恋人に浮気された私は、辺境伯に見初められる

MOMO-tank

文字の大きさ
32 / 36

31話 クリストファー

北の森での魔獣発生も落ち着いたと思われた頃、ロバートが血相を変えて俺の前に現れた。
何でも、今日がルルの19歳の誕生日だと言う。
調べなかった自分への失望と共に、なぜ知っているのか尋ねると、ベンの名前が出てきた。

どうしてベンが知っている。
祖母が治療院通いをしていて、ベン経由でルルにクッキーを渡したと、ロバートの声が聞こえているのに先を越された悔しさが込み上げた。

夕食の場でルルの19歳の誕生を祝うとして、問題はプレゼントだった。
本音を言うならアクセサリーを贈りたい。
デザイン性のある、身を守る魔道具とか。

いやーー
駄目だな。

「1年前はアイツとルルちゃん、仲良く食事しててさ。俺もよく見かけたよ。
ルルちゃん、アイツの色のペンダントしてたの覚えてるよ」

友人の言葉を思い出す。

アクセサリーは、無理だな。
それを思い出させるような物も。


考えた末に、ルルが素直に受け取ってくれそうなリボンにした。
ローブとお揃いだから、きっと気に入ってくれるだろう。
ローブも喜んでくれたから。


過去のことだから考えてもどうしようもないのは分かってる。
それでも、ルルが侯爵令息と恋人同士で、奴の色のペンダントを身につけて、仲良く食事に行っていたと思うと、嫉妬心に駆られる。

もう終わったことだ。
でもルルは未だに、奴に傷付けられた傷が癒ずに苦しんでいる。
別れても尚、ルルを苦しめ、彼女の心にその存在が居座り続けている。

それに、奴との別れが無ければ此処に来たかも分からない。

よくわからない感情で胸がぐちゃぐちゃになる。


今できることは、ルルが安心して楽しい毎日を過ごせる様に見守ることだ。
ただ、ぽっと出の男にルルを攫われるのだけは御免だ。




「兄さん、ジェシカが来る!」
何だって?

ルルの誕生会も終わって1週間が過ぎた頃だろうか。
ロバートがとんでもない事を口にした。

ジェシカはロバートの婚約者だ。
ラッシュ伯爵令嬢で、女騎士でもある。元気があってとても良い子だ。 
ジェシカが遊びに来るのは全くを持って問題ない。

ただ、ジェシカの従姉妹が必ずと言っていいほどついて来る。
香水の匂いを撒き散らし、出戻りの姉はまだしも、妹は儚げな女性アピールが酷い。
招待もしていないのに図々しく我が物顔で屋敷に入り込む。  
俺が在宅時は追い返すが、家令だと体調不良を装い、仮病のくせに医師まで要求する。

これは俺が甘かった。

俺は既に、王都で過去に関係のあった女性達の現在を徹底的に調べ上げた。
元々後腐れの無いような相手としか付き合ってはいない。
既に5年以上前の出来事だ。
でも、ルルに害をなす可能性がある者がないとも限らない。
結果、2人の女性には王都から遠く離れた場所に嫁いでもらった。

これで大丈夫だろう。と安心していた。


でも、ジェシカの従姉妹がいた。
向こうが勝手に寄って来るだけだが、ルルが知ればそうは思わない。
待ち構えて、早急に退場してもらおう。

すでに、ルルの耳に話が入っているかもしれない。
隠すのは得策と思えなく敢えて知らせると、それはそれで『お邪魔ならーー』なんて言われて泣きそうになった。

ジェシカの従姉妹を二度と辺境の地を踏まないように、半分脅しをかけて追い返した。
間違ってもルルには近付けたくない人種だ。


その後、溜まっていた事務仕事を終わらせルルの顔を見ると、駄目だった。
気持ちが溢れ、一方的に自分の思いを告げてしまった。

ルルは困った顔をしていた。 

用意しておいた練習着を渡すと、嬉しそうにしていた。
気まづそうなルルが、食堂を出る前に残したワインを慌てて飲み干す姿を見て、やっぱり大好きだと自覚した。

止まらなくなった俺は、ネルソンの食堂の老夫婦が息子夫婦とこちらに越して、新しく始めた食堂にルルを誘った。
半ば強引ではあったが。

魔法伯爵がルルにワンピースを贈っていた話はルルから聞いて知っていた。
食堂まではローリーに騎乗して行く予定なので、普段着にも見える乗馬服にワンピースを2着選んでアンナへ託した。

乗馬服姿のルルは美しかった。
自分が選んだ物を好きな人に着てもらえる喜びは、想像以上だった。

横抱きにしたルルは軽くて、柔らかくて、仄かに石けんの香りがした。
ただ気になったのは、ルルの体がずっと強張っていたことだ。

奴か・・・


外出は辛いかもしれない。

でも、それ位で諦める俺ではなかった。
モーガン爺から、ルルが魔法で淹れる紅茶が美味しい話を聞くとすぐに行動に出た。
夕食後はルルに紅茶を淹れてもらい、色んな話をするまでになった。
ほとんどは俺が話していたようなものだが、ルルもポツリポツリと自分の話をしてくれるのが嬉しかった。



隣国の動きが怪しいのは前からだったが、今回は嫌な予感がした。
ロバートとモーガン爺にこの場を任せて、俺は先鋭部隊と偵察に向かった。

隣国には魔法使いは存在しない。
でも、その分あやしい薬の開発に力を入れていたりする。
成功例はほぼないが、以前一度だけ体が痺れる薬剤を散布された。
事前に情報は入手済みで大事には至らなかったが、前衛にいたロバートが至近距離で薬剤を浴び、ショック症状を起こした。
適切な処置の後は安静にしていれば完治するから問題無いと、モーガン爺は言った。

