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第1章 ファスティアの冒険者
第16話 闇の中での邂逅
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激しい戦闘音の元へと、急いで駆けつけたエルス。
辿り着いた祭壇の付近では、傷ついた老戦士が斧を手に、魔物の群れと対峙していた。
長い白髪とヒゲをたくわえ、小柄で筋骨逞しい肉体は、彼がドワーフ族であることを示している。
「おいッ、ジイさん! 大丈夫かッ!?」
老戦士はエルスの声に反応し、一瞬だけ視線を移すも――すぐに目の前の魔物へ視線を戻す。
直後、魔物の群れは嘲るような鳴き声をあげ、一斉に彼へと襲い掛かった!
「ぬぅぅん……ッ!」
まるで大切なものを守護するかのように。
老戦士は一歩も動かず、斧で魔物を叩き伏せ、あるいは弾き飛ばす!
かなりの手錬のようだが、押し寄せる攻撃のすべてを捌ききることはできず――次第に老戦士の体には傷が増え、赤い血が滴ってゆく。
そして、ついに彼は膝から崩れ、床に手をついてしまった。
「ジイさんッ! クソッ、なんとか助けにッ……!」
エルスは周囲の魔物を斬り払いながら少しずつ接近するが、間に合いそうにはない。アリサの方へ目を遣ると、なんと彼女は三体のオークを相手に、単独で相手をしていた。
そうしている間にも――未だ膝を折ったままの老戦士へ向かい、魔物の群れが飛びかかる。
――だが、その瞬間。
老戦士は、唱えていた魔法を発動させた!
「ゴラムゥ――ッ!」
土の精霊魔法・ゴラムが発動し、床についた手を起点に、黄金色の光が扇状に走る。
そして魔法の光に沿って出現した岩の針山が、周囲の魔物を足元から貫いた!
「ギャオオオオオ――ッ!」
岩の槍に貫かれ、魔物どもは断末魔を叫げながら、黒い塵と化してゆく。
同時に、魔法で生み出された針山も砕け散り、元の石床の上に軽く砂埃を吹かせてゆく。
「すげェなぁジイさんッ! よしッ、今そっちに行くぜ!」
老戦士の魔法のおかげで、こちらに群がっていた魔物も大方が排除された。エルスは残った魔物を片づけ、急いで老戦士の元へと駆けつけた。
「ジイさん大丈夫か? 俺の仲間が回復の魔法をかけてくれるから、ちょっと待っててくれよなッ!」
「私はカルミド……。その――できれば『ジイさん』というのは、やめてくれんか……?」
「わかった! 俺はエルス! よろしくな、カルミドのジイさんッ!」
「う……ううむぅ……? いや……、それよりも……」
戦士カルミドはエルスに、自らの背後で倒れている人物を手で示す。
「彼の手当てを……。先に……」
カルミドの後ろで横たわる人物。それは紛れもなく、エルスの目の前でオークに倒された〝あの少年〟だった。
「ああッ、こいつはッ!? おい、あんた! 大丈夫かッ!?」
「――待つのだ! 息はあるようだが、下手に動かしてはならん……!」
「すッ、すまねェ……。んんッ……?」
エルスは何か違和感を覚えたが、まずは二人の治療を行なわなければならない。
アリサの姿を探すと――彼女はオークの肩に乗り、脳天に深々と剣を突き立てているところだった。他の二体は既に、虚空へと溶け去ってしまったようだ。
「うへェ、あいつ強ェなあ……。おーい! アリサーッ!」
手を振っているエルスに気づき、アリサは魔物に注意を払いながら、慎重にこちらへとやってきた。
「エルス、大丈夫? この人は?」
「カルミドってジイさんだッ! さっきの『ズドーン!』ッてのは、このジイさんの魔法だぜッ!」
そう言ってエルスは、指を立てた掌を上下に振ってみせる。
どうやら、さきほどの魔法の凄さを、ジェスチャで表しているらしい。
「――おっとそれより、二人に回復を頼むぜ!」
「わ……私より先に、こちらの少年を……。あと『ジイさん』ではない……」
「はいっ! わかりました、カルミドさんっ!」
アリサは治癒の光魔法・セフィドの呪文を唱え、倒れたままの少年に手をかざす。
「――あれ? んー。セフィドっ!」
一瞬の戸惑いのあと、アリサは掌に生じた光を、カルミドの身体に押し当てた。
癒しの光により、ゆっくりとカルミドの傷口が塞がってゆく。
「んッ? アリサ、こっちのヤツが先だって……」
「その人、ケガしてないみたい。わたしの魔法じゃ、気絶とかは治せなくて」
「なんだッて? 怪我がない……? だって、確かにあの時……」
エルスは、この少年がオークの攻撃を受けた時のことを思い出す――。
さすがに、あの状況で無傷だったとは考えにくい。
しかし、砂埃こそ被っているものの、彼の身体に流血や目立った汚れなどはない。
身に着けた剣や服もごくありふれた物に見えるが、なにか特別な武具なのだろうか。穏やかに目を閉じた表情にも、苦痛に耐えているような様子は見られなかった。
「ふむう……。怪我が無いのなら、ひとまず安心だ……。ありがとう、アリサさん」
「はいっ! とりあえず、カルミドさんの傷は治りました」
アリサは横たわる少年を一瞥し、続いてエルスの顔を見る。
「――でも、この人もいるし、いったん戻ったほうがいいかも?」
「そうだな……。このままじゃ探索どころじゃねェし、拠点へ戻るか」
「では……。私が、この者を担ごう……」
そう言ったカルミドは少年を肩に担ぎ、エルスに大きく頷いてみせた。
「よしッ、なら俺とアリサで道を確保するぜ! そンじゃ、また囲まれちまう前に脱出だッ!」
辿り着いた祭壇の付近では、傷ついた老戦士が斧を手に、魔物の群れと対峙していた。
長い白髪とヒゲをたくわえ、小柄で筋骨逞しい肉体は、彼がドワーフ族であることを示している。
「おいッ、ジイさん! 大丈夫かッ!?」
老戦士はエルスの声に反応し、一瞬だけ視線を移すも――すぐに目の前の魔物へ視線を戻す。
直後、魔物の群れは嘲るような鳴き声をあげ、一斉に彼へと襲い掛かった!
