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Mルート:金髪の少年の戦い
第24話 デッドエンドと戦友の行方
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ランベルトス南の砂漠を舞台とした戦争は、アルティリア王国とガルマニア共和国による連合軍の勝利によって終結した。これにより、長年に渡る確執と怨嗟の歴史にも、一先ずの終止符が打たれることとなった。
自身らの指導者である大族長・ファランギスを失った砂漠エルフたちは降伏条約を受け入れ、砂漠地帯から北方への許可なき立ち入りを禁じられることとなった。
対する連合軍側は自由都市ランベルトスの商人ギルドを通じ、食糧や雑貨などの貿易に関してのみ、限定的に応じることで合意した。
戦争には勝利したものの――召喚した魔物を主体に戦っていた砂漠エルフ側に比べ、連合軍側の人的損失は計り知れないものとなってしまった。
特に最終局面でのファランギスによる奇襲作戦は『突撃部隊による決着があと数刻遅れていれば、勝敗が逆転した』とまで言われるほどの、莫大な戦死者を出すまでに至っていた。
◇ ◇ ◇
「我々は勝利した!――だが、この勝利の裏で多くの命が散っていったことを、決して忘れてはならない!」
ランベルトスの遥か東方、ガルマニア共和国の首都にて。
凱旋式の壇上に立ち、リーランドは高らかに演説をする。彼の隣にはアルティリア王国のアルトリウス王子、そしてガルマニアの紋章が刻まれた〝盾〟を手にした、中年の騎士の姿も確認できる。
勝利に沸きあがる民衆に比べ、彼らの表情はどこか険しい。
しかし三人は懸命に手を振りながら、無辜なる声援に応えつづけていた。
◇ ◇ ◇
「はっはー。お偉いさんたちゃ大変だねぇ。うぃっく!」
「まだ故郷に戻らんのか? ドレッドよ」
「俺たちゃ自由なドワーフだからな! 王が居ずとも穴は掘れらぁ」
民衆らの背中を眺めながら、ドレッドは手にした樽型カップの酒を呷る。カイゼルはそんな相棒の姿を見て、「ふっ」と短く息を漏らした。
「オメェは? ネーデル█ール貴族の長男だったろ? そろそろ嫁さんでも見つけたらどうだ?」
「すでに決められた相手がいる。それに彼女は、まだ子を産むには幼すぎる」
「へっへっ! なら、まだ長ぇ付き合いになりそうだな!」
ドレッドは新たな酒をなみなみと注ぎ、カイゼルに乾杯のジェスチャをする。それに応じる代わりに、カイゼルは彼のカップに軽く拳を合わせた。
「ヴァルナスにアインス。イイ奴から先に、消えちまったなぁ」
「ああ」
酒を飲み干したドレッドは、青く広がる空を見上げる。それにつられるかのように、カイゼルもじっとこちらを見つめた。
「まぁ、辛気臭ぇことを言っても仕方ねぇや。あいつらも、ンなこたぁ望んでねぇだろうしな!」
「そうだな」
そう言うと二人は人混みに紛れ、静かにガルマニアの街を後にした。
同時に僕の意識も上空へと引っ張られ、別の場面へと転換される――。
◇ ◇ ◇
続いて視界に浮かんだのは、見覚えのある畑と屋根の形。
ここはアルティリアの、エレナの農園だ。
懐かしい景色を眺めていると、やがて家から二人の男女が姿をみせた。
茶色の髪の少女はエレナ、そして金髪の男は大農園の息子・シルヴァンのようだ。
「さあっ! 今日は北の荒地を開拓するよ! あんた、キリキリ働いてよね」
「えっと、エレナ……? 大農園の跡取りたるこのボクと結婚したんだから、こんな小さな農園なんて捨てて……」
「なに? ウチの父さんたちが守ってきた農園に、なにか文句あるの?」
エレナはシルヴァンを睨みながら、農作業着の袖を肩まで捲る。心なしか、僕と結婚していた前回の世界の時と比べ、彼女の腕っ節が強そうにみえる。
「いえ……。ない……です……」
