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第1章 ファスティアの冒険者
第19話 美しき賢者
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拠点広間の隣――。
救護室として使われている部屋には、いつになく嬉しそうな表情をしたアリサと、エルスの予想通りの人物の姿があった。
「やっぱり……。リリィナかよ……」
長く美しい金髪に、エルフ族の特徴である尖った耳と透き通るような白い肌。
純白の薄布で織られた魔法衣を身に纏い、大きな宝玉の付いた長杖を持った彼女は、女神と呼んでも差し支えないほどの神々しさを放っている。
エルスの声に反応し、リリィナは落ち着いた様子で、澄みきった青い瞳をこちらへ向ける。
「あら、エルス? 『リリィナおねぇちゃん大好きです!』って ご挨拶は、もうしてくれないの?」
「いつのことだよッ!? 俺はもう、ガキじゃねぇッて!」
「わたし、まだリリィナお姉ちゃんって呼んでるよ? エルスも気にしなくていいのに。――それより、お姉ちゃん。こんな所で何してるの?」
お姉ちゃんと呼んではいるが、アリサとリリィナには血縁関係は無い。
リリィナはアリサの祖父であるラシードと共に冒険者をしていたこともあり、エルスらが幼少の頃より交流のある人物だ。
かつては自由に世界を飛び回っていたリリィナも、今や〝里〟の重要な立場にいる人物となり、近ごろではアリサたちと顔を合わせる機会も減っていた。
「そうね、色々とあるけれど。まずは、救護室の人たちを助けることが目的かしら?」
リリィナは優しく微笑むと、離れたベッドで呻き声をあげている冒険者へ長杖をかざす。そして、静かに呪文を唱え始めた。
「セフィルド――!」
治癒の光魔法・セフィルドが発動し、杖の先端に温かな癒しの光が宿る。
光は帯のように照射され、負傷した冒険者の身体をクルクルと包み込みながら瞬く間に傷を癒した。
やがて苦しげに呻いていた冒険者がゆっくりと起き上がり、リリィナの存在に気づく。
「……ああっ!? ありがとうございますっ! 女神様っ!」
リリィナは美しい笑顔を以って彼に応え、再び高位の治癒魔法で次々と怪我人を癒してゆく。
治療を受けた冒険者からは口々に、彼女に対する感謝と崇拝の入り混じった声があがりはじめる。そんな光景に、エルスはピクピクと顔の筋肉を引きつらせた。
「めッ……女神さま……? あのリリィナの、どこがだよ……」
「お姉ちゃん、すごいなぁ。私も手伝おっかな」
そう言って呪文を唱えかけたアリサだったが、リリィナが優しく彼女を制止する。
「アリサ、あなたの魔力素は随分と消耗しているわ。無理をしないで少し休みなさい?」
「わぁ。よくわかったね?」
魔力素との高い親和性を秘めるエルフ族は、人類や自然に宿る魔力素の大きさや流れを視る能力を有している――。
そう説明するリリィナに、エルスはつまらないとばかりに舌打ちし、不満を表すように頭の後ろで手を組んだ。
「へッ。エルフって良いよなァ。ラァテルの気功術ッてヤツとかさッ! なんか不公平だぜ!」
「ラァテル? エルス、あの子に会ったの?」
エルスの出した名前に、珍しくリリィナが驚いた表情をする。
対して、エルスは不貞腐れたかのように、彼女を横目で睨みつけた。
「……あぁ? 会ったも何も、さっきロイマンと居ただろ。それに直接闘りあったり、邪魔されたり。なんか色々あったぜ」
「強かったもんね、あの人」
「まぁ……結果的に助けられたし、すげェ強いのは認めるけどさ。ちょっと口を開きゃ『時間の無駄だ』しか言わねェしよ」
ラァテルと再会したことで悔しさと対抗心が蘇ったのか、エルスは彼に対する不満を挙げ連ねる。そんな言葉が耳に入っているのか、さきほどからリリィナは口元に指を当て、考えるジェスチャを続けている。
「そう……。あの子が、ここに……」
「なんだよ? アイツと知り合いなのか?」
その問いには答えず、リリィナは再び思考の動作のままで黙り込む。
エルスとアリサは互いに顔を見合わせ、彼女の次の言葉を待つが沈黙だけが続いた。どうやら、すでに会話は終了していたらしい。
