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本編
第三十話 仕事中の但馬さん、の一部
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『急な話なんだけど今夜9時から、俺達の仕事の様子が特集されるよ』
そんなメールが届いたのは、昼休みに亜子ちゃんとお昼ご飯を食べている時だった。
「え? え? えええーーー?! 但馬さん、いきなりすぎっ」
「急にどうしたの? もしかして緊急デート? カレシさん襲来?」
「ちがうちがう。今日の夜のニュース番組で、但馬さんのところのお仕事の様子が特集されるんだって」
いきなり当日に知らされるなんて! 今日は昼からの講義は二つある。それでもまっすぐ帰れば問題なく観ることができるし、録画予約をする余裕もある。だけど今日は……。
「……亜子ちゃん、申し訳ないけど、今日のお買い物の約束はパスさせてもらえるかな? まっすぐ家に帰って、録画の予約しなきゃ」
亜子ちゃんが笑った。
「いいよいいよ。お買い物はいつでもできるんだからさ。お仕事中のカレシさんの、貴重な映像を観られるチャンスなんだもん、逃す手はないよ」
「ただ、本人は映ってない可能性もありだけど」
但馬さんのメールには、放送局と時間が記されているだけ。〝俺達の仕事〟だけでは、但馬さんが取材されたかどうかわからない。
「俺達ってどこまでが範囲だと思う? 航空自衛隊の俺達? 三沢基地の俺達? それとも戦闘機パイロットの俺達?」
「うーん……どっちかな。ニュース番組の特集でしょ? そんなに時間も長くないだろうから、戦闘機パイロットの俺達ってことじゃないかな? 確認のメールしてみたら?」
「だよね」
亜子ちゃんの言葉にメールを送り返すことにした。
「……あれ?」
しばらく待ってみたけど、返信がくる気配がない。
「あー……もしかしてお仕事中になっちゃったかも」
「えー? さっきメールが届いたばかりじゃん」
「とりあえずお知らせメールだけ送ってきたのかもしれない」
仕事中は、私物の携帯電話はロッカーの中にしまってあるって言っていた。もしかしたら特集のことを知らされて、慌てて許可をもらって知らせてくれたのかもしれない。
「じゃあ、観てのお楽しみってやつだね。だけど、せめて一日前にわかってれば良かったのにね。それなら慌てることもなかったんだし」
「但馬さんは広報の人じゃないから、放送日を知らなかったのかな。とにかく観るの、忘れないようにしないと」
少なくとも航空祭とは違った、普段の基地の様子を見ることができる。もちろんそこで、但馬さんや僚機さんの様子を知ることができたら、言うことはないんだけれど。
+++++
帰宅すると、ただいまと同時に居間に向かう。幸いなことに、父親はまだ帰宅していなかった。
「どうしたの?」
私が自分の部屋にいかずテレビの前に座ったものだから、台所にいた母親が部屋をのぞいて首をかしげた。
「自衛隊のね、特集がニュース番組の中で放映されるんだって。で、録画するために急いで帰ってきた。えっと、どのチャンネルだったかなあ……」
但馬さんが送ってきたメールと、新聞の番組欄を見比べる。あった、これだ。『特集:三沢基地』と書いてある。どうやら範囲は『三沢基地の俺達』ってことらしい。リモコンを出して録画予約をした。
「あらあら。電話してくれたら録画の予約ぐらいしてあげたのに」
「でもお母さん、前に頼んだら、日にちを間違えて予約しちゃったじゃない。自分でするのが一番確実だから」
「あら、そうだったかしら」
母親がバツの悪そうな顔をした。
「9時までに、明日の準備とお風呂も終わらせておかないと!」
「録画予約したのよね?」
「リアルタイムでも観たいもん。もしかしたら但馬さんから、観た感想は?って電話がかかってくかもしれないじゃない?」
「あらあら、ごちそうさま。お父さんが帰ってなくて良かったわね。今の言葉を聞いたら、卒倒しちゃうかも」
母親は笑いながら台所に戻っていった。
「ご飯の用意、手伝うよ」
「9時までにあれこれしておくんでしょ? こっちはいいから、ほーちゃんはほーちゃんの準備をしなさい。まずは、お風呂の用意をすることをおすすめするわね。お父さんに先を越されないようにしないと」
「じゃあ、そうさせててもらうー」
我が家では、お風呂に入る順番を特に決めてはいない。それぞれの生活ペースがあるから、最初に入る人がお風呂のお湯をはって、最後に入った人が軽くお掃除をしてお湯を抜くというのが、我が家のルールだった。つまり、お風呂の準備をすれば、一番に入る権利が手に入るということ。
