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第9話
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確かに私はアントニオに比べると色白だった。
『そのために化粧というものがある。
日焼けは作ることが可能だ』
それらしく言われたけれど、私的には日焼けするのが手っ取り早く感じた。
運が良いことに今時季は晴天の日が多い。
屋敷にいる時間は中庭で過ごせばいいことだ。
日傘を持ってくるアントニオや使用人を追い返せば、十日もしないうちに私の肌は健康的に変化した。
身長が足りない分は、十センチ身長が高くなるブーツで対応。
ただ歩きにくいので普段から積極的に使用した。
これは一週間もすれば駆け足、逆立ちが可能なレベルに。
アントニオの髭を見事に再現した、三つのパーツからなる髭を付ければグッとアントニオに近づいた。
ピアスという異国の装飾品は耳に穴を開けなくてはいけないので、只今似せたものを製作中。
振りかけたら一瞬むせ返るエキゾチックな香りの香水は、時間が経てば意外にもナチュラルな匂いに変化して、そう悪いものではなかった。
「口元に持って行くだけでいい。
間違っても吸い込むな。
これは吸い込めば肺をやられ、寿命が縮まる」
問題は葉巻だった。
これを吸うのが危険だというのは理解した。
ただ匂いが・・・いただけない。
「珍しいナッツのフレーバーの葉巻を取り寄せた。
火を付けて、手に持つだけで俺の雰囲気が出る」
ナッツの匂いなど感じなかった。
でも、フル装備の私は限りなくアントニオに近づいていた。
あの日からもう、一ヶ月が経とうとしていた。
「シュガー、初仕事だ」
それは夜公演を終えて三十分後の事だった。
煌びやかやな皇帝の衣装ままのアントニオがメモを差し出してくる。
「二回目ですよ」
「あれは違うと言っただろ?」
「分かりました。
そういう事にしておきますよ」
「もう何も起こらない」
「はいはい」
どうだか。
アントニオから受け取ったメモを手に、隣の小部屋へ移動。
段取りは頭に入っている。
アントニオの装備を身につけて、メモを読み、復唱後、メモに火をつける。
身だしなみの最終チェックをして、仕事のが始まった。
【劇場の正面玄関へ向かう。
待っている女性ファンに笑顔を振り撒いて、やや足早に馬車に乗り込む。
バー“トランジット”でウィスキーを1杯。
“トランジット“を出て、葉巻に火をつける。
常に見られていることを忘れるな。
数分後に迎えの馬車が到着。
以上】
私はアントニオ。
私はアントニオ。
前回のことがあったので、常に警戒を怠らないよう心掛けた。
新たに装備に加えられた色付きの眼鏡をかけていたので、想像以上の数の女性ファンの前でも余裕の笑顔で対応出来た。
密かに心配していたバー、“トランジット”は行きつけなのか、注文するまでもなく黙っていてもウィスキーが出てきた。
葉巻に火をつけ雰囲気だけ出して、私の二度目の任務は完了した。
「シュガー、初任務ご苦労だった」
私達はあの求人の貼ってあった食堂に来て、ワインで乾杯、ソースのたっぷりかかった肉料理を食べていた。
「二回目ですけどね」
屋敷に帰ると、玄関で待ち構えていたアントニオに『食事に行くぞ、これに着替えて来い』渡されたれブルーのワンピース、赤毛のカツラを被り、グレーのレンズの眼鏡をかけ、ここへ連れられたという訳だ。
アントニオは、栗色、ヘーゼルの瞳の優しげな青年姿。
もちろん声は変えている。
「・・・あの日は、本当に申し訳なかった」
いきなり頭を下げるアントニオ、見た目は優しげな青年にギョッとする。
「・・・別にいいですよ、仕事だったんだし。
それに、もう済んだことですから」
