桃と料理人 - 希望が丘駅前商店街 -

鏡野ゆう

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本編

第十八話 足つぼマッサージはマジで痛かったです

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「いったーーーいっ!!」

 いきなり台湾から大声でごめんなさい、だけど超痛いんですよ、この足ツボマッサージとかいうやつ!!

「大袈裟だな、モモ」
「大袈裟じゃないよ、真剣に痛いんだってばっ! 嗣治さん何でそんな平気な顔してるの?!」
「特に痛くないから」

 隣で同じようにしてもらっている筈なのに、嗣治さんは平然としている。しかも逆に気持ちいいぞ?だって。嘘だ、信じられない、私はこんなに痛いのに!!

「オクサン、ここが痛いってことは働きすぎね、ここ、目のツボ、頭のツボ」
「うぎゃぁぁぁ」

+++

「もう絶対に足ツボマッサージなんてしない!!」

 プンスカ怒りながら歩いている私を見て嗣治さんとガイドのおじさんが笑っている。ほんと、笑い事じゃなくて真面目に痛かったんだからね!!

「ヤンさんも笑いごとじゃないです!」
「モモカさん、そこまで痛がる人、珍しいよ。働きすぎは良くないね」
「うー……否定できない……」

 マッサージしてくれたオバちゃんにも同じことを言われた。オクサン、ここは目が疲れていると痛くなるツボ、ここは考えすぎる人が痛くなるツボ、ここは耳を使いすぎる人が等々言われることがことごとく当っていて、しかも超痛いものだから本当に死ぬかと思った。きっとあれもこれも絶対に仕事をほいほい持ち込んでくる一課のせいだ! お土産無しは決定!!

「それで? 旦那さん、踵のツボは押してもらいましたか?」
「踵?」

 とにかく痛くて他のツボがどうとかなんて話は全く耳に入らなかったよ。なんで踵?

「ちゃんと押してもらいましたよ。今夜は頑張れますよって言われました」
「そうそう、新婚さんだからね、念入りに押してもらっておかないと」
「???」

 首を傾げている私を見て二人してニヤニヤしている。

「モモには後でちゃんと実践してやるから」
「足ツボはもう勘弁してえ……」
「心配するなって。絶対に痛くないから」

 嗣治さんの言葉にヤンさんがプッと吹き出した。男同士で何をニヤニヤしてるんだか、ちょっとムカついちゃうんですけど!!

「痛いのを頑張った桃香さんには御褒美をあげないと。美味しいマンゴーかき氷、食べに行きましょう」
「食べ物で釣られるほど子供じゃないですよー」
「おやおや? 食べたくないですか?」
「食べたいです」
「はい、じゃあ行きましょう。ガイドブックには載ってないお店だけどマンゴーたっぷりサービスしてくれるからね。モモカさんが頑張った御褒美です」

 お店にいく途中、ちょっと気になったことをヤンさんに聞いてみることにした。

「ヤンさん」
「なんですか?」
「私、こっちに来てから必要なものがあったのでコンビニに行ったんですけど、なんで台湾ってあんなに色々な牛乳があるんですか? バナナ牛乳とかパパイア牛乳は何となく分かるけどスイカ牛乳って……」
「買ってみましたか?」

 その問いに私と嗣治さんは微妙な顔をしてみせた。スイカアイスやスイカソーダは口にしたことがあるけど、スイカ牛乳なんて初めて見たから好奇心に駆られて買ってみたんだよね、軽い気持ちで。で、ホテルに戻って飲んでみた感想としては、要らぬ好奇心は身を滅ぼしかねないってこと。

「その顔、口に合わなかったってことだね」
「私達はスイカと牛乳は別々に食べたい人なんだってことが良く分かりました」
「何故そんな商品が多いのか、それは日本でたくさんのお茶のペットボトルが売られているのと同じだと思うね。こっちの人が好きだから。そういうことだよ」
「ヤンさんも?」
「私はパパイア牛乳が好きですよ。あと、日本で買ったイチゴ牛乳も美味しかった。そうだ、教えてあげるから明日にでも専門店に行ってみたら良いですよ。そこのスイカ牛乳は美味しいって前に案内した日本の学生さん達が喜んでいたから」

 えー、本当に美味しいの?と半信半疑な私達はヤンさんの言葉にちょっとだけ顔を見合わせた。

 今回、私達のガイドをしてくれるのヤンさんは魚住のお父さんと同い年くらいのおじさんで、とても日本語が上手なのだ。色々な場所に連れて行ってくれて説明してくれる時もすごく流暢な日本語で、たまにジョークを入れたりしてまるで日本の人みたい。ヤンさん曰く、これも昔の歴史の名残で、あの時代もけっして悪いことばかりではなかったんですよとのことだ。……だけどやっぱりスイカ牛乳はいただけない。