テーブルに晩御飯を並べている途中で、父親が帰宅した。最近は現場に出ることがほとんどないので、帰宅がすっかり早くなっている。
「お父さん、今日のお風呂、私が一番だからね!」
「なんだよ、おかえりも言わずに」
私の言葉に父親が目を丸くする。
「とにかく私が一番なの! 先に入ったら、頭に氷水かけるからね!」
「それはかまわないが、理由ぐらい話してもらわないと、父さんにはさっぱりなんだけどな……」
「9時から観たい番組があるんですって。だからそれに間に合うようにしたいのよ」
母親の言葉に〝なるほど〟という顔をした。
「どんな番組なんだ?」
「三沢基地の特集! もしかしたら、お仕事中の但馬さんが出るかもしれないの!」
「わかったわかった。お父さんは最後に入るから心配するな」
「あ、いま、馬鹿にしなかった?」
「してないだろ。ほら、一番に風呂に入るつもりなら夕飯も早く食べないと、間に合わなくなるんじゃないか?」
+++
お風呂から出て、準備万端な状態でテレビの前に座る。その日のニュースが終わると、いよいよ特集が始まった。紹介されるのは三沢基地の戦闘機パイロット。つまり但馬さん達が所属しているところ。そしてメインでインタビューされていたのは、僚機さんの本城さんのほうだった。
「この人、但馬さんと一緒に飛んでいる人だって」
「そうなの?」
「うん。一度だけお店に一緒に来たことがあるんだよ。たしか、但馬さんより偉い人だったはず」
説明によると、たしかに階級も年齢も、但馬さんより上の先輩パイロットだ。そしてその本城さんが『自分達はたいてい二機で飛びます。自分の僚機は彼です』と言って、ナレーターが次に紹介したのが但馬さんだった。
「あ、但馬さんも出た」
「良かったわね、録画しておいて」
特集では、本城さんをメインにパイロットの一日が紹介されていた。自宅から奥さんに見送られて基地に出向くところから、基地で飛行隊の人達が朝の打ち合わせをするところ、そして訓練飛行の準備をする整備員さん達、それから飛び立つ準備をする本城さんと但馬さんの姿。前に但馬さんの部屋で観せてもらった映像と同じで、二人ともそれぞれ真剣な顔をしている。
「但馬さん、やっぱりいつもとぜんぜん違う顔つき……」
「そりゃあ、仕事中だもの。ほーちゃんと会う時と違って当然でしょ? お父さんだって、仕事中の顔と家での顔は違うもの」
「そうなの?」
「そうよ。そうねえ……今より三割増しぐらいで、凛々しいかしら」
「そうなんだ」
前に座っている父親の顔をのぞきこんだ。私達を叱る時以外はいつもニコニコしている父親。今はほとんど現場に出ないということだけど、若い頃の父親は、一体どんな表情をして現場に出場していたんだろう。
「ほなみ、父さんの顔を観るより、映像を観るほうが大事だろ?」
見つめられて居心地が悪いのか、顔の前で手をひらひらさせながらテレビを指さす。
「ああ、そうだった。こっちのほうが大事だった!」
「面と向かってそうもはっきり言われると、さすがにショックなんだけどな……」
「今のはお父さんの自業自得よ」
父親と母親の会話を聞き流しながら、画面をみつめる。次に紹介されたのは、アラート待機というやつだった。いわゆる、よその国から飛んできた軍用機に向けて、スクランブル発進をするというもの。もちろん本当に待機している時には取材できないので、場所を変えて似たような状態にしての取材だった。
『待機している時は、なにをしているんですか?』
『普通に仕事をしたりゲームをしたりって感じですかね。ああ、彼は英語の勉強をしてますよ。飛んでいる時の交信は基本的に英語なので』
インタビューを受けている途中で、スクランブルの合図が出た。すると二人は今まで座っていた椅子から立ち上がり、ものすごい勢いで部屋を飛び出していく。カメラさんもインタビューしていた人も、完全に置いていかれた状態で、ワンテンポ遅れて慌てて二人を追いかけるしまつだ。
「どこも似たようなものだなあ」
それを見ていた父親がつぶやいた。
「出場の時もこんな感じ?」
「ああ」
カメラさんが追いついた時には、格納庫の中にあった戦闘機のエンジンはもう動いていた。但馬さんも本城さんも、ヘルメットをかぶってコックピットにおさまっている。そして外側では整備をしている隊員さん達が、キビキビした動きでチェックをしていた。
「そう言えば但馬さん、こういう時はなにも考えてないって言ってた。勝手に体が動くんだって。お父さん達も?」
