ミストリアンクエスト

幸崎 亮

文字の大きさ
18 / 105
第1章 ファスティアの冒険者

第18話 勇者の風格

しおりを挟む
 魔物の群れをくぐきょてん近くまで戻ることができたいっこう

「エルス殿! ご無事でしたか!」

 エルスらの姿を見るなり、自警団長カダンが大声で出迎える。
 彼にも軽い流血はあるが、どうやら元気のようだ。


「団長ッ! ふぅ、やっと戻れたぜ」
「団長さん、この人たちを安全な所に」
「おお、ありがたい! 負傷者を救助してくれたのですな! おや、そちらの方は……」

 先ほどからカルミドは、カダンと目を合わせることを避けるかのように顔を伏せている。どうやら意図的に、彼との会話を避けているようだ。


「彼の……手当てを……」
「ご協力、感謝いたします……」

 手短に少年の救護を頼むカルミドに対し、カダンは神妙な顔つきで頭を下げる。
 そんな二人の様子を見て、エルスは興味深げに身を乗り出してみせた。


「おッ? なんだ、二人は知り合いなのか? それにしては気まず……」
「――エルスっ! しーっ!」
「ハッハッハ……、お気遣いなくアリサ殿! ともかく、拠点へ戻りましょうか」


 カダンに連れられ、エルスらが歩きだそうとした、まさにその時――。
 周囲の冒険者たちから、にわどよめきや歓声が起こりはじめた。


「なんてことだ! まさかアンタは!」
「ロイマンか? 本物なのかッ!?」
「うおおおッ! 助かった!  勇者が来てくれたぞぉぉ!」
「――なッ、なんだって!? ロイマンは、どこだ!?」

 ロイマン。
 勇者。

 耳に飛び込んできた単語に反応し、思わずエルスは声の方向へ目をらす。そこには魔法の明かりに照らされ、ふうどうどうたたずむ、二人の姿があった。

 それはまぎれもなく、魔剣ヴェルブレイズを肩にかついだ勇者ロイマンと、新たに勇者の仲間となったラァテルだ。


 そして全員の注目が集まる中、不意にラァテルの姿が視界から消える――!


ッ! ショウ――ッ!」

 目にも留まらぬ速度で戦場を駆け回り、ラァテルは素手による連撃で魔物たちを次々と粉砕する!

 対して、ロイマンは魔剣を床に突き立て、右手を天へとかかげた!


「マフォルスッ――!」

 炎の精霊魔法・マフォルスが発動し、ロイマンのてのひらに赤い魔法陣が出現する。
 魔法陣からは巨大な火球が撃ち出され――天井付近で炸裂すると同時に、周囲に炎の雨を降らせた!


 着弾地点には激しい火柱が巻き起こり、炎に呑まれた魔物どもが、あちらこちらで黒い霧と化してゆく。

 派手な魔法に、冒険者らの注目がロイマンに集まる中、彼は魔剣を抜き放ち、たけだけしくかちどきをあげた!


「聞けッ! 冒険者たちよッ!――ここから先は我々が引き受けた! 諸君らには、全員で負傷者の救助を願いたいッ!」

 ロイマンの言葉に歓声が上がると共に、血気盛んな冒険者らからは不満げな声もれてくる。それを感じ取ったロイマンは、再び高らかに声をげる。

「ファスティアの冒険者よ! 諸君らは勇敢に戦い、良く耐えたッ! 一人の仲間も失わぬためには、皆の協力が必要である! 我ら冒険者は、同志! 仲間! 決して仲間を見捨ててはならないのだッ!」


 勇者の真っ直ぐな想いが伝わったのか――。
 今度こそ、冒険者たちからは大歓声が上がった!