確かに未婚の女性向けの仕事とは思えないが、破格の報酬を受け取った後だった。
あんな大金そう簡単に手に入る訳がないし、終わった事をぐちぐち言うのもどうかと思う。
治療だってしてもらった。
アントニオは、ぽつりぽつりと、あの日襲ったのは自分の熱狂的なファンである資産家の未亡人だと話しだした。
アントニオを屋敷で監禁するのを目的に、知り合いの荒っぽい仕事を引き受ける連中に連れてくるのを依頼したらしい。
現実からかけ離れた話に頭が混乱するが、ついさっき劇場の正面玄関に待つファンの姿を思い出すと、あり得ない話でもないかもと感じてしまう。
華やかなだけの世界じゃないんだ。
「お肉、お代わりしていいですか?」
「勿論だ」
私は腹ペコだった。
あの日お腹が空いていて、このソースの匂いを嗅いで食べたくて堪らなかったお肉を二皿食べて大満足した。
アントニオは三皿平らげていた。
食堂を出て街を散歩した。
もう随分遅いのに、まだ街は賑わいを見せている。
「ちょっと待っててくれ」
アントニオが人混みに紛れると、前から歩いてくる体の大きな中年男性が目に入り、お父様を思い出した。
ベッドに横たわっていたお父様。
少しは元気になっただろうか。
あれから一ヶ月が過ぎた。
・・・そうだった、今日は・・・
「シュガー、おめでとう」
聞き慣れない声に顔を向けると、栗色の髪のアントニオは大きな花束を抱えていた。
色とりどり、何種類もの花が混ざっている。
「ありがとう」
仕事のお祝いなのかな。
花束なんて、最後に貰ったのはいつだろう。
嬉しいのに、何だか照れ臭く感じてしまう。
「花屋へ行ったら、薔薇は数本しか無く、迷ったから店の花を全部買い占めてきた。
だから・・・不恰好で済まない」
全部買い占めたって。
そんな話聞いたことがない。
私はプッと吹き出した。
今日は・・・学園の卒業式だった。
卒業は叶わなかっだけれど、
『おめでとう』の言葉をもらって、
胸が温かくなるのを感じた。
『そのために化粧というものがある。
日焼けは作ることが可能だ』
それらしく言われたけれど、私的には日焼けするのが手っ取り早く感じた。
運が良いことに今時季は晴天の日が多い。
屋敷にいる時間は中庭で過ごせばいいことだ。
日傘を持ってくるアントニオや使用人を追い返せば、十日もしないうちに私の肌は健康的に変化した。
身長が足りない分は、十センチ身長が高くなるブーツで対応。
ただ歩きにくいので普段から積極的に使用した。
これは一週間もすれば駆け足、逆立ちが可能なレベルに。
アントニオの髭を見事に再現した、三つのパーツからなる髭を付ければグッとアントニオに近づいた。
ピアスという異国の装飾品は耳に穴を開けなくてはいけないので、只今似せたものを製作中。
振りかけたら一瞬むせ返るエキゾチックな香りの香水は、時間が経てば意外にもナチュラルな匂いに変化して、そう悪いものではなかった。
「口元に持って行くだけでいい。
間違っても吸い込むな。
これは吸い込めば肺をやられ、寿命が縮まる」
問題は葉巻だった。
これを吸うのが危険だというのは理解した。
ただ匂いが・・・いただけない。
「珍しいナッツのフレーバーの葉巻を取り寄せた。
火を付けて、手に持つだけで俺の雰囲気が出る」
ナッツの匂いなど感じなかった。
でも、フル装備の私は限りなくアントニオに近づいていた。
あの日からもう、一ヶ月が経とうとしていた。
「シュガー、初仕事だ」
それは夜公演を終えて三十分後の事だった。
煌びやかやな皇帝の衣装ままのアントニオがメモを差し出してくる。
「二回目ですよ」
「あれは違うと言っただろ?」
「分かりました。
そういう事にしておきますよ」
「もう何も起こらない」
「はいはい」
どうだか。
アントニオから受け取ったメモを手に、隣の小部屋へ移動。
