ミストリアンクエスト

幸崎 亮

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第1章 ファスティアの冒険者

第58話 新たなる誓い

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 カルミド夫妻の家で湯を借り、予備の服に着替えたエルスとアリサ。
 リビングの年季の入ったテーブルには、マイナの手料理の数々が用意されていた。

 「うおおォ――ッ! すげェごちそうだぜッ!」

 席に着いたエルスは目を輝かせ、隣に座ったアリサも思わず息をのむ。

 定番のスープと勇者サンドのほか、野菜を中心としたメニューが並ぶ。どれも農園で採れたばかりの、新鮮なものだ。

 「さあ、召し上がれ! ナナシがたくさん収穫してくれたから、張りきって作りすぎちゃった!」

 「もう働けるようになったのか! やるなぁナナシ!」
 「あはは。やってる内に楽しくなっちゃってね」

 「ハハッ、ナナシはスジが良い。これからもよろしく頼むぞ」
 「はい。父さん、母さん」

 ナナシは頷き――真っ直ぐな瞳で、義父母の顔を交互に見た。


 「エルス、大丈夫? 食べさせてあげよっか?」

 アリサは、まるで老いた夫に食べさせるようにスプーンを差し出す。それに対し、エルスは両手を立てながら遠慮の意思を示す。

 「大丈夫だ。さっきのやくとうのおかげで、バッチリ動けるようになったし。なんか、傷つくからやめてくれェ……」

 「ふふっ。仲が良いわね。アリサさんも、きっと良い奥さんになるわ」
 「ああ、そうだな」

 カルミドはマイナの顔を見つめる。おしゃな妻の姿を見るのは、何年ぶりだろうか。視線に気づいたマイナがにっこり微笑むと、彼はあわてて顔を伏せる。

 この家をおおっていた重苦しい空気は、もう完全に消え去ってしまったようだ――。


 楽しいだんらんはあっという間に過ぎ、エルスはアリサと共に寝室へ入る。ここは元々客間として使われていたらしく、離れた位置に二つのベッドが置かれていた。

 「ふぅ、今日はさすがに疲れちまった! 早めに寝ておこうぜ!」

 エルスは剣を外し、ベッドの脇へ立てかける。
 そして冒険バッグから、アリサのリボンを取り出した。

 「すまねェ。これ忘れてたぜ。かなり汚しちまったけどな……」
 「ううん。明日新しいの買うから大丈夫だよ。役に立ったならよかった」

 アリサは雑に折りたたまれたリボンを受け取り――
 れいにたたみ直してから、自分のバッグの中へと入れる。

 「ああ、役に立ったぜ……。それが無きゃ、戻って来れなかったかもしれねェ」

 エルスは激戦の中で見た、不気味なイメージを思い出す。
 あの銀髪の少年が発した声は、まさしくエルス自身の声だった。

 それに――あれは初めて盗賊ひとあやめた時に聞いた声と、同質のものだった。エルスの頭に、嫌なイメージが次々と浮かぶ。

 魔王メルギアスを倒す――。
 幼い頃からエルスは、そう自らに誓い続けてきた。

 「まさか……。魔王は――」
 ――自分自身の中に、居るのだろうか?


 「エルス、大丈夫?」
 ――アリサはベッドで上半身を起こし、心配そうに彼の顔を見つめている。

 「ん?――ああ、大丈夫さ! 明日はファスティアから脱出できるかもしれねェし、たっぷり休まねェとな!」

 「そっか。いよいよだねぇ」
 「おうッ! それじゃおやすみ。アリサ」

 「おやすみ、エルス」

 エルスは静かに目を閉じる。
 二度と怒りに――二度と感情に、身を任せてはいけない。

 ロイマンからも教わったように心を鍛え、心を強く持つことを新たに誓いながら――エルスは、深い眠りへと堕ちていった。
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