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本編
第二十九話 女子会がお好み焼き教習に?
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たかはし葵さん作【Blue Mallowへようこそ】とのコラボエピソードです。
++++++++++
璃青さんと約束の日、朝から何を着て行こうか迷っていた。林さんに電話した時についでに聞いてみたら、スカートでもパンツでも問題ないけどゆったりした服装が良いですよとのことだった。ジャージとかなら尚良いですとか。だけどせっかくの璃青さんとの女子会に運動会に行く時みたいな恰好で行くわけにもいかないし。かと言って、それほど色々な服があるわけでもないし……。
そして嗣治さんを送り出してからも未だに決まらずお悩み中。モモが着ていく服で悩むなんてと嗣治さんは笑っていたのがちょっとムカつく。これでも一応は女の子だし!と言ったらクスクス笑いながら出て行った。もうちょっとで蹴ってやろうかと思っちゃったよ。
「そう言えば……」
この前の休みの時、菅原さん達と一緒にお買い物に行った時に買ったブークレー地のミニワンピのことを思い出してクローゼットの中から取り出した。ゆったりした感じでお腹が大きくなっても着れるわねって話をしながら買ったもの。ミニ丈にしたのは下にレギンスを履くのを前提にしていたからで、今なら厚手のタイツでも良いかな?とか。タートルネックのインナーとこれにしようということでそれに着替える。
「ほんと、こういうコーディネートとかの才能ももう少し欲しいよ……」
職場に行けば何を着ていっても上から白衣を着てしまうからチグハグなものを着ていても大して気にならないけど、今日は璃青さんとの女子会だし、璃青さんはハンクラ作家さんだからきっと色の合わせ方とかそういうの詳しい筈で、変なの着たらきっとドン引きされちゃうよね。あ、これを機会に色々と璃青さんからもお洒落な着こなしなんてのを教えてもらうのも良いかもしれない。
服を着ている途中でメールの着信音がした。送り主は璃青さん。今、家を出ましたというお知らせ。森崎さんにはお昼に二人で伺いますねと昨日のうちに伝えておいたので席が空いてなくて困るってことは無い筈。最後にもう一度鏡の前でチェックして小さなバッグと鍵を手に部屋を出た。
マンションの外に行くとお森崎さんの店の前には開店祝いのお花が飾っている。送り主は個人の名前やお店の名前等々。ん? この個人名、お向かいの重光先生と同じ苗字の女の人だ、もしかして先生の御親戚かなにか? そんなチェックをしていると私のことを呼ぶ璃青さんの声がした。
「桃香さん、お待たせです~」
「おはようございます、璃青さん。なんか久し振りですよね、こうやって顔を合わせてお話するの」
「ですよね~」
「お腹すいてます? 私、ペコペコ」
「私も。ここで食べる事を見越して朝ご飯は少な目にしていたから」
璃青さんは悪戯っぽく笑った。二人してお店に入ると席は殆どうまっていた。考えてみたらこの近辺にお好み焼き屋さんなんて無いもんね、手軽に食べられるお店がこんな場所に出来て喜んでいる人って結構いるんじゃないかな。
出迎えてくれた奥さんが私の顔を見てニッコリと笑った。厨房の奥から旦那さんはチラリとこちらに視線を向けただけ。うっ、やっぱり想像していた通り怖い感じの人だ。だけどあの感じ、何となく見たことがあるな。あ、マルボウの人達の雰囲気。え、まさか“ヤ”のつくお仕事の人とか?! いやまさかね、そんな人だったら重光事務所の真ん前にお店なんて出せないだろうし。
「いらっしゃい、お座敷席の方を空けておいたけどそこで良かったかしら?」
「はい、向き合って座った方が話もしやすいので有難いです」
「良かった。じゃ、奥の席にどうぞ」
奥……旦那さんと更に距離が縮まっちゃったよ。内心ビクビクしている私と違って璃青さんは楽しそうにニコニコしながら席についてメニューを手にしている。璃青さん、もしかして超大物かもしれない。あんな刺されそうな視線にも動じないなんて。
私達が座った席はとうてつさんみたいに襖で仕切ってあるものではなくて、お店の壁際に一段上がるようにして作られた畳敷きの席。そこは畳にお座布団、掘りごたつになっていて、これならお爺ちゃんお婆ちゃんでも楽に座れそうな感じ。こんど葛木の御隠居さん達にもお知らせしておこう。