「ぬぅぅん……ッ!」
まるで大切なものを守護するかのように。
老戦士は一歩も動かず、斧で魔物を叩き伏せ、あるいは弾き飛ばす!
かなりの手錬のようだが、押し寄せる攻撃のすべてを捌ききることはできず――次第に老戦士の体には傷が増え、赤い血が滴ってゆく。
そして、ついに彼は膝から崩れ、床に手をついてしまった。
「ジイさんッ! クソッ、なんとか助けにッ……!」
エルスは周囲の魔物を斬り払いながら少しずつ接近するが、間に合いそうにはない。アリサの方へ目を遣ると、なんと彼女は三体のオークを相手に、単独で相手をしていた。
そうしている間にも――未だ膝を折ったままの老戦士へ向かい、魔物の群れが飛びかかる。
――だが、その瞬間。
老戦士は、唱えていた魔法を発動させた!
「ゴラムゥ――ッ!」
土の精霊魔法・ゴラムが発動し、床についた手を起点に、黄金色の光が扇状に走る。
そして魔法の光に沿って出現した岩の針山が、周囲の魔物を足元から貫いた!
「ギャオオオオオ――ッ!」
岩の槍に貫かれ、魔物どもは断末魔を叫げながら、黒い塵と化してゆく。
同時に、魔法で生み出された針山も砕け散り、元の石床の上に軽く砂埃を吹かせてゆく。
「すげェなぁジイさんッ! よしッ、今そっちに行くぜ!」
老戦士の魔法のおかげで、こちらに群がっていた魔物も大方が排除された。エルスは残った魔物を片づけ、急いで老戦士の元へと駆けつけた。
「ジイさん大丈夫か? 俺の仲間が回復の魔法をかけてくれるから、ちょっと待っててくれよなッ!」
「私はカルミド……。その――できれば『ジイさん』というのは、やめてくれんか……?」
「わかった! 俺はエルス! よろしくな、カルミドのジイさんッ!」
「う……ううむぅ……? いや……、それよりも……」
戦士カルミドはエルスに、自らの背後で倒れている人物を手で示す。
「彼の手当てを……。先に……」
カルミドの後ろで横たわる人物。それは紛れもなく、エルスの目の前でオークに倒された〝あの少年〟だった。
「ああッ、こいつはッ!? おい、あんた! 大丈夫かッ!?」
「――待つのだ! 息はあるようだが、下手に動かしてはならん……!」
「すッ、すまねェ……。んんッ……?」
エルスは何か違和感を覚えたが、まずは二人の治療を行なわなければならない。
アリサの姿を探すと――彼女はオークの肩に乗り、脳天に深々と剣を突き立てているところだった。他の二体は既に、虚空へと溶け去ってしまったようだ。
「うへェ、あいつ強ェなあ……。おーい! アリサーッ!」
手を振っているエルスに気づき、アリサは魔物に注意を払いながら、慎重にこちらへとやってきた。
「エルス、大丈夫? この人は?」
「カルミドってジイさんだッ! さっきの『ズドーン!』ッてのは、このジイさんの魔法だぜッ!」
そう言ってエルスは、指を立てた掌を上下に振ってみせる。
どうやら、さきほどの魔法の凄さを、ジェスチャで表しているらしい。
「――おっとそれより、二人に回復を頼むぜ!」
「わ……私より先に、こちらの少年を……。あと『ジイさん』ではない……」
「はいっ! わかりました、カルミドさんっ!」
アリサは治癒の光魔法・セフィドの呪文を唱え、倒れたままの少年に手をかざす。
「――あれ? んー。セフィドっ!」
一瞬の戸惑いのあと、アリサは掌に生じた光を、カルミドの身体に押し当てた。
癒しの光により、ゆっくりとカルミドの傷口が塞がってゆく。
「んッ? アリサ、こっちのヤツが先だって……」
「その人、ケガしてないみたい。わたしの魔法じゃ、気絶とかは治せなくて」
「なんだッて? 怪我がない……? だって、確かにあの時……」
エルスは、この少年がオークの攻撃を受けた時のことを思い出す――。
さすがに、あの状況で無傷だったとは考えにくい。
しかし、砂埃こそ被っているものの、彼の身体に流血や目立った汚れなどはない。
身に着けた剣や服もごくありふれた物に見えるが、なにか特別な武具なのだろうか。穏やかに目を閉じた表情にも、苦痛に耐えているような様子は見られなかった。
「ふむう……。怪我が無いのなら、ひとまず安心だ……。ありがとう、アリサさん」
「はいっ! とりあえず、カルミドさんの傷は治りました」
アリサは横たわる少年を一瞥し、続いてエルスの顔を見る。
「――でも、この人もいるし、いったん戻ったほうがいいかも?」
「そうだな……。このままじゃ探索どころじゃねェし、拠点へ戻るか」
「では……。私が、この者を担ごう……」
そう言ったカルミドは少年を肩に担ぎ、エルスに大きく頷いてみせた。
「よしッ、なら俺とアリサで道を確保するぜ! そンじゃ、また囲まれちまう前に脱出だッ!」
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