ミストリアンエイジ

幸崎 亮

文字の大きさ
3 / 69
Fルート:金髪の少年の物語

第3話 本当にゲームなのか?

しおりを挟む
 魔物に襲われていた少女・エレナを助けたことで、彼女の家へと招待された僕。
 しかし家の中の様子を見て、早々にガッカリすることになった。

「ただいまっ! おじいちゃん!」

 室内の大きなテーブルには四つのがあり、そのうちの一つには、つえをついたまま居眠りをしている老人が腰かけていた。

 そりゃあ流石さすがに、いきなりヒロインと二人っきり――なんてことにはならないか。

 老人はエレナに軽く肩を叩かれ、ようやくゆっくりと目を開ける。


「おお。おかえり、エレナ。――そちらは? 珍しいのう、客人かの?」

「ううん。この人はアインスさん。実は……」

 エレナは老人に僕を紹介し、これまでのいきさつを説明する。どうやら彼女は農作業中にオークにおそわれ、あの危険な場面におちいってしまったようだ。

「――そうでしたか。孫が大変お世話になりました。わしはゼニス。この農園のあるじをしております」

 ゼニス老人はそう言い、座ったままの状態で頭を小さく下げてみせた。

 加齢によって肉体の機能がおとろえているのか、彼のからだからは、老人特有のにおいが発せられている。

 本当に良くできてるな……。
 でも、こういう匂いまで再現しなくてもいいのに。

 僕があいわらいを浮かべながら、なんともにしていると――ほどなくしてエレナから、ありがたい助け舟がやってきた。

 ◇ ◇ ◇

「お礼に美味しいものでも作りますから、今日は泊まっていってくださいね!」

「え、いいの? でも、さすがに泊めてもらうわけには」

「もう夕暮れも近い。娘夫婦が使っていた部屋が空いておりますゆえ、どうかお使いくだされ」

 ゼニスさんに言われて窓の外を見ると、確かに日が傾いていた。
 もっとも、僕が本物の夕日を見る機会なんて一度も無かったんだけど。

 ん、本物……?

 なんだろう。
 すでに僕は、このゲームの世界に入れ込んでしまっているのだろうか?

 結局、僕は二人のこうに甘え、食事と宿を提供してもらうことにした。

 どのみち、今から外を出歩いたって、得られるものは無いだろう。
 まずはエレナたちから、情報収集をするのがとくさくだ。


「実はあの子の両親は、魔物に殺されてしまいましての……」

 エレナが料理の支度へ向かったため、残された僕にゼニスさんが話しかけてきた。しかし何と返事をすれば良いのかわからず、僕は適当にあいづちを打つしかできない。

「あの子の父親は元・旅人でしての。優秀な戦士だったんじゃが、ごとさいちゅうということもあって武器も無く……」

「旅人って、プレイヤーだったってことですか?」

 確か、僕らのようなプレイヤーは〝旅人〟という設定になっていたはずだ。
 僕は頭の中から、インストールした説明書マニュアルの情報を参照する。

 だが、ゼニスさんは〝プレイヤー〟という単語に心当たりが無いかのように、軽く首をかしげているばかりだ。仕方がないので僕は改めて、「異世界からの旅人」だと言い直した。


「――おお、そうです。最近はあまり見かけませんが、昔はたくさんりましてな」

「そうなんですか? 実は僕も、旅人なんです」

ようでしたか。それはまた……。何かのえんなのかも、しれませぬな……」

 ゼニスさんはかんがいぶかげに目をじ、ゆっくりとうなずいてみせる。

 なんだか彼の話をさえぎる形になってしまったが……。とりあえずは、間違った〝せんたく〟を選んだわけではなかったようだ。

 なにより、いまの会話で、ひとつ重要な事実が判明した。
 それは旅人ぼく現地人キャラクタとの間にも、子供が生まれるということだ。

 現実世界じゃ最下級労働者は、自分の子供なんてとうてい望めない。知らない間に遺伝情報を掛け合わされて、勝手に労働力としてされるだけだ。僕自身、自分の親が誰であるのかさえも知らない。

 〝ミストリアンクエスト この世界では、あなたは何にでもなれる〟

 あのキャッチコピーにいつわりが無いのなら、〝親〟にもなれるだろうか?
 僕は台所の方へ目をりながら、そんなことを考えはじめていた。

 ◇ ◇ ◇

 やがて台所あちらからは食欲をそそる香りがただよいはじめ、ほどなくして大きなトレイを手にしたエレナが姿を現した。

「おまたせ! お口に合うと良いんだけど」

 エレナは手際よく台所とリビングを往復し、次々と食事の載った皿を並べはじめる。もうひざの具合は良いのか、脚を気にしている様子はない。

「あれ? は? 手伝おうか?」

「ううん! もう薬で治っちゃったから平気! アインスさんは、ゆっくりしててねっ!」

 やはり〝回復の薬〟みたいなものがあるのだろう。
 ここはゲームの世界なんだ。

 そうは思っていても――。
 目の前に並べられた料理から迫りくる香りが、そんな考えを一瞬で否定させる。

 湯気の立つスープからは懐かしさと安心感を覚えるような香りが漂い、焼きたてのパンは見ただけで香ばしさが伝わってくるかのようだ。野菜炒めからは熱々の油が弾ける音が鳴り続け、紫色をした飲み物は僕にのどかわきを知らしめてくる。

「お……しそう……」

「わぁ、よかった! それじゃいただきましょっ!」

「うむ、そうじゃな。久々ににぎやかな食卓じゃわい」

 二人は手を合わせ、そろって「いただきます」と唱える。

 どうやら食事の作法は、地球人ぼくらが学習するものと同じらしい。これならば、いきなりそうをする心配はなさそうだ。僕も二人に続き、手を合わせてからスプーンでスープをすくい、それを口に運んでみた。

「うッ……いッ!」

 白色をしたスープには数種の野菜が溶け込んでいるのか、深みのある味わいが次々とおそってくる。パンも支給品の簡易糧食レーションなんかよりも柔らかく、あっという間に口内で溶けてしまった。甘辛い野菜炒めとの相性もちょういい。

「それ、さっき採れたアルティリアカブのスープなの。そんなに喜んでくれるなんて……よかったぁ!」

 夢中で食事を口に放り込む僕を見つめ、エレナはにっこりと微笑んでみせる。

 そんな彼女の姿に、少し照れ臭い気分になりながらも――。
 僕は夢中で、目の前の料理をほおり続けたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...