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シャウトの仕方なかった日常
矢本到着
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「ついたねー」
「ついたでー。嫁ちゃん、お疲れさんやったな」
「達矢君もね」
電車を降りてホームに立つと、二人でのびをする。
「さすがにお尻が痛いね」
「ほんまやな。しばらくは、新幹線も電車も乗りたないわー」
「えーー、飛行機も電車も乗りたくなかったら、どうやって移動するの?」
「日本列島ほとんど縦断は当分かんべんやで。次の転勤までは車とバスと自転車で、出かけるんは近場一択や」
「めちゃくちゃ行動範囲がせまくなるじゃない」
俺の宣言に嫁ちゃんが笑った。と、ホームに風が吹き込んできて、その冷たさに思わず震える。
「さっむ! しかしこっちはまだ寒いな、ほんまに。大阪はもう、桜は五分咲きやったのに」
「そりゃあ、桜前線を途中で追い抜かしてきたからね。こっちの桜は、あと一ヶ月ぐらい先になるかな」
「あー、そうやったそうやった」
嫁ちゃんが人影の少ないホームを見渡す。
「お父さん、ホームには来てないみたい」
「いつもの場所で待っとるんかも……って、いつもの場所もすっかり変わってもうたやろうな」
「あー、そうだね。ほんとに、ずいぶん変わったー……」
改札口を出てあたりを見渡すと、景色はずいぶんと様変わりしていた。よく見ればそこは、間違いなく俺と嫁ちゃんが出会った場所だ。だが、歳月は記憶の中に残っていたその景色を、すっかり変えてしまっていた。
「んー……ってことは、どこで待っててくれるつもりなんだろ……あ、きた!」
嫁ちゃんが指をさす。指した先には、こっちに走ってくるお義父さんの姿があった。
「すまーーーん、夜の仕込みをしていたら、うっかり店を出るのがおくれ……っ」
「「しーーーーーーっ!!」」
その声に、思わず二人で指を口元にもっていく。嫁ちゃんだけではなく俺にまで同じしぐさをされ、お義父さん立ち止まって目を丸くした。
「!!」
「みっくん、ちょうど寝たところなの。起こさないで! お昼寝を邪魔されると、夜になって寝るまで、ずっとご機嫌斜めなんだから!」
嫁ちゃんは声をひそめて、俺に抱かれているチビスケを見ながら、お義父さんに静かにするように言った。
「お、おう、すまん」
「ご無沙汰してます、お義父さん」
そこでやっと挨拶をする。
「達矢君、久し振りだな。そして松島基地への転属おめでとう。今から楽しみだよ。達矢君が、あの青いパイロットスーツを着たところを見るのが」
「まだホンマに飛べるようになるかは、わかりませんけどね」
「そんなことないよね、お父さん。私が見込んだ人だもん、絶対にブルーで飛ぶことになるよねえ」
お義父さんは、嫁ちゃんの言葉に笑い声をあげてから、あわてて口を手でふさぐ。
「す、すまん」
「大丈夫ですよ。俺とおなじで、よほどのことがなければ起きひんので」
「だめだめ、そんなこと言ったら、油断して大声で話しはじめるから。うちのお父さんは注意しすぎがちょうど良いの。それより車で来たんだよね? 早く帰ろ!」
嫁ちゃんはお義父さんと並んで仲良く歩き始めた。築城と東松島、遠いこともあってなかなか実家に帰ってくることができなかった嫁ちゃん。久し振りに父親と顔を合わせて嬉しそうだ。
―― こんだけ喜んでるんや、それだけでも転属を受け入れて良かったで。……飛びたないけど ――
「達矢君、引っ越しの荷物は明日に届くんだよな?」
二人の後ろをついていく俺にお義父さんが話しかけてくる。
「はい。昼に官舎に到着するってことでした。明日になったら、もうちょっとはっきりした時間がわかる思いますわ」
「そうか。なら今日は、ゆっくり我が家でゆっくりできるんだな」
その言葉に、嫁ちゃんはなぜかピクリと反応した。
「ちょっとお父さん? まさか勝手に歓迎会とか激励会とか計画してないよね?」
「え?」
あー、なんやそんな計画してるみたいやな、あの顔。お義父さん、嘘つくことできひん人やもんなあ……。さっそく嫁ちゃんに勘づかれてるやん?
