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Fルート:金髪の少年の物語
第4話 美しい朝
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エレナの家に招かれ、夕食をご馳走になったあと。
僕は用意してもらった寝室で、部屋の中を独り見回していた。
室内にはベッドが二台。エレナの両親のものだろう。そして壁際の飾り棚の上には、古びた写真立てが置かれている。
写真には屈強な体格の若い男性と、エレナによく似た若い女性。
そして彼女の腕に抱かれた、エレナらしき赤子の姿が写っていた。
「なるほど。こういうアバターを創ってみるのも良いかもね」
次にプレイする時は、もっと体格のいい躰にしてみようか。
僕は部屋の隅に設置された大きな姿見に近づき、そっと覗き込む。
「へぇ。僕とは思えない美少年だなぁ……」
鏡に映っていたのは、豊かな金髪をサラリと流した、青い瞳の美少年だった。
なんというか、すごく〝主人公〟っぽい。
僕は調子に乗って笑顔を作ってみたり、ポーズを決めてみたりする。
当然ながら、僕の動きに合わせて鏡の中のアインスも同じ動きをする。
自分の躰を触った感触も手に伝わるし、触られた感覚もある。
本当に、本物の僕の躰のようだ。
「驚いた。こんなにリアルなのは初めてだ」
現実にも統一政府の用意した慰労空間や、一般の団体が設置した遊興空間はいくつも存在する。最下級労働者には利用が制限されているものもあるけど、〝剣と魔法の世界〟で遊べるゲームもたくさんある。
そういったものは動作や感覚の伝わり方にタイムラグがあったり、味覚や嗅覚は除外されていたりと、どこか安物だったりするのに。
まさか、これほどすごいレトロゲームが眠っていたなんて。
それとも、最底辺には縁が無いだけで、これが普通だったりするのだろうか?
「まあいいや。とりあえず寝よう。お腹もいっぱいだし」
僕は心地良い満腹感と疲労感から大きな欠伸をし、腰から剣を取り外す。そして厚手の服を脱ぎ、片側のベッドで横になりながら、窓の外へと視線を遣る。
外の夜空には満天の星空と、大きな満月が浮かんでいる。
僕らは暗闇の中で暮らしているけれど、こんなに美しい闇は初めてかもしれない。
さて……。照明の消し方は良くわからないので、そのまま目を瞑るしかないか。現実の僕も眠っている状態に等しいのに、ここでも眠るなんて変な感覚だ。
そんなことを考えていると。
僕は次第に睡魔に襲われ、ゆっくりと眠りへと堕ちていった。
◇ ◇ ◇
翌朝。
窓から射し込む暖かい光を浴びて、僕は穏やかに目を覚ます。
「……ん? 朝か」
僕はベッドの上で半身を起こし、大きく躰を伸ばす。
なんだかとても気分が良い、清々しい朝だ。
僕らの地下居住室にも こういった目覚まし時計はあるけれど、あんな作り物の朝陽とは比べものにならないような美しさ――。
作り物……?
いったい、どちらが?
僕はベッドから立ち上がり、窓を開けて顔を出す。その途端、鳥の鳴き声が耳を、草木が放つ有機的な香りが鼻を通り抜けてゆく。
そして僕の眼からは、一筋の涙が零れ落ちていた。
「すごい……もしかしたら、本当に……」
ここはゲームなんかじゃなく、本当の異世界なんじゃないか?
