35 / 67
4月 The Last Emperor
第35話、沼男
しおりを挟む
「韻が踏めていないだが」
「そうなんだ、此処からどうしようか迷っている」
『去者日以疎
感時月濺淚
志在駿馬如
来歩万里道
此壯心不已
飛烏相与帰
望窮千里目
欲歸道無因』
「何ついて詠んだのか聞いても?」
「そりゃあ、君と私との関係だよ、君」
「まあ、そうとも読めるかも、知れないし、そうじゃないとも、読める」
「いやいや、別れた日から遠ざかれば、人は疎遠になるだろ、月を見て、時には涙する」
「志は駿馬の如く、遥か遠くまで歩いてきた」
「この心は、それでも変わらない」
「カラスが相与り飛んで帰るように」
「君と僕との千里の彼方を見極めようと望む」
「そして、帰り道がわからない」。
「わざわざ、日本からここ、ハイデルベルクまで来て、これを詠む理由が僕にはわからない」
「私もどうやったら君を説得出来るか、わからない。まあ、ここは哲学者の道だから、我々の帰り道を探している五言律詩と解すればいい」
「説得しない、という考え方もある」
「いやいや、漸く、此処まで来たんだ。手ぶらで帰るつもりはない」。
「別に、僕はランニングをしているし、貴方は観光に来た。ほら、ここからは、城とネッカー川に架かるアルテ・ブリュッケを、共に見渡すことができる。貴方もあの橋の中央にある選帝侯像と写真でも撮ったらいい」
「そんな勿体ないことで時間を潰したら、橋の袂《たもと》にいる猿に笑われてしまうよ。妹の彼氏といういわば家族を放っておいて、皆と同じ事をしていると、ね」
「あの猿像の話は、他のみんなもやっているのに私だけなんで追放なのさって話なんじゃなかったかな」。
「さて、我々はいよいよカフェに入ることができた訳だが、それにしても、この国はまだ寒いな」
「なら、ここの1€のコーヒーを買って、ICEに乗って、フランクフルトに着く頃には丁度暖かくなっていると思うのだけど」
「いやいや、こう見えて食が細くてね。列車の中では食べないんだ。どれ、お姉さん、私には一杯の白ワインに、シュパーゲルと茹で卵の一皿を」
「コーヒーとチョコレートトルテを僕に」。
「其れにしても、君は変わらず、こうして、また逢えた事に乾杯」
「これから会えなくなる旧知に乾杯」
「どうして、そうもつれないことか。私は確かに周りに踊らされ、君を妹に相応しくないとした。そして絶望した妹は自ら命を絶った。人生は一局の将棋なり、指し直す能わずとはいえ、私は君と妹との約束は必ず守りたい。人が約束を守らないようでは、既に社会は成り立っていない」
「それはあなたの考えであって、僕の考えではない。きっと、遠くから見れば、あなたは偉大な大人で、近くでみたらこうした凡人なのだろう」
「折角の白ワインが涙で濁り酒にならないように、どうか、私に約束を守らせて欲しい。妹の愛したその、クラリネットの音色を、守らせておくれ」。
「そうなんだ、此処からどうしようか迷っている」
『去者日以疎
感時月濺淚
志在駿馬如
来歩万里道
此壯心不已
飛烏相与帰
望窮千里目
欲歸道無因』
「何ついて詠んだのか聞いても?」
「そりゃあ、君と私との関係だよ、君」
「まあ、そうとも読めるかも、知れないし、そうじゃないとも、読める」
「いやいや、別れた日から遠ざかれば、人は疎遠になるだろ、月を見て、時には涙する」
「志は駿馬の如く、遥か遠くまで歩いてきた」
「この心は、それでも変わらない」
「カラスが相与り飛んで帰るように」
「君と僕との千里の彼方を見極めようと望む」
「そして、帰り道がわからない」。
「わざわざ、日本からここ、ハイデルベルクまで来て、これを詠む理由が僕にはわからない」
「私もどうやったら君を説得出来るか、わからない。まあ、ここは哲学者の道だから、我々の帰り道を探している五言律詩と解すればいい」
「説得しない、という考え方もある」
「いやいや、漸く、此処まで来たんだ。手ぶらで帰るつもりはない」。
「別に、僕はランニングをしているし、貴方は観光に来た。ほら、ここからは、城とネッカー川に架かるアルテ・ブリュッケを、共に見渡すことができる。貴方もあの橋の中央にある選帝侯像と写真でも撮ったらいい」
「そんな勿体ないことで時間を潰したら、橋の袂《たもと》にいる猿に笑われてしまうよ。妹の彼氏といういわば家族を放っておいて、皆と同じ事をしていると、ね」
「あの猿像の話は、他のみんなもやっているのに私だけなんで追放なのさって話なんじゃなかったかな」。
「さて、我々はいよいよカフェに入ることができた訳だが、それにしても、この国はまだ寒いな」
「なら、ここの1€のコーヒーを買って、ICEに乗って、フランクフルトに着く頃には丁度暖かくなっていると思うのだけど」
「いやいや、こう見えて食が細くてね。列車の中では食べないんだ。どれ、お姉さん、私には一杯の白ワインに、シュパーゲルと茹で卵の一皿を」
「コーヒーとチョコレートトルテを僕に」。
「其れにしても、君は変わらず、こうして、また逢えた事に乾杯」
「これから会えなくなる旧知に乾杯」
「どうして、そうもつれないことか。私は確かに周りに踊らされ、君を妹に相応しくないとした。そして絶望した妹は自ら命を絶った。人生は一局の将棋なり、指し直す能わずとはいえ、私は君と妹との約束は必ず守りたい。人が約束を守らないようでは、既に社会は成り立っていない」
「それはあなたの考えであって、僕の考えではない。きっと、遠くから見れば、あなたは偉大な大人で、近くでみたらこうした凡人なのだろう」
「折角の白ワインが涙で濁り酒にならないように、どうか、私に約束を守らせて欲しい。妹の愛したその、クラリネットの音色を、守らせておくれ」。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
神木さんちのお兄ちゃん!
雪桜 あやめ
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます!
神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。
美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者!
だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。
幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?!
そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。
だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった!
これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。
果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか?
これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。
***
イラストは、全て自作です。
カクヨムにて、先行連載中。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる