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本編
第十七話 一日早く夫婦になりました
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結婚式を挙げる前日の今日、ちょうど二人ともお休みだったので一足先に婚姻届を提出してきた。
何故かその窓口にニコニコ顔の鏡野課長さんが座っていて二人してちょっとビックリ。課長さんって偉い人だから窓口に座っているのっておかしくない?なんて商店街の住人に言うのは野暮ってものなのかなって最近では思えてきた。
「僕が商店街のメンバーで一番最初に夫婦になったお二人を目にすることが出来るなんて、こういう時は市役所に勤めていてよかったと思いますよ。お幸せに♪」
そう言うと婚姻届を受理してくれた。
既に二ヶ月は新居で一緒暮らしているし、その前だってお互いの部屋に行ったり来たり(殆ど私が嗣治さんの部屋に行ってた)していたから今更どうってことない筈なんだけど、法的にちゃんと夫婦になってから一緒に自宅に戻ったら何だか気まずいと言うか照れちゃうと言うか、なんとも妙な気分になってしまった。もちろん明日になれば式を挙げるわけで周囲からも正式な夫婦として見られることになるんだけど……。
「これで晴れて千堂桃香だな」
何気ない口調の嗣治さんの言葉を聞いて、これで西脇桃香じゃなくなっちゃったんだなあって改めて実感する。それからちょっと現実的な問題も。
「カードの名義とかパスポートの書き換えが色々と面倒くさいね……」
私の呟いた言葉にガックリとうな垂れている嗣治さん。
「モモ……」
「なに?」
「こう、もう少し感慨深いとか改めて夫婦になった事を実感したとかそういうのは無いのか?」
「あ、ごめんなさい。それはあるんだけど、そっちの方に気がいっちゃった」
「まったくお前ってやつは……」
「ごめんなさい……」
「いや、桃香らしいといえばらしいんだが」
頭をくしゃくしゃと撫でられてちょっと反省。なかなか気の利いたことが言えないのってちょっとやそっとじゃ治りそうもないなあ……。そのうち嗣治さんに愛想つかされなきゃ良いんだけど。
「心配するな」
「え?」
まるでこっちの気持ちを読んだかのように嗣治さんは片腕で私のことを抱き締めてきた。
「モモは今のままでいいんだよ。無理して変わる必要なんて無いさ、俺が惚れたのは今のモモなんだから」
それはそれで困るよ? 行き倒れになるような女子を好きになるって一体どんな人なのって。
「それから……なあ、桃香」
「なあに?」
「今まで話し合わなかったが、子供のことはどうする?」
「急にどうしたの?」
「いや、桃香は科捜研で働いているだろ? 前に仕事は続ければ良いとは言ったが、結構ハードだし子供ができたら続けるのが難しくなるんじゃないかと思ってな。そうなると暫くは子供は待った方が良いのかなと」
少し困ったような顔をしながら言葉を続ける嗣治さんを見上げた。ちょっと顔が赤い? 確かに話題にしにくい話ではあるよね。
「私は一日でも早く嗣治さんとの赤ちゃんがほしいな。魚住のお父さんやお兄さん達は家族みたいなものだけど、やっぱり自分達だけの家族を作りたい」
「そうか」
「駄目?」
「いや、そんなことない。ただ仕事も好きだろ? だからどうしたものかなと」
「産休も育休もあるし嘱託職員になるという選択肢もあるから、続けたい気持ちがあるならそれなりに続けられると思うよ。なかなか続かない人が多いから待遇だけは良いの、うちの職場」
それもこれも全ては一課の人達のせい。これでも他の地域に比べて人をどんどん補充している方なのに、何故か全体の仕事量が減らないのはどうして? 確かに毎年毎年新しい技術が生まれ新しい装置が開発され、それにかかりっきりになってしまい人が出たりしているけどそれにしてもやっぱりおかしい。日本って平和な国じゃなかったっけ?といつも疑問に思う。ほんと、嗣治さんがいなかったら私、絶対に飢え死にしていたと思う。
「そうか。だったら、これ、もう要らないかな」
いつの間にか嗣治さんが手にしてるのは、予防措置をするモノ。一体いつのまに?
