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本編 5 パンサー影さん編
第五十一話 隊長と二人三脚飛行?
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「これ、ほんまに飛ぶんですのん?」
「もちろんだ」
渡された午後からの飛行計画書に目を通した後、思わず杉田隊長に確認をした。すでに申請されているのだから、もちろん本気でこのルートで飛ぶのだろう。
「なんで最初から最後まで、こんなにピッタリとくっついて」
「イヤなのか」
「イヤとかそういうことではなく、ここまでピッタリくっついて離陸して飛行するって、なんの意味があるんやろうなあと思ったんですが」
飛行計画書によると、隊長と俺が搭乗するF-2は、ほぼ同時に離陸し、旋回し、上昇することになっている。飛行スピードは……なんやめっちゃ早ない? 旋回する角度は……めっちゃ鋭角やない? もしかして、俺がいない間に、飛行隊の方針が変わったのか?
「意味がないとダメなのか」
「ダメというか、飛ばなあかんなら、それなりに理由は知りたいですわー」
「このぐらい、ブルーでは普通に飛んでいただろう」
「それはブルーだからですやん。ここはドルフィンやのうてパンサーやし」
隊長は飛行ルートを書いた図を、自分の手元に引き寄せる。
「影山のファイターとしてのカンが鈍っていないか、自分の目で確めたい」
「わいのカンですかいな」
「そうだ」
意外な言葉だった。松島にいた時のほうが、ずっと難易度の高いアクロを飛んでいたのだ。その自分のカンが鈍っているとは思えない。実際、午前中に飛んでいる時も「お行儀よく飛ぶのは堅苦しい」と感じたぐらいなのに。
「信じられないか?」
「自分ではカンが鈍っているとは感じていないので」
そこは俺なりのプライドだ。飛びたくないのはいつものことだが、ファイターとしてのカンが鈍っているのでは?と疑われるのは心外だった。
「自分的には余計なお世話やでって思いますけど? まあ隊長が確かめたいなら、別にそれはそれでかまへんけど」
俺がそう言うと、隊長が口元に笑みを浮かべた。おお、珍しいこともあるもんや。もしかして、午後から雨でも降るんちゃう?
「自分の技量に自信を持つことは良いことだ。過信でないなら」
「わいが自分の技量を過信していると?」
「いや」
隊長は首を横にふった。
「だが、俺が松島から戻ってきた時に感じたのは、自分のファイターとしてのカンが鈍っているというものだった」
「そんなこと感じたんですか」
「ああ。ブルーでは普段の飛行と違い、難易度の高いアクロを飛ぶ。だがあれは、あくまでも見せるための飛行だ。実戦のための飛行じゃない」
もちろんアクロといっても、戦術的な飛行術の延長線上にあるものだ。だからまったくの別物というわけではない。だが隊長の言っていることも理解できた。
「その経験から、わい……やのうて、俺の飛行を見たいと」
「そうだ。午前中は下から見ていたが、午後からは飛んでいるのを近くで見たい」
「ま、隊長がそこまで言うならかまへんけど。せやけど、この飛行隊形とコースはどないなんと思いますわ。くっつきすぎやし、いそがしすぎやし、まるで航空祭の飛行展示ですやん」
「そのぐらいを飛ばないと、影山のカンが鈍ったかどうか、わからないだろ」
「それ、ほめられてますん?」
俺の問いに隊長は首をかしげる。
「どうだろうな。飛んでみないことには何とも言えない」
「隊長が隊長のままで安心しましたわ」
「では決まりだな。午後からもよろしく頼む」
+++
「それにしたかて、これ、どう考えても航空祭の展示飛行モードやん?」
昼一番の飛行にそなえ、昼ご飯を軽くすませてエプロンに出た。そしていつものようにハンガーの前で腰をおろす。飛行ルートの確認をしながら、ポケットから嫁ちゃんのおにぎりを出した。ブルーで飛ばへんのやから、もう要らんやろって? そんなことあるかいな。わいが現役パイロットでいる限り、嫁ちゃんのおにぎりは必要不可欠な要素やで。
