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第2章 ランベルトスの陰謀
第10話 勇者のパーティ
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エルスたちがランベルトスへ入った頃――。
勇者ロイマンの一行は、アルティリア北部の岩山地帯を攻略していた。
「ヒュー、ずいぶん高いトコまで来たもんだナ。『神とナントカは高いトコに住みたがる』っていうガ、俺っちも神になった気分ダゼ!」
「あはは! どっちかって言うと〝ナントカ〟の方じゃないの? ゲルセイル!――ほら、さっさと歩く歩く! ボスと姉さんに置いてかれちゃうよ!」
岩に足を載せ、気取ったポーズを決める青年に対し、少女が茶化すように言う。二人とも武器や防具で身を固めた冒険者のようだが、ゲルセイルなる青年は半裸に近い軽装で、赤い髪の中からは二本の短い角が伸びている。
「んだとォ? アイエルよォ、俺っちはわざわざ、ひ弱なテメェに合わせてやってんダヨ。感激して惚れちまってもいいんダゼ?」
「へぇー。本当に凹んでるんだ――。あっ、ゲルっち? 何か言った?」
風になびく黒髪をかき分け、アイエルと呼ばれた少女が惚けた顔で彼を見る。太陽の光にかざして見ると――彼女の髪と大きな瞳は、やや紫色をしているようだ。
「チッ、るせェ! 景色なんか眺めてねぇで歩けヨナ!――オイ、新入りダークエルフ! テメェもバテちまったんじゃねぇだろうナ?」
じゃれ合う二人の後ろで、黒い外套を着た若い青年が、ゆっくりと顔を上げる。整った顔立ちに表情は浮かんでいないものの、彼は射るような視線をゲルセイルへ向けた。
「オイオイ、そう睨むナヨ! 同類じゃねぇカ。ナッ?」
「ゲルっちが先輩ぶって名前で呼んだげないからじゃ?――ねっ、ラァテル!」
「ふん。心配は無用だ。戯れが済んだなら行くぞ。時間を無駄にするな」
そう言うなり、ラァテルの姿は二人の目の前から消え――
次の瞬間には、前方を行く〝ボス〟の付近へと出現した!
「ふぇぇ……。何あれ、すごっ! ワープ? 瞬間移動? あっ、もしかして縮地ってヤツ!?」
「知らネ。気功術の技ダロ。寿命の短けぇダークエルフの分際でアレを使うトカ、かなりイカレてやがるよナ!」
「ひゃー、カッコイイね! ラァテルってなんか、クールでロックな感じ! チャラいゲルっちにも見習って欲しいね!」
「俺っちはアイエルの言葉が意味不明ダヨ。そっちをナントカして欲しいナ!」
「あははー、ごめんねぇ。ほら、文化の違いってヤツ? それより急ご! こんな所で霧に捕まったら、落とされちゃうし!」
「おうヨ。ボスも休憩の準備してるぽいしナ。手伝おうゼ」
二人の視線の先では、勇者ロイマンが担いでいた大きな革袋を降ろし、野営の準備をしていた。齢五十を越えた人間族の彼だが、筋骨逞しい肉体を見ても、一切の衰えを感じさせない。
ロイマンの傍らでは、長い前髪で顔の半分を隠した女性が剣を振り、薪を作っていた。ハーフエルフである彼女は外見こそ二十代であるが、実年齢はロイマンと大差ない、熟練の冒険者だ。
「あら、ラァテル。どう? 彼らとも仲良くできそ?」
「ああ。問題ない」
「そう、良かった。そろそろ〝霧〟が出るわ。食事にしましょうか」
彼女――ハツネは、天上の太陽を見上げる。
まだ陽光は昼を示しているが、その光はやや弱い――。
「ウッス、ボス。姐サン。遅くなって、スンマセン」
「ボス、遅くなってごめんねぇ。ゲルっちがモタモタしてるからさ!」
「揃ったか。向こうに岩ジカが居る、何匹か捕って来てくれ。しかし――お前ら、その『ボス』って呼び方は、どうにかならんのか?」
「んアッ?――ほら、ラァテルのヤツが呼んでやがるシ、『ダンナ』よりボスっぽいかなってナ!」
「うんうん! なんか『リーダー』ってよりボスって感じだもん!」
「そうね。これからも宜しくね? 私たちのボス?」
「フッ、解った解った――。好きにしろ」
