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第2話
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「シドニー、聞きましたよ。
昨日、王宮で絡まれていたのをノックス副団長に助けられたそうね」
「はい」
側妃であるフランシス様は私の手を優しく握ると、無事で良かったわ。と慰めるように仰った。
昨日の出来事は誰にも話していないのに、もうご存知なんて恐るべき情報網だと感心していると、私の顔を見てフランシス様は微笑んだ。
「ふふふ、どうして私が知っているのか不思議なようね」
「・・・は、はい」
「昨日、財務部へ届け物をした後に医務室へ行ったでしょう。
医務室の助手の一人が私の親戚なの。
あの無愛想で口数少ないノックス副団長がシドニーを連れて医務室に来たかと思ったら、それは心配そうに医師に診てくれと頼みこむから皆んな驚いたらしいわよ」
昨日、ドミンゲス伯爵令息が逃げるように去った後、財務部へ頼まれていた書類を渡し終えて離宮へ戻ろうと思っていると、廊下に居たノックス副団長に『ついてきてくれ』と言われ、その先が医務室だった。
フランシス様が言うように頼みこんだわけではないけれど、医師へはノックス副団長が説明してくれたので、私は事情を話す必要も無くほっとした。
男性に強く腕を掴まれた。なんて言えば、そうなった経緯をあれこれ噂されたりする場合だってありえるから。
腕は指の跡のようなものが赤く残っていて、冷やす貼り薬を貼ってもらった。
跡は紫色に変化するが問題無いとのことで一安心したが、あの男の指の跡がしばらく腕に残ると思うと、気が滅入りそうになった。
その後、ノックス副団長は離宮まで護衛のように付き添ってくれ、私は再度お礼を言いお別れした。
「頼みこんだわけではなかったと思いますが、本当に助けられました」
「まぁ。謙遜しないで頂戴。
私はてっきり、副団長がシドニーの美しさに心を惹かれてと思ったのよ。
あの方が女性に接するのは珍しいから」
面白そうにそう言うとフランシス様は、ノックス副団長が辺境の地で12年騎士として数々の武勲をあげ、一代限りの男爵位を授かり王都に戻り、半年前に近衛騎士団の副団長となった話をしてくださった。
「王都に戻るですか?」
元々王都で暮らしていたのか私が疑問を持つと、フランシス様は続けて説明しようとしたが、お茶会の時間になったらしく、また今度教えてあげるわ。と部屋を出て行かれた。
「シドニー、護衛騎士が到着したわ」
昨日の怪我が完治するまで毎日医務室へ通うようにと、フランシス様が医務室への往復に護衛騎士を頼んでくださった。
「ルグラン子爵令嬢」
その護衛騎士とは、クライブ・ノックス副団長だった。
「ノックス副団長、ごきげんよう」
「ああ、では行こうか」
それから3日間、ノックス副団長と医務室へ通った。
決して挨拶以外に会話するわけではないが、後ろからノックス副団長が見守ってくれているだけで、王宮への道のりが安心できるものに変わった。
その後ノックス副団長に会うことはなかったが、あの掴まれた跡が紫に変化して、最後には黄色っぽくなってすっかり治った頃に、月に一度足を運ぶ図書室で偶然再会した。
王宮図書室は円形の広々とした室内に数十万の蔵書を揃え、各セクションには騎士が常駐しているので落ち着いて過ごすことができるお気に入りの場所だ。
その日も、愛読書である冒険小説の続編と話題の推理小説を選んでいると、アッシュブロンドの短髪に騎士服に身を包んだ大きな背中を見つけた。
「ノックス副団長、ごきげんよう」
急に声をかけられて驚いたノックス副団長とは、小説の話をしたとはいっても、ほぼ私が一方的にに話して口数の少ない副団長は『ああ』とか『そうか』と答える形であった。
ただ帰り際に『ドミンゲス伯爵令息は、領地で謹慎中だ。もう王都には戻れない』と教えてくれた。
『安心してくれ』
この方にそう言われると、本当に安心できる。
最初から私をジロジロ見ることなく、周りが見て見ぬ振りをしてきた自分本位な貴族令息に正しい判断をして、行動に移してくれた。
泣き寝入りするしかない現実に納得がいかないのに、どうすることも出来ずに鬱憤が溜まっていたから、怯えるドミンゲス伯爵令息を見て正直清清した。
12年辺境で騎士として武勲をあげ男爵位を授かったこの方は、私には想像もつかない経験をしてきたに違いない。
時に眼光鋭く、寡黙で、少し寂しげに見えるクライブ・ノックス副団長が気になってしまうのはしょうがないだろう。
まるで、冒険小説のヒーローのような勇敢な姿をこの目にしたんだから。
ノックス副団長とはあれから図書館で三度会い、私が好きな小説の話を聞いて頷いては、その推理小説を借りていた。
帰りは必ず女子寮まで送ってくれた。
