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8話
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ハリーは、私の姿を見るとすぐに頭を下げた。
「ルル、昨日はごめん。
その・・・話がしたいんだ」
少し汗ばんで、肩で息をしている。
急いで来てくれたのかな?
「わかった」
ここでは話しづらいので公園で話を聞くことにした。
元々話をして欲しい。と言ったのは自分なんだし、しっかりと聞こうと思った。
「昨日は、ルルが来てくれて嬉しかった。
なのに、俺ときたら。本当にごめん。
デルの森から2ヶ月も帰って来ないから、心配だったんだ。
本当に無事で良かった」
そう言ってハリーは私に近づくと、抱きしめようと躊躇いがちに伸ばした腕を、私に触れることなく元に戻した。
「ごめん・・・昨日あんな姿見せた俺に、そんな権利無いよな」
「・・・・・・うん・・・」
「ルル、その、俺の話聞いて欲しいんだ」
「わかった」
私はハリーの目をまっすぐ見て言った。
「もう知ってるかもしれないけれど、俺は、ロックウェル侯爵家の次男のハリー・ロックウェル。
父上は、ブラッドリー・ロックウェル。
母上は、アリシア・ロックウェル。
あと、兄上が3歳年上に1人いる。
ギルバート・ロックウェルで、次期侯爵として今は父上である侯爵から仕事を引き継いでいる。
うちは侯爵家と言っても、祖父の時代に事業で失敗して多額の負債を抱えて借金だらけだった。
今では事業も随分回復したけれど、実際には他の貴族から援助を受けている。
その援助してくれている貴族の令嬢、リンダ・ウィルソン子爵令嬢が昨日その、俺と一緒に居た令嬢だ。
勿論、誓って、何の関係も無い。
ただ、その、リンダ嬢は以前から俺に頻繁に絡んできて。
父上にも、失礼の無いようにと、子どもの頃から言われていて、援助してくれている手前無下にも出来ず、差し入れを受け取って腕を取られたのをそのままにしてしまった。
でも、きちんと断るべきだった。
ルル、本当にごめん」
ハリーは深く頭を下げた。
話を聞いて、正直ハリーとの身分差をものすごく感じた。
侯爵家、子爵令嬢、リンダ嬢、父上、母上か・・・
少しばかり魔法の使える平民の私とは根住む世界が違う、そんな気がした。
「昨日リンダ嬢には、改めて恋人がいるので差し入れも受け取れないし、接触することにも断りをいれた」
私が、「ハリーが触ってきても断らない思わせぶりな態度をとるから、そのリンダ様は両思いと勘違いしているんじゃないの?」
と聞くと、
「いや、それは無いと思う。彼女は強引なんだ。
俺は恋人がいると伝えている。
それでも学園時代から毎回突撃して来る。
その、『恋人が居ても構わない』と、そういうタイプの人間なんだ」
「だったら、もっと誤解するでしょ。
触っても嫌がらないし、差し入れも受け取るし!
それに、ハリーものっすごい笑顔だっだから!」
私が勢いよく言うと、ハリーは何故か笑った。
「何?」
「いや、こーいうルルは久しぶりに見たなって思って」
こーいう私?