「出場の指令が出たら、条件反射で飛び出していくからな。きっと彼らも同じだと思う。戦闘機を飛ばす手順は、消防車よりずっと複雑だ。きっと体に覚えこませているんだろうね」
あっという間にコックピットのフードが閉められて、戦闘機が動き出す。これが本当のスクランブルだったら、そのまま離陸して、飛んできた正体不明の航空機のところまで飛んでいくということだった。だけど今回は取材のために見せてくれたものなので、戦闘機は滑走路に行く途中でUターンして、元の場所に戻ってきた。
「なんだか思っていたより大変。私だったら戦闘機を乗り込むとか動かすとかの前に、走ってる途中で足がからまって転ぶかも」
いつ起きるかわからない状況で、ずっと待機し続けるのは大変なことだなと思った。もちろんずっとってわけじゃなく、途中で何度か交代するらしいけど、基本的には丸一日二十四時間の待機になるそうだ。たまに但馬さんがまったくの音信不通になることがあるけど、もしかしたらその時は、この任務についている時なのかもしれないなと勝手に想像する。
「すごいね。日本を守るってことは、こういうことなんだ……」
但馬さん達は航空自衛隊だけど、陸海空それぞれ違う方法で、今この瞬間も日本を守っている。そのお蔭もあって、私達は安心して暮せているわけだ。
そしてこの特集はまだあるそうで、次は航空自衛隊の目をつかさどる、レーダーサイトという施設の特集らしい。
「これも気になるね」
「そうだな。来週の分も録画予約しておいたらどうだ?」
「うん、そうする!」
全体からするとほんの一部なんだろうけど、但馬さんがどんな任務についているか知ることができた。見て良かったと心から思った。
+++
特集が終わってからパソコンでネット検索をすると、そのニュース番組の掲示板を見つけることができた。そこにはニュースの感想だけではなく、特集の感想がたくさん書かれていた。
F-2のことを詳しく書いているマニアさんぽい人の書き込みから、パイロットさんがすっごくかっこいいという書き込みまでいろいろだ。
「……」
読んでいくうちに、本城さんと一緒にいた若いパイロットさんがかっこいいという書き込みがあるのを見つけた。独身かな?とか、意外とハンサムだね、とか。
「意外となんて失礼な。但馬さん、素敵な笑顔を見せてくれるパイロットさんなんだから」
なんとなく読み続けていたらモヤモヤした気分になって、ついにそんな声がもれてしまった。
そんなメールが届いたのは、昼休みに亜子ちゃんとお昼ご飯を食べている時だった。
「え? え? えええーーー?! 但馬さん、いきなりすぎっ」
「急にどうしたの? もしかして緊急デート? カレシさん襲来?」
「ちがうちがう。今日の夜のニュース番組で、但馬さんのところのお仕事の様子が特集されるんだって」
いきなり当日に知らされるなんて! 今日は昼からの講義は二つある。それでもまっすぐ帰れば問題なく観ることができるし、録画予約をする余裕もある。だけど今日は……。
「……亜子ちゃん、申し訳ないけど、今日のお買い物の約束はパスさせてもらえるかな? まっすぐ家に帰って、録画の予約しなきゃ」
亜子ちゃんが笑った。
「いいよいいよ。お買い物はいつでもできるんだからさ。お仕事中のカレシさんの、貴重な映像を観られるチャンスなんだもん、逃す手はないよ」
「ただ、本人は映ってない可能性もありだけど」
但馬さんのメールには、放送局と時間が記されているだけ。〝俺達の仕事〟だけでは、但馬さんが取材されたかどうかわからない。
「俺達ってどこまでが範囲だと思う? 航空自衛隊の俺達? 三沢基地の俺達? それとも戦闘機パイロットの俺達?」
「うーん……どっちかな。ニュース番組の特集でしょ? そんなに時間も長くないだろうから、戦闘機パイロットの俺達ってことじゃないかな? 確認のメールしてみたら?」
「だよね」
亜子ちゃんの言葉にメールを送り返すことにした。
「……あれ?」
しばらく待ってみたけど、返信がくる気配がない。
「あー……もしかしてお仕事中になっちゃったかも」
「えー? さっきメールが届いたばかりじゃん」
「とりあえずお知らせメールだけ送ってきたのかもしれない」
仕事中は、私物の携帯電話はロッカーの中にしまってあるって言っていた。もしかしたら特集のことを知らされて、慌てて許可をもらって知らせてくれたのかもしれない。
「じゃあ、観てのお楽しみってやつだね。だけど、せめて一日前にわかってれば良かったのにね。それなら慌てることもなかったんだし」