〝製作・異世界創生管理財団〟
あれがもしも、ただの胡散臭い団体じゃなく、本当に〝異世界〟を創っているのだとしたら? そんな可能性が〝無い〟とも言いきれない。
僕らの世界だって――きっと何百年か前の人たちは、人間が土の中に住むなんて思わなかっただろう。ありえないことが、現実に起きたって不思議じゃない。
まだ確証はないけれど。
色々と探ってみる必要はありそうだ――。
◇ ◇ ◇
僕は簡単な身支度を終え、寝室を出てリビングへ。部屋にはパンの焼ける香ばしい匂いが漂っており、僕の視線は自然と、テーブルに並べられた朝食の皿へと移る。
「あっ! おはよう、アインスっ! 朝ごはん用意できてるから、よかったら食べてね!」
僕の姿を確認するなり、大きな籠を抱えたエレナが明るい口調で言う。
なんだろう……。
心なしか昨日よりも、彼女からの距離が近いような気がする。
「おはようエレナ。――ありがとう、それじゃ早速いただくよ」
「うんっ! どうぞ召しあがれ!」
エレナは機敏な動作で作業を終え、家の外へと出ていってしまった。すでに農作業着姿だったことから、畑仕事へ向かったのかもしれない。
用意されていた朝食はパンとスープ、そして褐色のお茶らしき飲み物だった。どれも起床直後でも摂食しやすく、味の方も文句なしだ。
「美味しかった。ごちそうさま」
僕はあっという間に食事を平らげ、静かに両の手を合わせる。
リビングには僕一人だけで、ゼニスさんの姿は見当たらなかった。
外の景色もそうだったが、家具や食器、家の中の様子も、やはり作り物とは思えない。そんなリアルさも相まってか――僕は勝手に家の中を歩き回るわけにもいかず、椅子に腰かけたまま周囲をぐるぐると見回していた。
◇ ◇ ◇
「ただいまっ! あっ、もう食べ終わったの?」
しばらくすると、エレナが家へと戻ってきた。
僕が朝食の礼を告げると、彼女は微笑み、手際よく食器類の片づけをしはじめる。
「なんだか忙しそうだね。何か手伝おうか?」
「ううん、もう終わったから平気! 今日は街に、おじいちゃんの薬を買いに行かなきゃだから」
台所で食器を洗浄しながら、エレナは僕に街の説明をする。
街の名はアルティリア王都というらしく、つまりは〝この王国〟の首都らしい。
街か。出来ることなら、案内してもらいたいな。
エレナは親切でかわいいけれど、ずっと世話になるわけにもいかない。
「そうだ、アインスも一緒に行く? 旅人さん向けのお店や、酒場なんかもあるし」
……おっと、願ってもない提案だ。
僕は即座に、肯定的な返事をする。
「わかった! それじゃ準備してくるねっ」
エレナは農作業着で濡れた手を拭き、小走りで扉の一つに入っていった。
昨日、僕が寝泊りした寝室へ続く扉の他にも、このリビングには合計三つもの扉が設置されている。外から見た時には〝小屋〟という印象だったけれど、内部の面積は意外と広く造られているようだ。
僕は特にすることもないので、待っている間に取扱説明書の中身を少しずつ読み進めておくことにする。
◇ ◇ ◇
そうして時間を潰していると――。
着替えを終えたエレナが僕の前に、再び姿を現した。
「お待たせ! よしっ、それじゃ行こっか!」
僕は用意してもらった寝室で、部屋の中を独り見回していた。
室内にはベッドが二台。エレナの両親のものだろう。そして壁際の飾り棚の上には、古びた写真立てが置かれている。
写真には屈強な体格の若い男性と、エレナによく似た若い女性。
そして彼女の腕に抱かれた、エレナらしき赤子の姿が写っていた。
「なるほど。こういうアバターを創ってみるのも良いかもね」
次にプレイする時は、もっと体格のいい躰にしてみようか。
僕は部屋の隅に設置された大きな姿見に近づき、そっと覗き込む。
「へぇ。僕とは思えない美少年だなぁ……」
鏡に映っていたのは、豊かな金髪をサラリと流した、青い瞳の美少年だった。
なんというか、すごく〝主人公〟っぽい。
僕は調子に乗って笑顔を作ってみたり、ポーズを決めてみたりする。
当然ながら、僕の動きに合わせて鏡の中のアインスも同じ動きをする。
自分の躰を触った感触も手に伝わるし、触られた感覚もある。
本当に、本物の僕の躰のようだ。
「驚いた。こんなにリアルなのは初めてだ」
現実にも統一政府の用意した慰労空間や、一般の団体が設置した遊興空間はいくつも存在する。最下級労働者には利用が制限されているものもあるけど、〝剣と魔法の世界〟で遊べるゲームもたくさんある。
そういったものは動作や感覚の伝わり方にタイムラグがあったり、味覚や嗅覚は除外されていたりと、どこか安物だったりするのに。
まさか、これほどすごいレトロゲームが眠っていたなんて。
それとも、最底辺には縁が無いだけで、これが普通だったりするのだろうか?