段取りは頭に入っている。
アントニオの装備を身につけて、メモを読み、復唱後、メモに火をつける。
身だしなみの最終チェックをして、仕事のが始まった。
【劇場の正面玄関へ向かう。
待っている女性ファンに笑顔を振り撒いて、やや足早に馬車に乗り込む。
バー“トランジット”でウィスキーを1杯。
“トランジット“を出て、葉巻に火をつける。
常に見られていることを忘れるな。
数分後に迎えの馬車が到着。
以上】
私はアントニオ。
私はアントニオ。
前回のことがあったので、常に警戒を怠らないよう心掛けた。
新たに装備に加えられた色付きの眼鏡をかけていたので、想像以上の数の女性ファンの前でも余裕の笑顔で対応出来た。
密かに心配していたバー、“トランジット”は行きつけなのか、注文するまでもなく黙っていてもウィスキーが出てきた。
葉巻に火をつけ雰囲気だけ出して、私の二度目の任務は完了した。
「シュガー、初任務ご苦労だった」
私達はあの求人の貼ってあった食堂に来て、ワインで乾杯、ソースのたっぷりかかった肉料理を食べていた。
「二回目ですけどね」
屋敷に帰ると、玄関で待ち構えていたアントニオに『食事に行くぞ、これに着替えて来い』渡されたれブルーのワンピース、赤毛のカツラを被り、グレーのレンズの眼鏡をかけ、ここへ連れられたという訳だ。
アントニオは、栗色、ヘーゼルの瞳の優しげな青年姿。
もちろん声は変えている。
「・・・あの日は、本当に申し訳なかった」
いきなり頭を下げるアントニオ、見た目は優しげな青年にギョッとする。
「・・・別にいいですよ、仕事だったんだし。
それに、もう済んだことですから」
確かに未婚の女性向けの仕事とは思えないが、破格の報酬を受け取った後だった。
あんな大金そう簡単に手に入る訳がないし、終わった事をぐちぐち言うのもどうかと思う。
治療だってしてもらった。
アントニオは、ぽつりぽつりと、あの日襲ったのは自分の熱狂的なファンである資産家の未亡人だと話しだした。
アントニオを屋敷で監禁するのを目的に、知り合いの荒っぽい仕事を引き受ける連中に連れてくるのを依頼したらしい。
現実からかけ離れた話に頭が混乱するが、ついさっき劇場の正面玄関に待つファンの姿を思い出すと、あり得ない話でもないかもと感じてしまう。
華やかなだけの世界じゃないんだ。
「お肉、お代わりしていいですか?」
「勿論だ」
私は腹ペコだった。
あの日お腹が空いていて、このソースの匂いを嗅いで食べたくて堪らなかったお肉を二皿食べて大満足した。
アントニオは三皿平らげていた。
食堂を出て街を散歩した。
もう随分遅いのに、まだ街は賑わいを見せている。
「ちょっと待っててくれ」
アントニオが人混みに紛れると、前から歩いてくる体の大きな中年男性が目に入り、お父様を思い出した。
ベッドに横たわっていたお父様。
少しは元気になっただろうか。
あれから一ヶ月が過ぎた。
・・・そうだった、今日は・・・
「シュガー、おめでとう」
聞き慣れない声に顔を向けると、栗色の髪のアントニオは大きな花束を抱えていた。
色とりどり、何種類もの花が混ざっている。
「ありがとう」
仕事のお祝いなのかな。
花束なんて、最後に貰ったのはいつだろう。
嬉しいのに、何だか照れ臭く感じてしまう。
「花屋へ行ったら、薔薇は数本しか無く、迷ったから店の花を全部買い占めてきた。
だから・・・不恰好で済まない」
全部買い占めたって。
そんな話聞いたことがない。
私はプッと吹き出した。
今日は・・・学園の卒業式だった。
卒業は叶わなかっだけれど、
『おめでとう』の言葉をもらって、
胸が温かくなるのを感じた。
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