ロバートもすぐにピンピンし、気にしないでほしいと頼まれた。


今回は、特殊な毒の開発だった。
国境付近に運び込まれた物は破壊し、調べ上げた毒の研究所は故意とは勘付かれにくい火事を起こし、形もなく灰にした。

ただ、運び込まれた毒の一部は別のルートですでに辺境領に持ち込まれていた。
ロバートとモーガンには直ぐに知らせたが、毒がどれだけのものかは計りかねた。

ルルを頼む。

ルルが脅威的な力を秘めているのは知っている。

でも、ロバートに頼んだ。


とにかく、急いだ。
もう、辺境騎士団は昨日から国境へ向かっている。
目に入る敵兵は魔法で纏めて倒す。

人の気配と矢を射る音、そして、眩しい光が目に入った。

ルル

治療をして下がれと命じ、ルルと一瞬目が合った。

「誰が下がるか」

片手を上げたルルは、兵士達を吹き飛ばした。
今度は手から金色の光を放ち、倒れた辺境騎士達を治療し、移動させた。

結界も張ったのか・・・

思わず魅入ってしまったが、終わらせるか。

そう思った時、前方でロバートが震えて倒れていた。
ショック症状か。
ルルにロバートを任せて、俺は残りの兵士を全て一撃で倒した。

振り返ると、ルルがロバートを治療している。

大丈夫そうだな。

疲れ切った俺は、倒れる様に寝そべって目を閉じた。
考えれば、2日寝ずの動きっぱなしだった。
腹も空いたな。

誰かが近寄って来て、俺の体をチェックしている。
ルル、だよな。
俺の名前を心配そうに呼んで、体を優しく揺する。

目を開けようか迷った末に、次に何をするか知りたくなった。

「ふうん。魔力切れじゃない。
分けてあげる」

そう言ったルルは、俺の唇に優しく口づけをし、魔力を流した。
その魔力は、心地よく、優しく、穏やかで、甘かった。

「ルル、もう一回」

その時のルルの慌てようといったらなかった。

夢かと思うくらいに幸せだった。
ルルの柔らかい唇の感触と、心地よくて甘い魔力に酔っていた。

だから、ルルが腹が減った俺にパンを差し出した時は驚いた。
俺は半分にしたパンをルルに渡した。

「少し硬くなっても、3日はいけるから大丈夫」

思い出した?

固まって俺の顔をじっと見て、泣き出した。
抱きしめたい衝動に駆られるのをグッと我慢した。
今抱きしめると、それだけでは済まないのは自分にもわかる。
今のルルにそんなことできないし、それこそ魔法伯爵に殺されるだろう。


ルル、俺が傍にいる。
ずっと、ずっと。
俺がルルを幸せにするから。


泣き止んだルルは、俺にハンカチをくれた。

「クリストファー様、お誕生日おめでとうございます」

「ありがとう、ルル」

嬉しかった。
ただ、胸がいっぱいで、嬉しかった。





あなたにおすすめの小説

愛を語れない関係【完結】

迷い人
恋愛
 婚約者の魔導師ウィル・グランビルは愛すべき義妹メアリーのために、私ソフィラの全てを奪おうとした。 家族が私のために作ってくれた魔道具まで……。  そして、時が戻った。  だから、もう、何も渡すものか……そう決意した。

王太子殿下が私を諦めない

風見ゆうみ
恋愛
公爵令嬢であるミア様の侍女である私、ルルア・ウィンスレットは伯爵家の次女として生まれた。父は姉だけをバカみたいに可愛がるし、姉は姉で私に婚約者が決まったと思ったら、婚約者に近付き、私から奪う事を繰り返していた。 今年でもう21歳。こうなったら、一生、ミア様の侍女として生きる、と決めたのに、幼なじみであり俺様系の王太子殿下、アーク・ミドラッドから結婚を申し込まれる。 きっぱりとお断りしたのに、アーク殿下はなぜか諦めてくれない。 どうせ、姉にとられるのだから、最初から姉に渡そうとしても、なぜか、アーク殿下は私以外に興味を示さない? 逆に自分に興味を示さない彼に姉が恋におちてしまい…。 ※史実とは関係ない、異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。

いつも隣にいる

はなおくら
恋愛
心の感情を出すのが苦手なリチアには、婚約者がいた。婚約者には幼馴染がおり常にリチアの婚約者の後を追う幼馴染の姿を見ても羨ましいとは思えなかった。しかし次第に婚約者の気持ちを聞くうちに変わる自分がいたのだった。

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

お姉様優先な我が家は、このままでは破産です

編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。 だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!  愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理! 姉の結婚までにこの家から逃げたい! 相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。

【完結】「元カノが忘れられないんでしょう?」と身を引いた瞬間、爽やか彼氏の執着スイッチが入りました

恋せよ恋
恋愛
「元カノが忘れられないなら、私が身を引くわくべきよね」 交際一周年、愛するザックに告げた決別の言葉。 でも、彼は悲しむどころか、見たこともない 暗い瞳で私を追い詰めた。 「僕を捨てる? 逃げられると思っているの、アン」 私の知る爽やかな王子の仮面が剥がれ落ち、 隠されていた狂おしいほどの独占欲が牙を剥く。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?

氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。 しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。 夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。 小説家なろうにも投稿中

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。