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第1章 ファスティアの冒険者
第31話 交わる真相
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いったい〝はじまりの遺跡〟で、何が起こっていたのか?
昨日、エルスたちが帰路についた後の出来事――。
そして自警団による夜を徹しての調査結果などを、カダンは丁寧に説明する。
自警団の魔術士・ザインが騒動の張本人であったこと。あの杖の正体が〝降魔の杖〟と呼ばれる、敵地侵略用の兵器であること。さらに杖の効果によって、ザイン自身も異形の姿へと変貌していたこと。
最後に、すでに彼は〝この世に存在していないこと〟を、カダンは二人に話した。
「ザインさんって、あの〝びゅーん〟ってしてくれた人ですよね?」
「そうです。高度な魔法の使い手である彼の入団を、我らも喜んでいたのですけどね……」
カダンは悲しそうに口を曲げながら、昨日と変わらずボサボサの頭を掻く。
どうやらこれが、彼の標準的な髪型のようだ。
「ザインの正体は盗賊。それも近ごろ我々の手を煩わせている、〝ジェイド盗賊団〟の一員と判明しました」
「とッ、盗賊だってッ!?」
「はい……。ザインの飲み仲間の話では、彼は酒が入ると人が変わったかのように、自らの〝武勇伝〟を捲し立てていたのだとか……」
酒豪だったザインはこれまでも何度か、酒場でトラブルを起こしていた。その際に幾度となく、『俺は盗賊団の幹部だぞ』と口走っていたようだ。
そうした諍いは団長であるカダンの耳にも入っていたのだが、普段の人柄の良さと魔術士としての優秀さから、酒の勢いでのホラ話として不問となっていた。
それらの事実を話し、カダンは申し訳なさそうに頭を下げた。
「でもあの人って、わたしたちと一緒に遺跡に向かったはずじゃ?」
「ええ。どうやら一度現場へ行ったあとに魔法で街へ戻り、我々と合流したようです。これで〝風の精霊石〟の在庫が、やけに減っていた理由も判明しました……」
あくまでも状況証拠ではあるが――自警団所属の魔術士らの調査により『術者のみを高速移動させる〝フレイト〟を、精霊石を用いて発動したならば、時間的にも往復可能』と、いった結論が出たようだ。
「アイツはなんだッて、そんな面倒なことを?」
「今となっては……。もう……本人は存在しませんので……」
「団長さん……」
ザインをよほど信頼していたのか。カダンの表情は、見るからに暗い。
「……さて、本題です。遺跡で出会った変人――ゴホンッ! もとい、旅の魔術士殿によると、『例の杖は、もう一本ファスティアに存在していた』とのこと」
「ああ、知ってる……。実は、それを売ったのが俺なんだ……。だから……」
「ええ、そのようですな! なんとかファスティアを発つ前に、あの店主の女性に話を訊くことができました。それはもう、ギリギリで!」
カダンは笑いながら、バッグから取り出した紙束を誇らしげに揺らしてみせる。
それは彼ら自警団員の、徹夜によって齎された〝成果〟だった。
「やっぱり……。俺のせいで店を……?」
「エルス殿、何か勘違いをされておりませんか? あの店は、昨日いっぱいで閉店だったのですよ? 神殿騎士の方からも正式に通知が来ておりましたゆえ」
「えッ? 閉店……?」
カダンの言葉に、エルスは冒険バッグから、昨日の依頼状を取り出した。
そしてアリサと共に、それに改めて目を通す。
「あッ。『店番求む 閉店打ち合わせにつき 至急』ッて書いてある……」
「もー。エルス、報酬の所しか見てなかったの?」
「もしかしておまえ、知ってたのか……?」
エルスはアリサに疑いの視線を向けるが、彼女は即座に首を横に振る。
「ううん、知らない。だってエルス、すぐに隠しちゃったもん」
「そういやそうだった……。ははッ、朝イチで眠かったし……。報酬だけを見て、急いで引っ剥がした気がするぜ……」
エルスがそう言うなり、アリサとカダンからは呆れたような溜息が漏れる。
その後一息を置き、カダンは話を〝杖〟に戻した。
「――その打ち合わせの中で。つまりエルス殿が店番をしていた間に、例の〝杖〟も含めて、店を引き払う交渉をしていたようですな」
