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第1話
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顔の形は、やや面長。
瞳はヘーゼルで、切れ長気味。
鼻は高くも低くもなく、一般的。
唇はどちらかといえば、薄い。
髪は黒。
身長は、女性の中では高い。
スタイルは、普通だろう。
それぞれはいたって普通で、特徴的なものはない。
なのに、これらのパーツが集まった私はなぜか色っぽいとかセクシーとか言われる。
全くをもって嬉しいわけはなく、なのにそんな気持ちとは裏腹に、16歳を過ぎた頃から愛人にしたいだの、夜会では休憩室に誘われること数知れず。
遊び慣れてると思われているのが、腹立たしくてしょうがなかった。
現にそれが原因で、婚約者から婚約解消を告げられた。
実際の私には、そんな要素は何一つ無いというのに。
「シドニー、今日は侍女が3人も病欠していて人手が足りないの。
本来はあなたの仕事ではないけれど、この書類を財務部まで届けてほしいの。
お願いね」
「わかりました」
分厚い書類を離宮の侍女長から受け取ったものの、嫌な予感しかしなかった。
私、シドニー・ルグラン子爵令嬢は学園卒業後、王宮侍女の下っ端として働いていた。
学園時代からこの顔で何かと苦労した私は、どうにか見た目を変化させようと髪型や化粧の研究をするうちに、知らず知らずのうちにそれらの腕を上げていった。
侍女仲間の化粧や髪型のセットを頼まれるようになり、それが評判を呼び、ある日離宮から呼び出しがかかった。
それが側妃様で、私の化粧と髪型を整える技術を気に入り、半年前に側妃様付きの侍女になったというわけだった。
離宮は人の出入りも少なく、私にとってはストレス無く働ける最高の場所だ。
それに引き換え、王宮は人も多い。
人が多ければ様々なタイプの人間がいて、勿論その中には身分を傘に着たいけすかない、理解不能な人がいる。
ふと、数人の近衛騎士や文官の姿が頭をよぎった。
大丈夫ーー
顔色が悪く見える化粧に髪はギュッとまとめている。
目立たないはず。
やや俯き加減で足早に歩いて財務部へと向かった。
あと少し廊下を進んで角を曲がれは財務部というところでほっとしていると、背後からピューっと冷やかしのような口笛が聞こえて、背筋が寒くなった。
「シドニー・ルグラン子爵令嬢。
最近見かけなくて寂しかったよ」
キンキン響く耳障りな声と共に足音が近づき、鼻につくオーデコロンの匂いが誰か語っていた。
ニコラス・ドミンゲス伯爵令息。
文官と聞いたけれど廊下への出没率が異常に高く、しつこさは呆れるレベルの要注意人物。
「あれ?聞こえないのかな?」
いつの間にか前に回り込まれ、長めの茶色の前髪をかき上げながら意味深な視線を送ってくる。
「失礼いたしました。
急ぎの届け物がありましたので」
「ふぅん。ねぇ、明日の夜仮面舞踏会があるんだけど、行きたいならエスコートするよ」
「いえ、結構です。
では、失礼いたします」
財務部はすぐそこだ。
格上の伯爵令息に失礼だったかもしれないけれど、この男のエスコートで仮面舞踏会など考えただけで虫唾が走る。
隙を見せずに男の横にずれて早足で進むと、チッと舌打ちのような音が聞こえたと同時に腕を強く掴まれた。
痛っーー
「寂しそうにしてると思って声かけてやったのに・・・・・・っ、
・・・・・・ヒッ」
よくわからないけれど急に腕が解放された。
痛む腕をさすりながら振り返ってみれば、眼光鋭い大柄な騎士がドミンゲス伯爵令息の腕を捩じ上げていた。
「陛下が、王宮内の規律の乱れを嘆いておられたぞ、ドミンゲス伯爵令息」
低い威圧感のある声に、ドミンゲス伯爵令息は顔を歪めて怯えながらも悪態をつき始めた。
「そこの子爵令嬢が・・・誘惑してきたから仕方なくっ・・・・・・ウッ」
この手の自己保身に走る言い訳は聞き慣れているはずなのに、胸がチクッと痛んだ。
「暴行、傷害、侮辱発言に、虚偽報告・・・・・・」
「・・・・・・す、す、すいませんっ」
「謝罪する相手が違う」
「・・・・・・ッ、ウッ・・・」
捩じ上げる力を強めたのか、ドミンゲス伯爵令息が泣き出しそうに顔を歪めた。
「も・・・申し訳・・・・・・なかった。
・・・・・・ルグラン子爵令嬢」
謝ったーー
上から目線のいけすかない、自分本位のドミンゲス伯爵令息が。
その事実に驚いていると、騎士がドミンゲス伯爵令息の耳元で何かを告げ、顔色を悪くした令息は逃げるようにその場を去った。
「ご令嬢、大丈夫か?」
「・・・・・・ええ。助かりました。
ありがとうございます」
こちらを向いた大柄な騎士は、アッシュブロンドの短髪にブルーの瞳、無精髭を蓄えた精悍な顔立ちの、私より10は年上に見える男性で、
なぜか私は彼から目が離せなかった。
そんな彼は、私が腕をさすっているのをじっと見ていた。