「あ、その顔、やっぱりなんだね! 気が早すぎるのは考えものだって、言わなかったっけ?」
「真由美、おまえさっき、自分の見込んだ人だから、絶対に飛ぶって言ってなかったか?」
「それとこれとは別なの。夜の仕込みって絶対にそれの準備だったんでしょ?」
「あー……そんなこと言ったってなあ……」
どうやら歓迎会の開催は確定らしい。
「あーん、もう、達矢君どうする? 今夜はご近所さんがお店に集まって、遅くまで宴会だよ、きっとー」
嫁ちゃんの実家は食堂だ。以前は松島基地の目と鼻のさきにあって、F-2の訓練課程に入っていた俺達はよく顔を出したものだ。今は前の場所より内陸側へと移転して、基地とはかなり離れてしまった。だが遠くなった今も、基地の人間がしょっちゅう顔を出しているそうだ。
「そんなこと言ったかてなあ。今から宿はとれへんやん? 官舎、電気とガスはなんとかなっても布団もなんもあらへんで? 夏ならともかく、この季節に親子三人で布団もなしに雑魚寝はちょっとなあ……」
「布団、家から持っていこうか? 一日ぐらいならそれでなんとかしのげるかも」
「おい、真由美、それってあんまりじゃないか?」
お義父さんが抗議の声をあげる。
「だって、明日は引っ越しの片づけで私も達矢君も忙しいの。なんで今夜にするかなあ……」
「宴会をひらくなんて言ってないじゃないか」
「じゃあ聞くけど、今夜は私達だけで晩御飯?」
「……いや、その」
嫁ちゃんのするどいスッコミに、もごもごと言葉をにごした。
「お兄ちゃん達が来るのは良いとして、それ以外は? 何人くるって? もしかして、お店は臨時休業の貸し切り?」
「……あー、すまん。夜は臨時休業で、いつもの面々がいろいろ持ち寄って顔を出すと思う」
「ほらー……達矢君、どうする?」
集まってくる人達は、嫁ちゃん実家が長く御近所づきあいをしている人達で、俺も知っている人ばかりだろう。そんな御近所さんが歓迎してくれるというのだ。それをむげに断るのも申し訳ない。
「まあ、ええやん? せっかく歓迎会を開いてくれるんや。久し振りに、お義父さんとお義母さんの手料理を御馳走になったらええやん」
「達矢君、うちのご近所さん達がどれだけ酒豪か知ってるでしょ? 絶対、歓迎会じゃなくて宴会になっちゃうから。明日はお引越しの作業もあるんだもん、今日は早く寝なきゃ」
たしかに嫁ちゃんの意見ももっともだ。俺のこともだが、チビスケの保育園のこともある。できることなら明日一日でなんとか引っ越し作業を終わらせ、通常の生活に戻っておきたかった。
「まー、そこは大丈夫なんやない? 俺、そんなに酒つようないから、きっとその場で皆をほったらかして寝てまうわ」
「断言できる。絶対に寝かせてもらえないから。そして私には見えるよ、二日酔いで頭ガンガンさせながら、お引越しの片づけをする達矢君の姿が!」
「それはイヤやわあ……」
こういう時の嫁ちゃんの予言は、必ずと言っていいほど的中するから困りものだ。さて、ここはどうしたものか。
「お酒禁止にしてくれるなら開催を認めます。これでどうよ、お父さん」
「せっかく皆が集まるのにか」
「お酒がなくても問題ないでしょ?」
「そりゃそうだがなあ……」
嫁ちゃんの譲歩案にお義父さんは不満げにうなる。
「それがイヤなら、私達はお布団を持ち出してさっさと官舎に行って寝るから」
「酒禁止ってお前、母さんと同じこと言ってるぞ」
「ほら! やっぱりそうなんじゃない! お母さんは正しいです! ってことでお酒の持ち込みは禁止。それが最低条件、はい決まり! 反論は認めません、帰ったらすぐに連絡を回す、以上!」
「……」
「返事!」
「……わかった、帰ったら連絡する」
なんや嫁ちゃん、うちのオカンに似てきてへん?
