俺の彼女は中の人

鏡野ゆう

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本編

第七話 一年期間のスタート地点

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「んー……」

 なんとなく体がだるくて動く気にはなれない。体内時計的には朝の九時頃かなって感じだけど、今日は日曜日だし温かいお布団で寝心地良いし、もうちょっとこのまま寝ていても良いかなあなんて考えながら、お布団に顔を擦りつけた。

―― うーん、本当に丁度良い固さだし寝心地良いなあ、お布団大好き ――

 ……あれ? うちのベッドってこんな寝心地良かった? いつもと何かが違う感じに内心首をかしげながら、お布団の感触を確かめる。なんだろう、お布団にしては固い感触? まあ良いや、素肌に触れる感じはお布団より気持ち良いからスリスリしたくなってくるし、もう少しこの気持ち良さを楽しもう。

杏奈あんなさん、それって俺のことを挑発してる?」

 耳元で、低音のかすれ声にささやかれて、一気に目が覚めた。これ、お布団じゃなくて人間だよ人間! しかも人間の男の人! 私、男の人の上で寝ちゃってる!! しかも触ってたのは男の人の胸だった。慌てて体を起こすと、眠そうだけど楽しそうな笑みを浮かべている、佐伯さえきさんの顔を見下ろす形になった。

「おはよう、よく眠れたみたいだね」
「お、おはようございます、ごめんなさい、ベッド代わりにして寝ちゃったみたいで」
「いや、俺も気持ちよく眠れたからかまわないよ」
「すみません、すぐにおりますね」

 体をずらそうとすると、佐伯さんはちょっとだけ慌てた様子で、私の腰を両手でつかんで動けなくした。

「あのさ、俺のことし折るつもり? もしくはじ切っちゃうつもりとか」
「え?」
「俺と杏奈さん、つながったまんまなんだけど」

 そう言うと、それを思い出させるように佐伯さんは腰をゆっくりと動かした。その動きと同時に、硬い先端が体の奥に当たって、背中を甘い痺れが走り抜ける。そう言えば、昨日やっと寝かせてもらえるとホッとしながら意識を手放す直前、佐伯さんが杏奈さんと離れたくないから良い?って聞いてきた気がする。それは彼が私のことを抱きしめて眠るってことだと思ったからうなづいたんだけど、もしかして離れたくないってこういうことだったわけ?

「ね? だからどいてくれるなら、ユックリ頼みます。俺だって痛いのイヤだから」

 そう言って、腰に当てていた手を佐伯さんが離す。そのまま体を上に持ち上げてくれれば良いよって言われ、言われた通りに膝立ちになる途中で、佐伯さんのものが中の感じるところに当たって思わず声が漏れてしまった。その様子に笑みを浮かべると、ちょっと首をかしげてこちらを見上げてくる。

「そんな風に焦らすと我慢できなくなっちゃうから、どいてくれるなら手早くしてもらうと助かるんだけどなあ」

 のんびりした口調とは裏腹に、中のものが硬く大きくなった気がする。体格差もあるせいか、私が佐伯さんの上で膝立ちしても完全に体が離れるところまでいかなくて、まだ先端が中に入ったままだし、手早くと言われても、体を動かすたびにさっきより硬くなったものに中を刺激されて、気持ちよくて何だか朝から妙な気分になっちゃうし……。

「そろそろ時間切れとか言われたい?」
「だって」

 佐伯さんの大きな手に腰をつかまれて引き戻されると、奥深くまで熱いもので満たされた。

「や……っ」
「はい、時間切れ。手早くってお願いしたのに杏奈さんときたら。朝からちょっとした拷問ごうもんタイムを耐えた俺のことをほめてください」
拷問ごうもん……ほめるって、だいたい時間切れとか言うほど、待ってもらってないです!」

 クルンと態勢が入れ替わって、あっという間に私が佐伯さんを見上げる状態になる。そして見上げる私の頬に手を当てて優しくキスをしてくると、そのままゆっくりとだけど力強い動きで私のことを愛し始めた。

「杏奈さんが目を覚ますまでじっと我慢してたんだから、結構な時間だと思うけど?」
「そんなの私は寝てたんだし待ち時間のうちに入らな……いっ……んっ」
「まだ痛い?」
「……だいじょうぶ、です……」

