ミストリアンエイジ

幸崎 亮

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Wルート:金髪の少女の探求

第67話 魔法の学校は苦難でいっぱい

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 ミストリアスへの五度目の侵入ダイブを無事に終え、僕は現実世界へと帰還した。今回は目的を早々に達成できたということもあり、現実の時間もあまり経過していない。

 とはいえ、僕自身に残された〝命〟の時間は残り少ない。明日か、それとも明後日か――おそらくは近日中に、世界統一政府から〝終了処分〟の通達が届くだろう。

「熱い……。頭がけてしまいそうだ。でも、この機会を逃がすわけには」

 あくまでも目的は〝はじまりの遺跡〟の場所を確認すること。ただでいい――。僕は横たわったまま再び目を閉じ、本日二度目の侵入ダイブへ挑戦することに。

「よし、行こう……。すぐに見つけられるといいんだけど」

 次の目的地は、魔法王国リーゼルタ。
 あの国はミストリアス全土を常に飛び回っている、浮遊大陸にる。

 リーゼルタに辿たどく難度もさることながら、あの国へ〝正攻法〟で入国するにはアルトリウス王子やエピファネスといった、地位ある人物らの協力が不可欠だ。

 しかし、いくら事情を丁寧に説明したとしても、〝アインス〟のアバターを失った今の僕では、これまでのように彼らの信頼を得ることは厳しいだろう。

 ――で、あるからこそ。僕は僕にしか出来ない、とっておきの作戦を使う。


接続コネクト。……侵入ダイブ、状況開始」

 おそらくは、今回が最後の〝接続〟となる。
 次に異世界ミストリアスに向かう際には、いよいよ〝全接続〟を行なう。

 起動の暗号コードを唱えるや、すぐに頭の中が白い霧におおわれはじめる。そして僕の意識は深く沈み、ミストリアの待つ白い空間エントランスへといざなわれていった。


             *


 六度目となるミストリアスへの侵入ダイブ。新たなアバターつくえ、エントランスを抜けた僕はもくどおりに〝リーゼルタ〟への入国に成功した。

 しかし、目的である〝はじまりの遺跡〟の探索へ出ようとした矢先のこと。僕はすでに、予期せぬ苦難へと足を踏み入れていたことに気づいてしまったのだ。

「――はい、それで? つまり貴女あなた転世者エインシャントであることから、マナリスレインのからだに慣れていないと? 言い訳はでおしまいですか?」

「はい、です……。ごめんなさい、先生……」

 僕の眼前にふさがった思わぬ強敵。彼女は黒い魔法衣ローブに折れ曲がった三角帽子を身に着けており、その容姿はとぎばなしに登場する〝魔女〟を思わせる。どんな強敵にも立ち向かってきた僕ではあるが、おそらく今回の相手は、誰よりも強い。

「サンディ! それで許されるとお思いですか! しっかりと悔い改めなさい!」

「ひゃいぃ……! ごっ、ごめんなさいぃ――!」

 先生に大声でしかりつけられ、僕はちぢこまりながら何度も頭を下げ続ける。

 この〝屋外演習場〟には、大量の黒煙がただよっており、僕らの周囲では人々がせわしなく駆け回っている。ついさきほど、ここで大規模な火災があったのだ。

 そして、その大火災の原因は――。
 なにを隠そう〝サンディ〟こと

「いいですか? わたくしは〝マト〟に、炎の魔力素マナじかに当てるよう言ったのです。――なぜ呪文を唱えたのです! それも最上位魔法の〝ティルトフォルス〟を!」

「うぅっ……。はっ、反省してますぅ……」

 確実にリーゼルタへ入るための秘策。それは新しくアバターを創る段階で〝少女〟となり、〝リーゼルタ王立魔法学校〟への入学を強く願うことだった。

 こうして僕はハーフエルフ族の学生・サンディとなったは良いものの、なんと魔法学校から自由に外出するためには、学校ここを卒業する必要があるとのこと。

 これは完全に想定外だった。間違っても僕には、のんびりと学生生活を送っていられる時間など存在しない。そのため一刻も早い卒業を目指そうと、僕はクラス分けを兼ねた〝マト当て試験〟に文字どおりのぞんでしまったのだ。

             *

 延々と繰り返され続ける小言を聞き流しながら、僕は大幅に狂ってしまった計画の見直しを考える。――まずは必要最低限セーフモードでの達成計画。現段階で可能な情報収集を行ない、リーゼルタ国内に在る〝はじまりの遺跡〟の場所だけでも突き止める。

 ただ、これまでの二つと同様に、できれば僕自身の眼でも〝遺跡〟の正確な位置と状態は確認しておきたい。得た情報が単純に間違っていたり、あの〝光の鍵〟をむ場所とおぼしき〝円形のくぼみ〟が破損している可能性が無いとも言いがたい。


 そして次に、学校から脱出するための方法だ。これは単純ながら、中身である〝僕〟だけが現実世界へ戻ってしまえばいい。そして再度の侵入ダイブを行ない、あらかじめ入手していた情報を元に、リーゼルタの〝遺跡〟を確認する。

 しかし、この手段では〝改めてリーゼルタへの侵入方法を考える必要がある〟ことに加え、僕の失敗の罪を負わされたうえに学校ここに残される〝サンディ〟があまりにも気の毒だ。仮に実行するとなれば、本当に最終手段としてだろう。