「お?」
ラップをはがしたとたんに香る潮のにおい。これは松島にいる間、何度も嗅いだ香りだ。
「今日の具は金華沖の塩サバやん? ってことは、今日の嫁ちゃんの昼飯も塩サバやなー。金華山沖の漁師さん、いつもおいしい塩サバをおおきに!」
そっちの方向に手を合わせると、さっそく一口ほおばった。
「うっまーー!!」
ほんまにうまい。嫁ちゃんの地元の食材が続いているところをみると、嫁ちゃん、さっそく味覚ホームシックになってそうやな。ま、こっちの魚もうまいけど。
「あ、影山さんのおにぎりタイムも復活してる。いよいよ本格的にパンサー影さん復活ですね!」
整備員達が出てきて、横を通りすぎながら俺の手元をのぞき込んでいく。
「今日の具はなんですか?」
「金華沖の塩サバのほぐし身や」
「おいしそう!」
「やらへんで」
「えー。三陸沖の魚っておいしいんですよね? 僕も食べたいです!」
「食べたかったら松島基地に転属願いでも出し。これはわいの塩サバや」
「えーー」
整備員達は笑いながらエプロンに出ると、駐機してある機体のチェックを始めた。
「影山さんのそれを見るの、久し振りですねえ。やっといつもの築城基地に戻った気がしますよ」
後から出てきたのは機付長の谷崎だ。
「嫁ちゃんのおにぎりが食べられへんのやったら、わいは飛ばへんからな」
「別に食べるなとは言ってないでしょ」
「いや、言いたげやった」
「まさか。影山さんからおにぎりをとりあげるのは、とっくにあきらめましたよ。だって松島でも公認だったし、テレビにも出ちゃいましたから」
ここで飛ぶようになって、最初にこの谷崎とぶつかった理由は、機体のことではなくおにぎりのことだった。ラップが飛ぶだの、海苔が飛ぶだの、いろいろと文句を言われたものだ。
「で? そのラップはどうすんですか?」
「ん? わいのポケットにないないか、自分のそのウエストポーチにないないやな」
「じゃ、こっちに渡してもらいますよ。そのほうが俺が安心できるので」
おにぎりのラップを渡すと、谷崎は魚のにおいが~と文句を言いながら、ウエストポーチにラップを押し込んだ。れいのテレビ番組のおかげで、飛行前のおにぎりは公認になったようだ。取材を俺に押しつけた沖田隊長には、感謝せなあかんかもしれん。
「準備はできているか?」
ハンガーから杉田隊長が出てきた。沖田隊長も飛びたがりだが、それに負けず劣らず杉田隊長も飛びたがりだ。まったく、飛びたくない俺の上官がどこにいっても飛びたがりというのは、なにかの陰謀なのか?
「おにぎりも腹におさまったことやし、まあ、飛んでもええかいなって気分にはなりつつありますわ。ほんまは飛びたないけど」
「なら準備を始めよう」
「ぜんぜんこっちの言うこと聞いてへんし」
その愚痴にすら振り向こうとしない。もちろん聞こえていないわけではない。聞かないふりをしているだけだ。
「はー、飛びたないで、ほんま。隊長の用事がなかったら、絶対に飛ばへんのに」
そんなことをつぶやきながら機体の点検をする。
「なあ、このF-2君、なんや顔色わるうない? 真っ青やん」
「洋上迷彩ですから!」
「あ、エンジン、一つしかないで? もう一つどこいったんや」
「こいつは単発ですから!」
残念なことに、どこもかしこも調子が良さそうだ。ほんま、航空自衛隊の整備員達は優秀すぎや。
「はいはい、そろそろコックピットにおさまってくださいよー」
「ちょ、押さんでええから」
「こういう時は問答無用で押し込むのが良いって、松島のキーパーからアドバイスを受けているので!」
「なんや、あっちとこっちでツーカーなんかいな、かなわんで」