 杏奈さんからしたら、僕はちょっと大きすぎかもしれないねって心配していたのは、体格差のことだけではなかった。昨日の夜に何度も受け入れていたから、痛みや違和感はもうほとんどないけれど、深いところを何度も突かれるうちに、佐伯さんのものがさらに奥に入り込んでくるんじゃないかって感じがして、ドキドキするのと同時にちょっと怖くなる。これ以上深いところに男の人を受け入れるなんてことできるのかな?なんて考えながら、たくましい体にしがみつくと耳元で笑い声がした。

「なら遠慮は要らないよね?」
「あ、待って……」
「大丈夫、ちゃんと避妊はしてるから」
「そういう問題じゃなくて、あっ、あぁぁっ!」

 激しくなった動きに、ただただしがみつくしかなくて、佐伯さんが満足するまで、ひたすらかされ続けることになった。

 それからしばらくしてやっと彼が離れていくと、それまで彼のもので堰き止められていた蜜が零れ落ち、お尻の下のシーツを濡らすのを感じて顔が赤くなってしまった。そんな羞恥心なんておかまいなしに、佐伯さんは私を自分の方に引き寄せて腕の中に閉じ込める。きっとシーツは大惨事になっていると思うんだけどな……。

「杏奈さんは、俺が困っている時の顔が可愛いって言ってたけどさ、俺は今みたいに、恥ずかしがっている杏奈さんの顔が可愛いって思うよ。だから何度も困らせたくなるのかもしれないな、今みたいに」

 頭の上でそんな声がする。

「それってドS」
「お互い様でしょ。それにおねだりしてきたのは杏奈さんの方だよ?」
「おねだりなんてしてないです」
「さっき俺にしがみついてきたのは、もっと欲しいってことだったんだろ? なんならもうちょっと続けようか?」
「もう結構です」
「嘘つきめ」

 ギュッと抱きしめられて、窒息しますから勘弁してくださいと抵抗していると、ベッドサイドで携帯電話にメールの着信を知らせる音がした。この音は私じゃないから佐伯さんの?

「メール来ましたよ?」
「うん、来たね」
「読まないんですか?」
「あの音は、多分、前の奥さんからだから……いたっ」

 頭を叩かれてポカンとしている相手をにらんだ。

「そういう薄情なのはいただけません。もしかしたら息子さんに、何かあったのかもしれないじゃないですか」
「いや、多分、養育費更新のことで取り決めた書類に、サインしましたっていうお知らせだと思うから……いたたっ、分かったよ、ちゃんと確認します」

 私がさらに耳を引っ張ると、片手で私を抱き寄せたまま、携帯電話に手を伸ばした。ちょっとだけ真面目な顔でメールを読み、やがて画面を閉じる。

「やっぱりそうだったよ。それと息子の近況。今度の旦那さんは良い人みたいで安心した」
「あの、奥さんに未練とかな無いんですか?」
「もう離婚して二年だからね。最初のうちはショックだったし、息子のこともあったから色々と考えてたよ。だけど今は、二人が幸せなら良いなって思えるようになった。それに……」

 ちょっとだけ真剣な顔をしてこちらを見る。

「そんな気持ちがあるまま、杏奈さんを抱くとでも?」
「何て言うか、連絡を取り合っているのは、そう言う気持ちがまだ残っているのかなって」
「杏奈さんが思っているような気持ちが残っているかと尋ねられたら、今はNOだ。気になるようなら、連絡しないように言うけど?」
「ダメですよ、そんなの。離婚しても、息子さんは佐伯さんと血がつながっているんです。それに、もしかしたら将来、海の男になりたいと言って、相談してくるかもしれないじゃないですか。完全につながりを切っちゃうのは、いけない気がします」
「海の男は無いと思うよ。仮になりたいと言っても、母親が許さないだろう、いてっ、なんだよ」
「あのですね、母親が許さないって、一体どんなマザコンになると思ってるんですか。それに自分の仕事に誇りが持てない人なんて、嫌いですよ、私。……わっ」

 なんだかちょっと腹が立ってきたので、佐伯さんの腕を振りほどいて起き上がろうとしたら、すかさず引き戻されてしまった。

「一日目から、嫌いだなんて言葉が杏奈さんの口から出るなんて、先が思いやられるよな、俺」
「努力しましょう」
「大変よくできましたがもらえるまでの道のりは、遠そうだな……」
「そのための一年間ですからね」
「初日は赤点かな」