「サンディ! 聞いているのですか!? 返事をなさい!」

「はいっ!? ももっ、申し訳ございましぇえん――!」

 僕自身の落ち度とはいえ、こんな場所に閉じ込められてしまっては精神がそんもうしてしまう。僕が創ったアバターではあるが、なんとしてもを救わなければならない。

 リーゼルタへの侵入には〝策〟を講じたものの――。
 ここは真面目に反省し、正攻法でばんかいするしかないようだ。

             *

 ミストリアスで、――もとい〝魔法学校〟で過ごす最初の日。

 夕陽が沈みかけた頃になって、ようやく僕は先生の説教から解放されることができた。しかし大失敗のペナルティとして、明日からの〝特別授業〟を受けること、および〝無許可での魔法の使用〟を禁じられてしまった。

 厳しい管理体制下での抑圧された生活。
 これでは〝現実世界〟と変わらない。

「うえぇ……。酷い目にったぁ……」

 質素な夕食を終え、寄宿棟の自室へと戻った僕は、うつ伏せにベッドに倒れ込む。胸に少しの圧迫感はあるものの、幼さの残る体型のせいか、あまり違和感はない。

 硬く小さなベッドであおけになりながら、僕は低い天井をながめる。白一色のシンプルな部屋。ここのきゅうくつさも相まって、ことさら現実世界むこうを思い出してしまう。


「まぁー、悪いのはわたしだから……。でも誰にもをさせてなくて良かったぁ」

 僕の魔法によって学校の建造物や備品は盛大に焼き尽くしてしまったものの、周囲の皆のじんそくな消火行動により、一人の怪我人も出なかったのは幸いだった。

 当然ながら、僕も消火に参加しようとしたのだが――。によって新たな被害が出てしまいかねないと、その場での〝待機〟を厳命されてしまったのだ。

『燃やすだけでは飽き足らず、学校を氷漬けにするつもりですか!』

 あの先生のキンキンとした怒鳴り声が、いまだに耳に突き刺さっている。正直なところ、これまでの厳しい戦いや苦難よりも、現在の状況が最もつらいかもしれない。


 僕は気分を変えるべく、久しぶりに脳内にインストールされた〝取扱説明書マニュアル〟を展開させる。アインスとして冒険を始めた当初から、には何度も世話になった。

 すでに僕自身の知識となっている情報も多いのだが、まだまだミストリアスには知らないことが山のように残されている。前回の冒険ではネーデルタールのはしへと足を踏み入れはしたものの、あれでくにの雰囲気を味わい尽くしたとは言いがたい。

 当然ながら、この世界には〝アルディア大陸〟以外の大陸もあり、まだ僕が訪れたことのない多くの国々が存在する。取扱説明書マニュアルれっきょされた数々の知らない地名をながめながら、僕は広い世界に想いをせた。


 ためいきと共にベッドから立ち上がり、僕は小さな窓から外の様子をのぞる。すでに空には星々がきらめいており、現在の位置が何処どこの上空なのかもわからない。

「うーん。……ここからじゃあ、出られないかぁ」

 窓は〝ごろし〟になっており、頑丈そうなてつごうまで取り付けられている。この魔法学校には女生徒しか居ないということもあり、セキュリティの面では万全ではあるのだが。これでは生徒の方が、おりに入れられているようなものだ。

 いっそのこと、窓を破壊してしまおうという考えも頭をぎる。しかし、現在の僕は武器はおろか、いつもの〝ポーチ〟や〝財布〟さえも所持していない。


 さらに、さきほど取扱説明書マニュアルで再確認をしたのだが――。ミストリアスには温度変化による発火や凍結、大気の圧縮と拡散、瞬間的な元素の生成といった〝状態変化〟の魔法ばかりが存在し、直接的な爆破や破壊を行なえるものが見当たらないのだ。

「なんか、前にミルポルが『この世界の魔法はショボい』って言ってた気が……」

 ミルポルと出会ったのは二回目の侵入ダイブ、確か〝ようへい〟世界でのことだった。ほんの短い間だったとはいえ、と過ごした時間がとても懐かしく思えてくる。

「魔法かぁ……。もっとすっごい魔法が使えたらなぁ。こう、ばばーん!――って」

 昼間、僕が起こした大火の際も、超高温での燃焼による溶解や焼失のみが起きていた。これまでに僕が見てきた技能の中で〝破壊〟を主としたものとえば、ルゥランが使った〝こうじゅつ〟や〝闇魔法〟、そして僕の〝勇者の技〟くらいなもの――。

 そういえば、二番目のアバター〝アルフレド〟となった際、僕は無意識に〝勇者の技〟を発動できていた。それならば、現在の〝サンディ〟でもあるいは。

「うぅー。ダメダメ。また学校を壊したら、今度はお説教じゃ済まないかも」

 いくら学生の身分とはいえ、度を越した振る舞いをすれば厳格な裁きを受けることになるだろう。またしん殿でんばくされ、本物の〝監獄〟へと送られかねない。

             *

 煮詰まってしまった頭を冷やすため、僕はシャワーを浴びることに。部屋にけられたせまい浴室には鏡があり、そこには学校の制服である黒の魔法衣ローブとヘアバンドを身に着けた、長い金髪の少女が映っていた。

 僕の耳は真横に向かって長く、先端の部分がとがっている。年齢はアインスやエレナと同じ年代を想定したはずなのだが、エレナと比べて、かなり幼い顔立ちに見える。

「あは……。やっぱ、ちょっとだけ緊張しちゃうな」

 いくら自分のアバターとはいえ、女の子の肉体をじかに見るのは〝農夫〟の世界以来のことだ。……いや、入浴直後のレクシィとそうぐうしてしまった記憶もあるが、あれは例えるならば、素晴らしく貴重な美術品を意図せず鑑賞したようなもので――。

「ああー、もうっ! ヘンなことばっかり考えないで、早く入っちゃおう……」

 なるべく自身のからだを見ないよう、僕は無心でたくを済ませる。そして速やかに浴室へと入り、頭上から打ち付ける冷たい水で、入念に頭を冷やしたのだった。
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