そして、王宮には噂好きな連中がいるもので、私達が一緒に居るのを見かけた者から話が広がり、やがて私とノックス副団長に婚約話が持ち上がった。
昨日、王宮で絡まれていたのをノックス副団長に助けられたそうね」
「はい」
側妃であるフランシス様は私の手を優しく握ると、無事で良かったわ。と慰めるように仰った。
昨日の出来事は誰にも話していないのに、もうご存知なんて恐るべき情報網だと感心していると、私の顔を見てフランシス様は微笑んだ。
「ふふふ、どうして私が知っているのか不思議なようね」
「・・・は、はい」
「昨日、財務部へ届け物をした後に医務室へ行ったでしょう。
医務室の助手の一人が私の親戚なの。
あの無愛想で口数少ないノックス副団長がシドニーを連れて医務室に来たかと思ったら、それは心配そうに医師に診てくれと頼みこむから皆んな驚いたらしいわよ」
昨日、ドミンゲス伯爵令息が逃げるように去った後、財務部へ頼まれていた書類を渡し終えて離宮へ戻ろうと思っていると、廊下に居たノックス副団長に『ついてきてくれ』と言われ、その先が医務室だった。
フランシス様が言うように頼みこんだわけではないけれど、医師へはノックス副団長が説明してくれたので、私は事情を話す必要も無くほっとした。
男性に強く腕を掴まれた。なんて言えば、そうなった経緯をあれこれ噂されたりする場合だってありえるから。
腕は指の跡のようなものが赤く残っていて、冷やす貼り薬を貼ってもらった。
跡は紫色に変化するが問題無いとのことで一安心したが、あの男の指の跡がしばらく腕に残ると思うと、気が滅入りそうになった。
その後、ノックス副団長は離宮まで護衛のように付き添ってくれ、私は再度お礼を言いお別れした。
「頼みこんだわけではなかったと思いますが、本当に助けられました」
「まぁ。謙遜しないで頂戴。
私はてっきり、副団長がシドニーの美しさに心を惹かれてと思ったのよ。
あの方が女性に接するのは珍しいから」
面白そうにそう言うとフランシス様は、ノックス副団長が辺境の地で12年騎士として数々の武勲をあげ、一代限りの男爵位を授かり王都に戻り、半年前に近衛騎士団の副団長となった話をしてくださった。
「王都に戻るですか?」
元々王都で暮らしていたのか私が疑問を持つと、フランシス様は続けて説明しようとしたが、お茶会の時間になったらしく、また今度教えてあげるわ。と部屋を出て行かれた。
「シドニー、護衛騎士が到着したわ」
昨日の怪我が完治するまで毎日医務室へ通うようにと、フランシス様が医務室への往復に護衛騎士を頼んでくださった。
「ルグラン子爵令嬢」
その護衛騎士とは、クライブ・ノックス副団長だった。
「ノックス副団長、ごきげんよう」
「ああ、では行こうか」
それから3日間、ノックス副団長と医務室へ通った。
決して挨拶以外に会話するわけではないが、後ろからノックス副団長が見守ってくれているだけで、王宮への道のりが安心できるものに変わった。
その後ノックス副団長に会うことはなかったが、あの掴まれた跡が紫に変化して、最後には黄色っぽくなってすっかり治った頃に、月に一度足を運ぶ図書室で偶然再会した。
王宮図書室は円形の広々とした室内に数十万の蔵書を揃え、各セクションには騎士が常駐しているので落ち着いて過ごすことができるお気に入りの場所だ。
その日も、愛読書である冒険小説の続編と話題の推理小説を選んでいると、アッシュブロンドの短髪に騎士服に身を包んだ大きな背中を見つけた。
「ノックス副団長、ごきげんよう」
急に声をかけられて驚いたノックス副団長とは、小説の話をしたとはいっても、ほぼ私が一方的にに話して口数の少ない副団長は『ああ』とか『そうか』と答える形であった。
ただ帰り際に『ドミンゲス伯爵令息は、領地で謹慎中だ。もう王都には戻れない』と教えてくれた。
『安心してくれ』
この方にそう言われると、本当に安心できる。
最初から私をジロジロ見ることなく、周りが見て見ぬ振りをしてきた自分本位な貴族令息に正しい判断をして、行動に移してくれた。
泣き寝入りするしかない現実に納得がいかないのに、どうすることも出来ずに鬱憤が溜まっていたから、怯えるドミンゲス伯爵令息を見て正直清清した。
12年辺境で騎士として武勲をあげ男爵位を授かったこの方は、私には想像もつかない経験をしてきたに違いない。
時に眼光鋭く、寡黙で、少し寂しげに見えるクライブ・ノックス副団長が気になってしまうのはしょうがないだろう。
まるで、冒険小説のヒーローのような勇敢な姿をこの目にしたんだから。
ノックス副団長とはあれから図書館で三度会い、私が好きな小説の話を聞いて頷いては、その推理小説を借りていた。
帰りは必ず女子寮まで送ってくれた。
そして、王宮には噂好きな連中がいるもので、私達が一緒に居るのを見かけた者から話が広がり、やがて私とノックス副団長に婚約話が持ち上がった。
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