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七海の商店街観察日誌 1
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『政治家の嫁は秘書様』の沙織ちゃん、そして『希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―』の燗さんはお名前だけですが登場します。
++++++++++
私の名前は鏡野七海、パパが市役所の市民課に勤めているごく普通の地方公務員の一家の長女です。
私の家は駅前商店のアーケードに面した場所にあるマンション。一階はテナントで旅行代理店が入っている。正面エントランスは実のところ商店街の通りには面していない裏側にあるんだけれど、お隣にある雑貨屋さんとの間に細い路地のような抜け道があって、お買い物帰りの人とかは結構その抜け道を使っている。私もその一人。
最近、うちの商店街は色々な意味で騒がしい。地元で事務所が直ぐそばにある国会議員の先生が婚約したとかで何故だかテレビの取材クルーがうろつくようになったから。食べ物を買ったりするので売り上げが増えて良いでしょうって思うでしょ? ところがね、それがそうでもないんだ。お母さんが酒屋の奥さんに聞いたところによると、色々なところで大迷惑をかけているらしくて、実のところ皆さんご立腹。
しかも議員の婚約者さんも追い回されて困っていっていうんだからね。芸能人じゃない一般の人を追い掛け回すなんて一体どんな神経してんだか。何が知る権利ガーなんだか、馬鹿じゃないの?って思う。
そんなわけで一度逃げている途中の婚約者さんと鉢合わせしたことがあるんだけど、まだ選挙権は無いけど地元民としては助けなきゃということで抜け道を案内してあげた。
「ありがとうございます、助かりました」
私は制服を着ていたから明らかに年下だって分かっている筈なのに、そのお姉さんはすごく丁寧なお礼を言ってくれた。議員さんの婚約者さんは秘書さんだって聞いていたけど、秘書さんって皆こんな感じなのかな。でも思っていたよりもずっと若いよ。もしかして私とあまり変わらないんじゃないかな。
「どういたしまして。しばらくはここで隠れていた方が良いかもですよ」
「でも、ここ、マンションの敷地ですよね……」
「大丈夫大丈夫。あ、なんならしばらく一緒にいますよ。ここが見つかったらまた抜け道を通ってまいちゃわなきゃいけないし」
ここはマンションの駐車場。ちょっとした公園もあってベンチもあったりする。たまにここで住人のオチビちゃん達をママ友さん達が遊ばせているのを見かける。一緒にベンチに座ると、お姉さんは溜め息をついた。
「なんだか大変ですねー」
「本当に。まさかこんなことになるなんて思ってなくて」
「ですよね。きっとテレビの人達って物凄くヒマなんてすよ。あ、これ、どうぞ」
そう言ってカバンの中に入れていたイチゴ味のチョコレートを差し出した。
「疲れた時は甘いものが一番ですよ」
「いただきます」
しばらく二人でチョコを食べながら世間話をした。そこで分かったのはお姉さんが二十二歳だってこと。わっかーい! そんな若いのに秘書になれるんだ?
