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第1章 ファスティアの冒険者
第18話 勇者の風格
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魔物の群れを掻い潜り拠点近くまで戻ることができた一行。
「エルス殿! ご無事でしたか!」
エルスらの姿を見るなり、自警団長カダンが大声で出迎える。
彼にも軽い流血はあるが、どうやら元気のようだ。
「団長ッ! ふぅ、やっと戻れたぜ」
「団長さん、この人たちを安全な所に」
「おお、ありがたい! 負傷者を救助してくれたのですな! おや、そちらの方は……」
先ほどからカルミドは、カダンと目を合わせることを避けるかのように顔を伏せている。どうやら意図的に、彼との会話を避けているようだ。
「彼の……手当てを……」
「ご協力、感謝いたします……」
手短に少年の救護を頼むカルミドに対し、カダンは神妙な顔つきで頭を下げる。
そんな二人の様子を見て、エルスは興味深げに身を乗り出してみせた。
「おッ? なんだ、二人は知り合いなのか? それにしては気まず……」
「――エルスっ! しーっ!」
「ハッハッハ……、お気遣いなくアリサ殿! ともかく、拠点へ戻りましょうか」
カダンに連れられ、エルスらが歩きだそうとした、まさにその時――。
周囲の冒険者たちから、矢庭に響きや歓声が起こりはじめた。
「なんてことだ! まさかアンタは!」
「ロイマンか? 本物なのかッ!?」
「うおおおッ! 助かった! 勇者が来てくれたぞぉぉ!」
「――なッ、なんだって!? ロイマンは、どこだ!?」
ロイマン。
勇者。
耳に飛び込んできた単語に反応し、思わずエルスは声の方向へ目を凝らす。そこには魔法の明かりに照らされ、威風堂々と佇む、二人の姿があった。
それは紛れもなく、魔剣ヴェルブレイズを肩に担いだ勇者ロイマンと、新たに勇者の仲間となったラァテルだ。
そして全員の注目が集まる中、不意にラァテルの姿が視界から消える――!
「破ッ! 衝――ッ!」
目にも留まらぬ速度で戦場を駆け回り、ラァテルは素手による連撃で魔物たちを次々と粉砕する!
対して、ロイマンは魔剣を床に突き立て、右手を天へと掲げた!
「マフォルスッ――!」
炎の精霊魔法・マフォルスが発動し、ロイマンの掌に赤い魔法陣が出現する。
魔法陣からは巨大な火球が撃ち出され――天井付近で炸裂すると同時に、周囲に炎の雨を降らせた!
着弾地点には激しい火柱が巻き起こり、炎に呑まれた魔物どもが、あちらこちらで黒い霧と化してゆく。
派手な魔法に、冒険者らの注目がロイマンに集まる中、彼は魔剣を抜き放ち、猛々しく勝鬨をあげた!
「聞けッ! 冒険者たちよッ!――ここから先は我々が引き受けた! 諸君らには、全員で負傷者の救助を願いたいッ!」
ロイマンの言葉に歓声が上がると共に、血気盛んな冒険者らからは不満げな声も漏れてくる。それを感じ取ったロイマンは、再び高らかに声を叫げる。
「ファスティアの冒険者よ! 諸君らは勇敢に戦い、良く耐えたッ! 一人の仲間も失わぬためには、皆の協力が必要である! 我ら冒険者は、同志! 仲間! 決して仲間を見捨ててはならないのだッ!」
勇者の真っ直ぐな想いが伝わったのか――。
今度こそ、冒険者たちからは大歓声が上がった!
「なッ……!? あれが、あのロイマンなのか……?」
ロイマンが示した、真の勇者としての風格。
酒場でグラスを傾けていた彼との変わりように、エルスは戸惑いすらみせる。
しかし、すぐに思い出した。
あれこそが幼いエルス出会い・憧れ・目標とした、勇者ロイマンの姿だったのだと。
「すごいねぇ。みんな言うこと聞いちゃった。わたしたちはどうしよっか?」
「むろん、ご指示通り救助をお願いします! さあカルミド殿はこちらへ!」
「う……うむ……」
カダンはカルミドを連れ、一足先に拠点へと戻ってゆく。
エルスたちが取り残されようにその場で突っ立っていると、二人の前に、生き残った魔物が飛び出してきた!
「破ッ……! 閃ッ!」
エルスは応戦すべく剣を抜く――が! 間髪いれずに現れたラァテルが、魔物を付近の群れごと、一瞬で消し飛ばしてしまった!
