ミストリアンクエスト

幸崎 亮

文字の大きさ
56 / 105
第1章 ファスティアの冒険者

第55話 はじまりの決戦

しおりを挟む
 切り札である〝虹色のせいれいせき〟を使ったエルス。
 彼は光輝く精霊の姿に変身し、戦闘の構えをとる!

 そんなエルスの目の前で、魔法の氷塊が弾け飛んだ――!

 「ルオオオォ……損傷……損傷……防衛……形態……」

 氷のいましめを破った〝こうの杖〟は無機質な単語ことばを発し――
 杖から伸びた巨大な〝手〟の形態を変化させはじめた。

 手の甲からは角や牙のような白いとげが無数に突き出し、伸びた五指には関節が増え、先端には鋭い刃が生えた――!


 「へッ! そっちも本気ってワケか!――なら、一気に決めるぜッ!」

 エルスは天井付近まで飛翔し、かざしたてのひらから氷の矢を放つ!
 無数の矢は闇色の触手をかき消し、床一面を氷で覆いつくす――!

 「オオォォン……反撃……排除……」

 反撃を示すこえと共に――。
 敵の棘が緑色の光を発し、エルスに向かって風の刃を撃ち出した!

 だが、風の攻撃はエルスに触れた瞬間に、何事もなく消え失せる!

 「――わりィな! 今の俺には、そんなモンは効かねェ!」

 余裕の笑みを浮かべるエルス。
 すると今度は、ギョロリと動いた巨大な目玉が彼を正面に捉えた!

 エルスは正体不明の力で全身の自由を奪われ――
 激しく天井に押しつけられる!

 「ぐおッ!?――チクショウ、これがあったのを忘れてたぜ……!」

 敵は狙いを定め、エルスに向かって闇の刃を伸ばす――!

 そして彼を貫こうと何度も攻撃を繰り返すが――
 やがて硬質な音と共に、それは粉々に砕け散ってしまった!


 「無駄だ無駄だッ! さっさと放しやがれッ!」

 その言葉通りに諦めたのか。
 敵はエルスから、おもむろにを逸らした。

 エルスは再び自由を取り戻し、天井の付近を浮遊する――。

 こうしている間にも〝杖〟の根元からは闇の触手が生え続け、魔物を召喚する態勢に入っている。〝こう〟の名が示す通り、あくまでも杖は、魔物を呼び出すことを最優先にするようだ。

 「チッ、また振り出しかッ! これじゃらちがあかねェ……」

 エルスも攻撃によるダメージこそ受けていないが、急速に体内の魔力素マナを削られてゆくのがわかる。それに比例し、少しずつ〝自分自身〟が消え去ってしまうような――奇妙な感覚が、彼には迫っていた。


 《……力を貸してあげるよ?……》
 ――エルスの頭に、声が響く。

 「うッ……。何だ……?」

 頭に直接ささやかれたかのような声に、思わずエルスは額を押さえる。

 さきほどの声は、友好的な言葉とは裏腹にまがまがしく――
 決して受け入れてはいけないと、自身の直感が告げている!

 「いらねェよ! こっちは、アレの相手だけで精一杯なんだ!」
 ――声を振り払うように叫び、エルスは敵の正面に舞い降りる。

 これ以上の長期戦は不味い――。
 一気に決着をつけるべく手をかざし、エルスは呪文を唱える――!

 「マヴィスト――ッ!」

 風の精霊魔法・マヴィストが発動し、敵の根元に緑色の魔法陣が出現する!
 魔法陣から発生した風が渦を巻き、竜巻のように敵を斬り刻んだ!

 闇の刃や触手は粉々に砕かれ――
 杖本体と、目玉の付いたてのひらだけが残される!

 「これで――ッ!」

 エルスは手刀を振り上げ、敵に向かってぶ!――が、見開かれた瞳が彼の自由を奪い、壁際まで吹き飛ばす!

 こちらが動けない間にも――
 敵は再び刃や触手を伸ばし、改めて態勢を整えなおす――。

 「また振り出しかッ……! どうすりゃいいんだッ!?」

 さきほど放った魔法マヴィストよりも、さらに高位の魔法は存在する。
 だが、この洞窟内で使えば間違いなくほうらくし、エルス自身も生き埋めとなるだろう。

 「駄目だ……。石の中に埋まって、助かる保証はねェ……。それに――」

 エルスは、壁にもたれ掛かったままのジェイドをる。
 刃を交えた相手とはいえ――言葉も交わし、共闘もした。
 せめて最期くらいは、地上でとむらってやりたい。

 「――絶対に、生きて戻ってやるッ!」

 気合いを入れ、エルスは再度立ち上がる――が、さらに魔力素マナを失ったためか、彼は激しい目眩めまいに襲われる……!