「但馬さんは広報の人じゃないから、放送日を知らなかったのかな。とにかく観るの、忘れないようにしないと」
少なくとも航空祭とは違った、普段の基地の様子を見ることができる。もちろんそこで、但馬さんや僚機さんの様子を知ることができたら、言うことはないんだけれど。
+++++
帰宅すると、ただいまと同時に居間に向かう。幸いなことに、父親はまだ帰宅していなかった。
「どうしたの?」
私が自分の部屋にいかずテレビの前に座ったものだから、台所にいた母親が部屋をのぞいて首をかしげた。
「自衛隊のね、特集がニュース番組の中で放映されるんだって。で、録画するために急いで帰ってきた。えっと、どのチャンネルだったかなあ……」
但馬さんが送ってきたメールと、新聞の番組欄を見比べる。あった、これだ。『特集:三沢基地』と書いてある。どうやら範囲は『三沢基地の俺達』ってことらしい。リモコンを出して録画予約をした。
「あらあら。電話してくれたら録画の予約ぐらいしてあげたのに」
「でもお母さん、前に頼んだら、日にちを間違えて予約しちゃったじゃない。自分でするのが一番確実だから」
「あら、そうだったかしら」
母親がバツの悪そうな顔をした。
「9時までに、明日の準備とお風呂も終わらせておかないと!」
「録画予約したのよね?」
「リアルタイムでも観たいもん。もしかしたら但馬さんから、観た感想は?って電話がかかってくかもしれないじゃない?」
「あらあら、ごちそうさま。お父さんが帰ってなくて良かったわね。今の言葉を聞いたら、卒倒しちゃうかも」
母親は笑いながら台所に戻っていった。
「ご飯の用意、手伝うよ」
「9時までにあれこれしておくんでしょ? こっちはいいから、ほーちゃんはほーちゃんの準備をしなさい。まずは、お風呂の用意をすることをおすすめするわね。お父さんに先を越されないようにしないと」
「じゃあ、そうさせててもらうー」
我が家では、お風呂に入る順番を特に決めてはいない。それぞれの生活ペースがあるから、最初に入る人がお風呂のお湯をはって、最後に入った人が軽くお掃除をしてお湯を抜くというのが、我が家のルールだった。つまり、お風呂の準備をすれば、一番に入る権利が手に入るということ。
テーブルに晩御飯を並べている途中で、父親が帰宅した。最近は現場に出ることがほとんどないので、帰宅がすっかり早くなっている。
「お父さん、今日のお風呂、私が一番だからね!」
「なんだよ、おかえりも言わずに」
私の言葉に父親が目を丸くする。
「とにかく私が一番なの! 先に入ったら、頭に氷水かけるからね!」
「それはかまわないが、理由ぐらい話してもらわないと、父さんにはさっぱりなんだけどな……」
「9時から観たい番組があるんですって。だからそれに間に合うようにしたいのよ」
母親の言葉に〝なるほど〟という顔をした。
「どんな番組なんだ?」
「三沢基地の特集! もしかしたら、お仕事中の但馬さんが出るかもしれないの!」
「わかったわかった。お父さんは最後に入るから心配するな」
「あ、いま、馬鹿にしなかった?」
「してないだろ。ほら、一番に風呂に入るつもりなら夕飯も早く食べないと、間に合わなくなるんじゃないか?」
+++
お風呂から出て、準備万端な状態でテレビの前に座る。その日のニュースが終わると、いよいよ特集が始まった。紹介されるのは三沢基地の戦闘機パイロット。つまり但馬さん達が所属しているところ。そしてメインでインタビューされていたのは、僚機さんの本城さんのほうだった。
「この人、但馬さんと一緒に飛んでいる人だって」
「そうなの?」
「うん。一度だけお店に一緒に来たことがあるんだよ。たしか、但馬さんより偉い人だったはず」
説明によると、たしかに階級も年齢も、但馬さんより上の先輩パイロットだ。そしてその本城さんが『自分達はたいてい二機で飛びます。自分の僚機は彼です』と言って、ナレーターが次に紹介したのが但馬さんだった。
「あ、但馬さんも出た」
「良かったわね、録画しておいて」
特集では、本城さんをメインにパイロットの一日が紹介されていた。自宅から奥さんに見送られて基地に出向くところから、基地で飛行隊の人達が朝の打ち合わせをするところ、そして訓練飛行の準備をする整備員さん達、それから飛び立つ準備をする本城さんと但馬さんの姿。前に但馬さんの部屋で観せてもらった映像と同じで、二人ともそれぞれ真剣な顔をしている。
「但馬さん、やっぱりいつもとぜんぜん違う顔つき……」