「わかったらホラ、さっさと歩く!」
エレナから強烈な気合いを注入され、シルヴァンは甲高い悲鳴を叫げる。
この様子ならば、彼女も農園も安泰だろう。
よかった。守りたかったものを守ることができた。
そう安心した途端、再び意識が上空へと引き寄せられてゆく――。
◇ ◇ ◇
次に視界に映ったのは、激戦の舞台となった砂漠の光景。
黄金色の砂上には、まだ生々しい焦げ跡や資材の破片などが遺されている。
そんな砂漠の一点に、新たなるオアシスができあがっている。その一角、清らかな水を湛えた泉のほとりには、二本の大型剣が突き立っていた。
一本はヴァルナスが使っていた、湾曲した刃が特徴的な〝ファルクス〟というタイプの大型剣。
そしてもう一本は、ミルポルから貰った剣。
――そう、僕が使っていた剣だ。
突き立った剣の周囲には、真新しい酒瓶が幾つも供えられている。どれも傭兵団のキャンプにて、戦友たちと味わったもの。
楽しかった記憶に想いを馳せていると――。
視界の隅に、長い金髪を風に靡かせた、エルフ族の女性の姿が映り込んだ。彼女は真っ直ぐにオアシスを進み、ヴァルナスの剣の前に跪いた。
「ああ……。ヴァルナス……。貴方を喪ってしまうなんて……」
女性は大粒の涙を流しながら、ヴァルナスの剣に縋りつく。刃が純白のドレスを切り刻み、柔肌を深々と傷つけるのにも構わず、彼女はいつまでも泣き続けている。
レクシィ――。おそらく彼女が、そうなのだろう。
ヴァルナスが幾度となく口にしていた、彼の愛しい人物の名前だ。
「私は――レクシィは必ず、愛する貴方に会いにゆきます。たとえルゥランさまがお許しにならなくとも……。必ず……!」
自らの躰から流れ滴ちた〝赤〟に、純白の一輪の花を供え――。ボロボロの赤いドレスを纏ったレクシィは、凛とした足取りでオアシスから立ち去っていった。
「レク……シィ……。オマエ……ヲ……」
風に流れる声に気づき、ふと〝墓〟の方へと視界を移す。すると突き立っていたヴァルナスの剣が真っ黒な瘴気と化し、その場から忽然と消滅してしまった。
――後には僕の愛剣と酒瓶の群れ、そして白い花だけが遺されていた。
傭兵ルート:渇望/守られた誓い 【終わり】
自身らの指導者である大族長・ファランギスを失った砂漠エルフたちは降伏条約を受け入れ、砂漠地帯から北方への許可なき立ち入りを禁じられることとなった。
対する連合軍側は自由都市ランベルトスの商人ギルドを通じ、食糧や雑貨などの貿易に関してのみ、限定的に応じることで合意した。
戦争には勝利したものの――召喚した魔物を主体に戦っていた砂漠エルフ側に比べ、連合軍側の人的損失は計り知れないものとなってしまった。
特に最終局面でのファランギスによる奇襲作戦は『突撃部隊による決着があと数刻遅れていれば、勝敗が逆転した』とまで言われるほどの、莫大な戦死者を出すまでに至っていた。
◇ ◇ ◇
「我々は勝利した!――だが、この勝利の裏で多くの命が散っていったことを、決して忘れてはならない!」
ランベルトスの遥か東方、ガルマニア共和国の首都にて。
凱旋式の壇上に立ち、リーランドは高らかに演説をする。彼の隣にはアルティリア王国のアルトリウス王子、そしてガルマニアの紋章が刻まれた〝盾〟を手にした、中年の騎士の姿も確認できる。
勝利に沸きあがる民衆に比べ、彼らの表情はどこか険しい。
しかし三人は懸命に手を振りながら、無辜なる声援に応えつづけていた。
◇ ◇ ◇
「はっはー。お偉いさんたちゃ大変だねぇ。うぃっく!」
「まだ故郷に戻らんのか? ドレッドよ」
「俺たちゃ自由なドワーフだからな! 王が居ずとも穴は掘れらぁ」
民衆らの背中を眺めながら、ドレッドは手にした樽型カップの酒を呷る。カイゼルはそんな相棒の姿を見て、「ふっ」と短く息を漏らした。
「オメェは? ネーデル█ール貴族の長男だったろ? そろそろ嫁さんでも見つけたらどうだ?」