「桃香さん、何にする? トッピングがいっぱいあって迷っちゃう」
「私、豚玉とかイカ玉しか思いつかないですよ。あと~~広島焼き風とか?」
「二人で別々のを頼んで半分こってので良いよね」
「うんうん、それがいいです」
迷った末にチーズの入った豚玉と広島風を注文することに。
「奥で焼いたのを持ってくることも出来るけど、ここで焼く?」
「あ、焼いてみたいです。璃青さんは?」
「私もせっかくだから」
「飲み物は? 今日はオープン記念だからそれぞれドリンク一回分は無料サービスでつけてるんだけど」
璃青さんは生苺サワーって名前に惹かれたらしくそれを頼んでいる。私も柚子ハチミツサワーっていうのに惹かれたんだけど今は飲めないから無念のウーロン茶。私がウーロン茶を頼んだので璃青さんは少しだけ首を傾げた。
「私だけ飲んじゃって良いの?」
「どうぞどうぞ。私も飲みたいんだけど今は飲めないんで……」
「え、何処か悪いとか?」
「ああ、そうじゃなくて。えっとですね……」
体を乗り出してヒソヒソと理由を話す。それを聞いた途端に璃青さんの目が真ん丸になった。
「本当?!」
「そうなんです、分かったばかりなんですけどね。夏バテだと思ってたらできてたと」
「おめでと~」
「ありがとうございます、なんだか小っ恥ずかしいですね、こういうのを誰かに話すって」
「そんなことないよ、おめでたいことなんだから恥ずかしがることないじゃない」
ほんと我ながら鈍感だったと思う。考えてみたらいつ赤ちゃんができてもおかしくないのに全く考えが及ばなかったんだよね、お医者さんに行くまでは。
「それでとうてつさんで見かけた時にお疲れモードだったのね、納得」
「え、璃青さん、そういう時は声をかけてくれればよいのに。滅多にお話しできないんだから」
「いえいえ。旦那様とのラブラブな時間をお邪魔しちゃ悪いと思って」
「邪魔するなんて。私と嗣治さんは一緒に暮らしているんだからお店にいる時ぐらい誰かに邪魔してもらわないと~~」
楽しげに笑う璃青さんにちょっとだたけ抗議してみる。
「でも安心した。仕事が忙しくて疲れがたまっているんじゃないかって心配していたから」
「まあ仕事は相変わらずなんですけど、そんな事情なので随分と減らしてもらって楽になりました。璃青さんの方は? この時期だと秋物や冬物のアクセサリーが出るから大変なんじゃ?」
「目も肩もガチガチでね、林さんには桃香さんに声をかける前から通ってるのよ。お蔭で随分とマシな筈なんだけど」
だけど作業する時間が増えたから結局は肩凝りは改善されていないのね、と溜息混じりに呟いている。大変だなあ……雑貨の仕入れも一人でしているようだしお店を切り盛りするって本当に大変だって思う。そういう意味では与えられた仕事をこなす私はまだ気楽なのかもしれない、それがたとえ山積みになっていたとしても。
「自分のお店で売るものだから自分のペースで出来るだけマシなんだけどね」
「お店で売ってるのって全部が璃青さんの手作り?」
「まさか! あれだけの数を一人で揃えるなんてとても無理よ。お知り合いのハンクラ作家さんにお願いして仕入れている物もたくさんあるの」
「ハンクラ作家さんのネットワークも凄そうですね」
「一番遠い人で広島に住んでる人だったかな。皆それぞれフリーマーケットとか通販サイトやブログで知り合いになった人が多くてね、お店を構えている人はまだ少なくて、お互いに作ったものを委託しあったりしているのよ」
「へえ……」
じゃあ璃青さんみたいに自分でお店を持つことって凄いのかあ……。
「お待たせ。ところで二人とも焼いたことはあるのよね?」
そこへドリンクと具材の入ったボールを二つ運んできた森崎さんがやってきて、少しだけ首を傾げて私達を見た。
「えっと~~……何回かは自宅のホットプレートで」
「私はフライパンで……」
「あ、じゃあコテで焼いている途中でお好み焼きをパンパンしちゃう派?」
「え、パンパンしないんですか? このコテってその為にあるんじゃ?」
二人してテーブルに置かれたコテを指でさしながら尋ねるとチッチッチッと指を振られてしまう。
「克彦さん、どうやら出番よ」
「え?」
奥から旦那さんが出てきた。ひえええ、厨房から出てきた旦那さんはガチで強面ですよ、奥さん!!
「そのコテは引っくり返す時と食べる時にしか使わないのよ。パンパン叩くなんてとんでもない。うちの人に怒られるわよ?」
「……」
ひ、ひえぇぇぇぇっ!! そんな怖い顔で見下ろしてこないで下さいよう!!
