ミストリアンエイジ

幸崎　亮

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Ｂルート：金髪の少年の伝説

第38話　最後の冒険のはじまり

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　ミストリアスと同様に、僕自身にも迫せまる〝終了〟の時。
　監督官の言葉を信じるならば、僕の命は〝数日〟しか保もたないようだ。

　侵入ダイブを行なうことにより、現実での一晩を〝三十日〟として過ごせはするが。またしても期限前に戻されてしまっては、一日を無駄にすることになってしまう。これまで以上に慎しん重ちょうに挑まなくてはならない。

　まずは接続器を今一度観察し、リミッタ解除の方法を探る。闇やみの迷めい宮きゅう監かん獄ごくで出会った男によれば、かつての人類は〝全接続〟という方法で、擬ぎ似じ的てきな〝異世界転生〟を行なっていたとのことだ。

　電源スイッチと接続端子、開閉式のディスク挿入口スロットしか無いシンプルな設計。僕はスロットにセットされたディスクを外し、内部をよく観察する。すると、そこには〝通常接続／全接続〟と刻まれた、埋没型の切り替えスイッチが付いていた。

「いくらレトロな接続器とはいえ、こんな単純なスイッチで？」

　しかし〝彼〟の話や見つけた資料によると、過去にはミストリアスに限らず、数多の異世界へと〝転てん世せい者しゃ〟らが旅立っていたらしい。

　今でこそ厳しく統制されているが、かつて世界統一政府が存在しなかった頃は、異世界へのアクセスが容易だったのかもしれない。

　――とはいえ、僕にとっては朗報だ。
　おそらく〝全接続〟は、ミストリアスを救う重要な一手になるはず。

　全接続は一度きりの最終手段ラストリゾート。
　決定的な切り札を手に入れるまで、まだ使用するわけにはいかない。

　僕は光り輝くディスクをセットし、脳電組織接続端子エンセフェロンアダプタに接続器をセットする。
　その途と端たん、僕の頭に凄まじい激痛が走った。

「――痛つッ!?」

　やはり脳に損傷を受けている。もしかすると、前回の覚醒に遅れが生じたのは〝闇の迷宮監獄〟の影響ではなく、僕の躰からだに原因があったのかもしれない。

「それでも、行かなきゃ……」

　僕は自動ベッドのアラームを、早めの時刻にセットする。
　そして痛む頭をベッドに横たえ、起動の言葉を詠唱した。

「接続コネクト。――侵入ダイブ、状況開始」

　機械は問題なく起動を始め、僕の意識を吸い上げはじめる。
　やがて激しい頭痛は治まってゆき、僕は白い空間へと誘いざなわれていった。

　　　　　　　　　　　　　＊

「ようこそ、ミストリアンクエストの世界へ」

　ＧＭミストリアの聞き慣れた挨あい拶さつを受け、僕は器アバターの作製を開始する。

「登録名アインス。認識番号ID:PLXY-W0F-00D1059B06-HH-00BB8-xxxx-ALPには前回の違反行為により、ペナルティが課せられています」

　そういえば財団からの文書に、ペナルティの詳細はＧグラウンドＭマネージャから説明があると記載があった。ミストリアは言葉を続ける。

「具体的には痛覚伝達率Ｐ・Ｔ・Ｒの抑制解除、およびアイデンティティのロックが実行されます。今回のログインを最後に器アバター〝アインス〟は登録不可能となります」

　これがアインスとしての、最後の冒険になるわけか。

　それに痛覚伝達率Ｐ・Ｔ・Ｒの抑制が解除されるということは、ミストリアスで傷を負えば、僕自身がダイレクトに痛みを感じてしまうということだ。

　もしもアインスが死亡するようなことがあれば、当然〝死ぬほどの痛み〟を感じることになる。――最悪、僕の脳が強烈なショックを起こし、現実の躰からだが死に至るということも起こりうるだろう。

「このペナルティは、新たな器アバターを登録することで回避されます。その場合、八文字以内で異なる名前を登録してください。――本当に〝アインス〟で開始しますか？」

　要は〝別の名前〟で登録し、別の器アバターを使えば問題ないということか。名前といえば、闇の迷宮監獄で受けた助言が脳裏を過よぎるが――。

　それよりも。迷宮から現実へ戻される際、最期にアインスは僕を見上げていた。
　あの強い意志の宿った青い瞳が、僕の心を突き動かす。

「もちろんアインスで。しっかりと罰は受けるよ。僕はアインスとして、世界の滅びに抗あらがってみせる。――今度こそ、彼と共に」

「そうですか。答えは見つかったようですね」

「えっ？」

　僕は思わず訊きき返す。
　しかしミストリアから返ってきたのは、いつもと同じ機械的な台詞せりふだった。

「登録が完了いたしました。――親愛なる旅人・アインス。それでは、よい旅を」

　　　　　　　　　　　　　＊

　四度目に降り立ったミストリアス。金髪の少年アインスとしての、最後の初日。
　今回、僕が放り出された場所は、海に面した崖がけの上だった。

「さてと。まずは所持品と現在地の確認だな……」

　いつもの厚手の服と、腰に下げられた片手持ち用の剣。

　財布の中にお金はあるが、前回は魔物と戦っていないために多いとはいえない。むしろ宿や食事、教会への寄付などで消費した分、三度目の開始時よりも減っている。

　ポーチの中には迷宮で受け取った〝薄汚れた本〟が数冊と、ミルポルから貰った〝歴史書〟が一冊。他には着慣れた寝巻きと二つの薬やく瓶びん、巻物状の暦カレンダーのみだ。

　カレンダーには〝三〇〇〇年〟を表す数字。
　そして光の男お神がみが〝十〟の数かずを、闇の女神が〝四〟の数を示している。

　やはりい・つ・も・と同じ日時の、別の平行世界パラレルワールドへ来たようだ。

　薬は前回、両方とも使ったはずなのだが。なぜか補充されている。しかし今回は〝痛覚〟があるため、安易に毒を飲むわけにはいかない。

　続いて空から現在地を把握すべく、僕は飛翔魔法フレイトを発動する。

　生臭く有機的な潮風の中に、なんとも言えない敵意と不快感を帯びた、瘴しょう気きの臭いが混じっている。

　見れば海とは反対方向の空が、妙に黒ずんでいるように感じる。
　日の傾く方向を〝西〟とすると、あちらは〝東〟ということか。

　西には幾いくつかの島が確認できるものの、あとはどこまでも海が広がっているのみだ。さすがにそちらへ進むのは憚はばかられるため、僕は東へ向かって飛ぶ。

「あれはランベルトス？　じゃあ、今回の場所も〝アルディア大陸〟か」

　眼下の街には土レンガで建てられた建物や色とりどりの布、丸みを帯びた屋根が並んでいる。空から見るのは初めてだが、あれは自由都市ランベルトスで間違いない。

　まずは〝自由都市ランベルトス〟に降り、今回の世界の情報を集めるのが得策だが。今の僕には何よりも、先に行きたいところがあった。

「北へ――。農園に向かおう。エレナの無事を確かめないと」

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