「確かに、全部俺の落ち度だ。
煮え切らない態度が招いた。
昨夜、父上にもリンダ嬢への対応を話してきて、了承も得た。
そして、ルルが恋人だと話した。
父上はその、貴族らしいんだ。
だから、実際のところ俺にも侯爵家の利になる貴族との縁を望んでいる。
だからルルとのことも、『理解はできるが、現実を見ろ』と,言われた。
ルルは、エルドウッド魔法伯爵が後見人を務める優秀な魔法使いと、すごく有名なんだよ。
父上も、『類稀な才能の持ち主』と、褒めていた。
珍しいよ。
あの人は、滅多に褒めないから。
あと、恥ずかしながら、両親は完全なる政略結婚で、兄上と俺が生まれてからはお互いに愛人を作って、2人共ほぼ屋敷にはいない。
母上は南の領地で愛人と籠り、父上は王都の別邸で愛人と暮らしている。
社交の期間だけ、仲良さげな夫妻に見せかけているけどな。
だから、俺は乳母に育てられて、まぁ、ほとんど貴族はそうだろうけど、でも俺の場合は屋敷で一緒に食事をとった記憶すらないんだ。
そんな家庭環境をルルに知られたくなかった。
貴族らしい家族も。
なんて、言い訳だな。
教えるの遅くなって、本当にごめん」
ハリーはひととおり話し終えれると、また頭を下げた。
私は可笑しくて、笑ってしまった。
「ハリー、頭下げてばっかだね」
「だな。でも、それだけの事をしたから。充分自覚してる」
私は、いいなか。と思った。
思うところは確かにあるけど、貴族の世界は私の分からない複雑な事情が色々とあるのだと思う。
華やかに見える世界には裏があって、ハリーも家族との関係は恵まれたものでははなかった。
私とは生きてきた世界が違うから、疑問や不安はその都度2人で話し合って解決していけば良い。
待ってばかりで、逃げた私にも問題はあった。
「ハリー、私達、もっと、言いたいことを言い合おうよ」
私も変わろう。
ハリーと恋人になってから浮かればかりで、受け身がちになっていた。
きっと、もっと良い関係になれるはず。
その後も、色々話した。
クリスティ様とは、学園でリンダ様から逃げる為に一緒にいたらしい。
クリスティ様はクリスティ様で、ハリーの友達の子爵令息が好きで、お互い様だとわかった。
断りきれない社交では、令嬢とダンスを踊ることがある。
婚約者はいない。
私も、後輩の天才ウィル君の話や、辺境からのスカウトの話をした。
「ルル、抱きしめていい?」
私が頷くと、ハリーは優しく抱きしめてきた。
「魔法、すごくキレイだった。
ありがとう」
と言った後、耳元で、
「ルルの魔法大好き」と、小声で囁いた。
「フフッ、じゃあ,ハリーが浮気したら、私お得意の強化魔法で強烈パンチをお見舞いするね」
私が笑うと、
「それは怖いな」と、言って、わたしの髪に優しくキスした。
「ルル、昨日はごめん。
その・・・話がしたいんだ」
少し汗ばんで、肩で息をしている。
急いで来てくれたのかな?
「わかった」
ここでは話しづらいので公園で話を聞くことにした。
元々話をして欲しい。と言ったのは自分なんだし、しっかりと聞こうと思った。
「昨日は、ルルが来てくれて嬉しかった。
なのに、俺ときたら。本当にごめん。
デルの森から2ヶ月も帰って来ないから、心配だったんだ。
本当に無事で良かった」
そう言ってハリーは私に近づくと、抱きしめようと躊躇いがちに伸ばした腕を、私に触れることなく元に戻した。
「ごめん・・・昨日あんな姿見せた俺に、そんな権利無いよな」
「・・・・・・うん・・・」
「ルル、その、俺の話聞いて欲しいんだ」
「わかった」
私はハリーの目をまっすぐ見て言った。
「もう知ってるかもしれないけれど、俺は、ロックウェル侯爵家の次男のハリー・ロックウェル。
父上は、ブラッドリー・ロックウェル。
母上は、アリシア・ロックウェル。
あと、兄上が3歳年上に1人いる。
ギルバート・ロックウェルで、次期侯爵として今は父上である侯爵から仕事を引き継いでいる。
うちは侯爵家と言っても、祖父の時代に事業で失敗して多額の負債を抱えて借金だらけだった。
今では事業も随分回復したけれど、実際には他の貴族から援助を受けている。
その援助してくれている貴族の令嬢、リンダ・ウィルソン子爵令嬢が昨日その、俺と一緒に居た令嬢だ。
勿論、誓って、何の関係も無い。
ただ、その、リンダ嬢は以前から俺に頻繁に絡んできて。
父上にも、失礼の無いようにと、子どもの頃から言われていて、援助してくれている手前無下にも出来ず、差し入れを受け取って腕を取られたのをそのままにしてしまった。
でも、きちんと断るべきだった。
ルル、本当にごめん」
ハリーは深く頭を下げた。
話を聞いて、正直ハリーとの身分差をものすごく感じた。
侯爵家、子爵令嬢、リンダ嬢、父上、母上か・・・
少しばかり魔法の使える平民の私とは根住む世界が違う、そんな気がした。
「昨日リンダ嬢には、改めて恋人がいるので差し入れも受け取れないし、接触することにも断りをいれた」
私が、「ハリーが触ってきても断らない思わせぶりな態度をとるから、そのリンダ様は両思いと勘違いしているんじゃないの?」
と聞くと、
「いや、それは無いと思う。彼女は強引なんだ。
俺は恋人がいると伝えている。
それでも学園時代から毎回突撃して来る。
その、『恋人が居ても構わない』と、そういうタイプの人間なんだ」
「だったら、もっと誤解するでしょ。
触っても嫌がらないし、差し入れも受け取るし!