 なんとしても、ここで倒さなければ。
 もう助けてくれる勇者ロイマンは、ファスティアには居ないのだ。

 ――あと一撃が足りない。仲間が欲しい――。

 《……力を貸すよ? かわってあげる……》
 ――頭の中に再び、声が響く。

 エルスの脳裏に、焼け焦げた魔法衣ローブ姿の、幼い少年の姿が浮かぶ。
 銀髪の少年は残忍な笑顔を浮かべ、ゆっくりとエルスに向かって手を伸ばす――!

 「ウオオォ――! おまえの助けはイラネェって言ってんだろッ!」
 エルスは叫び、頭の中の不気味なイメージを振り払う!

 この声に負ければ――おそらく彼が、最もが起きる!

 「俺はアレを倒して、俺のままで帰るんだッ!」
 右腕に巻かれたアリサのリボンを見つめ、自らの意識を強く保つ!

 そんなエルスのに――
 再び、声が響いた!


 「ハッ! ならば、俺様が力を貸してやろう!――マヴィストォ!」

 ジェイドは叫び――左眼で敵を睨みつけながら魔法を放つ!
 風の精霊魔法マヴィストの魔法陣から発生した竜巻が、再び〝杖〟を丸裸にした――!

 「ジェイド!?――生きてたのかッ!」
 「俺様の右腕うらぎりものの始末は、俺様がつける! さあ行け、少年よ!」

 この一瞬に賭けるため――。
 ジェイドの作ってくれたチャンスに応えるため、エルスは呪文を唱える――!

 「レイフォルス――ッ!」

 炎の精霊魔法・レイフォルスが発動し――
 エルスの右腕が、燃えあがるつるぎと化した!

 「うおおおぉ――ッ!」

 竜巻に向かって一直線に飛び、手刀を振りかざす!
 だが寸前で――巨大な目玉が、エルスをとらえた!

 「ルォオオオン……!……防衛……排除……!」
 「ハッ!――こっちを向け、裏切り者め! マヴィストォ――!」

 ジェイドはさらに魔法を放つ! 彼の左手にめられたせいれいせきの指輪が、次々と砕け散ってゆく――!

 再びの竜巻にさらされ――
 巨大な目玉が、ジェイドを――!

 「今だ――ッ! 戦闘終了オォ――!」

 エルスは炎のつるぎを斜めに振り下ろし――
 バッサリと、こうの杖を溶断した――!

 「……ォオオオォ……機能……ォォル……停止……」

 本体である〝杖〟を失い――
 巨大な手は地面へと落下し、その場で崩れ去ってゆく――。


 「やった……!? ついに倒したのかッ!?」

 「ハッ! 上出来だ、少年!……ぐほっ……!」
 「――ジェイドッ!?」

 エルスは魔法剣を解除し、急いでジェイドの元へ飛ぶ。
 同時に――洞窟全体に激しい振動が走り、天井の岩が崩れ始めた!

 勝利のいんに浸る暇など無く――
 早く脱出しなければ、二人とも生き埋めになってしまう!

 「頼むッ! もう少しだけ、ってくれッ!」
 ――ジェイドの左腕を自らの肩に回し、エルスは呪文を唱える!

 「マフレイト――ッ!」

 運搬魔法マフレイトが発動し、風の結界が二人を包む!
 エルスは崩れ落ちようとする部屋から高速で離脱し、外へ向かって飛び去っていった――!


 そして、エルスたちが脱出した直後――。
 天井の岩が崩落し、入口の塞がった部屋には、折れた〝こうの杖〟だけがのこされた。

 そこへエルフ族の紳士・ルゥランが、とうとつに姿を現した!

 「まさか彼が、〝女王の罪の証〟だったとは! 実に興味深いですねぇ!」

 ルゥランは足元に転がる〝杖〟を拾い上げ、じっくりと観察する――。

 「やはり〝はじまりの遺跡〟の物と同じ。まったく、何方どなたの仕業なのやら!――いえ、それよりも!」

 ルゥランは楽しげに笑い、岩で塞がってしまった通路へ視線を移す――。

 「いやぁ、長生きはするものです! また、お会いしましょうねぇ? エルスさん!」

 にこやかな笑顔で言い、ルゥランの姿はくうへと消える――。

 やがて轟音と共に、再び岩が崩落し――
 無人となった洞窟は、今度は跡形もなく崩れ去ってゆくのだった――。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...