「そういえば『全然売れないから処分するつもりだった』ッて言ってたっけ」
「ええ。どうも その引き取り業者も、一癖ある連中だったようで。杖が売れたことを知ると、かなり慌てた様子だったとか」
「あっ、それって……」
アリサが気づいたように言うと、カダンは大きく頷いてみせる。
「おそらくは、ファスティアに災厄をもたらそうとした者の一派でしょうな」
杖を購入した商人は、ランベルトス行きの隊商に合流していた。そしてランベルトスは、はじまりの遺跡とは真逆の方角だ。それならば目的のアイテムを手に入れ損ねた何者かは、すぐに次なる手を打ったのだろう。
「例の異変が起きる少し前――ちょうど〝霧〟が出ていた頃ですな。例の隊商が盗賊に襲われ、積荷が奪われました。その襲った連中こそが、件の盗賊団なのです」
「なるほど……。俺が酒場で、ラァテルと闘り合ってた頃か……」
エルスの脳裏に昨日の敗北の映像がよぎる。思えば彼は冒険者になってからというもの、自身が納得のいく成果を挙げられていない。
「なぁ団長、その盗賊ッてのは強いのか?」
「ハハッ。少なくとも、この辺りの魔物よりは間違いなく手強いですな! それに首領のジェイドは、風の精霊魔法の使い手です」
「風か……。そういや、ザインも風と契約してたッけ……」
人類が〝精霊魔法〟を使うためには予め、炎・水・土・風の精霊と契約を交わす必要がある。そして例えば人間族であるならば、契約できる系統は一つのみに限られる。
「連中には風の魔法を扱える幹部が、少なくとも三人は居たようです。一人はジェイド、もう一人がザイン……。あとの一人は、不明ですな」
「そうか。じゃあ、俺たちに任せてくれよ!」
「ああ! それには及びませぬ! 実は、もう〝適任者〟に依頼してあるので!」
カダンにあっさりと申し出を断られ、エルスは一歩、彼の前へと身を乗りだす。
「ええッ、なんだよッ!? そこは任せてくれてもいいじゃねェか!」
「そ……そう言われましても……。ううむ……」
メラメラとやる気を漲らせているエルスに圧され――。
カダンは困惑の表情を浮かべながら、建物の方を振り返った。
「おい、聞いていただろう? どうする……? ニセル……」
人気のない建物に向かい、そう言ってカダンが問いかける。
すると扉の陰から黒ずくめの男が一人、ゆっくりと姿を現した。
昨日、エルスたちが帰路についた後の出来事――。
そして自警団による夜を徹しての調査結果などを、カダンは丁寧に説明する。
自警団の魔術士・ザインが騒動の張本人であったこと。あの杖の正体が〝降魔の杖〟と呼ばれる、敵地侵略用の兵器であること。さらに杖の効果によって、ザイン自身も異形の姿へと変貌していたこと。
最後に、すでに彼は〝この世に存在していないこと〟を、カダンは二人に話した。
「ザインさんって、あの〝びゅーん〟ってしてくれた人ですよね?」
「そうです。高度な魔法の使い手である彼の入団を、我らも喜んでいたのですけどね……」
カダンは悲しそうに口を曲げながら、昨日と変わらずボサボサの頭を掻く。
どうやらこれが、彼の標準的な髪型のようだ。
「ザインの正体は盗賊。それも近ごろ我々の手を煩わせている、〝ジェイド盗賊団〟の一員と判明しました」
「とッ、盗賊だってッ!?」
「はい……。ザインの飲み仲間の話では、彼は酒が入ると人が変わったかのように、自らの〝武勇伝〟を捲し立てていたのだとか……」
酒豪だったザインはこれまでも何度か、酒場でトラブルを起こしていた。その際に幾度となく、『俺は盗賊団の幹部だぞ』と口走っていたようだ。
そうした諍いは団長であるカダンの耳にも入っていたのだが、普段の人柄の良さと魔術士としての優秀さから、酒の勢いでのホラ話として不問となっていた。
それらの事実を話し、カダンは申し訳なさそうに頭を下げた。
「でもあの人って、わたしたちと一緒に遺跡に向かったはずじゃ?」
「ええ。どうやら一度現場へ行ったあとに魔法で街へ戻り、我々と合流したようです。これで〝風の精霊石〟の在庫が、やけに減っていた理由も判明しました……」
あくまでも状況証拠ではあるが――自警団所属の魔術士らの調査により『術者のみを高速移動させる〝フレイト〟を、精霊石を用いて発動したならば、時間的にも往復可能』と、いった結論が出たようだ。