そんな訳で第二回目の女子会は何故か【お好み焼きの正しい焼き方】なんてものを教わることから始まったのでした。
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璃青さんと約束の日、朝から何を着て行こうか迷っていた。林さんに電話した時についでに聞いてみたら、スカートでもパンツでも問題ないけどゆったりした服装が良いですよとのことだった。ジャージとかなら尚良いですとか。だけどせっかくの璃青さんとの女子会に運動会に行く時みたいな恰好で行くわけにもいかないし。かと言って、それほど色々な服があるわけでもないし……。
そして嗣治さんを送り出してからも未だに決まらずお悩み中。モモが着ていく服で悩むなんてと嗣治さんは笑っていたのがちょっとムカつく。これでも一応は女の子だし!と言ったらクスクス笑いながら出て行った。もうちょっとで蹴ってやろうかと思っちゃったよ。
「そう言えば……」
この前の休みの時、菅原さん達と一緒にお買い物に行った時に買ったブークレー地のミニワンピのことを思い出してクローゼットの中から取り出した。ゆったりした感じでお腹が大きくなっても着れるわねって話をしながら買ったもの。ミニ丈にしたのは下にレギンスを履くのを前提にしていたからで、今なら厚手のタイツでも良いかな?とか。タートルネックのインナーとこれにしようということでそれに着替える。
「ほんと、こういうコーディネートとかの才能ももう少し欲しいよ……」
職場に行けば何を着ていっても上から白衣を着てしまうからチグハグなものを着ていても大して気にならないけど、今日は璃青さんとの女子会だし、璃青さんはハンクラ作家さんだからきっと色の合わせ方とかそういうの詳しい筈で、変なの着たらきっとドン引きされちゃうよね。あ、これを機会に色々と璃青さんからもお洒落な着こなしなんてのを教えてもらうのも良いかもしれない。
服を着ている途中でメールの着信音がした。送り主は璃青さん。今、家を出ましたというお知らせ。森崎さんにはお昼に二人で伺いますねと昨日のうちに伝えておいたので席が空いてなくて困るってことは無い筈。最後にもう一度鏡の前でチェックして小さなバッグと鍵を手に部屋を出た。
マンションの外に行くとお森崎さんの店の前には開店祝いのお花が飾っている。送り主は個人の名前やお店の名前等々。ん? この個人名、お向かいの重光先生と同じ苗字の女の人だ、もしかして先生の御親戚かなにか? そんなチェックをしていると私のことを呼ぶ璃青さんの声がした。
「桃香さん、お待たせです~」
「おはようございます、璃青さん。なんか久し振りですよね、こうやって顔を合わせてお話するの」
「ですよね~」
「お腹すいてます? 私、ペコペコ」
「私も。ここで食べる事を見越して朝ご飯は少な目にしていたから」
璃青さんは悪戯っぽく笑った。二人してお店に入ると席は殆どうまっていた。考えてみたらこの近辺にお好み焼き屋さんなんて無いもんね、手軽に食べられるお店がこんな場所に出来て喜んでいる人って結構いるんじゃないかな。
出迎えてくれた奥さんが私の顔を見てニッコリと笑った。厨房の奥から旦那さんはチラリとこちらに視線を向けただけ。うっ、やっぱり想像していた通り怖い感じの人だ。だけどあの感じ、何となく見たことがあるな。あ、マルボウの人達の雰囲気。え、まさか“ヤ”のつくお仕事の人とか?! いやまさかね、そんな人だったら重光事務所の真ん前にお店なんて出せないだろうし。
「いらっしゃい、お座敷席の方を空けておいたけどそこで良かったかしら?」
「はい、向き合って座った方が話もしやすいので有難いです」
「良かった。じゃ、奥の席にどうぞ」
奥……旦那さんと更に距離が縮まっちゃったよ。内心ビクビクしている私と違って璃青さんは楽しそうにニコニコしながら席についてメニューを手にしている。璃青さん、もしかして超大物かもしれない。あんな刺されそうな視線にも動じないなんて。
私達が座った席はとうてつさんみたいに襖で仕切ってあるものではなくて、お店の壁際に一段上がるようにして作られた畳敷きの席。そこは畳にお座布団、掘りごたつになっていて、これならお爺ちゃんお婆ちゃんでも楽に座れそうな感じ。こんど葛木の御隠居さん達にもお知らせしておこう。
「桃香さん、何にする? トッピングがいっぱいあって迷っちゃう」
「私、豚玉とかイカ玉しか思いつかないですよ。あと~~広島焼き風とか?」