「え、幾らなんでも気が早くない?」
「そうか?」
「えっと、せめて新婚旅行の時からとか……そんな感じじゃないのかな、普通」
「なるほど」
ちょっと無念そうにその箱をポイッとテーブルの上に投げ置いた。ちょっといくら二人だけとは言え、そんなものをリビングのテーブルに置かないでぇ~。慌てて箱を手にすると元々片づけてあったであろう洗面所の引き出しの方へと向かった。そこでふとあることが思い浮かぶ。
「もしかして嗣治さん、今夜からでもなんて考えてた?」
「いや、今日はさすがに。明日、桃香は朝が早いんだろ?」
そう、桜子さん達が仕立ててくれた振袖の着付けと、その前に髪のセットもあるから明日は6時には起きて出かける準備をしなくちゃけいない。仕事をしている時と大して変わらないとは言え、やっぱり人生の一大イベントでもあるのだから緊張しちって今夜は眠れるのかなって気分だ。あ、だからと言って眠れないのと眠らないのでは違うわけで。
「ねえ嗣治さん、式が終わったら髪、切っていい?」
「ん? 長いのも似合ってるのに」
「だって仕事する時に結構じゃまになるんだよ。せめてこの辺りまで切りたい」
そう言って顎の辺りで手を振る。結婚式に振袖を着ると決めた時から伸ばしはじめた髪の毛は既に肩の線より長くなっていた。ここまで伸びたら後ろで束ねていれば問題は無いけど、やっぱり邪魔。前みたいにせめて顎のラインで揃えるボブカットにしたい。
「短いのも可愛いから俺はどっちでもいいぞ?」
「じゃあ切る。旅行に行く時はシャンプーするのも楽な方が良いし」
「ああ、それは言えてるな」
頷きながらも嗣治さんはちょっと残念そう。実のところ今している編みこみ、嗣治さんがやってくれたもの。伸び始めの頃に髪が邪魔だとブツブツ言っていたら何処で覚えてきたのか、毎日のように編みこみをしてくれるようになった。もう何でこんなに手先が器用なのかと言いたい。せめてその半分でも器用さが私も欲しい!!
で、旅行っていうのは新婚旅行のことね。私はここ暫く溜め込んでた(自主的に溜め込んでいた訳ではなく何処かの一課のせいで溜め込む羽目になったもの、ここ重要)有給を一気に消化するするチャンスよって言われたんだけど、嗣治さんはそんなに長くとうてつを休むことも出来ないからそこそこ近い台湾に行こうってことになった。
籐子さんや徹也さんは遠慮すること無いって言ってくれたんだけど、嗣治さん自身がそんなに長く仕事をしないでいるのが嫌だったみたいで。ま、その辺の気持ちは私にも分かるからお互いにそれで納得したって訳。それで何で新婚旅行定番のハワイでなく台湾なんだ?って言われると困っちゃうんだけど敢えて言うならマンゴーが美味しい? 小籠包が美味しい? あと担仔麺は絶対に食べたい! あれ、色気より食い気って丸分かりだ!
とにかく、商店街を離れて二人っきりで旅行するのは初めてのことだから、新婚旅行というのを差し引いてもワクワクドキドキ。出発は一週間後、近場の温泉とかスキーならともかく海外旅行なんて初めてで今から凄く楽しみ♪ とうてつの店先で行き倒れていたのを拾ってもらってから実のところまだ一年足らず。あの時はまさか嗣治さんと結婚するなんて思ってなかったし、人生って何が起こるか分からないって改めて実感する。
そんなわけで明日のお昼、昌胤寺で仏前結婚式を挙げて嗣治さんと私は夫婦になります。
そしてこの時、二人ともまさか嗣治さんのお父さんが号泣するとは思ってなかったんだよね。
何故かその窓口にニコニコ顔の鏡野課長さんが座っていて二人してちょっとビックリ。課長さんって偉い人だから窓口に座っているのっておかしくない?なんて商店街の住人に言うのは野暮ってものなのかなって最近では思えてきた。
「僕が商店街のメンバーで一番最初に夫婦になったお二人を目にすることが出来るなんて、こういう時は市役所に勤めていてよかったと思いますよ。お幸せに♪」
そう言うと婚姻届を受理してくれた。
既に二ヶ月は新居で一緒暮らしているし、その前だってお互いの部屋に行ったり来たり(殆ど私が嗣治さんの部屋に行ってた)していたから今更どうってことない筈なんだけど、法的にちゃんと夫婦になってから一緒に自宅に戻ったら何だか気まずいと言うか照れちゃうと言うか、なんとも妙な気分になってしまった。もちろん明日になれば式を挙げるわけで周囲からも正式な夫婦として見られることになるんだけど……。
「これで晴れて千堂桃香だな」
何気ない口調の嗣治さんの言葉を聞いて、これで西脇桃香じゃなくなっちゃったんだなあって改めて実感する。それからちょっと現実的な問題も。
「カードの名義とかパスポートの書き換えが色々と面倒くさいね……」
私の呟いた言葉にガックリとうな垂れている嗣治さん。
「モモ……」
「なに?」
「こう、もう少し感慨深いとか改めて夫婦になった事を実感したとかそういうのは無いのか?」
「あ、ごめんなさい。それはあるんだけど、そっちの方に気がいっちゃった」
「まったくお前ってやつは……」
「ごめんなさい……」
「いや、桃香らしいといえばらしいんだが」
頭をくしゃくしゃと撫でられてちょっと反省。なかなか気の利いたことが言えないのってちょっとやそっとじゃ治りそうもないなあ……。そのうち嗣治さんに愛想つかされなきゃ良いんだけど。
「心配するな」
「え?」