やがてリリィナはエルスたちから離れ――。
再び負傷者たちに対して、淡々と治療を施しはじめるのだった。
救護室として使われている部屋には、いつになく嬉しそうな表情をしたアリサと、エルスの予想通りの人物の姿があった。
「やっぱり……。リリィナかよ……」
長く美しい金髪に、エルフ族の特徴である尖った耳と透き通るような白い肌。
純白の薄布で織られた魔法衣を身に纏い、大きな宝玉の付いた長杖を持った彼女は、女神と呼んでも差し支えないほどの神々しさを放っている。
エルスの声に反応し、リリィナは落ち着いた様子で、澄みきった青い瞳をこちらへ向ける。
「あら、エルス? 『リリィナおねぇちゃん大好きです!』って ご挨拶は、もうしてくれないの?」
「いつのことだよッ!? 俺はもう、ガキじゃねぇッて!」
「わたし、まだリリィナお姉ちゃんって呼んでるよ? エルスも気にしなくていいのに。――それより、お姉ちゃん。こんな所で何してるの?」
お姉ちゃんと呼んではいるが、アリサとリリィナには血縁関係は無い。
リリィナはアリサの祖父であるラシードと共に冒険者をしていたこともあり、エルスらが幼少の頃より交流のある人物だ。
かつては自由に世界を飛び回っていたリリィナも、今や〝里〟の重要な立場にいる人物となり、近ごろではアリサたちと顔を合わせる機会も減っていた。
「そうね、色々とあるけれど。まずは、救護室の人たちを助けることが目的かしら?」
リリィナは優しく微笑むと、離れたベッドで呻き声をあげている冒険者へ長杖をかざす。そして、静かに呪文を唱え始めた。
「セフィルド――!」
治癒の光魔法・セフィルドが発動し、杖の先端に温かな癒しの光が宿る。
光は帯のように照射され、負傷した冒険者の身体をクルクルと包み込みながら瞬く間に傷を癒した。
やがて苦しげに呻いていた冒険者がゆっくりと起き上がり、リリィナの存在に気づく。
「……ああっ!? ありがとうございますっ! 女神様っ!」
リリィナは美しい笑顔を以って彼に応え、再び高位の治癒魔法で次々と怪我人を癒してゆく。
治療を受けた冒険者からは口々に、彼女に対する感謝と崇拝の入り混じった声があがりはじめる。そんな光景に、エルスはピクピクと顔の筋肉を引きつらせた。
「めッ……女神さま……? あのリリィナの、どこがだよ……」
「お姉ちゃん、すごいなぁ。私も手伝おっかな」
そう言って呪文を唱えかけたアリサだったが、リリィナが優しく彼女を制止する。
「アリサ、あなたの魔力素は随分と消耗しているわ。無理をしないで少し休みなさい?」
「わぁ。よくわかったね?」
魔力素との高い親和性を秘めるエルフ族は、人類や自然に宿る魔力素の大きさや流れを視る能力を有している――。
そう説明するリリィナに、エルスはつまらないとばかりに舌打ちし、不満を表すように頭の後ろで手を組んだ。
「へッ。エルフって良いよなァ。ラァテルの気功術ッてヤツとかさッ! なんか不公平だぜ!」
「ラァテル? エルス、あの子に会ったの?」
エルスの出した名前に、珍しくリリィナが驚いた表情をする。
対して、エルスは不貞腐れたかのように、彼女を横目で睨みつけた。
「……あぁ? 会ったも何も、さっきロイマンと居ただろ。それに直接闘りあったり、邪魔されたり。なんか色々あったぜ」
「強かったもんね、あの人」
「まぁ……結果的に助けられたし、すげェ強いのは認めるけどさ。ちょっと口を開きゃ『時間の無駄だ』しか言わねェしよ」
ラァテルと再会したことで悔しさと対抗心が蘇ったのか、エルスは彼に対する不満を挙げ連ねる。そんな言葉が耳に入っているのか、さきほどからリリィナは口元に指を当て、考えるジェスチャを続けている。
「そう……。あの子が、ここに……」
「なんだよ? アイツと知り合いなのか?」
その問いには答えず、リリィナは再び思考の動作のままで黙り込む。
エルスとアリサは互いに顔を見合わせ、彼女の次の言葉を待つが沈黙だけが続いた。どうやら、すでに会話は終了していたらしい。
やがてリリィナはエルスたちから離れ――。
再び負傷者たちに対して、淡々と治療を施しはじめるのだった。
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