「政策秘書以外は特別な資格が必要なわけじゃないんですよ」
「そうなんですか? 何か特別な資格が絶対に要るんだと思ってました」
「もちろん持っていた方が良いとは思いますけどね」
「えーっと、重光先生には秘書さんは何人いるんですか? テレビでよく映っているお兄さんが一人いるのは分かってますけど」
「私設秘書の私を含めて四人です」
「ひえー……すっごーい。あ、私設ってなんですか?」
こんなに根掘り葉掘り聞いちゃって良いのかな? プライベートなことじゃないから大丈夫? 良かった♪ 政治の世界なんて遠い世界の出来事だから謎な部分が多いし聞いていると楽しい。
「簡単に言えば私設は先生の自腹で雇った秘書で、残りの三人が公設秘書なんですけど、そっちは税金で雇われる秘書ってことですね」
「へえ……そんなにたくさん秘書がいないと仕事ができないってどんだけ大変なんだろ、国会議員って」
「まあ私が言うのもなんですけど、国会議員ってなかなかゆっくり休めない職業だなって思います。もちろんそれにつく秘書さんも」
「じゃあ、お姉さんも?」
「私は何て言うか新人なのでそんなに大変じゃないですよ?」
「でもこれからが大変ですよね、国会議員が旦那さんになるんだもん」
「んー……そうなのかなあ……」
そこでいきなりお姉さんのポケットの辺りで携帯がブーブーいった。慌てて携帯を出すお姉さん。
「はい、久遠です。……えっと、いま……」
「アーバン希望が丘」
「アーバン希望が丘ってマンションの中に隠れてます。……そうです、一階が旅行代理店のとこです」
お姉さんは電話の向こうの人から何か指示を出されているようで短く返事をして頷いている。そして腕時計を見て分かりましたと返事をすると電話を切った。
「十分後に迎えが来るから正面にいるようにって言われたので……」
「案内します。車が来るまでは中のエントランスにある接客コーナーで座っていれば良いですよ。植木がたくさんあって外からは見えにくいけど、中からは外が良く見えるし」
ここの住人の私が一緒だから他の人に会っても何か言われることもないし。ま、他の住人さんが来てもきっと同じようにお姉さんのことをかくまったと思うけどね。
それからきっかり十分後、黒塗りの車がマンションの前に止まった。どうやらお姉さんの迎えの車らしい。
「じゃあこれで失礼しますね。ありがとうございました、お蔭で助かりました」
「いえいえ。また何かあったらさっきの抜け道、使って下さい」
「助かります。えっと……」
「七海っていいます。あ、そだ、御婚約おめでとうございます。すっかりお喋りに夢中になっていて忘れてた♪」
お姉さん恥ずかしそうにペコリと頭を下げると小走りで車の方へと走って行った。そして後ろのドアが開いて、そこへ滑り込む。チラリと見えたのはニュースでも見たことのある議員の先生だった。うわ、生で議員さん見るの初めてかも♪
それから暫くして、酒屋のおじさん夫婦の盛大な惚気が全国ネットで中継されるという面白い出来事があったんだけど、あれを見てまたテレビの人が何かやらかしたんじゃないかなって思ったよ。だってさ、惚気ているわりには、おじさんの目、笑ってなかったし、テレビのキャスターさんも何だか変な反応してたしね。
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私の名前は鏡野七海、パパが市役所の市民課に勤めているごく普通の地方公務員の一家の長女です。
私の家は駅前商店のアーケードに面した場所にあるマンション。一階はテナントで旅行代理店が入っている。正面エントランスは実のところ商店街の通りには面していない裏側にあるんだけれど、お隣にある雑貨屋さんとの間に細い路地のような抜け道があって、お買い物帰りの人とかは結構その抜け道を使っている。私もその一人。
最近、うちの商店街は色々な意味で騒がしい。地元で事務所が直ぐそばにある国会議員の先生が婚約したとかで何故だかテレビの取材クルーがうろつくようになったから。食べ物を買ったりするので売り上げが増えて良いでしょうって思うでしょ? ところがね、それがそうでもないんだ。お母さんが酒屋の奥さんに聞いたところによると、色々なところで大迷惑をかけているらしくて、実のところ皆さんご立腹。
しかも議員の婚約者さんも追い回されて困っていっていうんだからね。芸能人じゃない一般の人を追い掛け回すなんて一体どんな神経してんだか。何が知る権利ガーなんだか、馬鹿じゃないの?って思う。
そんなわけで一度逃げている途中の婚約者さんと鉢合わせしたことがあるんだけど、まだ選挙権は無いけど地元民としては助けなきゃということで抜け道を案内してあげた。
「ありがとうございます、助かりました」
私は制服を着ていたから明らかに年下だって分かっている筈なのに、そのお姉さんはすごく丁寧なお礼を言ってくれた。議員さんの婚約者さんは秘書さんだって聞いていたけど、秘書さんって皆こんな感じなのかな。でも思っていたよりもずっと若いよ。もしかして私とあまり変わらないんじゃないかな。
「どういたしまして。しばらくはここで隠れていた方が良いかもですよ」
「でも、ここ、マンションの敷地ですよね……」
「大丈夫大丈夫。あ、なんならしばらく一緒にいますよ。ここが見つかったらまた抜け道を通ってまいちゃわなきゃいけないし」
ここはマンションの駐車場。ちょっとした公園もあってベンチもあったりする。たまにここで住人のオチビちゃん達をママ友さん達が遊ばせているのを見かける。一緒にベンチに座ると、お姉さんは溜め息をついた。
「なんだか大変ですねー」
「本当に。まさかこんなことになるなんて思ってなくて」
「ですよね。きっとテレビの人達って物凄くヒマなんてすよ。あ、これ、どうぞ」
そう言ってカバンの中に入れていたイチゴ味のチョコレートを差し出した。
「疲れた時は甘いものが一番ですよ」
「いただきます」
しばらく二人でチョコを食べながら世間話をした。そこで分かったのはお姉さんが二十二歳だってこと。わっかーい! そんな若いのに秘書になれるんだ?
