ミストリアンクエスト

幸崎 亮

文字の大きさ
63 / 105
第2章 ランベルトスの陰謀

第2話 迷子の魔法学生

しおりを挟む
 酒場に入ってきた少女は肩を落としたあと、すぐにビシッと姿勢を正す。
 彼女は見慣れない装飾のついた黒い魔法衣ローブを着ており、背格好はアリサと同じくらいに見える。

 「あら、おかえりジニアちゃん――。駄目ってことは、今日もの?」
 「うん……。本当ほんとに最悪。これじゃ帰れなくなっちゃうよぉ……」

 「んぐぅ? にゃんか困りオゴかァ?」

 エルスは口いっぱいに料理を詰め込みながら、ジニアという少女へ顔を向ける。
 人間族の彼女は薄紫の長い髪に紫の瞳をしており、眼鏡をかけている。

 「……ロマニーさん。何なんですか? この人……」
 「彼は、冒険者のエルスさん。盗賊に襲われてた私を、助けてくれたのよ」

 げんそうな表情を浮かべるジニアに、ロマニーはたがいの紹介をする。

 ジニアは遠く離れた魔法学校の生徒らしいが――
 現在、港への街道を何者かがふさいでしまっているらしい。


 「ジニアちゃんは早く船に乗らないと、魔法のナントカって街がしちゃうらしいのよ」
 「リーゼルタです、ロマニーさん。あのヘンな人のせいで、もう散々っ……!」

 「へぇ、リーゼルタか! そういえば昔、聞いたことあったなぁ。確か、すげェ魔法王国なんだよなッ!」
 「いいなぁ、魔法の学校かぁ。わたしも、いつか行ってみたいかも」

 「まっ、まぁ……。あなたたちに入学は厳しいでしょうけどっ。見学くらいなら、行ってみてもいいんじゃないかしらっ……?」

 「それで、『ヘンな人』というのは――どんな奴なんだい?」

 ニセルはグラスをらしながら、ジニアにく。
 学生相手ゆえか、彼の口調はいつも以上に優しげだ。


 「えっ?――あ、はいっ。なんか、ヘンな斧を持ったヘンな人で……」
 ――彼女はズレた眼鏡を戻し、ニセルから目を伏せつつ続ける。

 「いきなり私を見て『悪い奴だ!』って襲いかかってきて……。話も聞いてくれなくて……」
 「ふっ。なるほどな。その言い分からして、そいつは賞金稼ぎだろう」

 「賞金稼ぎってアレだろ? 盗賊とか、おたずものをブッ倒すのが専門の冒険者。ジニアは悪い奴には見えねェけどなぁ」

 「あっ、当たり前よっ! 私、悪いことなんてしないもん! だってその……優等生だし……」

 「悪い奴だけが狙われるとは限らんさ。時には、暗殺依頼なんて場合もある」
 「あッ……暗殺ッて……」

 「――だが、おそらくは勘違いってとこだろう。聞く耳も持たんのなら、一度おとなしくさせるしかないな――。どうする?」

 ニセルは言い、エルスとジニアを交互に見る。
 思いもよらぬ提案に、またしてもジニアの顔の眼鏡がズレる。

 「えっ? もしかして、一緒に来てくれるんですか? でも私、依頼できるようなお小遣いも残ってないし……」

 「ああッ、報酬は気にすンな! 困ってる人を助けるのは、冒険者の役目だからなッ!」

 エルスがアリサへ目をると、彼女も同意を示すように大きく頷いた。


 「よし、決まりだな――。オレは少し、一服してくる。外で会おう」

 ニセルはグラスを飲み干すとテーブルに金貨を置き――
 ひとあしさきに、酒場から出て行った。


 「ほわぁ……。イイなぁ、ニセル・マークスターさん……」
 「ん……? 〝ニセル〟って呼んでやるといいぜ。名前長ェの、気にしてるみてェだしな!」

 「へぇ、そうなんだ……。まぁ、あなたはいいわよね。たった三文字だし」
 「なッ……!? おまえだって三文字じゃねェかよッ!」
 「あ、わたしも三文字だよ? みんな一緒だねっ」