「アイツはなんだッて、そんな面倒なことを?」
「今となっては……。もう……本人は存在しませんので……」
「団長さん……」
ザインをよほど信頼していたのか。カダンの表情は、見るからに暗い。
「……さて、本題です。遺跡で出会った変人――ゴホンッ! もとい、旅の魔術士殿によると、『例の杖は、もう一本ファスティアに存在していた』とのこと」
「ああ、知ってる……。実は、それを売ったのが俺なんだ……。だから……」
「ええ、そのようですな! なんとかファスティアを発つ前に、あの店主の女性に話を訊くことができました。それはもう、ギリギリで!」
カダンは笑いながら、バッグから取り出した紙束を誇らしげに揺らしてみせる。
それは彼ら自警団員の、徹夜によって齎された〝成果〟だった。
「やっぱり……。俺のせいで店を……?」
「エルス殿、何か勘違いをされておりませんか? あの店は、昨日いっぱいで閉店だったのですよ? 神殿騎士の方からも正式に通知が来ておりましたゆえ」
「えッ? 閉店……?」
カダンの言葉に、エルスは冒険バッグから、昨日の依頼状を取り出した。
そしてアリサと共に、それに改めて目を通す。
「あッ。『店番求む 閉店打ち合わせにつき 至急』ッて書いてある……」
「もー。エルス、報酬の所しか見てなかったの?」
「もしかしておまえ、知ってたのか……?」
エルスはアリサに疑いの視線を向けるが、彼女は即座に首を横に振る。
「ううん、知らない。だってエルス、すぐに隠しちゃったもん」
「そういやそうだった……。ははッ、朝イチで眠かったし……。報酬だけを見て、急いで引っ剥がした気がするぜ……」
エルスがそう言うなり、アリサとカダンからは呆れたような溜息が漏れる。
その後一息を置き、カダンは話を〝杖〟に戻した。
「――その打ち合わせの中で。つまりエルス殿が店番をしていた間に、例の〝杖〟も含めて、店を引き払う交渉をしていたようですな」
「そういえば『全然売れないから処分するつもりだった』ッて言ってたっけ」
「ええ。どうも その引き取り業者も、一癖ある連中だったようで。杖が売れたことを知ると、かなり慌てた様子だったとか」
「あっ、それって……」
アリサが気づいたように言うと、カダンは大きく頷いてみせる。
「おそらくは、ファスティアに災厄をもたらそうとした者の一派でしょうな」
杖を購入した商人は、ランベルトス行きの隊商に合流していた。そしてランベルトスは、はじまりの遺跡とは真逆の方角だ。それならば目的のアイテムを手に入れ損ねた何者かは、すぐに次なる手を打ったのだろう。
「例の異変が起きる少し前――ちょうど〝霧〟が出ていた頃ですな。例の隊商が盗賊に襲われ、積荷が奪われました。その襲った連中こそが、件の盗賊団なのです」
「なるほど……。俺が酒場で、ラァテルと闘り合ってた頃か……」
エルスの脳裏に昨日の敗北の映像がよぎる。思えば彼は冒険者になってからというもの、自身が納得のいく成果を挙げられていない。
「なぁ団長、その盗賊ッてのは強いのか?」
「ハハッ。少なくとも、この辺りの魔物よりは間違いなく手強いですな! それに首領のジェイドは、風の精霊魔法の使い手です」
「風か……。そういや、ザインも風と契約してたッけ……」
人類が〝精霊魔法〟を使うためには予め、炎・水・土・風の精霊と契約を交わす必要がある。そして例えば人間族であるならば、契約できる系統は一つのみに限られる。
「連中には風の魔法を扱える幹部が、少なくとも三人は居たようです。一人はジェイド、もう一人がザイン……。あとの一人は、不明ですな」
「そうか。じゃあ、俺たちに任せてくれよ!」
「ああ! それには及びませぬ! 実は、もう〝適任者〟に依頼してあるので!」
カダンにあっさりと申し出を断られ、エルスは一歩、彼の前へと身を乗りだす。
「ええッ、なんだよッ!? そこは任せてくれてもいいじゃねェか!」
「そ……そう言われましても……。ううむ……」
メラメラとやる気を漲らせているエルスに圧され――。
カダンは困惑の表情を浮かべながら、建物の方を振り返った。
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