「政策秘書以外は特別な資格が必要なわけじゃないんですよ」
「そうなんですか? 何か特別な資格が絶対に要るんだと思ってました」
「もちろん持っていた方が良いとは思いますけどね」
「えーっと、重光先生には秘書さんは何人いるんですか? テレビでよく映っているお兄さんが一人いるのは分かってますけど」
「私設秘書の私を含めて四人です」
「ひえー……すっごーい。あ、私設ってなんですか?」
こんなに根掘り葉掘り聞いちゃって良いのかな? プライベートなことじゃないから大丈夫? 良かった♪ 政治の世界なんて遠い世界の出来事だから謎な部分が多いし聞いていると楽しい。
「簡単に言えば私設は先生の自腹で雇った秘書で、残りの三人が公設秘書なんですけど、そっちは税金で雇われる秘書ってことですね」
「へえ……そんなにたくさん秘書がいないと仕事ができないってどんだけ大変なんだろ、国会議員って」
「まあ私が言うのもなんですけど、国会議員ってなかなかゆっくり休めない職業だなって思います。もちろんそれにつく秘書さんも」
「じゃあ、お姉さんも?」
「私は何て言うか新人なのでそんなに大変じゃないですよ?」
「でもこれからが大変ですよね、国会議員が旦那さんになるんだもん」
「んー……そうなのかなあ……」
そこでいきなりお姉さんのポケットの辺りで携帯がブーブーいった。慌てて携帯を出すお姉さん。
「はい、久遠です。……えっと、いま……」
「アーバン希望が丘」
「アーバン希望が丘ってマンションの中に隠れてます。……そうです、一階が旅行代理店のとこです」
お姉さんは電話の向こうの人から何か指示を出されているようで短く返事をして頷いている。そして腕時計を見て分かりましたと返事をすると電話を切った。
「十分後に迎えが来るから正面にいるようにって言われたので……」
「案内します。車が来るまでは中のエントランスにある接客コーナーで座っていれば良いですよ。植木がたくさんあって外からは見えにくいけど、中からは外が良く見えるし」
ここの住人の私が一緒だから他の人に会っても何か言われることもないし。ま、他の住人さんが来てもきっと同じようにお姉さんのことをかくまったと思うけどね。
それからきっかり十分後、黒塗りの車がマンションの前に止まった。どうやらお姉さんの迎えの車らしい。
「じゃあこれで失礼しますね。ありがとうございました、お蔭で助かりました」
「いえいえ。また何かあったらさっきの抜け道、使って下さい」
「助かります。えっと……」
「七海っていいます。あ、そだ、御婚約おめでとうございます。すっかりお喋りに夢中になっていて忘れてた♪」
お姉さん恥ずかしそうにペコリと頭を下げると小走りで車の方へと走って行った。そして後ろのドアが開いて、そこへ滑り込む。チラリと見えたのはニュースでも見たことのある議員の先生だった。うわ、生で議員さん見るの初めてかも♪
それから暫くして、酒屋のおじさん夫婦の盛大な惚気が全国ネットで中継されるという面白い出来事があったんだけど、あれを見てまたテレビの人が何かやらかしたんじゃないかなって思ったよ。だってさ、惚気ているわりには、おじさんの目、笑ってなかったし、テレビのキャスターさんも何だか変な反応してたしね。
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