なんやかんやと押されながらステップをのぼり、コックピットにおさまった。離陸までの手順は基本的なことはブルーの時と変わらない。いや、ブルーの時がこっちと基本的に変わらないと言うべきか。エンジンをスタートさせ、問題なしと判断すると、キャノピーをしめる。そして前に立った整備員の指示で、ラダーとフラップを動かした。
『こちら管制塔。アキレス01、02、ランウェイ25からの離陸でお願いします』
「アキレス01、了解」
「アキレス02、了解やで。はー、飛びたないで、ほんま」
とは言え、愚痴もそろそろ打ち止めだ。アクロの訓練をするブルーと、防空任務を担うパンサーとでは勝手が違う。おにぎりは認められていても、あまり派手な愚痴りはさすがに問題ありと判断されかねない。
滑走路の定位置で止まると、最後のチェックをした。ななめ前では隊長が同じように最終チェックをしている。
「ブレーキよし、エンジンよし、フラップよし、ラダーよし。隊長との二人三脚飛行の準備よし。飛びたないけど!」
「あきらめて飛べ」
そっけない隊長の合いの手がはいった。
『こちら管制塔。基地上空および訓練空域に民間機なし。01、02、離陸を許可します』
「こちら01、離陸許可、了解」
「こちら02、離陸許可、了解」
二機がほぼ同時に動き出す。スピードを上げながら滑走路を走り、操縦桿を引いた。機体がふわりと浮き上がる。だが今日は隊長に合わせての朝一と同じ「ため」の離陸だ。
―― おおおお、どこまで我慢したらええねん! ――
隊長機の頭が上がった。それに合わせてこちらも機首を上げる。
―― まさかのローアングルテイクオフーからの!! ――
スピードをあげ、そのまま左に旋回する。かなりのスピードでの旋回だ。おそらく下では轟音が響き渡っているに違いない。
―― ほんま、下の人らかんにんやで。ぜったいにやかましいわ、これ ――
飛行ルートはわかっていたが、かなりトリッキーなコース取りをしていて、こっちは隊長についていくのがやっとだった。
もしかして隊長が言うように、ファイターとしてのカンが鈍っているんやろか?
「もちろんだ」
渡された午後からの飛行計画書に目を通した後、思わず杉田隊長に確認をした。すでに申請されているのだから、もちろん本気でこのルートで飛ぶのだろう。
「なんで最初から最後まで、こんなにピッタリとくっついて」
「イヤなのか」
「イヤとかそういうことではなく、ここまでピッタリくっついて離陸して飛行するって、なんの意味があるんやろうなあと思ったんですが」
飛行計画書によると、隊長と俺が搭乗するF-2は、ほぼ同時に離陸し、旋回し、上昇することになっている。飛行スピードは……なんやめっちゃ早ない? 旋回する角度は……めっちゃ鋭角やない? もしかして、俺がいない間に、飛行隊の方針が変わったのか?
「意味がないとダメなのか」
「ダメというか、飛ばなあかんなら、それなりに理由は知りたいですわー」
「このぐらい、ブルーでは普通に飛んでいただろう」
「それはブルーだからですやん。ここはドルフィンやのうてパンサーやし」
隊長は飛行ルートを書いた図を、自分の手元に引き寄せる。
「影山のファイターとしてのカンが鈍っていないか、自分の目で確めたい」
「わいのカンですかいな」
「そうだ」
意外な言葉だった。松島にいた時のほうが、ずっと難易度の高いアクロを飛んでいたのだ。その自分のカンが鈍っているとは思えない。実際、午前中に飛んでいる時も「お行儀よく飛ぶのは堅苦しい」と感じたぐらいなのに。
「信じられないか?」
「自分ではカンが鈍っているとは感じていないので」
そこは俺なりのプライドだ。飛びたくないのはいつものことだが、ファイターとしてのカンが鈍っているのでは?と疑われるのは心外だった。
「自分的には余計なお世話やでって思いますけど? まあ隊長が確かめたいなら、別にそれはそれでかまへんけど」
俺がそう言うと、隊長が口元に笑みを浮かべた。おお、珍しいこともあるもんや。もしかして、午後から雨でも降るんちゃう?