 そう言いながら笑った。

「0点でなかっただけ、マシだと思わなきゃ」
「どの辺で0点を免れたのか興味があるな」
「まあ色々と? 甘いもの好きの共通点とか」
「もちろん体の相性も入ってるよな? それとテクニックとか?」
「テクニックは関係ないと思いますけど……」
「相性は認めるわけだ?」
「まあ、何て言うか……悪くはないと思いますけど……」

 百八十五センチと百五十二センチという大人と子供みたいな身長差ではあるけれど、その点を除けばかなり相性が良いとは思う。エッチでいくタイミングっていうか何ていうか、初めてなのに色々とすごく息がピッタリ合っているって言うか? いつだったか、セックスは二人で踊るダンスと同じよ?なんて職場のお局様が言っていたんだけど、テクニックとかそういうのを別にして、息がピッタリというのはすごく大事なんだなって、昨日の晩のことで実感した次第。もちろんそんなことは、佐伯さんには言わないけどね、まだ。

「あ、ところで息子さんの写真あるんですか? あるなら見てみたいな」
「なんで?」
「何となく? 近況が来るってことは、写真もたまに添付されているのかなって」
「たまに届くよ、ちょっと待って……はい、これが息子の雄大ゆうだい

 見せてもらった画面から、可愛い坊やが笑いかけている。

「わあ、可愛いですね。あ、眉毛の辺りが佐伯さんそっくりですよ。やっぱり親子ですね、可愛いなあ」
「ダメだぞ? 杏奈さんを息子と張り合うなんてゴメンだからな」

 急にムッとした声になった。

「まだ赤ちゃんじゃないですか。赤ちゃんにやきもちを焼くなんて、困ったお父さんですねえ」
「息子でも男だから」
「私と何歳離れていると思ってるんですか。いくらなんでも有り得ない年の差でしょ。そりゃ雄大君は可愛いし、将来はハンサムさんになりそうですけどね、あ、なんで取り上げるかな、まだ見てるのに!」
「もう見せない」
「えー、ケチッ! 点数から引いちゃいますよ」
「0点になっても見せないものは見せない」

 自分の息子 ―― しかも赤ちゃんだよ?! ―― に嫉妬しっとするなんて。佐伯さんは携帯電話をサイドテーブルに置くと、いきなり起き上がった。

「写真の話はこれで打ち切り。杏奈さん、シャワー浴びて朝飯を食いに行こうか。昨日の晩は、まともに食べてないだろ?」

 そう言われて思い出したかのようにお腹が鳴る。考えてみれば甘い物はそこそこ食べたけど、お腹にたまるような物は口にしてない。ここに来てからはずっとベッドの中だし、当然のことながらホテルの備え付けの冷蔵庫には、夜中にあさるほどの食料は入ってないわけで。

「お腹すきました……」
「だよね、俺も腹が減ってきた。あれ? どうかした?」
「えっと、なんとなく腰が……」

 いざ起き上がってベッドから降りようとして、腰から下が痺れているような感じになっていることに気がついた。これってやっぱりあれだよね、やりすぎってやつ……。私、自力でバスルームにたどりつけるかな。

「ああ、ちゃんと運んであげるから心配ないよ」
「あの!」
「ん?」

 抱き上げられてからチラリとベッドを見れば、案の定の有様。これをホテルの人に見られるのかと思うと、身の置き場がないよ。と、とにかくそれはそれで横に置いといて……。

「シャワー浴びるだけですよね? 私、本当にお腹空いてるんです。空腹のまま活動を開始すると、低血糖で倒れちゃうので」
「分かった。食べさせるまでは何もしないから安心して」
「……よろしいです」
「少し点数稼げたかな?」
「このまま有言実行なら、よくできましたのハンコを押してあげます」

 ただ、朝ご飯を食べ終わってからチェックアウトぎりぎりの時間まで、離してもらえないとは思ってもみなかったんだけど。





 普通のお付き合いとは順番が逆なような気がしないわけでもないんだけれど、とにもかくにもこんな感じで、私と佐伯さんのお付き合いは始まった。
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