「なッ……!? あれが、あのロイマンなのか……?」

 ロイマンが示した、真の勇者としての風格。
 酒場でグラスを傾けていた彼との変わりように、エルスは戸惑いすらみせる。

 しかし、すぐに思い出した。
 あれこそが幼いエルス出会い・憧れ・目標とした、勇者ロイマンの姿だったのだと。


「すごいねぇ。みんな言うこと聞いちゃった。わたしたちはどうしよっか?」
「むろん、ご指示通り救助をお願いします! さあカルミド殿はこちらへ!」
「う……うむ……」

 カダンはカルミドを連れ、一足先に拠点へと戻ってゆく。

 エルスたちが取り残されようにその場で突っ立っていると、二人の前に、生き残った魔物が飛び出してきた!


ハァッ……! センッ!」

 エルスは応戦すべく剣を抜く――が! 間髪いれずに現れたラァテルが、魔物を付近の群れごと、一瞬で消し飛ばしてしまった!


「時間を無駄にするな」
「ラァテルッ! わかってるッての!」

 エルスが言い終えるよりも早く、ラァテルの姿は目の前から消え――次の瞬間には、遠く離れた魔物をくうへとかえしていた。


「チッ! アイツに言われると、無性に腹立つぜ!」
「あの人に魔物は任せて、わたしたちも救助頑張ろっか」


 エルスは無言でうなずき、アリサと手分けしながら救助へと取り掛かる。

 魔法の灯りの浮かぶ周囲を見回すと、すぐに付近で倒れている男に気づいた。
 エルスは彼に肩を貸しながら、拠点を目指すことにする。


「……イテテ……。悪ぃなニイちゃん。足をやられちまってな……」
「大丈夫さ! 魔物はアイツが片づけてくれるし、ゆっくり行こうぜ!」
「あのエルフの冒険者、ありゃこうじゅつの使い手だな」

 男はラァテルの方向をあごで示し、分析するような口調で言う。

 彼いわく、魔力素マナを消費する魔法とは違い、気功術は自身の〝命〟を削って繰り出される技だそうだ。

 呪文の詠唱を必要とせず、非常に強力である反面――。
 当然ながら、使用には〝死〟というリスクが付きまとう。

「命を削るッて……。なんだッて、そんな危ねェモンを……?」
「さぁーな。長生きなエルフ様の特権ってヤツだろうさ。まっ、俺らみてぇなフツーの人間が使えば、速攻で霧になっちまうわな!」


 冒険者の男と話しながら、無事に拠点へと帰還したエルス。
 思った以上に負傷者の数は多いようで、この大広間も治療を待つ者たちであふれていた。


「ありがとよ、ニイちゃん。アンタの戦いぶりも見てたが、なかなか見事だったぜ」
「そ……、そうか? ありがとなッ!」
「良いことも悪いことも、誰かが見てるモンさ。お互い頑張っていこうや」

 エルスは男と別れ、次の救助へ向かう。
 途中でアリサと何度かすれ違ったが――彼女は両肩に、屈強な男たちを軽々とかついでいた。




 何度目かの救助を終え、アリサやカダンと合流したエルス。
 すると、にぶい音と共に遺跡全体に小さな振動が走り、崩れた天井からは小さな破片がパラパラと降り注ぐ。

「今度のれはデケェな。ロイマンたちが、何か見つけたのか?」
「フム。自分が見てまいります! お二方もしばしの休息を!」

 カダンは数人の団員らを呼びつけ、彼らを率いてあわただしげに扉から出ていってしまった。エルスは彼らを見送り、冷たい石の床に腰を下ろす。


「団長、元気だよなぁ。まッ、お言葉に甘えて、ちょっと休ませてもらおうぜ!」
「そうだね。――あっ、お姉ちゃん!?」

 一息ついたのも束の間。
 救護室の方へ目をったアリサが突然に声を上げ、そちらへと走り去ってしまった。

「おいッ、アリサ! 〝お姉ちゃん〟って、まさか……」

 彼女が発した言葉に対し、背筋に冷たい悪寒を感じたエルス。
 仕方なく彼もアリサを追い、隣の部屋へ向かうことにした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...