ロイマンは大きな革袋の中から金属製のビンを取り出し、中の液体を喉に流し込む。どうやら、袋の中身はすべて酒ビンのようだ。
そして仲間たちもそれぞれに、キャンプの準備に取り掛かりはじめるのだった――。
勇者ロイマンの一行は、アルティリア北部の岩山地帯を攻略していた。
「ヒュー、ずいぶん高いトコまで来たもんだナ。『神とナントカは高いトコに住みたがる』っていうガ、俺っちも神になった気分ダゼ!」
「あはは! どっちかって言うと〝ナントカ〟の方じゃないの? ゲルセイル!――ほら、さっさと歩く歩く! ボスと姉さんに置いてかれちゃうよ!」
岩に足を載せ、気取ったポーズを決める青年に対し、少女が茶化すように言う。二人とも武器や防具で身を固めた冒険者のようだが、ゲルセイルなる青年は半裸に近い軽装で、赤い髪の中からは二本の短い角が伸びている。
「んだとォ? アイエルよォ、俺っちはわざわざ、ひ弱なテメェに合わせてやってんダヨ。感激して惚れちまってもいいんダゼ?」
「へぇー。本当に凹んでるんだ――。あっ、ゲルっち? 何か言った?」
風になびく黒髪をかき分け、アイエルと呼ばれた少女が惚けた顔で彼を見る。太陽の光にかざして見ると――彼女の髪と大きな瞳は、やや紫色をしているようだ。
「チッ、るせェ! 景色なんか眺めてねぇで歩けヨナ!――オイ、新入りダークエルフ! テメェもバテちまったんじゃねぇだろうナ?」
じゃれ合う二人の後ろで、黒い外套を着た若い青年が、ゆっくりと顔を上げる。整った顔立ちに表情は浮かんでいないものの、彼は射るような視線をゲルセイルへ向けた。
「オイオイ、そう睨むナヨ! 同類じゃねぇカ。ナッ?」
「ゲルっちが先輩ぶって名前で呼んだげないからじゃ?――ねっ、ラァテル!」
「ふん。心配は無用だ。戯れが済んだなら行くぞ。時間を無駄にするな」
そう言うなり、ラァテルの姿は二人の目の前から消え――
次の瞬間には、前方を行く〝ボス〟の付近へと出現した!
「ふぇぇ……。何あれ、すごっ! ワープ? 瞬間移動? あっ、もしかして縮地ってヤツ!?」
「知らネ。気功術の技ダロ。寿命の短けぇダークエルフの分際でアレを使うトカ、かなりイカレてやがるよナ!」
「ひゃー、カッコイイね! ラァテルってなんか、クールでロックな感じ! チャラいゲルっちにも見習って欲しいね!」
「俺っちはアイエルの言葉が意味不明ダヨ。そっちをナントカして欲しいナ!」
「あははー、ごめんねぇ。ほら、文化の違いってヤツ? それより急ご! こんな所で霧に捕まったら、落とされちゃうし!」
「おうヨ。ボスも休憩の準備してるぽいしナ。手伝おうゼ」
二人の視線の先では、勇者ロイマンが担いでいた大きな革袋を降ろし、野営の準備をしていた。齢五十を越えた人間族の彼だが、筋骨逞しい肉体を見ても、一切の衰えを感じさせない。
ロイマンの傍らでは、長い前髪で顔の半分を隠した女性が剣を振り、薪を作っていた。ハーフエルフである彼女は外見こそ二十代であるが、実年齢はロイマンと大差ない、熟練の冒険者だ。
「あら、ラァテル。どう? 彼らとも仲良くできそ?」
「ああ。問題ない」
「そう、良かった。そろそろ〝霧〟が出るわ。食事にしましょうか」
彼女――ハツネは、天上の太陽を見上げる。
まだ陽光は昼を示しているが、その光はやや弱い――。
「ウッス、ボス。姐サン。遅くなって、スンマセン」
「ボス、遅くなってごめんねぇ。ゲルっちがモタモタしてるからさ!」
「揃ったか。向こうに岩ジカが居る、何匹か捕って来てくれ。しかし――お前ら、その『ボス』って呼び方は、どうにかならんのか?」
「んアッ?――ほら、ラァテルのヤツが呼んでやがるシ、『ダンナ』よりボスっぽいかなってナ!」
「うんうん! なんか『リーダー』ってよりボスって感じだもん!」
「そうね。これからも宜しくね? 私たちのボス?」
「フッ、解った解った――。好きにしろ」
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