寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank

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第3話

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「・・・婚約、ですか?」

「ええ、あくまでも提案ですよ。
シドニー、決して強要するものではないから、誤解しないでね」

朝いつものようにフランシス様の化粧と髪型を整えた後、部屋を退出しようとしていると呼び止められた。

その話がまさかの婚約話で、お相手があのクライブ・ノックス副団長と聞いて、固まってしまった私の顔が真っ赤になったのを、フランシス様に笑われた。

「二人が仲良く王宮図書室から出て女子寮までエスコートする姿を聞いて、騎士団長と話していたの。
シドニーとノックス副団長はお似合いじゃないかって。
それにね、シドニーにはノックス副団長のような年上の包み込んでくれるような大人の男性が良いと思うのよ」

いきなり飛び出したノックス副団長との婚約話に、頭が全く機能しなくなった。
ただ心臓がドキドキして、頭の中がふわふわしていた。

「そう・・・ですか・・・・・・」

「ふふ、シドニーは本当に見かけによらず可愛らしいのね。
ノックス副団長は騎士団長も太鼓判を押すほど、素晴らしい方よ。
まぁ、そんなのシドニーも分かっているわね。

・・・・・・ただね、シドニーは若いから知らないと思うけれど、ノックス副団長は元々はベルナール侯爵家の次男だったの・・・・・・」

ベルナール侯爵家の次男だった・・・

「前に話した続きになるわね。
あまり、気持ちの良い話ではないけれど」
そう前置きして、フランシス様は話を続けた。

ノックス副団長、クライブ様はベルナール侯爵家の次男として生まれた。
学園では成績優秀、騎士としても将来を有望され、一つ年下の伯爵家令嬢の婚約者もいて大変仲が良かったという。

でも、最終学年になってからクライブ様は他の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろするようになり、ご自身が卒業前に婚約者に婚約破棄を告げた。
それを知ったお父様であるベルナール侯爵様は息子の愚行に激昂し、絶縁したらしい。

恋人であった女性は侯爵令息ではなくなったクライブ様から去り、クライブ様はひとり辺境へ向かった。

それから12年、過酷な環境にその身を置いた。
元々が騎士としての才能を高く評価されていたクライブ様は数多くの武勲をあげ、一代限りの男爵位を授かり王都に戻ったという。

「本当は、ノックス副団長は王都に戻りたくなかったそうなの。
以前に二度男爵位の話はあったけれど辞退していて。
今回は騎士団長の説得もあって、さすがに三度も辞退できなかったのかもしれないわ。

あとね、ここからの話はあくまでも噂話に過ぎないわ。
でも、きっとシドニーの耳に入ると思うから、知っておいたほうが良いと思うの。

学生だった頃、ノックス副団長は元婚約者のご令嬢とそれは仲睦まじかったらしいの。
婚約破棄を自分から告げたけれど、ノックス副団長は後悔されて元婚約者のご令嬢への想いを自覚された。

そして、今もなお後悔し続け、元婚約者のご令嬢を想っている。

だから、恋人も作らなかったと。

でも、考えてみて、シドニー。
もう12年も経っているの。
これは噂話で決して真実では・・・・・・」



フランシス様から話を聞いてから、その後どうしたのか、どうやって部屋へ戻ったのか、あやふやだった。

ただ、過去にノックス副団長が酷い形で婚約者に婚約破棄を告げたこと。

そして、今もなお後悔し続けて、元婚約者を想っていること。

それらが頭から離れなかった。

気分転換に冒険小説を開いても、目は文章を追ってはいても頭にストーリーは全くはいってこなかった。
しょうがないので、本は閉じた。

今自分は結構なショックを受けていた。

でも、考えてみればそもそも婚約話っていうだけで、実際に婚約する訳でもなければ、今現在もノックス副団長と恋人同士という訳でもない。

一度ノックス副団長に助けられて、その後は図書室で何度か会ってお話した所詮は顔見知りに過ぎない。

私が一方的に憧れを抱いていただけの話だ。

それに、人は生きていれば色々ある。
私だって婚約者に話を信じてもらえず、男を誑かす女だと誤解をされたまま婚約解消された。
元々が恋していた訳ではなかったけれど、それでも傷ついた。


ノックス副団長にだって色々ある。




それだけの話ーー






「ルグラン子爵令嬢、待たせて済まない」

「私も今来たところですよ」


あれから、ノックス副団長と図書室以外で食事へ行くことをフランシス様と騎士団長に提案され、お互いの休日にレストランで昼食を共にとった。

ノックス副団長は口数は少ないものの、紳士的で食事の所作も美しかった。
始終私が話し続けて、副団長は聞き役にまわっていたので少し呆れられたのではないかと思ったけれど、帰り際にまた食事に行こう。と誘われた。



今回は二回目の食事だった。


登場したノックス副団長の腕には赤い薔薇の花束が抱えられていた。











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