ミストリアンエイジ

幸崎 亮

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Bルート:金髪の少年の伝説

第39話 初対面の愛しい二人

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 四度目に訪れたミストリアス。まずはエレナの無事を確かめるため、僕は〝飛翔魔法フレイト〟を発動し、真っ直ぐに北の〝農園〟を目指す。

 空にしょうが漂っていることもあり、どうにも胸騒ぎがしてしまう。確か前回は西の森から現れた、人狼ワーウルフという魔物に襲われたと聞いた。

 あの森は二回目の侵入ダイブの際に、僕が降り立った場所のはずだが。その時にはへいおんそのものといった感じで、魔物の一体も出てこなかった。やはり訪れた平行世界ワールドによって、世界のようそうは大きく異なっているようだ。

             *

 全力で飛行を続けていると、やがて前方に懐かしい農地が見えてきた。そして眼下に視線を向けると、古びた木造の屋根が確認できる。

 そちらへ目をらしてみると――。
 家の周囲にはオオカミのような姿をした、人型の魔物が群がっている。

 していたとおり、悪い予感が的中してしまった。
 僕は急いで高度を下げ、玄関前へ急降下する。

 するとそこには最初の侵入ダイブと同様に、地面に座り込んだエレナの姿があった。

 そして彼女の眼前にせまりつつある、一体のワーウルフの姿も――!

「エレナ――! うおおぉ――ッ!」

 僕は空中で剣を抜き、降下と同時にワーウルフへ剣を突き立てる。厚い毛皮に覆われた背中はザックリと裂け、黒いしょうが勢いよくす。続いてエレナの背後でつめを振り上げている魔物の腕を、素早く唱えた風の魔法ヴィストばした。


「エレナ! は!?」

「えっ……? あっ? だっ……、大丈夫ですっ……!」

 どうやらエレナに怪我は無く、かんいっぱつのところで間に合ったようだ。

 しかしさきほど空から見たように、まだ多くの敵が残っている。
 前回は助けることができなかったが、今回は絶対に救ってみせる。

「今のうちにやりを! 僕と一緒に戦ってくれ!」

 さすがにすべてを相手にするのは厳しい。エレナの頼もしいそうじゅつが必要だ。僕はワーウルフの群れをけんせいし、彼女が準備する時間を稼ぐ。

「あ……。うっ、うん! わかった!」

 エレナはポーチから長槍ロングスピアを取り出し、素早く戦闘の構えをとった。

「よし、エレナは正面を! 僕は裏へまわる! 二人で家をまもろう!」

「はい! 勇者さまっ!」

             *

 家にはゼニスさんが居るはずだ。魔物に囲まれたままでは危険が大きい。
 戦えるエレナと手分けをし、とにかくここを守護しなければ。

 僕は飛翔魔法フレイトで屋根にのぼり、そこから家の裏手へ飛び降りる。しかし地面に着地した瞬間、足に鋭い痛みとしびれが走った。

 しまった。痛覚のことを忘れていた。
 そんな獲物ぼくすきを逃すまいと、ワーウルフが両手の爪を振り上げる。

「ヴィスト――ッ!」

 風の魔法で一体の首を斬り飛ばし、近づいてきた別の個体に剣を突き刺す。

 僕は足を引きずりながら、ひらけた場所まで移動する。勇ましく戦場に飛び込んではみたものの――今の僕の状態は、とてもエレナには見せられない。


 それでもどうにか応戦を続け、ついにワーウルフの群れを片づけることができた。

 エレナの方は無事だろうか。早く応援に向かわなければ。

 しかし周囲には魔物からあふれたしょうが充満しており、じわじわと僕の体力を削り取ってゆく。

「勇者さま! あの、大丈夫ですか?」

 僕が肩で息をしていると、裏手こちらへエレナが回り込んできた。

「ゆっ……、勇者? 僕はアインス。もちろん大丈夫さ」

「はいっ! アインスさんですねっ!」

 正面玄関側の敵は、すでにエレナが片づけたらしい。しかもかなりの激戦だったというのに、彼女は呼吸を乱していない。


「はは、さすがはエレナだ。僕の助けは余計だったかな」

「ううん! アインスさんがチャンスを作ってくれたから。それに――」

 そうエレナが言いかけた時。屋根の上に、残ったワーウルフの姿が見えた。
 そしては屋根から大ジャンプし、エレナへ向けて爪を伸ばす!

