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第1章 ファスティアの冒険者
第57話 沈まぬ太陽
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無事に自警団からの依頼を終え、ファスティアへの帰還を目指すエルスたち。
負傷こそしているが、霧の中を慎重に歩いていた時と比べれば、視界の良くなった林道は比較的歩きやすい。
一行は魔物に出くわすこともなく、太陽の間にカルミド夫妻の農園まで戻ってくることができた。
家の側の畑では、農作業着姿のカルミドとナナシが、農具の後片づけをしていた。ナナシは人の気配に気づき、こちらへと駆け寄って来る――。
「――あっ、やっぱりエルスたち!……ちょっと! 大丈夫かい!?」
昼間会った時とは違い――アリサは髪を下ろして首の辺りから血を流し、エルスはそんな彼女に背負われている状態だ。
「よッ、ナナシ! 俺の方は大丈夫! ちょっと動けなくなってるだけさ!」
エルスは明るく返事をするが、どう見ても大丈夫そうには見えない。後からやって来たカルミドも、彼らを見るなり血相を変えた。
「おお、これはイカン! ナナシ、彼らを家の方へ。私は、母さんに知らせてくるからな!」
「はい、父さん」
カルミドの指示に対し、ナナシがごく自然に返事をする。
彼の首には、エルスが渡した〝木彫りの守護符〟がぶら下がっていた。
「へッ? 父さん?」
「ああ、うん。その方が都合がいいだろうって。カルミドさんが」
そう言ってナナシは、ニセルの顔を見上げる。
彼は、ゆっくりと頷いた。
「そっか。でもカルミドさん、なんだか嬉しそうだったね」
ナナシに連れられて歩きながら、アリサは家の入口を見つめる。
するとドアが開き、マイナが飛び出してきた。彼女は長い髪を大きな三つ編みにし、今は化粧もしている。手には可愛らしい装飾の付いた、短杖を握っていた。
「まあ大変! すぐに魔法をかけますね!」
――マイナは慣れた様子で杖に手をかざし、呪文を唱える!
「セフィルド――!」
治癒の光魔法・セフィルドが発動し、杖から帯状の光が伸びる!
光はアリサたちをクルクルと包み込み、あっという間に傷を癒した!
「わぁ、お姉ちゃんと同じ魔法だ! マイナさん、ありがとうございますっ!」
――ずっと苦しみ続けた傷が癒え、アリサは嬉しそうに礼を言う。
「どういたしまして! あら、エルスさんには上手く効かなかったのかしら?」
「ああ、大丈夫! 俺は単なる、魔力素不足なんでッ!」
「それなら、そこの湯場で休んで下さいな。ちょうど、マナハーブの薬湯なの。私はその間に、御馳走の用意をしてくるわね」
マイナは一方的に言い、くるりと踵を返す――が、すぐにこちらを振り返った。
「――あ、今夜は泊まっていってくださいね!」
「えっ、いいんですか?」
「ぜひぜひ。今日はちょうど家族も増えたことだし、お祝いにしましょ!」
正直、今からファスティアの雑踏に揉まれるのは辛い。
マイナからの申し出に、エルスたちはありがたく甘えることにする。
ニセルはひとり、自警団長カダンの元へ行くらしい。
今夜は彼と、朝まで飲み明かすとのことだ。
その後、マイナは晩餐の支度のため家へと戻り、エルスはアリサに背負われたまま湯場へ向かう。
そして、この場には――
ニセルとナナシの、二人だけが残された。
「言われた通り――全部、教えて貰いました」
「そうか。ふっ、オレより判りやすかっただろう?」
「あはは、確かに。そうですね」
ナナシは笑顔をみせたあと――
今度は真剣な眼を、ニセルへ向ける。
「僕が――その古代人なのかは、わかりませんけど。農園で静かに、暮らすつもりです」
「それがいい。くれぐれも〝連中〟には気をつけてな?」
「はい」
ナナシは力強く頷く――。
すると唐突に、周囲の景色が闇に包まれた。
本日の太陽の刻が終わり、月へと変化したのだ。
「あの太陽、沈まないんですね」
――ナナシは不思議そうに、空を見上げる。
「……ああ。そうだな」
「それじゃ、僕も母さんを手伝ってきます。またどこかで」
――ナナシは丁寧にお辞儀をし、家の中へと入ってゆく。
「太陽か――。間違いないようだな」
ニセルは呟き、首のマフラーを口元まで上げ――
ひとり、自警団の本部へと歩みを始める。
そんな彼の背後――。
湯場の方からは、エルスの悲痛な叫びが響いていた――。