「まあいいや。とりあえず寝よう。お腹もいっぱいだし」
僕は心地良い満腹感と疲労感から大きな欠伸をし、腰から剣を取り外す。そして厚手の服を脱ぎ、片側のベッドで横になりながら、窓の外へと視線を遣る。
外の夜空には満天の星空と、大きな満月が浮かんでいる。
僕らは暗闇の中で暮らしているけれど、こんなに美しい闇は初めてかもしれない。
さて……。照明の消し方は良くわからないので、そのまま目を瞑るしかないか。現実の僕も眠っている状態に等しいのに、ここでも眠るなんて変な感覚だ。
そんなことを考えていると。
僕は次第に睡魔に襲われ、ゆっくりと眠りへと堕ちていった。
◇ ◇ ◇
翌朝。
窓から射し込む暖かい光を浴びて、僕は穏やかに目を覚ます。
「……ん? 朝か」
僕はベッドの上で半身を起こし、大きく躰を伸ばす。
なんだかとても気分が良い、清々しい朝だ。
僕らの地下居住室にも こういった目覚まし時計はあるけれど、あんな作り物の朝陽とは比べものにならないような美しさ――。
作り物……?
いったい、どちらが?
僕はベッドから立ち上がり、窓を開けて顔を出す。その途端、鳥の鳴き声が耳を、草木が放つ有機的な香りが鼻を通り抜けてゆく。
そして僕の眼からは、一筋の涙が零れ落ちていた。
「すごい……もしかしたら、本当に……」
ここはゲームなんかじゃなく、本当の異世界なんじゃないか?
〝製作・異世界創生管理財団〟
あれがもしも、ただの胡散臭い団体じゃなく、本当に〝異世界〟を創っているのだとしたら? そんな可能性が〝無い〟とも言いきれない。
僕らの世界だって――きっと何百年か前の人たちは、人間が土の中に住むなんて思わなかっただろう。ありえないことが、現実に起きたって不思議じゃない。
まだ確証はないけれど。
色々と探ってみる必要はありそうだ――。
◇ ◇ ◇
僕は簡単な身支度を終え、寝室を出てリビングへ。部屋にはパンの焼ける香ばしい匂いが漂っており、僕の視線は自然と、テーブルに並べられた朝食の皿へと移る。
「あっ! おはよう、アインスっ! 朝ごはん用意できてるから、よかったら食べてね!」
僕の姿を確認するなり、大きな籠を抱えたエレナが明るい口調で言う。
なんだろう……。
心なしか昨日よりも、彼女からの距離が近いような気がする。
「おはようエレナ。――ありがとう、それじゃ早速いただくよ」
「うんっ! どうぞ召しあがれ!」
エレナは機敏な動作で作業を終え、家の外へと出ていってしまった。すでに農作業着姿だったことから、畑仕事へ向かったのかもしれない。
用意されていた朝食はパンとスープ、そして褐色のお茶らしき飲み物だった。どれも起床直後でも摂食しやすく、味の方も文句なしだ。
「美味しかった。ごちそうさま」
僕はあっという間に食事を平らげ、静かに両の手を合わせる。
リビングには僕一人だけで、ゼニスさんの姿は見当たらなかった。
外の景色もそうだったが、家具や食器、家の中の様子も、やはり作り物とは思えない。そんなリアルさも相まってか――僕は勝手に家の中を歩き回るわけにもいかず、椅子に腰かけたまま周囲をぐるぐると見回していた。
◇ ◇ ◇
「ただいまっ! あっ、もう食べ終わったの?」
しばらくすると、エレナが家へと戻ってきた。
僕が朝食の礼を告げると、彼女は微笑み、手際よく食器類の片づけをしはじめる。
「なんだか忙しそうだね。何か手伝おうか?」
「ううん、もう終わったから平気! 今日は街に、おじいちゃんの薬を買いに行かなきゃだから」
台所で食器を洗浄しながら、エレナは僕に街の説明をする。
街の名はアルティリア王都というらしく、つまりは〝この王国〟の首都らしい。
街か。出来ることなら、案内してもらいたいな。
エレナは親切でかわいいけれど、ずっと世話になるわけにもいかない。
「そうだ、アインスも一緒に行く? 旅人さん向けのお店や、酒場なんかもあるし」
……おっと、願ってもない提案だ。
僕は即座に、肯定的な返事をする。
「わかった! それじゃ準備してくるねっ」
エレナは農作業着で濡れた手を拭き、小走りで扉の一つに入っていった。
昨日、僕が寝泊りした寝室へ続く扉の他にも、このリビングには合計三つもの扉が設置されている。外から見た時には〝小屋〟という印象だったけれど、内部の面積は意外と広く造られているようだ。
僕は特にすることもないので、待っている間に取扱説明書の中身を少しずつ読み進めておくことにする。
◇ ◇ ◇
そうして時間を潰していると――。
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