駐車場に向けて歩いていると、ジェット音が聞こえた。あの音はT-4のエンジン音だ。
「お、もしかして今から訓練?」
「午後からは、基地上空での訓練だってお知らせが来てたな」
その場で立ち止まって基地のほうを見ると、白いスモークをひきながら青い機体が四機、離陸していくところだった。四機が基地の上を旋回していると、さらに二機が離陸していく。そのうちの一機が真っ直ぐ上昇をした。
「おー、ローアングルキューバンやん。ほんま、アホみたいな角度やなあ、なんやねん、あれ」
「もー、達矢君てば。あの中のどれかで自分が飛ぶことになるのに、そんなこと言って」
「せやかてな、あんな角度でギューンなんておかしいやん」
そう言いながら、自分の手で今の上昇角度を再現してみせる。
「かっこいいじゃない。私だったら達矢君が今のをしてくれたら、かっこいいって感動しちゃうけど」
「いややわー、あんなん絶対にやりたないで、できることならキーパーでええわー、うわー、今からめっちゃ憂鬱やわー」
俺の言葉を聞いてお義父さんが笑った。
「達矢君は相変わらず飛びたくないんだな」
「飛びたないですわー。もー、なんで松島に転属になってもうたんやら……」
「安心したよ、今までどおりの達矢君で」
俺達の頭上を、ブルーの機体が白いラインをひきながら飛んでいく。あの中のどれかで自分が飛ぶなんて想像がつかない。
―― はー……まったく、なんでやねん。俺がいる間、ずーっと雨にならへんもんかいな…… ――
そんなわけで、矢本に到着した俺達一家の歓迎会が、嫁ちゃん実家の食堂でひらかれた。
せやけど、途中からどう見ても〝それ一升瓶ですやん?〟な存在が、目の前のテーブルに何本もならんでいたのはなんでなんやろうな? お蔭で次の日は、頭ガンガンで死ぬかと思うたで。
「ついたでー。嫁ちゃん、お疲れさんやったな」
「達矢君もね」
電車を降りてホームに立つと、二人でのびをする。
「さすがにお尻が痛いね」
「ほんまやな。しばらくは、新幹線も電車も乗りたないわー」
「えーー、飛行機も電車も乗りたくなかったら、どうやって移動するの?」
「日本列島ほとんど縦断は当分かんべんやで。次の転勤までは車とバスと自転車で、出かけるんは近場一択や」
「めちゃくちゃ行動範囲がせまくなるじゃない」
俺の宣言に嫁ちゃんが笑った。と、ホームに風が吹き込んできて、その冷たさに思わず震える。
「さっむ! しかしこっちはまだ寒いな、ほんまに。大阪はもう、桜は五分咲きやったのに」
「そりゃあ、桜前線を途中で追い抜かしてきたからね。こっちの桜は、あと一ヶ月ぐらい先になるかな」
「あー、そうやったそうやった」
嫁ちゃんが人影の少ないホームを見渡す。
「お父さん、ホームには来てないみたい」
「いつもの場所で待っとるんかも……って、いつもの場所もすっかり変わってもうたやろうな」
「あー、そうだね。ほんとに、ずいぶん変わったー……」
改札口を出てあたりを見渡すと、景色はずいぶんと様変わりしていた。よく見ればそこは、間違いなく俺と嫁ちゃんが出会った場所だ。だが、歳月は記憶の中に残っていたその景色を、すっかり変えてしまっていた。
「んー……ってことは、どこで待っててくれるつもりなんだろ……あ、きた!」
嫁ちゃんが指をさす。指した先には、こっちに走ってくるお義父さんの姿があった。
「すまーーーん、夜の仕込みをしていたら、うっかり店を出るのがおくれ……っ」
「「しーーーーーーっ!!」」
その声に、思わず二人で指を口元にもっていく。嫁ちゃんだけではなく俺にまで同じしぐさをされ、お義父さん立ち止まって目を丸くした。
「!!」
「みっくん、ちょうど寝たところなの。起こさないで! お昼寝を邪魔されると、夜になって寝るまで、ずっとご機嫌斜めなんだから!」
