ミストリアンクエスト

幸崎 亮

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第1章 ファスティアの冒険者

第15話 はじまりの異変

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 強敵・オークを撃破したものの、すぐさま別の魔物の群れに囲まれてしまったエルス。彼はぼうせんいっぽうになりながらも、どうにか群れをとどめる。

「キリがねェな! 一旦戻って、アリサたちと合流を……」

 次々と暗闇から現れる魔物たち。
 それらをはらいつつ、エルスは炎の魔法剣を松明たいまつ代わりにし、周囲の状況を探る。


「んッ? あれは……」

 エルスと魔物の群れをはさんだ向こう側――。
 ちょうどさいだんかげとなる場所に、倒れている少年の姿が確認できた。

 そして今まさに、そちらへと近づいてゆくオークの姿も――!


「おいッ、起きろッ! そこのあんたッ! 危ねェぞッ!」

 急いで助けに向かおうにも、交戦中のまま向かっては、少年の近くに敵を誘導するようなもの。エルスは魔物に応戦しつつ、大声で少年に呼びかける!


「……うっ……」

 エルスの何度目かの呼びかけで、少年の体がピクリと動いた。
 幸い、彼は生きていたようだ。

「あんたッ! 無事かッ!? とにかく、そこから逃げろ――ッ!」
「うぅん……? うわわぁっ――!?」

 目覚めた少年はゆっくりと上半身を起こし、自らに迫っているきょうに気づく。
 同時に、彼の眼前に迫ったオークはニヤリと笑うかのように口元をゆがめ、手にした棍棒を大きく振りかぶった――!


「逃げろッ! けるんだ――ッ!」
「わあぁぁぁぁ――ッ!」

 少年は叫び声をあげ、恐怖をはらけるかのように両手を突き出す!――すると彼のてのひらに、光の円盤が出現した!

 しかし、それが放たれるよりも早く――すくい上げるように振り抜かれたオークの棍棒が、少年の身体に直撃した――!


「ぅあぁ――ッ! ガハッ……!」

 強烈な一撃によって弾き飛ばされたからだは、大きく宙を舞い――そして無防備な体勢のまま、硬い石床に叩きつけられてしまった。

 オークは倒れたまま動かない少年をしばらくながめていたが、やがて満足したかのように、暗闇の中へと走り去ってゆく。


 牙による噛みつきや、捕食による攻撃を行なうことはあっても、魔物は基本的に食物のせっしゅを必要としない。人類のを止めることだけが、魔物かれらの存在理由なのだ。


「ああ――ッ! チッ、チクショウ――ッ!」

 目の前で起きたさんげきに、エルスは悔しさのあまり声をげる。倒された少年の状態も気になるが、彼自身の状況もあまりかんばしくはない。

 さらに、しょうもうの激しい魔法剣を使っているせいか、急激な魔力低下による激しい目眩めまいが、エルスをおそっていた。


「これ以上は……たねェな……ッ!」

 エルスはかくはんされそうになる意識を気力で繋ぎ留め、群がる魔物をなんとか片づける。そして剣に宿していた炎を消したことで、周囲の暗闇の濃度も増す。

 視界がグラグラとらぐ中、見たくもない現実をおおかくしてくれる暗闇に、エルスは安心感すら覚えた。


 だが暗闇の中からはようしゃなく、現実の脅威がおそかってくる。

 背後に現れたオークがエルスに対し、おもむろに棍棒を振り上げた!


「エルス――っ! 後ろっ!」

 聞き慣れた声に後ろを振り返り、一撃を剣の腹と左腕で受け止める! 直接的な打撃こそ防いだが、エルスの全身に凄まじい衝撃が伝わってゆく!

「――ぐおッ!? なんてッ、重さだッ……!」

 踏んばったじくあししびれたことで、エルスは大きく体勢をくずされる!

 さらに、彼が迎撃の構えをとる前に、再びオークが棍棒を振り上げた――!


「クソッ、足が痺れてやがるッ! 動けェ――!」
「――エンギルっ!」

 エルスに棍棒が振り下ろされる瞬間――アリサの光魔法・エンギルによって生じた光輪が、オークの腕を輪切りにした!

「ブフォ――ッ!」

 突然に片腕を失い、もんさけびを上げるオーク!
 その闇色の断面からは、絶え間なく〝黒〟があふしている!


「うおおォォ――ッ!」

 相棒が作ってくれたチャンスを逃すことなく。
 エルスは剣を両手で支え、全身で突き上げるようにオークののどもとを貫いた――!

 急所を貫かれたオークは、その動きをピタリと止める。
 やがて、すべてが黒い霧となってくうへと溶け消えていった。


「エルス、大丈夫?」
「ありがとよ、アリサッ!――でも、なるべく魔法は残しておいてくれ! あっちににんが居るんだッ!」
「わかったっ!」

 まだ生きている可能性はある。エルスは恐る恐る、あの少年が倒れた方向へ目を向けるが、暗さのためか姿は見当たらない。

「あれッ? 確かあのへんに……」

 痺れていた足の具合を確かめながら、エルスは不思議そうに首をかしげる。彼のそばまでやってきたアリサは左手を出し、小さく呪文を唱えた。


「ソルクス――っ!」

 光魔法・ソルクスが発動し、アリサのてのひらに、こうこうと輝く光球が出現する。

 光の球はゆっくりと浮上し――崩れた天井付近で停止すると、周囲の空間を明るく照らしはじめた!


 ソルクスは日常生活でも便利な照明魔法で、冒険者に限らず使用者は多い。

 実際に、これと同じものがりょくとうにもともされており、付近で戦っている冒険者たちの頭上にも多く浮かんでいる。


「これでよしっ。まだ余裕はあるから、大丈夫だよ?」
「便利だなぁ、光魔法。なんとか俺も使えりゃなぁ……」
「きっとエルスなら大丈夫だよ。それより、ケガした人はどこだろ?」
「ああ……。確か、あっちに――」

 エルスは明るくなった床へ視線を戻すが、やはり少年の姿は無い。

 だが、ちょうその時――。
 あの祭壇の付近から響きはじめた激しいけんげきが、二人の耳にも入ってきた!
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