「時間を無駄にするな」
「ラァテルッ! わかってるッての!」
エルスが言い終えるよりも早く、ラァテルの姿は目の前から消え――次の瞬間には、遠く離れた魔物を虚空へと還していた。
「チッ! アイツに言われると、無性に腹立つぜ!」
「あの人に魔物は任せて、わたしたちも救助頑張ろっか」
エルスは無言で頷き、アリサと手分けしながら救助へと取り掛かる。
魔法の灯りの浮かぶ周囲を見回すと、すぐに付近で倒れている男に気づいた。
エルスは彼に肩を貸しながら、拠点を目指すことにする。
「……イテテ……。悪ぃなニイちゃん。足をやられちまってな……」
「大丈夫さ! 魔物はアイツが片づけてくれるし、ゆっくり行こうぜ!」
「あのエルフの冒険者、ありゃ気功術の使い手だな」
男はラァテルの方向を顎で示し、分析するような口調で言う。
彼いわく、魔力素を消費する魔法とは違い、気功術は自身の〝命〟を削って繰り出される技だそうだ。
呪文の詠唱を必要とせず、非常に強力である反面――。
当然ながら、使用には〝死〟というリスクが付きまとう。
「命を削るッて……。なんだッて、そんな危ねェモンを……?」
「さぁーな。長生きなエルフ様の特権ってヤツだろうさ。まっ、俺らみてぇなフツーの人間が使えば、速攻で霧になっちまうわな!」
冒険者の男と話しながら、無事に拠点へと帰還したエルス。
思った以上に負傷者の数は多いようで、この大広間も治療を待つ者たちで溢れていた。
「ありがとよ、ニイちゃん。アンタの戦いぶりも見てたが、なかなか見事だったぜ」
「そ……、そうか? ありがとなッ!」
「良いことも悪いことも、誰かが見てるモンさ。お互い頑張っていこうや」
エルスは男と別れ、次の救助へ向かう。
途中でアリサと何度かすれ違ったが――彼女は両肩に、屈強な男たちを軽々と担いでいた。
何度目かの救助を終え、アリサやカダンと合流したエルス。
すると、鈍い音と共に遺跡全体に小さな振動が走り、崩れた天井からは小さな破片がパラパラと降り注ぐ。
「今度の揺れはデケェな。ロイマンたちが、何か見つけたのか?」
「フム。自分が見てまいります! お二方も暫しの休息を!」
カダンは数人の団員らを呼びつけ、彼らを率いて慌しげに扉から出ていってしまった。エルスは彼らを見送り、冷たい石の床に腰を下ろす。
「団長、元気だよなぁ。まッ、お言葉に甘えて、ちょっと休ませてもらおうぜ!」
「そうだね。――あっ、お姉ちゃん!?」
一息ついたのも束の間。
救護室の方へ目を遣ったアリサが突然に声を上げ、そちらへと走り去ってしまった。
「おいッ、アリサ! 〝お姉ちゃん〟って、まさか……」
彼女が発した言葉に対し、背筋に冷たい悪寒を感じたエルス。
仕方なく彼もアリサを追い、隣の部屋へ向かうことにした。
「エルス殿! ご無事でしたか!」
エルスらの姿を見るなり、自警団長カダンが大声で出迎える。
彼にも軽い流血はあるが、どうやら元気のようだ。
「団長ッ! ふぅ、やっと戻れたぜ」
「団長さん、この人たちを安全な所に」
「おお、ありがたい! 負傷者を救助してくれたのですな! おや、そちらの方は……」
先ほどからカルミドは、カダンと目を合わせることを避けるかのように顔を伏せている。どうやら意図的に、彼との会話を避けているようだ。
「彼の……手当てを……」
「ご協力、感謝いたします……」
手短に少年の救護を頼むカルミドに対し、カダンは神妙な顔つきで頭を下げる。
そんな二人の様子を見て、エルスは興味深げに身を乗り出してみせた。
「おッ? なんだ、二人は知り合いなのか? それにしては気まず……」
「――エルスっ! しーっ!」
「ハッハッハ……、お気遣いなくアリサ殿! ともかく、拠点へ戻りましょうか」
カダンに連れられ、エルスらが歩きだそうとした、まさにその時――。
周囲の冒険者たちから、矢庭に響きや歓声が起こりはじめた。
「なんてことだ! まさかアンタは!」
「ロイマンか? 本物なのかッ!?」
「うおおおッ! 助かった! 勇者が来てくれたぞぉぉ!」
「――なッ、なんだって!? ロイマンは、どこだ!?」
ロイマン。
勇者。
耳に飛び込んできた単語に反応し、思わずエルスは声の方向へ目を凝らす。そこには魔法の明かりに照らされ、威風堂々と佇む、二人の姿があった。
それは紛れもなく、魔剣ヴェルブレイズを肩に担いだ勇者ロイマンと、新たに勇者の仲間となったラァテルだ。
そして全員の注目が集まる中、不意にラァテルの姿が視界から消える――!
「破ッ! 衝――ッ!」
目にも留まらぬ速度で戦場を駆け回り、ラァテルは素手による連撃で魔物たちを次々と粉砕する!
対して、ロイマンは魔剣を床に突き立て、右手を天へと掲げた!
「マフォルスッ――!」
炎の精霊魔法・マフォルスが発動し、ロイマンの掌に赤い魔法陣が出現する。
魔法陣からは巨大な火球が撃ち出され――天井付近で炸裂すると同時に、周囲に炎の雨を降らせた!