「すでに決められた相手がいる。それに彼女は、まだ子を産むには幼すぎる」
「へっへっ! なら、まだ長ぇ付き合いになりそうだな!」
ドレッドは新たな酒をなみなみと注ぎ、カイゼルに乾杯のジェスチャをする。それに応じる代わりに、カイゼルは彼のカップに軽く拳を合わせた。
「ヴァルナスにアインス。イイ奴から先に、消えちまったなぁ」
「ああ」
酒を飲み干したドレッドは、青く広がる空を見上げる。それにつられるかのように、カイゼルもじっとこちらを見つめた。
「まぁ、辛気臭ぇことを言っても仕方ねぇや。あいつらも、ンなこたぁ望んでねぇだろうしな!」
「そうだな」
そう言うと二人は人混みに紛れ、静かにガルマニアの街を後にした。
同時に僕の意識も上空へと引っ張られ、別の場面へと転換される――。
◇ ◇ ◇
続いて視界に浮かんだのは、見覚えのある畑と屋根の形。
ここはアルティリアの、エレナの農園だ。
懐かしい景色を眺めていると、やがて家から二人の男女が姿をみせた。
茶色の髪の少女はエレナ、そして金髪の男は大農園の息子・シルヴァンのようだ。
「さあっ! 今日は北の荒地を開拓するよ! あんた、キリキリ働いてよね」
「えっと、エレナ……? 大農園の跡取りたるこのボクと結婚したんだから、こんな小さな農園なんて捨てて……」
「なに? ウチの父さんたちが守ってきた農園に、なにか文句あるの?」
エレナはシルヴァンを睨みながら、農作業着の袖を肩まで捲る。心なしか、僕と結婚していた前回の世界の時と比べ、彼女の腕っ節が強そうにみえる。
「いえ……。ない……です……」
「わかったらホラ、さっさと歩く!」
エレナから強烈な気合いを注入され、シルヴァンは甲高い悲鳴を叫げる。
この様子ならば、彼女も農園も安泰だろう。
よかった。守りたかったものを守ることができた。
そう安心した途端、再び意識が上空へと引き寄せられてゆく――。
◇ ◇ ◇
次に視界に映ったのは、激戦の舞台となった砂漠の光景。
黄金色の砂上には、まだ生々しい焦げ跡や資材の破片などが遺されている。
そんな砂漠の一点に、新たなるオアシスができあがっている。その一角、清らかな水を湛えた泉のほとりには、二本の大型剣が突き立っていた。
一本はヴァルナスが使っていた、湾曲した刃が特徴的な〝ファルクス〟というタイプの大型剣。
そしてもう一本は、ミルポルから貰った剣。
――そう、僕が使っていた剣だ。
突き立った剣の周囲には、真新しい酒瓶が幾つも供えられている。どれも傭兵団のキャンプにて、戦友たちと味わったもの。
楽しかった記憶に想いを馳せていると――。
視界の隅に、長い金髪を風に靡かせた、エルフ族の女性の姿が映り込んだ。彼女は真っ直ぐにオアシスを進み、ヴァルナスの剣の前に跪いた。
「ああ……。ヴァルナス……。貴方を喪ってしまうなんて……」
女性は大粒の涙を流しながら、ヴァルナスの剣に縋りつく。刃が純白のドレスを切り刻み、柔肌を深々と傷つけるのにも構わず、彼女はいつまでも泣き続けている。
レクシィ――。おそらく彼女が、そうなのだろう。
ヴァルナスが幾度となく口にしていた、彼の愛しい人物の名前だ。
「私は――レクシィは必ず、愛する貴方に会いにゆきます。たとえルゥランさまがお許しにならなくとも……。必ず……!」
自らの躰から流れ滴ちた〝赤〟に、純白の一輪の花を供え――。ボロボロの赤いドレスを纏ったレクシィは、凛とした足取りでオアシスから立ち去っていった。
「レク……シィ……。オマエ……ヲ……」
風に流れる声に気づき、ふと〝墓〟の方へと視界を移す。すると突き立っていたヴァルナスの剣が真っ黒な瘴気と化し、その場から忽然と消滅してしまった。
――後には僕の愛剣と酒瓶の群れ、そして白い花だけが遺されていた。
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