「――危ない!」

 僕は反射的に、エレナのからだを突き飛ばす。間一髪で彼女は難を逃れたものの、代わりにワーウルフの硬く鋭い爪が、僕の左肩を深々と斬り裂いた。

「ぐぁあ……ッ!?」

 これまでに感じたことのない、凄まじい激痛が僕をおそう。出血と同時に視界がらぎ、意識が上方へ引っ張られてゆくのを感じる。

「あっ、アイン█さん!? こっのおぉ――ッ!」

 エレナは槍の間合いを取り、すかさずものを構え直す。そして気合いの叫びと共に、ワーウルフののどもとを貫いた。

「はは……。やっぱ、エレナは強いや」

「しっ、……りして! ワーウ█フの爪……、毒が……。すぐに治療……」

 視界が白い霧によって支配され、エレナの声が遠くに聞こえる。
 駄目だ。このままではアインスのからだから、が抜け出してしまう。

 ――まだ、終われない。

 もうろうとする意識をどうにか繋ぎ留め、僕はエレナの肩に右腕を回されながら、彼女の家まで連れられてゆく。

 これでは完全に、こちらが助けられた形になってしまった――。

             *

 懐かしいエレナの家のにおい。しかし僕の額からはあぶらあせが絶え間なくあふしており、いまはかんがいふけっているような余裕はない。

 僕はエレナにかいほうされ、リビングのに座らされる。

「横になると毒が回っちゃうから。待っててね。――おじいちゃーん!」

 エレナはゼニスさんを呼びながら、急いで彼女の部屋へと駆けてゆく。そんなエレナと入れ替わるように、彼女の祖父であるゼニスさんが、杖をつきながら現れた。


「おお、これは大変じゃ。まずは傷をふさごう」

 ゼニスさんは椅子の一つに腰を下ろし、僕の肩へと杖を向ける。
 そして彼は、ゆっくりと呪文を唱えた。

「セフィルド――!」

 の魔法・セフィルドが発動し、彼の杖から光の帯が伸びる。それは僕の傷口を包帯のように包み、またたに傷をいやした。

「まだ毒は抜けておらん。いままごむすめが薬を出します。どうか耐えてくだされ」

「ありがとうございます。ゼニスさん……」

 僕の言葉に、ゼニスさんが小さく首をかしげる。

 そうだ、彼にとっては僕は初対面。それでもゼニスさんの元気な顔を見ると、どうにも視界がうるんでしまう。

「なぜわしの名を……。そうか、あなたは旅人さんじゃな? おそらく〝別の世界〟のわしと、お会いしたことがあるのじゃろう」

「はい……。とてもお会いしたかったです。……義祖父おじいさん」

 そう口にしたたん、僕の眼から、ついに涙がこぼれてしまった。


「お待たせ! 毒消しのやくとう、熱いからゆっくり飲んで――って、あれ? どうしたの?」

「いや……。話はあとじゃ。今は彼に、一刻も早く薬を」

「あっ。……うん!」

 エレナが息で冷ました薬湯を、スプーンで僕の口に少しずつ運ぶ。口内にへばりつくような強烈な苦味を感じるが、これは〝味〟を楽しむ料理ではないのだろう。

             *

 やがてすべての薬湯を飲み終えると、だいからだも楽になってきた。今では視界もハッキリし、懐かしい二人の顔がクリアに見える。

「ありがとうございます。すっかり元気になりました」

「ううん。助けてくれたのはアインスさんだし。それに、えっと……」

 エレナが困惑気味の表情を浮かべながら、僕の顔を見つめている。
 やはり彼女たちには、僕の正体を話しておくべきだろう。

 もしかすると、追い返されてしまう可能性もあるが。僕は意を決し、二人に〝アインス〟としての、これまでの冒険を話すことにした。
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