ミストリアンクエスト

第１章 ファスティアの冒険者

第49話 疾風のジェイド

　剣を構え、ジェイドと対たい峙じするエルス。アリサとニセルもそれぞれ武器を抜くが、間合いの関係で同時に攻撃するのは難しい。それを理解しているためか、ジェイドは余裕の笑みを浮かべている。

　「ヒューゥ……」

　唇くちびるを窄すぼめ、ジェイドは息を吹く。
　魔法が飛んでくることを警戒し、エルスは反射的に身構える――！

　「フレイトォ――！　ハッ！」

　風の精霊魔法・フレイトが発動し、風の結界がジェイドを包み込む！
　ジェイドは結界の反動を利用して跳び上がり――さらに洞窟の天井を蹴り、エルスを目掛けて急襲する――！

　「うわッ！」

　エルスは咄とっ嗟さにかわすも、逆手に構えられたロングダガーによって右腕を浅く斬られてしまう！　フレイトは本来、長距離を移動するための魔法だが、ジェイドはそれを巧うまく、攻撃に転用しているようだ。

　「ヴィストォ――！」

　着地と同時に――ジェイドは間髪を入れず、風の魔法ヴィストを放つ！
　彼の掌てのひらから放たれた突風が、エルスを部屋の中央へ吹き飛ばす――！

　「ぐうッ……！　チクショ――」
　「――ハッ！　ヴィストォ――！」

　体勢を崩くずされたエルスを指さし、さらにジェイドは魔法を放つ！
　さきほどとは違い――今度は収束された風が、刃のようにエルスへ迫る！

　「ぐあぁ――ッ！」

　構えをとる間すら与えず――
　風の刃は正確に、エルスの胴へと直撃した！

　エルスの身に着けた革製の軽鎧ライトメイルがザックリと斬れ、彼の腹にはジワリと血が滲にじんでいる……。


　「ほう？――ヴィストの直撃を受けて、その程度とは！」
　ジェイドは感心したように言い、自身の顎あごヒゲを左手で撫なでる。

　「やはり少年、魔術士だな？――その剣は罠トラップというわけか！」

　魔法によるダメージは、個人が体内に保有する魔力素マナの量によって決定される。魔物よりも大量の魔力素マナを秘める人類は必然的に魔法に対する耐性が高く、特に〝魔術士〟はそれが顕けん著ちょだ。

　「へッ！　俺は、ただの冒険者だッ！　昔、助けてくれた恩人に『剣術も鍛えろ』ッて教わっただけさ！」
　「ハッハッハッ、結構！　どのみち術が効かんのなら、肉弾戦で叩くのみ！」

　愉たのしむように言い、ジェイドは再び武器を構える！
　――そこへ、ニセルが放ったクロスボウの矢が飛来した！

　「ハッ！――抜け目無いな、ニセラァ！」

　ジェイドは右手に集中させた風の結界で、飛んできた矢を払い除のける――！

　「やあぁ――っ！」

　視線がニセルに向いた隙を狙い、続いてアリサが飛びかかる！――が、ジェイドは彼女の斬撃を、高速移動で難なく避よける！　ジェイドはフレイトの特性を最大限に生かし、戦法に組み込んでいるようだ。

　「その剣――エレムシュヴェルトか！　ソイツと斬り結ぶのは遠慮させてもらおう！」
　「あっ、やっぱり変な名前なんだ。この剣――」

　「――ハッ！　最高の名前ネーミングじゃないか！　ヒュウゥー……」
　ジェイドは再び口を鳴らし、右手を地面に触れさせる――！

　「マヴィストォ――！」

　風の精霊魔法・マヴィストが発動し、ジェイドの右手を起点とした、緑色に発光する魔法陣が出現する！　そして魔法陣から発生した強風が、竜巻の如ごとく部屋中をかき乱す――！

　「ぐわッ――！　チクショウ、何も見えねェ！」

　エルスは地面に伏せ、必死に床にしがみ付く――！
　部屋中の酒さか樽だるや酒さか瓶びんなどの破片が乱れ舞い、エルスの顔や体を容赦なく傷つける！

　「エルス！――右へ避けろ！」

　視界が封じられる中、エルスはニセルの声に従って右へ転がる！
　直後――エルスの左脇の土床に、ジェイドが武器を突き立てた！

　「ハッ！　やはりお前には視みえているか！」
　「まぁな。オレの眼は〝特別製〟なのさ」

　「面白い！――この機会に決着をつけてやる！」

　ジェイドは風の結界を解除し――長刃の短剣ロングダガーを手に、ニセルへ向かって疾はしる！　対するニセルも同じ得え物ものを両の手に持ち、相手を迎え撃つべく身構えた――！