「二人で別々のを頼んで半分こってので良いよね」
「うんうん、それがいいです」
迷った末にチーズの入った豚玉と広島風を注文することに。
「奥で焼いたのを持ってくることも出来るけど、ここで焼く?」
「あ、焼いてみたいです。璃青さんは?」
「私もせっかくだから」
「飲み物は? 今日はオープン記念だからそれぞれドリンク一回分は無料サービスでつけてるんだけど」
璃青さんは生苺サワーって名前に惹かれたらしくそれを頼んでいる。私も柚子ハチミツサワーっていうのに惹かれたんだけど今は飲めないから無念のウーロン茶。私がウーロン茶を頼んだので璃青さんは少しだけ首を傾げた。
「私だけ飲んじゃって良いの?」
「どうぞどうぞ。私も飲みたいんだけど今は飲めないんで……」
「え、何処か悪いとか?」
「ああ、そうじゃなくて。えっとですね……」
体を乗り出してヒソヒソと理由を話す。それを聞いた途端に璃青さんの目が真ん丸になった。
「本当?!」
「そうなんです、分かったばかりなんですけどね。夏バテだと思ってたらできてたと」
「おめでと~」
「ありがとうございます、なんだか小っ恥ずかしいですね、こういうのを誰かに話すって」
「そんなことないよ、おめでたいことなんだから恥ずかしがることないじゃない」
ほんと我ながら鈍感だったと思う。考えてみたらいつ赤ちゃんができてもおかしくないのに全く考えが及ばなかったんだよね、お医者さんに行くまでは。
「それでとうてつさんで見かけた時にお疲れモードだったのね、納得」
「え、璃青さん、そういう時は声をかけてくれればよいのに。滅多にお話しできないんだから」
「いえいえ。旦那様とのラブラブな時間をお邪魔しちゃ悪いと思って」
「邪魔するなんて。私と嗣治さんは一緒に暮らしているんだからお店にいる時ぐらい誰かに邪魔してもらわないと~~」
楽しげに笑う璃青さんにちょっとだたけ抗議してみる。
「でも安心した。仕事が忙しくて疲れがたまっているんじゃないかって心配していたから」
「まあ仕事は相変わらずなんですけど、そんな事情なので随分と減らしてもらって楽になりました。璃青さんの方は? この時期だと秋物や冬物のアクセサリーが出るから大変なんじゃ?」
「目も肩もガチガチでね、林さんには桃香さんに声をかける前から通ってるのよ。お蔭で随分とマシな筈なんだけど」
だけど作業する時間が増えたから結局は肩凝りは改善されていないのね、と溜息混じりに呟いている。大変だなあ……雑貨の仕入れも一人でしているようだしお店を切り盛りするって本当に大変だって思う。そういう意味では与えられた仕事をこなす私はまだ気楽なのかもしれない、それがたとえ山積みになっていたとしても。
「自分のお店で売るものだから自分のペースで出来るだけマシなんだけどね」
「お店で売ってるのって全部が璃青さんの手作り?」
「まさか! あれだけの数を一人で揃えるなんてとても無理よ。お知り合いのハンクラ作家さんにお願いして仕入れている物もたくさんあるの」
「ハンクラ作家さんのネットワークも凄そうですね」
「一番遠い人で広島に住んでる人だったかな。皆それぞれフリーマーケットとか通販サイトやブログで知り合いになった人が多くてね、お店を構えている人はまだ少なくて、お互いに作ったものを委託しあったりしているのよ」
「へえ……」
じゃあ璃青さんみたいに自分でお店を持つことって凄いのかあ……。
「お待たせ。ところで二人とも焼いたことはあるのよね?」
そこへドリンクと具材の入ったボールを二つ運んできた森崎さんがやってきて、少しだけ首を傾げて私達を見た。
「えっと~~……何回かは自宅のホットプレートで」
「私はフライパンで……」
「あ、じゃあコテで焼いている途中でお好み焼きをパンパンしちゃう派?」
「え、パンパンしないんですか? このコテってその為にあるんじゃ?」
二人してテーブルに置かれたコテを指でさしながら尋ねるとチッチッチッと指を振られてしまう。
「克彦さん、どうやら出番よ」
「え?」
奥から旦那さんが出てきた。ひえええ、厨房から出てきた旦那さんはガチで強面ですよ、奥さん!!
「そのコテは引っくり返す時と食べる時にしか使わないのよ。パンパン叩くなんてとんでもない。うちの人に怒られるわよ?」
「……」
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