Guys with the Dragon Tattoo

Coppélia

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7月 Put Your Hands Up

第45話、言葉の雨に差す傘

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「おはようございます」

教授がテレビと同じ声で挨拶をしている。
23時の人が、動いて話している。

「中間レポートは前にお伝えしたように、講評しません。この授業は私からあなた方、若き友人への授業という名の手紙だからです。まず、私を信頼して一通目の返信を書いてくれてありがとう」

ホワイトボードの前で、少し笑いながらテレビよりは気さくに見えるジャーナリストは軽く頭を下げて、そう言った。

「さて、今日のテーマは「真実」です。私はジャーナリストであり、メディアの人間ですが、例えば、日本語で写真という言葉、つまり、真を写すと書きます。しかし本当に写ったことが真実なのかという議論は、当然出てきます」

初めて書いた手元にあるレポートには「Thank you」という一言と署名が記されている。

「写っている以上は原稿に書いたりしたものとは違うだろうと普通は考えますが、しかし、真実にもいろんな側面があります」

白髪のジャーナリストが、ホワイトボードに「少女が兵士に花を渡す写真」を貼った。

ベトナム戦争を終わらせたと言われる一枚の写真は、出征を祝うのか、終戦を祝うのか、その写真だけではわからない。

「では、原稿はどうかというと、言葉の変化はその時代の変化を反映しているだけでなく、それぞれの時代を生きる人たちの気分や状況を反映しています」

今度はホワイトボードに「KY」→「空気が読めない」or「空気が読める」と書いた。

「要は「真実」とは、どこから見るかという自分のポジションによって、同じものがまるで逆に見えるということもあり得るわけです」

◇◇◇
あの夏の終わりには退院し、クリスマスソングが流れる前にはギブスは外れていた。

入院中の暇つぶしは読書で、特に司馬遼太郎が描き出す、他意なく、ひたむきな主人公たちに昂揚感を覚えた。

それは、主人公たちと核となる「魂」の部分のリズムが俺と合ったんだと思う。

「俺が昔、尊敬していた人から言われた一言を、お前に伝えさせてくれ」

あの日、先生は俺を抱きしめながら、そう言った。人は心臓の鼓動ひとつとってもそれぞれ違うけど、先生はいつも俺のペースに合わせてくれる。だけど、その時だけは違った。

「過去にばかり生きるのは許されない。やがては過去の思い出に代わったものが出てくるに違いない」

先生は、泣きながら、苦笑いだった。

◇◇◇
「いえ、別に」
「そうか。まあ、お前なら答辞、やれると思うんだ。どうかな?」

先生は俺の進学について、俺より親身になって考えてくれた。かっこいい先生の度々の家庭訪問に、母さんは先生に下駄を預けた。

「っ。先生には部活も、進路でもお世話になったこと、感謝しています。親の説得とか、奨学金とかも。なんでこんなに良くしてくれるのかなんて」

「いや、俺は先生としても、人生の先輩ってやつにしても当然のことしかしてないよ。決めたのはお前なんだ。ここまでよく頑張った。あとは受験、頑張れよ」

俺の偏差値では難しかった大学も、先生が家庭教師代わりに勉強を見てくれた。

◇◇◇
「さて、最終レポートである手紙ですが、手紙を書くには、相手がいて、主題が必要です」

どこか淡々とした23時のテレビマンは、講義は1人対多数にも関わらず、あたかも、直接俺に話しかけてくる。

「主題はあなたです。
 あなたは何を考えなくてはならないか。
 あなたは何をやらねばならないか。
 あなたは何をやってはならないのか」*

ペンが、静かに置かれた。

「どんな「形」でも構いません。あなたの言葉を伝えてください」
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