「そりゃあ、仕事中だもの。ほーちゃんと会う時と違って当然でしょ? お父さんだって、仕事中の顔と家での顔は違うもの」
「そうなの?」
「そうよ。そうねえ……今より三割増しぐらいで、凛々しいかしら」
「そうなんだ」
前に座っている父親の顔をのぞきこんだ。私達を叱る時以外はいつもニコニコしている父親。今はほとんど現場に出ないということだけど、若い頃の父親は、一体どんな表情をして現場に出場していたんだろう。
「ほなみ、父さんの顔を観るより、映像を観るほうが大事だろ?」
見つめられて居心地が悪いのか、顔の前で手をひらひらさせながらテレビを指さす。
「ああ、そうだった。こっちのほうが大事だった!」
「面と向かってそうもはっきり言われると、さすがにショックなんだけどな……」
「今のはお父さんの自業自得よ」
父親と母親の会話を聞き流しながら、画面をみつめる。次に紹介されたのは、アラート待機というやつだった。いわゆる、よその国から飛んできた軍用機に向けて、スクランブル発進をするというもの。もちろん本当に待機している時には取材できないので、場所を変えて似たような状態にしての取材だった。
『待機している時は、なにをしているんですか?』
『普通に仕事をしたりゲームをしたりって感じですかね。ああ、彼は英語の勉強をしてますよ。飛んでいる時の交信は基本的に英語なので』
インタビューを受けている途中で、スクランブルの合図が出た。すると二人は今まで座っていた椅子から立ち上がり、ものすごい勢いで部屋を飛び出していく。カメラさんもインタビューしていた人も、完全に置いていかれた状態で、ワンテンポ遅れて慌てて二人を追いかけるしまつだ。
「どこも似たようなものだなあ」
それを見ていた父親がつぶやいた。
「出場の時もこんな感じ?」
「ああ」
カメラさんが追いついた時には、格納庫の中にあった戦闘機のエンジンはもう動いていた。但馬さんも本城さんも、ヘルメットをかぶってコックピットにおさまっている。そして外側では整備をしている隊員さん達が、キビキビした動きでチェックをしていた。
「そう言えば但馬さん、こういう時はなにも考えてないって言ってた。勝手に体が動くんだって。お父さん達も?」
「出場の指令が出たら、条件反射で飛び出していくからな。きっと彼らも同じだと思う。戦闘機を飛ばす手順は、消防車よりずっと複雑だ。きっと体に覚えこませているんだろうね」
あっという間にコックピットのフードが閉められて、戦闘機が動き出す。これが本当のスクランブルだったら、そのまま離陸して、飛んできた正体不明の航空機のところまで飛んでいくということだった。だけど今回は取材のために見せてくれたものなので、戦闘機は滑走路に行く途中でUターンして、元の場所に戻ってきた。
「なんだか思っていたより大変。私だったら戦闘機を乗り込むとか動かすとかの前に、走ってる途中で足がからまって転ぶかも」
いつ起きるかわからない状況で、ずっと待機し続けるのは大変なことだなと思った。もちろんずっとってわけじゃなく、途中で何度か交代するらしいけど、基本的には丸一日二十四時間の待機になるそうだ。たまに但馬さんがまったくの音信不通になることがあるけど、もしかしたらその時は、この任務についている時なのかもしれないなと勝手に想像する。
「すごいね。日本を守るってことは、こういうことなんだ……」
但馬さん達は航空自衛隊だけど、陸海空それぞれ違う方法で、今この瞬間も日本を守っている。そのお蔭もあって、私達は安心して暮せているわけだ。
そしてこの特集はまだあるそうで、次は航空自衛隊の目をつかさどる、レーダーサイトという施設の特集らしい。
「これも気になるね」
「そうだな。来週の分も録画予約しておいたらどうだ?」
「うん、そうする!」
全体からするとほんの一部なんだろうけど、但馬さんがどんな任務についているか知ることができた。見て良かったと心から思った。
+++
特集が終わってからパソコンでネット検索をすると、そのニュース番組の掲示板を見つけることができた。そこにはニュースの感想だけではなく、特集の感想がたくさん書かれていた。
F-2のことを詳しく書いているマニアさんぽい人の書き込みから、パイロットさんがすっごくかっこいいという書き込みまでいろいろだ。
「……」
読んでいくうちに、本城さんと一緒にいた若いパイロットさんがかっこいいという書き込みがあるのを見つけた。独身かな?とか、意外とハンサムだね、とか。
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