「自分の技量に自信を持つことは良いことだ。過信でないなら」
「わいが自分の技量を過信していると?」
「いや」
隊長は首を横にふった。
「だが、俺が松島から戻ってきた時に感じたのは、自分のファイターとしてのカンが鈍っているというものだった」
「そんなこと感じたんですか」
「ああ。ブルーでは普段の飛行と違い、難易度の高いアクロを飛ぶ。だがあれは、あくまでも見せるための飛行だ。実戦のための飛行じゃない」
もちろんアクロといっても、戦術的な飛行術の延長線上にあるものだ。だからまったくの別物というわけではない。だが隊長の言っていることも理解できた。
「その経験から、わい……やのうて、俺の飛行を見たいと」
「そうだ。午前中は下から見ていたが、午後からは飛んでいるのを近くで見たい」
「ま、隊長がそこまで言うならかまへんけど。せやけど、この飛行隊形とコースはどないなんと思いますわ。くっつきすぎやし、いそがしすぎやし、まるで航空祭の飛行展示ですやん」
「そのぐらいを飛ばないと、影山のカンが鈍ったかどうか、わからないだろ」
「それ、ほめられてますん?」
俺の問いに隊長は首をかしげる。
「どうだろうな。飛んでみないことには何とも言えない」
「隊長が隊長のままで安心しましたわ」
「では決まりだな。午後からもよろしく頼む」
+++
「それにしたかて、これ、どう考えても航空祭の展示飛行モードやん?」
昼一番の飛行にそなえ、昼ご飯を軽くすませてエプロンに出た。そしていつものようにハンガーの前で腰をおろす。飛行ルートの確認をしながら、ポケットから嫁ちゃんのおにぎりを出した。ブルーで飛ばへんのやから、もう要らんやろって? そんなことあるかいな。わいが現役パイロットでいる限り、嫁ちゃんのおにぎりは必要不可欠な要素やで。
「お?」
ラップをはがしたとたんに香る潮のにおい。これは松島にいる間、何度も嗅いだ香りだ。
「今日の具は金華沖の塩サバやん? ってことは、今日の嫁ちゃんの昼飯も塩サバやなー。金華山沖の漁師さん、いつもおいしい塩サバをおおきに!」
そっちの方向に手を合わせると、さっそく一口ほおばった。
「うっまーー!!」
ほんまにうまい。嫁ちゃんの地元の食材が続いているところをみると、嫁ちゃん、さっそく味覚ホームシックになってそうやな。ま、こっちの魚もうまいけど。
「あ、影山さんのおにぎりタイムも復活してる。いよいよ本格的にパンサー影さん復活ですね!」
整備員達が出てきて、横を通りすぎながら俺の手元をのぞき込んでいく。
「今日の具はなんですか?」
「金華沖の塩サバのほぐし身や」
「おいしそう!」
「やらへんで」
「えー。三陸沖の魚っておいしいんですよね? 僕も食べたいです!」
「食べたかったら松島基地に転属願いでも出し。これはわいの塩サバや」
「えーー」
整備員達は笑いながらエプロンに出ると、駐機してある機体のチェックを始めた。
「影山さんのそれを見るの、久し振りですねえ。やっといつもの築城基地に戻った気がしますよ」
後から出てきたのは機付長の谷崎だ。
「嫁ちゃんのおにぎりが食べられへんのやったら、わいは飛ばへんからな」
「別に食べるなとは言ってないでしょ」
「いや、言いたげやった」
「まさか。影山さんからおにぎりをとりあげるのは、とっくにあきらめましたよ。だって松島でも公認だったし、テレビにも出ちゃいましたから」
ここで飛ぶようになって、最初にこの谷崎とぶつかった理由は、機体のことではなくおにぎりのことだった。ラップが飛ぶだの、海苔が飛ぶだの、いろいろと文句を言われたものだ。
「で? そのラップはどうすんですか?」
「ん? わいのポケットにないないか、自分のそのウエストポーチにないないやな」
「じゃ、こっちに渡してもらいますよ。そのほうが俺が安心できるので」
おにぎりのラップを渡すと、谷崎は魚のにおいが~と文句を言いながら、ウエストポーチにラップを押し込んだ。れいのテレビ番組のおかげで、飛行前のおにぎりは公認になったようだ。取材を俺に押しつけた沖田隊長には、感謝せなあかんかもしれん。
「準備はできているか?」
ハンガーから杉田隊長が出てきた。沖田隊長も飛びたがりだが、それに負けず劣らず杉田隊長も飛びたがりだ。まったく、飛びたくない俺の上官がどこにいっても飛びたがりというのは、なにかの陰謀なのか?