 声を荒げるエルスに、嬉しそうに言うアリサ。
 二人を交互に眺めながら、ジニアは溜息をついた。

 「はぁ……。仲良さそうでうらやましいわ……」
 「おうッ! 俺たちは一緒に育ったようなモンだからな!」
 「なーるほど。近すぎてなかなか進展しないパターンね……。かわいそうに」

 ジニアの言葉にエルスは首をかしげる。
 彼女はアリサの肩を、ポンと叩いた。

 「まっ、頑張ってね。アリサちゃん!」
 「え? うん、ありがとう。ジニアちゃん」

 エルスは残った料理を平らげるとジャラジャラと銀貨を積み、席を立つ。
 どうやら彼も、ニセルの真似をしたようだ。

 それを見たジニアは大きく息を吐き――
 〝お手上げ〟のジェスチャをしてみせた。

 「そういうのは、さり気なくやるもんなのよ? 去りぎわにこう、金貨をポン!――って!」

 「んんッ? おまえ金貨なんか持ってたのか?」
 「いっ……今は無いわよっ! いいじゃない別に!」

 「すみません、皆さん。お礼のつもりだったのに、お代まで頂いて……」
 「大丈夫さ! かったぜ、ねぇさん! ごちそうさんッ!」

 三人は町長親子に別れを告げ、酒場の外へ出る――。

 外では、ニセルが巻き煙草たばこを吹かしていた。
 彼はエルスらに気づき、ふところから出した小箱にすいがらをねじ込む――。


 「来たか。そろそろ向かうかい?」
 「ああッ、お待たせ! 行こうぜッ!」

 エルスたちはツリアンを突き抜ける街道を、今度は港町方面へ向かって歩く――。

 「しかし、どんな奴が相手なんだろうな?」
 「すっごい凶暴な人よ! いきなり斧で斬りかかってくるし、全っ然話も聞いてくれないんだからっ!」

 「まッ、こっちは四人だしな! とりあえずブッ倒しておとなしくしてもらおうぜ!」
 「私は戦えないわよっ!? 冒険者じゃないし、まだ学生だし……」

 「んー、それじゃ無理できねェか。すっげェ魔法とか、見たかったなぁ」
 「だねぇ――。ジニアちゃん、やっぱり魔法とか得意なの?」
 「えっ……? もっ、もちろんよっ! だって私、優等生だしっ!」

 「おおッ、さすがだな! 俺も魔法は使えるけど、なんていうか自己流だしなぁ。いつか魔法王国にも行ってみてェよな!」
 「わたしも。ブリガンドでも大丈夫かなぁ? もっと皆の役に立ちたいし」

 人間族と、魔法が苦手なドワーフ族との間に生まれた〝ブリガンド族〟であるアリサは、いくつかの光魔法を扱えるものの決して得意とは言えない。

 しかし、エルスたちの中で治癒魔法を使えるのは彼女のみ。
 いわば、アリサはパーティの生命線なのだ。

 「うーん、そうね……。ドワーフやブリガンドの子も居るし、努力すれば大丈夫だと思うわよっ!」

 アリサの言葉に共感を覚えたのか、ジニアははげますように言う。
 彼女が後ろを歩くニセルにチラリと目をると、彼は優しげに口元を上げた。

 「この先の林を抜けると、港町カルビヨンまでの距離を短縮できる。魔物どもには何体か出くわすだろうが――どうする?」

 「んー。船に乗るなら、やっぱり早く着いた方がいいんじゃないかなぁ?」
 「そうだな! まッ、依頼人はジニアだ。どっちでも任せるぜ!」

 「えっ? じゃあ……せっかくだし、近道でお願いしようかしら……」
 「よし、わかった!――それじゃみんな、戦闘開始の準備だッ!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...