嫁ちゃんは声をひそめて、俺に抱かれているチビスケを見ながら、お義父さんに静かにするように言った。
「お、おう、すまん」
「ご無沙汰してます、お義父さん」
そこでやっと挨拶をする。
「達矢君、久し振りだな。そして松島基地への転属おめでとう。今から楽しみだよ。達矢君が、あの青いパイロットスーツを着たところを見るのが」
「まだホンマに飛べるようになるかは、わかりませんけどね」
「そんなことないよね、お父さん。私が見込んだ人だもん、絶対にブルーで飛ぶことになるよねえ」
お義父さんは、嫁ちゃんの言葉に笑い声をあげてから、あわてて口を手でふさぐ。
「す、すまん」
「大丈夫ですよ。俺とおなじで、よほどのことがなければ起きひんので」
「だめだめ、そんなこと言ったら、油断して大声で話しはじめるから。うちのお父さんは注意しすぎがちょうど良いの。それより車で来たんだよね? 早く帰ろ!」
嫁ちゃんはお義父さんと並んで仲良く歩き始めた。築城と東松島、遠いこともあってなかなか実家に帰ってくることができなかった嫁ちゃん。久し振りに父親と顔を合わせて嬉しそうだ。
―― こんだけ喜んでるんや、それだけでも転属を受け入れて良かったで。……飛びたないけど ――
「達矢君、引っ越しの荷物は明日に届くんだよな?」
二人の後ろをついていく俺にお義父さんが話しかけてくる。
「はい。昼に官舎に到着するってことでした。明日になったら、もうちょっとはっきりした時間がわかる思いますわ」
「そうか。なら今日は、ゆっくり我が家でゆっくりできるんだな」
その言葉に、嫁ちゃんはなぜかピクリと反応した。
「ちょっとお父さん? まさか勝手に歓迎会とか激励会とか計画してないよね?」
「え?」
あー、なんやそんな計画してるみたいやな、あの顔。お義父さん、嘘つくことできひん人やもんなあ……。さっそく嫁ちゃんに勘づかれてるやん?
「あ、その顔、やっぱりなんだね! 気が早すぎるのは考えものだって、言わなかったっけ?」
「真由美、おまえさっき、自分の見込んだ人だから、絶対に飛ぶって言ってなかったか?」
「それとこれとは別なの。夜の仕込みって絶対にそれの準備だったんでしょ?」
「あー……そんなこと言ったってなあ……」
どうやら歓迎会の開催は確定らしい。
「あーん、もう、達矢君どうする? 今夜はご近所さんがお店に集まって、遅くまで宴会だよ、きっとー」
嫁ちゃんの実家は食堂だ。以前は松島基地の目と鼻のさきにあって、F-2の訓練課程に入っていた俺達はよく顔を出したものだ。今は前の場所より内陸側へと移転して、基地とはかなり離れてしまった。だが遠くなった今も、基地の人間がしょっちゅう顔を出しているそうだ。
「そんなこと言ったかてなあ。今から宿はとれへんやん? 官舎、電気とガスはなんとかなっても布団もなんもあらへんで? 夏ならともかく、この季節に親子三人で布団もなしに雑魚寝はちょっとなあ……」
「布団、家から持っていこうか? 一日ぐらいならそれでなんとかしのげるかも」
「おい、真由美、それってあんまりじゃないか?」
お義父さんが抗議の声をあげる。
「だって、明日は引っ越しの片づけで私も達矢君も忙しいの。なんで今夜にするかなあ……」
「宴会をひらくなんて言ってないじゃないか」
「じゃあ聞くけど、今夜は私達だけで晩御飯?」
「……いや、その」
嫁ちゃんのするどいスッコミに、もごもごと言葉をにごした。
「お兄ちゃん達が来るのは良いとして、それ以外は? 何人くるって? もしかして、お店は臨時休業の貸し切り?」
「……あー、すまん。夜は臨時休業で、いつもの面々がいろいろ持ち寄って顔を出すと思う」
「ほらー……達矢君、どうする?」