「おにぎりも腹におさまったことやし、まあ、飛んでもええかいなって気分にはなりつつありますわ。ほんまは飛びたないけど」
「なら準備を始めよう」
「ぜんぜんこっちの言うこと聞いてへんし」
その愚痴にすら振り向こうとしない。もちろん聞こえていないわけではない。聞かないふりをしているだけだ。
「はー、飛びたないで、ほんま。隊長の用事がなかったら、絶対に飛ばへんのに」
そんなことをつぶやきながら機体の点検をする。
「なあ、このF-2君、なんや顔色わるうない? 真っ青やん」
「洋上迷彩ですから!」
「あ、エンジン、一つしかないで? もう一つどこいったんや」
「こいつは単発ですから!」
残念なことに、どこもかしこも調子が良さそうだ。ほんま、航空自衛隊の整備員達は優秀すぎや。
「はいはい、そろそろコックピットにおさまってくださいよー」
「ちょ、押さんでええから」
「こういう時は問答無用で押し込むのが良いって、松島のキーパーからアドバイスを受けているので!」
「なんや、あっちとこっちでツーカーなんかいな、かなわんで」
なんやかんやと押されながらステップをのぼり、コックピットにおさまった。離陸までの手順は基本的なことはブルーの時と変わらない。いや、ブルーの時がこっちと基本的に変わらないと言うべきか。エンジンをスタートさせ、問題なしと判断すると、キャノピーをしめる。そして前に立った整備員の指示で、ラダーとフラップを動かした。
『こちら管制塔。アキレス01、02、ランウェイ25からの離陸でお願いします』
「アキレス01、了解」
「アキレス02、了解やで。はー、飛びたないで、ほんま」
とは言え、愚痴もそろそろ打ち止めだ。アクロの訓練をするブルーと、防空任務を担うパンサーとでは勝手が違う。おにぎりは認められていても、あまり派手な愚痴りはさすがに問題ありと判断されかねない。
滑走路の定位置で止まると、最後のチェックをした。ななめ前では隊長が同じように最終チェックをしている。
「ブレーキよし、エンジンよし、フラップよし、ラダーよし。隊長との二人三脚飛行の準備よし。飛びたないけど!」
「あきらめて飛べ」
そっけない隊長の合いの手がはいった。
『こちら管制塔。基地上空および訓練空域に民間機なし。01、02、離陸を許可します』
「こちら01、離陸許可、了解」
「こちら02、離陸許可、了解」
二機がほぼ同時に動き出す。スピードを上げながら滑走路を走り、操縦桿を引いた。機体がふわりと浮き上がる。だが今日は隊長に合わせての朝一と同じ「ため」の離陸だ。
―― おおおお、どこまで我慢したらええねん! ――
隊長機の頭が上がった。それに合わせてこちらも機首を上げる。
―― まさかのローアングルテイクオフーからの!! ――
スピードをあげ、そのまま左に旋回する。かなりのスピードでの旋回だ。おそらく下では轟音が響き渡っているに違いない。
―― ほんま、下の人らかんにんやで。ぜったいにやかましいわ、これ ――
飛行ルートはわかっていたが、かなりトリッキーなコース取りをしていて、こっちは隊長についていくのがやっとだった。
もしかして隊長が言うように、ファイターとしてのカンが鈍っているんやろか?
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