「……おいッ! アリサッ! さすがに風呂くらい自力で入れるッて! 頼むからッ! 適当に転がしておいてくれェ――!」
負傷こそしているが、霧の中を慎重に歩いていた時と比べれば、視界の良くなった林道は比較的歩きやすい。
一行は魔物に出くわすこともなく、太陽の間にカルミド夫妻の農園まで戻ってくることができた。
家の側の畑では、農作業着姿のカルミドとナナシが、農具の後片づけをしていた。ナナシは人の気配に気づき、こちらへと駆け寄って来る――。
「――あっ、やっぱりエルスたち!……ちょっと! 大丈夫かい!?」
昼間会った時とは違い――アリサは髪を下ろして首の辺りから血を流し、エルスはそんな彼女に背負われている状態だ。
「よッ、ナナシ! 俺の方は大丈夫! ちょっと動けなくなってるだけさ!」
エルスは明るく返事をするが、どう見ても大丈夫そうには見えない。後からやって来たカルミドも、彼らを見るなり血相を変えた。
「おお、これはイカン! ナナシ、彼らを家の方へ。私は、母さんに知らせてくるからな!」
「はい、父さん」
カルミドの指示に対し、ナナシがごく自然に返事をする。
彼の首には、エルスが渡した〝木彫りの守護符〟がぶら下がっていた。
「へッ? 父さん?」
「ああ、うん。その方が都合がいいだろうって。カルミドさんが」
そう言ってナナシは、ニセルの顔を見上げる。
彼は、ゆっくりと頷いた。
「そっか。でもカルミドさん、なんだか嬉しそうだったね」
ナナシに連れられて歩きながら、アリサは家の入口を見つめる。
するとドアが開き、マイナが飛び出してきた。彼女は長い髪を大きな三つ編みにし、今は化粧もしている。手には可愛らしい装飾の付いた、短杖を握っていた。
「まあ大変! すぐに魔法をかけますね!」
――マイナは慣れた様子で杖に手をかざし、呪文を唱える!
「セフィルド――!」
治癒の光魔法・セフィルドが発動し、杖から帯状の光が伸びる!
光はアリサたちをクルクルと包み込み、あっという間に傷を癒した!
「わぁ、お姉ちゃんと同じ魔法だ! マイナさん、ありがとうございますっ!」
――ずっと苦しみ続けた傷が癒え、アリサは嬉しそうに礼を言う。
「どういたしまして! あら、エルスさんには上手く効かなかったのかしら?」
「ああ、大丈夫! 俺は単なる、魔力素不足なんでッ!」
「それなら、そこの湯場で休んで下さいな。ちょうど、マナハーブの薬湯なの。私はその間に、御馳走の用意をしてくるわね」
マイナは一方的に言い、くるりと踵を返す――が、すぐにこちらを振り返った。
「――あ、今夜は泊まっていってくださいね!」
「えっ、いいんですか?」
「ぜひぜひ。今日はちょうど家族も増えたことだし、お祝いにしましょ!」
正直、今からファスティアの雑踏に揉まれるのは辛い。
マイナからの申し出に、エルスたちはありがたく甘えることにする。
ニセルはひとり、自警団長カダンの元へ行くらしい。
今夜は彼と、朝まで飲み明かすとのことだ。
その後、マイナは晩餐の支度のため家へと戻り、エルスはアリサに背負われたまま湯場へ向かう。
そして、この場には――
ニセルとナナシの、二人だけが残された。
「言われた通り――全部、教えて貰いました」
「そうか。ふっ、オレより判りやすかっただろう?」
「あはは、確かに。そうですね」
ナナシは笑顔をみせたあと――
今度は真剣な眼を、ニセルへ向ける。
「僕が――その古代人なのかは、わかりませんけど。農園で静かに、暮らすつもりです」
「それがいい。くれぐれも〝連中〟には気をつけてな?」
「はい」
ナナシは力強く頷く――。
すると唐突に、周囲の景色が闇に包まれた。
本日の太陽の刻が終わり、月へと変化したのだ。
「あの太陽、沈まないんですね」
――ナナシは不思議そうに、空を見上げる。
「……ああ。そうだな」
「それじゃ、僕も母さんを手伝ってきます。またどこかで」
――ナナシは丁寧にお辞儀をし、家の中へと入ってゆく。
「太陽か――。間違いないようだな」
ニセルは呟き、首のマフラーを口元まで上げ――
ひとり、自警団の本部へと歩みを始める。
そんな彼の背後――。
湯場の方からは、エルスの悲痛な叫びが響いていた――。
「……おいッ! アリサッ! さすがに風呂くらい自力で入れるッて! 頼むからッ! 適当に転がしておいてくれェ――!」
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