。たった数ミリ以下の物なのに隔てるものが何もない状態で繋がるのがあんなに気持ちいいものだとは思わなかった。本当はそのまま繋がっていたい、部長から出た熱い命の基をそのまま子宮に受け止めたいというのが女としての本能なんだけど、お互いに大人だしそういう訳にはいかないよね。戻ってきた部長は私の足元で準備を整えると、今度はゆっくりと入ってきた。

「つい忘れてしまった、すまない」
「ううん。忘れるぐらい私に夢中になってくれているなら嬉しいです」
「そうか」

 でも、それとこれとはまた別な話であって。外から鐘の音が微かに聴こえる中、その音に合わせるように深いところを突いたり、浅いところで腰を回して小刻みに揺すったりしながら私のことを翻弄した。そして何度目かの絶頂を向かえて意識を手放しかけた時、部長が耳元で囁いた。

「除夜の鐘はな、百八の煩悩を、祓う為のもの、だそうだ、だから鐘を突くのも、百八回な?」
「……え? あっ、あぁっ……やだ、絶対に無理ぃぃぃ……!!」

 まさか本当に百八回? 途中で本当に意識を手放した私はそれを確かめることは出来なかったんだけど、部長は朝から大満足な顔をしているし、私の方は腰から下が痺れて立てないのと身体の奥に鈍い痛みを覚えたので、これは本当に大人の年越しを頑張っちゃったのかもしれないと思ってしまった。
 

+++++


「昨日お前が揉んでくれたところが痛いぞ」

 出発の用意をしている時、部長が肩に手をやりながら顔をしかめた。

「そりゃそうですよ。肩揉みされ慣れていない人にすると翌日はたいてい揉みおこしを起こすんです。だからもう一度ちゃんと揉んでおくんですよ。ほらほら、そこに座って」

 問答無用で広縁の椅子に部長を座らせると肩揉みを開始した。

「いててて、もうちょっと加減しろ」
「我慢我慢。痛いのは最初のうちだけですよ、慣れれば気持ち良くなりますから」

 痛い痛いと文句を言っている部長を無視して指に力を入れる。私だって起きた時に夜通し攻められたせいで腰はがくがくだし、体の奥の方が痛かったんだから部長だって少しは痛がるべきだと思う。

「それに今のうちにきちんと解しておかないと、これから長時間の運転が待っているんでしょ」
「なんだか俺が痛がっているのが嬉しそうだな、え?」
「そうですか? 気のせいですよ」

 普段やられている分をこういう時に返しておかないと、だよね?

 そして旅館を出発する時、見送りに出てきてくれたご主人と女将さんはちょっと不機嫌そうな部長の顔を怪訝そうな顔で見ていた。

「痛くしたので怒ってるみたいです」
「「?!」」
「おい、盛大に誤解するような端折った説明をするな」

 そうですか? だったらもうちょっと詳しく説明をしましょうか。

「人生初の本気の肩揉みを経験したのでちょっとだけショックを受けてるみたいなんですよ。初心うぶですよね、この年で初体験だなんて」
「だから、そういう変な例えはやめろっつーの!」
「そんなに取り乱さなくてもいいじゃないですか。誰だって初めてというものはあります。恥ずかしがることはないんですよ?」

 ご夫妻はしばらく堪えていたようだが、最後の私の言葉で我慢できなかったのか揃って噴き出した。

「正樹君、いいお嬢さんで良かったな。これからも末長く仲良くな。来年も楽しみにしているから」
「伯父貴……」
「万が一のことがあったら愛海ちゃんだけでも遊びにいらっしゃい、歓迎するから。あ、そうだわ、携帯電話の番号とメールアドレス、交換しましょうか」
「お願いします~」
「おい、女同士で何を……」

 女将さんと私が二人でスマホを出してこそこそやっているのを見て文句を言っている。

「仲良しになるのに何か問題でも~?」
「……いや、問題はない」
「ですよねー」

 私はちょっと心強い味方ができたことがとっても嬉しかった。密かに熱海のお母さんと呼んでしまいそう。

「……後で覚えてろよ、愛海」
「ちょ……女将さんと仲良くするのが何で悪いんですかあ」

 部長の覚えていろ宣言にギョッとなりながら女将さんにお礼を言うと車に乗り込んだ。この“後で”は本当に洒落にならない時があるから要注意。あ、でも幾らなんでも実家では無茶なことはしないよね?

「ちなみに、実家は人が多くて泊まることが出来ないから市内のホテルを取ってある」
「え……」

 女将さんご夫婦に手を振りながら浮かべていた笑顔が固まってしまった。

「え?」
「だから、後で覚えてろよと言うことだ」
「えぇ?」

 ニヤリと笑った部長の顔が邪悪ですよ。結局、今年も初っ端から部長の逆襲に遭ってしまうのか……うう、なんだかとても無念です。
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