集まってくる人達は、嫁ちゃん実家が長く御近所づきあいをしている人達で、俺も知っている人ばかりだろう。そんな御近所さんが歓迎してくれるというのだ。それをむげに断るのも申し訳ない。
「まあ、ええやん? せっかく歓迎会を開いてくれるんや。久し振りに、お義父さんとお義母さんの手料理を御馳走になったらええやん」
「達矢君、うちのご近所さん達がどれだけ酒豪か知ってるでしょ? 絶対、歓迎会じゃなくて宴会になっちゃうから。明日はお引越しの作業もあるんだもん、今日は早く寝なきゃ」
たしかに嫁ちゃんの意見ももっともだ。俺のこともだが、チビスケの保育園のこともある。できることなら明日一日でなんとか引っ越し作業を終わらせ、通常の生活に戻っておきたかった。
「まー、そこは大丈夫なんやない? 俺、そんなに酒つようないから、きっとその場で皆をほったらかして寝てまうわ」
「断言できる。絶対に寝かせてもらえないから。そして私には見えるよ、二日酔いで頭ガンガンさせながら、お引越しの片づけをする達矢君の姿が!」
「それはイヤやわあ……」
こういう時の嫁ちゃんの予言は、必ずと言っていいほど的中するから困りものだ。さて、ここはどうしたものか。
「お酒禁止にしてくれるなら開催を認めます。これでどうよ、お父さん」
「せっかく皆が集まるのにか」
「お酒がなくても問題ないでしょ?」
「そりゃそうだがなあ……」
嫁ちゃんの譲歩案にお義父さんは不満げにうなる。
「それがイヤなら、私達はお布団を持ち出してさっさと官舎に行って寝るから」
「酒禁止ってお前、母さんと同じこと言ってるぞ」
「ほら! やっぱりそうなんじゃない! お母さんは正しいです! ってことでお酒の持ち込みは禁止。それが最低条件、はい決まり! 反論は認めません、帰ったらすぐに連絡を回す、以上!」
「……」
「返事!」
「……わかった、帰ったら連絡する」
なんや嫁ちゃん、うちのオカンに似てきてへん?
駐車場に向けて歩いていると、ジェット音が聞こえた。あの音はT-4のエンジン音だ。
「お、もしかして今から訓練?」
「午後からは、基地上空での訓練だってお知らせが来てたな」
その場で立ち止まって基地のほうを見ると、白いスモークをひきながら青い機体が四機、離陸していくところだった。四機が基地の上を旋回していると、さらに二機が離陸していく。そのうちの一機が真っ直ぐ上昇をした。
「おー、ローアングルキューバンやん。ほんま、アホみたいな角度やなあ、なんやねん、あれ」
「もー、達矢君てば。あの中のどれかで自分が飛ぶことになるのに、そんなこと言って」
「せやかてな、あんな角度でギューンなんておかしいやん」
そう言いながら、自分の手で今の上昇角度を再現してみせる。
「かっこいいじゃない。私だったら達矢君が今のをしてくれたら、かっこいいって感動しちゃうけど」
「いややわー、あんなん絶対にやりたないで、できることならキーパーでええわー、うわー、今からめっちゃ憂鬱やわー」
俺の言葉を聞いてお義父さんが笑った。
「達矢君は相変わらず飛びたくないんだな」
「飛びたないですわー。もー、なんで松島に転属になってもうたんやら……」
「安心したよ、今までどおりの達矢君で」
俺達の頭上を、ブルーの機体が白いラインをひきながら飛んでいく。あの中のどれかで自分が飛ぶなんて想像がつかない。
―― はー……まったく、なんでやねん。俺がいる間、ずーっと雨にならへんもんかいな…… ――
そんなわけで、矢本に到着した俺達一家の歓迎会が、嫁ちゃん実家の食堂でひらかれた。
せやけど、途中からどう見ても〝それ一升瓶ですやん?〟な存在が、目の前のテーブルに何本もならんでいたのはなんでなんやろうな? お蔭で次の日は、頭ガンガンで死ぬかと思うたで。
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