これが、のちに私の旦那様となる近衛騎士団副団長である、クライブ・ノックス男爵との出逢いだった。
瞳はヘーゼルで、切れ長気味。
鼻は高くも低くもなく、一般的。
唇はどちらかといえば、薄い。
髪は黒。
身長は、女性の中では高い。
スタイルは、普通だろう。
それぞれはいたって普通で、特徴的なものはない。
なのに、これらのパーツが集まった私はなぜか色っぽいとかセクシーとか言われる。
全くをもって嬉しいわけはなく、なのにそんな気持ちとは裏腹に、16歳を過ぎた頃から愛人にしたいだの、夜会では休憩室に誘われること数知れず。
遊び慣れてると思われているのが、腹立たしくてしょうがなかった。
現にそれが原因で、婚約者から婚約解消を告げられた。
実際の私には、そんな要素は何一つ無いというのに。
「シドニー、今日は侍女が3人も病欠していて人手が足りないの。
本来はあなたの仕事ではないけれど、この書類を財務部まで届けてほしいの。
お願いね」
「わかりました」
分厚い書類を離宮の侍女長から受け取ったものの、嫌な予感しかしなかった。
私、シドニー・ルグラン子爵令嬢は学園卒業後、王宮侍女の下っ端として働いていた。
学園時代からこの顔で何かと苦労した私は、どうにか見た目を変化させようと髪型や化粧の研究をするうちに、知らず知らずのうちにそれらの腕を上げていった。
侍女仲間の化粧や髪型のセットを頼まれるようになり、それが評判を呼び、ある日離宮から呼び出しがかかった。
それが側妃様で、私の化粧と髪型を整える技術を気に入り、半年前に側妃様付きの侍女になったというわけだった。
離宮は人の出入りも少なく、私にとってはストレス無く働ける最高の場所だ。
それに引き換え、王宮は人も多い。
人が多ければ様々なタイプの人間がいて、勿論その中には身分を傘に着たいけすかない、理解不能な人がいる。
ふと、数人の近衛騎士や文官の姿が頭をよぎった。
大丈夫ーー
顔色が悪く見える化粧に髪はギュッとまとめている。
目立たないはず。
やや俯き加減で足早に歩いて財務部へと向かった。
あと少し廊下を進んで角を曲がれは財務部というところでほっとしていると、背後からピューっと冷やかしのような口笛が聞こえて、背筋が寒くなった。
「シドニー・ルグラン子爵令嬢。
最近見かけなくて寂しかったよ」
キンキン響く耳障りな声と共に足音が近づき、鼻につくオーデコロンの匂いが誰か語っていた。
ニコラス・ドミンゲス伯爵令息。
文官と聞いたけれど廊下への出没率が異常に高く、しつこさは呆れるレベルの要注意人物。
「あれ?聞こえないのかな?」
いつの間にか前に回り込まれ、長めの茶色の前髪をかき上げながら意味深な視線を送ってくる。
「失礼いたしました。
急ぎの届け物がありましたので」
「ふぅん。ねぇ、明日の夜仮面舞踏会があるんだけど、行きたいならエスコートするよ」
「いえ、結構です。
では、失礼いたします」
財務部はすぐそこだ。
格上の伯爵令息に失礼だったかもしれないけれど、この男のエスコートで仮面舞踏会など考えただけで虫唾が走る。
隙を見せずに男の横にずれて早足で進むと、チッと舌打ちのような音が聞こえたと同時に腕を強く掴まれた。
痛っーー
「寂しそうにしてると思って声かけてやったのに・・・・・・っ、
・・・・・・ヒッ」
よくわからないけれど急に腕が解放された。
痛む腕をさすりながら振り返ってみれば、眼光鋭い大柄な騎士がドミンゲス伯爵令息の腕を捩じ上げていた。
「陛下が、王宮内の規律の乱れを嘆いておられたぞ、ドミンゲス伯爵令息」
低い威圧感のある声に、ドミンゲス伯爵令息は顔を歪めて怯えながらも悪態をつき始めた。
「そこの子爵令嬢が・・・誘惑してきたから仕方なくっ・・・・・・ウッ」
この手の自己保身に走る言い訳は聞き慣れているはずなのに、胸がチクッと痛んだ。
「暴行、傷害、侮辱発言に、虚偽報告・・・・・・」
「・・・・・・す、す、すいませんっ」
「謝罪する相手が違う」
「・・・・・・ッ、ウッ・・・」
捩じ上げる力を強めたのか、ドミンゲス伯爵令息が泣き出しそうに顔を歪めた。
「も・・・申し訳・・・・・・なかった。
・・・・・・ルグラン子爵令嬢」
謝ったーー
上から目線のいけすかない、自分本位のドミンゲス伯爵令息が。
その事実に驚いていると、騎士がドミンゲス伯爵令息の耳元で何かを告げ、顔色を悪くした令息は逃げるようにその場を去った。
「ご令嬢、大丈夫か?」
「・・・・・・ええ。助かりました。
ありがとうございます」
こちらを向いた大柄な騎士は、アッシュブロンドの短髪にブルーの瞳、無精髭を蓄えた精悍な顔立ちの、私より10は年上に見える男性で、
なぜか私は彼から目が離せなかった。
そんな彼は、私が腕をさすっているのをじっと見ていた。
これが、のちに私の旦那様となる近衛騎士団副団長である、クライブ・ノックス男爵との出逢いだった。
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