まるでこっちの気持ちを読んだかのように嗣治さんは片腕で私のことを抱き締めてきた。
「モモは今のままでいいんだよ。無理して変わる必要なんて無いさ、俺が惚れたのは今のモモなんだから」
それはそれで困るよ? 行き倒れになるような女子を好きになるって一体どんな人なのって。
「それから……なあ、桃香」
「なあに?」
「今まで話し合わなかったが、子供のことはどうする?」
「急にどうしたの?」
「いや、桃香は科捜研で働いているだろ? 前に仕事は続ければ良いとは言ったが、結構ハードだし子供ができたら続けるのが難しくなるんじゃないかと思ってな。そうなると暫くは子供は待った方が良いのかなと」
少し困ったような顔をしながら言葉を続ける嗣治さんを見上げた。ちょっと顔が赤い? 確かに話題にしにくい話ではあるよね。
「私は一日でも早く嗣治さんとの赤ちゃんがほしいな。魚住のお父さんやお兄さん達は家族みたいなものだけど、やっぱり自分達だけの家族を作りたい」
「そうか」
「駄目?」
「いや、そんなことない。ただ仕事も好きだろ? だからどうしたものかなと」
「産休も育休もあるし嘱託職員になるという選択肢もあるから、続けたい気持ちがあるならそれなりに続けられると思うよ。なかなか続かない人が多いから待遇だけは良いの、うちの職場」
それもこれも全ては一課の人達のせい。これでも他の地域に比べて人をどんどん補充している方なのに、何故か全体の仕事量が減らないのはどうして? 確かに毎年毎年新しい技術が生まれ新しい装置が開発され、それにかかりっきりになってしまい人が出たりしているけどそれにしてもやっぱりおかしい。日本って平和な国じゃなかったっけ?といつも疑問に思う。ほんと、嗣治さんがいなかったら私、絶対に飢え死にしていたと思う。
「そうか。だったら、これ、もう要らないかな」
いつの間にか嗣治さんが手にしてるのは、予防措置をするモノ。一体いつのまに?
「え、幾らなんでも気が早くない?」
「そうか?」
「えっと、せめて新婚旅行の時からとか……そんな感じじゃないのかな、普通」
「なるほど」
ちょっと無念そうにその箱をポイッとテーブルの上に投げ置いた。ちょっといくら二人だけとは言え、そんなものをリビングのテーブルに置かないでぇ~。慌てて箱を手にすると元々片づけてあったであろう洗面所の引き出しの方へと向かった。そこでふとあることが思い浮かぶ。
「もしかして嗣治さん、今夜からでもなんて考えてた?」
「いや、今日はさすがに。明日、桃香は朝が早いんだろ?」
そう、桜子さん達が仕立ててくれた振袖の着付けと、その前に髪のセットもあるから明日は6時には起きて出かける準備をしなくちゃけいない。仕事をしている時と大して変わらないとは言え、やっぱり人生の一大イベントでもあるのだから緊張しちって今夜は眠れるのかなって気分だ。あ、だからと言って眠れないのと眠らないのでは違うわけで。
「ねえ嗣治さん、式が終わったら髪、切っていい?」
「ん? 長いのも似合ってるのに」
「だって仕事する時に結構じゃまになるんだよ。せめてこの辺りまで切りたい」
そう言って顎の辺りで手を振る。結婚式に振袖を着ると決めた時から伸ばしはじめた髪の毛は既に肩の線より長くなっていた。ここまで伸びたら後ろで束ねていれば問題は無いけど、やっぱり邪魔。前みたいにせめて顎のラインで揃えるボブカットにしたい。
「短いのも可愛いから俺はどっちでもいいぞ?」
「じゃあ切る。旅行に行く時はシャンプーするのも楽な方が良いし」
「ああ、それは言えてるな」
頷きながらも嗣治さんはちょっと残念そう。実のところ今している編みこみ、嗣治さんがやってくれたもの。伸び始めの頃に髪が邪魔だとブツブツ言っていたら何処で覚えてきたのか、毎日のように編みこみをしてくれるようになった。もう何でこんなに手先が器用なのかと言いたい。せめてその半分でも器用さが私も欲しい!!
で、旅行っていうのは新婚旅行のことね。私はここ暫く溜め込んでた(自主的に溜め込んでいた訳ではなく何処かの一課のせいで溜め込む羽目になったもの、ここ重要)有給を一気に消化するするチャンスよって言われたんだけど、嗣治さんはそんなに長くとうてつを休むことも出来ないからそこそこ近い台湾に行こうってことになった。
籐子さんや徹也さんは遠慮すること無いって言ってくれたんだけど、嗣治さん自身がそんなに長く仕事をしないでいるのが嫌だったみたいで。ま、その辺の気持ちは私にも分かるからお互いにそれで納得したって訳。それで何で新婚旅行定番のハワイでなく台湾なんだ?って言われると困っちゃうんだけど敢えて言うならマンゴーが美味しい? 小籠包が美味しい? あと担仔麺は絶対に食べたい! あれ、色気より食い気って丸分かりだ!
とにかく、商店街を離れて二人っきりで旅行するのは初めてのことだから、新婚旅行というのを差し引いてもワクワクドキドキ。出発は一週間後、近場の温泉とかスキーならともかく海外旅行なんて初めてで今から凄く楽しみ♪ とうてつの店先で行き倒れていたのを拾ってもらってから実のところまだ一年足らず。あの時はまさか嗣治さんと結婚するなんて思ってなかったし、人生って何が起こるか分からないって改めて実感する。
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