着弾地点には激しい火柱が巻き起こり、炎に呑まれた魔物どもが、あちらこちらで黒い霧と化してゆく。
派手な魔法に、冒険者らの注目がロイマンに集まる中、彼は魔剣を抜き放ち、猛々しく勝鬨をあげた!
「聞けッ! 冒険者たちよッ!――ここから先は我々が引き受けた! 諸君らには、全員で負傷者の救助を願いたいッ!」
ロイマンの言葉に歓声が上がると共に、血気盛んな冒険者らからは不満げな声も漏れてくる。それを感じ取ったロイマンは、再び高らかに声を叫げる。
「ファスティアの冒険者よ! 諸君らは勇敢に戦い、良く耐えたッ! 一人の仲間も失わぬためには、皆の協力が必要である! 我ら冒険者は、同志! 仲間! 決して仲間を見捨ててはならないのだッ!」
勇者の真っ直ぐな想いが伝わったのか――。
今度こそ、冒険者たちからは大歓声が上がった!
「なッ……!? あれが、あのロイマンなのか……?」
ロイマンが示した、真の勇者としての風格。
酒場でグラスを傾けていた彼との変わりように、エルスは戸惑いすらみせる。
しかし、すぐに思い出した。
あれこそが幼いエルス出会い・憧れ・目標とした、勇者ロイマンの姿だったのだと。
「すごいねぇ。みんな言うこと聞いちゃった。わたしたちはどうしよっか?」
「むろん、ご指示通り救助をお願いします! さあカルミド殿はこちらへ!」
「う……うむ……」
カダンはカルミドを連れ、一足先に拠点へと戻ってゆく。
エルスたちが取り残されようにその場で突っ立っていると、二人の前に、生き残った魔物が飛び出してきた!
「破ッ……! 閃ッ!」
エルスは応戦すべく剣を抜く――が! 間髪いれずに現れたラァテルが、魔物を付近の群れごと、一瞬で消し飛ばしてしまった!
「時間を無駄にするな」
「ラァテルッ! わかってるッての!」
エルスが言い終えるよりも早く、ラァテルの姿は目の前から消え――次の瞬間には、遠く離れた魔物を虚空へと還していた。
「チッ! アイツに言われると、無性に腹立つぜ!」
「あの人に魔物は任せて、わたしたちも救助頑張ろっか」
エルスは無言で頷き、アリサと手分けしながら救助へと取り掛かる。
魔法の灯りの浮かぶ周囲を見回すと、すぐに付近で倒れている男に気づいた。
エルスは彼に肩を貸しながら、拠点を目指すことにする。
「……イテテ……。悪ぃなニイちゃん。足をやられちまってな……」
「大丈夫さ! 魔物はアイツが片づけてくれるし、ゆっくり行こうぜ!」
「あのエルフの冒険者、ありゃ気功術の使い手だな」
男はラァテルの方向を顎で示し、分析するような口調で言う。
彼いわく、魔力素を消費する魔法とは違い、気功術は自身の〝命〟を削って繰り出される技だそうだ。
呪文の詠唱を必要とせず、非常に強力である反面――。
当然ながら、使用には〝死〟というリスクが付きまとう。
「命を削るッて……。なんだッて、そんな危ねェモンを……?」
「さぁーな。長生きなエルフ様の特権ってヤツだろうさ。まっ、俺らみてぇなフツーの人間が使えば、速攻で霧になっちまうわな!」
冒険者の男と話しながら、無事に拠点へと帰還したエルス。
思った以上に負傷者の数は多いようで、この大広間も治療を待つ者たちで溢れていた。
「ありがとよ、ニイちゃん。アンタの戦いぶりも見てたが、なかなか見事だったぜ」
「そ……、そうか? ありがとなッ!」
「良いことも悪いことも、誰かが見てるモンさ。お互い頑張っていこうや」
エルスは男と別れ、次の救助へ向かう。
途中でアリサと何度かすれ違ったが――彼女は両肩に、屈強な男たちを軽々と担いでいた。
何度目かの救助を終え、アリサやカダンと合流したエルス。
すると、鈍い音と共に遺跡全体に小さな振動が走り、崩れた天井からは小さな破片がパラパラと降り注ぐ。
「今度の揺れはデケェな。ロイマンたちが、何か見つけたのか?」
「フム。自分が見てまいります! お二方も暫しの休息を!」
カダンは数人の団員らを呼びつけ、彼らを率いて慌しげに扉から出ていってしまった。エルスは彼らを見送り、冷たい石の床に腰を下ろす。
「団長、元気だよなぁ。まッ、お言葉に甘えて、ちょっと休ませてもらおうぜ!」
「そうだね。――あっ、お姉ちゃん!?」
一息ついたのも束の間。
救護室の方へ目を遣ったアリサが突然に声を上げ、そちらへと走り去ってしまった。
「おいッ、アリサ! 〝お姉ちゃん〟って、まさか……」
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