「今回は台北中心の観光ですが、今度来る時は高尾の方に行ってみるのも良いと思いますよ、あちらも面白いですからね。次に来る時はそちらを回ってみると良いです」

 昨日今日とヤンさんに案内してもらって台北市内や郊外を見て回ったんだけど、明日はフリーで二人だけで街を散策することにしている。地図も貰ったし、この二日間でヤンさんにも地下鉄のこととか色々と話を聞いたので何とかなりそう。お昼もここで食べたら美味しいよってお店を何軒か教えてもらった。


+++++


 晩御飯を食べ終わってホテルに戻ると、職場の人や籐子さん達の為に買ったお土産の整理を開始。明後日の今頃はもう日本だなんて信じられないな。あっという間だった。

「ねえ、嗣治さん」
「なんだ?」
「色々と食べ歩いたけど、こういうのも面白いね。香港も食べ物が美味しいって先輩が言っていたから、いつか行けたら良いね」
「ふむ。中華食べ歩きってやつだな」
「うんうん」

 今回の旅行の間も嗣治さんは食べている時にはこれは何で作られているのかなとか、どういう味付けなんだろうなって呟きながら口にしていた。何か新しいアイデアも閃いていたのかホテルに戻ってから何やらメモ書きもしていた。ほんと、食に対しては嗣治さんって本当に研究熱心なんだよね。あ、もしかしたら帰ってから何か新しいメニュー、食べさせてくれるかな?なんちゃって。

「明日、どう回ろうね、地下鉄とか乗るのちょっとドキドキしちゃう」
「あー……」

 私の言葉に何だか微妙な顔をする。どうしたのかな。

「今日の足つぼマッサージのことなんだけど」
「ん? ああ、踵のマッサージのこと? あれってどういう効能があるの? もしかしてたくさん歩いても疲れた足に効くとかそういうの?」
「いや、そうじゃない。夜の生活に効くツボなんだと」
「夜?」
「そう。つまり夫婦生活の」
「え、そんなの押してもらっていたの? あ、だからヤンさんが頑張れますよって言ってたの?」
「そういうこと。あと、掌と甲にも同じようなツボがあるって教えてもらった」

 そ、そんなの教えてもらわなくても嗣治さんは大丈夫だと思うんだけどなあ。……ん? 今夜は頑張れる? え? まさか?

「ね、嗣治さん」
「なんだ?」
「明日、市内散策するんだよね? お土産、買いに行くんだよね?」
「土産は十分に買っただろ?」
「まさかと思うけど……」
「だってこの二日間、朝から出かけていたからゆっくり二人で過ごせなかったじゃないか。だから明日はフリーにするって言ったんだ」

 嗣治さん、それ、フリーの意味が違うよぉ……。

「自分達だけの家族、早く欲しいんだろ? だったら頑張らないと」
「いや、ここで頑張らなくても別に」
「せっかくツボの場所も教えてもらったし、新婚旅行なんだぞ?」
「分かってるけど……」
「だったら頑張ろうな、モモ」

 ひえぇぇぇぇ、嗣治さん、本気だぁぁぁ!!

 ここはやはりなかなか来れない外国だから、そういうことは控え目にして旅行自体を楽しまない?って頑張って提案をし続ける私に、嗣治さんはただニコニコしながら“却下”と一言。荷物の整理が終わった途端にバスルームに連れ込まれてしまった。

「嗣治さん、まだ時間早い……テレビでニュース……」
「別に大したこと起きてないから問題ないだろ?」

 某国営放送はこちらでも見ることが出来るので何となく九時のニュースとかそういうのをホテルにいた時は見ていたんだけど、今夜はなんだか見れそうにない予感。

「あ、せめて明日のお天気だけでも」
「出掛けないんだから雨でも問題ないだろ。だから却下」

 あっという間に服を脱がされてシャワーの下。そりゃ新婚さんらしいと言えば新婚さんらしい夜の過ごし方だよ? だけどさ、ここでまで致すことはないんじゃないかなあとか思う……。湯気がこもったバスルームは湯気だけじゃない理由で暑くて湯船に浸かっていた訳じゃないのに既に逆上せそう。

「嗣治さん、なんだかいつもと違う……っ」
「ツボ押しのせいかもな」

 ぐったりして立てなくなった私を嗣治さんはベッドに抱いて運んでくれたけど、ベッドに入ってもこんな調子が続いたものだから何度か気を失っちゃった気がする。タイミングが合っていたら本当に妊娠しちゃっているかもって思うぐらいな回数を頑張られちゃってツボ押しって本当に怖いと思った……。

 ってなわけで、次の一日は当然のことながら部屋からどころかべッドから出られなかったんだよね、私。

 誰か腰の痛みに効くツボの場所、知りませんかぁ?
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