それに、ハリーものっすごい笑顔だっだから!」
私が勢いよく言うと、ハリーは何故か笑った。
「何?」
「いや、こーいうルルは久しぶりに見たなって思って」
こーいう私?
「確かに、全部俺の落ち度だ。
煮え切らない態度が招いた。
昨夜、父上にもリンダ嬢への対応を話してきて、了承も得た。
そして、ルルが恋人だと話した。
父上はその、貴族らしいんだ。
だから、実際のところ俺にも侯爵家の利になる貴族との縁を望んでいる。
だからルルとのことも、『理解はできるが、現実を見ろ』と,言われた。
ルルは、エルドウッド魔法伯爵が後見人を務める優秀な魔法使いと、すごく有名なんだよ。
父上も、『類稀な才能の持ち主』と、褒めていた。
珍しいよ。
あの人は、滅多に褒めないから。
あと、恥ずかしながら、両親は完全なる政略結婚で、兄上と俺が生まれてからはお互いに愛人を作って、2人共ほぼ屋敷にはいない。
母上は南の領地で愛人と籠り、父上は王都の別邸で愛人と暮らしている。
社交の期間だけ、仲良さげな夫妻に見せかけているけどな。
だから、俺は乳母に育てられて、まぁ、ほとんど貴族はそうだろうけど、でも俺の場合は屋敷で一緒に食事をとった記憶すらないんだ。
そんな家庭環境をルルに知られたくなかった。
貴族らしい家族も。
なんて、言い訳だな。
教えるの遅くなって、本当にごめん」
ハリーはひととおり話し終えれると、また頭を下げた。
私は可笑しくて、笑ってしまった。
「ハリー、頭下げてばっかだね」
「だな。でも、それだけの事をしたから。充分自覚してる」
私は、いいなか。と思った。
思うところは確かにあるけど、貴族の世界は私の分からない複雑な事情が色々とあるのだと思う。
華やかに見える世界には裏があって、ハリーも家族との関係は恵まれたものでははなかった。
私とは生きてきた世界が違うから、疑問や不安はその都度2人で話し合って解決していけば良い。
待ってばかりで、逃げた私にも問題はあった。
「ハリー、私達、もっと、言いたいことを言い合おうよ」
私も変わろう。
ハリーと恋人になってから浮かればかりで、受け身がちになっていた。
きっと、もっと良い関係になれるはず。
その後も、色々話した。
クリスティ様とは、学園でリンダ様から逃げる為に一緒にいたらしい。
クリスティ様はクリスティ様で、ハリーの友達の子爵令息が好きで、お互い様だとわかった。
断りきれない社交では、令嬢とダンスを踊ることがある。
婚約者はいない。
私も、後輩の天才ウィル君の話や、辺境からのスカウトの話をした。
「ルル、抱きしめていい?」
私が頷くと、ハリーは優しく抱きしめてきた。
「魔法、すごくキレイだった。
ありがとう」
と言った後、耳元で、
「ルルの魔法大好き」と、小声で囁いた。
「フフッ、じゃあ,ハリーが浮気したら、私お得意の強化魔法で強烈パンチをお見舞いするね」
私が笑うと、
「それは怖いな」と、言って、わたしの髪に優しくキスした。
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