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「えっ、お客様って……!?」
慌ててぱっとパーシーの顔を押しのけて、テラスの外に顔を向けたメイベルの目に、飛び込んで来たのは。
「メイベル! 『黄金のグリフィン賞』おめでとう!」
ステラの隣で明るく手を振る——繊細なレースとブローチで胸元を飾った、灰色がかったラベンダー色のドレスに、羽飾りの付いた帽子が良く似合う——グレーの髪を綺麗に結い上げた老貴婦人。
「えっ……おばあ様!?」
いつも喪服の様な飾り気のない、暗い色のドレスしか身に着けず。
白髪の目立つ髪も、そのままに。
過去を悔やんで自分を責めて。
どんより重い漆黒の闇に、じっと沈んでいたような人が。
180度生まれ変わった祖母の姿に、メイベルは目を丸くして見とれた。
軽やかな足取りで、テラスに上がって来た祖母に駆け寄って、
「おばあ様、とっても素敵! でも、お身体の具合は? こんなに遠出して大丈夫なの!?」
慌てた声で尋ねる孫娘。
「大丈夫よ。ほら、ちゃんとお供もいるし」
後方にいた男女を、祖母がにっこりと、嬉しそうに見やった。
おばあ様より少し年上の老夫婦。
背をしゃんと伸ばした、ステッキを持つ紳士と、にっこり腕を組む優しそうな奥方。
「メイベルは、会うの初めてよね? ユーリとアンナのヴァルコフ夫妻。
2人共、わたしの大親友よ。
フロース国で、昔お世話になったイテル商会に、長年勤めていたの」
ユーリ・ヴァルコフって確か——おばあ様と一緒に逃げて、途中で亡くなった元護衛!?
笑顔がステキな奥様、アンナさんは、彼と恋仲だった元侍女だ!
「えっと……はじめまして。お会い出来て光栄です」
「こちらこそ光栄です、メイベル嬢」
「まぁっ、昔のシア様にそっくり! お会い出来て嬉しいわ」
動揺を隠してメイベルは、にこやかに夫妻と挨拶をかわした。
「あのっ『イテル商会』って——そのっ、こちらに来たときに?」
恐る恐る、アンナ夫人に尋ねると、
「シア様に聞いたのね? そうですよ。フロース国経由で逃げて来たときに、とってもお世話になったの」
革命時に思いを馳せたような目で、しみじみと答えてくれた。
やっぱり!
『光の妖精』の短編タイトル、『花の旅』(フロース・イテル)の符丁が、役に立ったんだ!
パーシーにも伝えたくて駆け寄ると、まるで軍人のように姿勢がいい老紳士を、じっと見つめている。
「どうしたの?」
きょとんと聞くと、こっそり耳元でささやいて来た。
「なぁ、あのヴァルコフ氏……似てないか? この前、サーベルで向かって来た」
「えっ、あの離宮にいた衛兵さん!? そんな偶然……また早とちりじゃないの?」
こそこそ交わしていた2人の会話。
それを漏れ聞いた老紳士が、
「『サーベル』? 懐かしいですな。これでも若い頃、ちょっとばかり得意だったんですよ」
にこりと笑いながら、癖のある白髪をかき上げて、さっと杖を構える。
その姿が50年前の、勘の鋭い衛兵と、ぴったり重なった。
『過去を揺するな』が決まりの時間旅行。
揺すったのはわたしでも、パーシーでもない。
枕元に置かれた、自分がこっそり隠したはずの本を見つけて、何事かを悟り。
得体の知れない恐怖に打ち勝って、5ヵ国分の符丁を必死に覚えて。
その小さな手で未来を変えた、11歳の皇女様だ。
「「知ってます……!」」
メイベルとパーシーは、声を揃えてヴァルコフ氏に答えてから。
藍色の波間に反射する琥珀色の光のように、目と目を合わせて。
弾けるように笑った。
慌ててぱっとパーシーの顔を押しのけて、テラスの外に顔を向けたメイベルの目に、飛び込んで来たのは。
「メイベル! 『黄金のグリフィン賞』おめでとう!」
ステラの隣で明るく手を振る——繊細なレースとブローチで胸元を飾った、灰色がかったラベンダー色のドレスに、羽飾りの付いた帽子が良く似合う——グレーの髪を綺麗に結い上げた老貴婦人。
「えっ……おばあ様!?」
いつも喪服の様な飾り気のない、暗い色のドレスしか身に着けず。
白髪の目立つ髪も、そのままに。
過去を悔やんで自分を責めて。
どんより重い漆黒の闇に、じっと沈んでいたような人が。
180度生まれ変わった祖母の姿に、メイベルは目を丸くして見とれた。
軽やかな足取りで、テラスに上がって来た祖母に駆け寄って、
「おばあ様、とっても素敵! でも、お身体の具合は? こんなに遠出して大丈夫なの!?」
慌てた声で尋ねる孫娘。
「大丈夫よ。ほら、ちゃんとお供もいるし」
後方にいた男女を、祖母がにっこりと、嬉しそうに見やった。
おばあ様より少し年上の老夫婦。
背をしゃんと伸ばした、ステッキを持つ紳士と、にっこり腕を組む優しそうな奥方。
「メイベルは、会うの初めてよね? ユーリとアンナのヴァルコフ夫妻。
2人共、わたしの大親友よ。
フロース国で、昔お世話になったイテル商会に、長年勤めていたの」
ユーリ・ヴァルコフって確か——おばあ様と一緒に逃げて、途中で亡くなった元護衛!?
笑顔がステキな奥様、アンナさんは、彼と恋仲だった元侍女だ!
「えっと……はじめまして。お会い出来て光栄です」
「こちらこそ光栄です、メイベル嬢」
「まぁっ、昔のシア様にそっくり! お会い出来て嬉しいわ」
動揺を隠してメイベルは、にこやかに夫妻と挨拶をかわした。
「あのっ『イテル商会』って——そのっ、こちらに来たときに?」
恐る恐る、アンナ夫人に尋ねると、
「シア様に聞いたのね? そうですよ。フロース国経由で逃げて来たときに、とってもお世話になったの」
革命時に思いを馳せたような目で、しみじみと答えてくれた。
やっぱり!
『光の妖精』の短編タイトル、『花の旅』(フロース・イテル)の符丁が、役に立ったんだ!
パーシーにも伝えたくて駆け寄ると、まるで軍人のように姿勢がいい老紳士を、じっと見つめている。
「どうしたの?」
きょとんと聞くと、こっそり耳元でささやいて来た。
「なぁ、あのヴァルコフ氏……似てないか? この前、サーベルで向かって来た」
「えっ、あの離宮にいた衛兵さん!? そんな偶然……また早とちりじゃないの?」
こそこそ交わしていた2人の会話。
それを漏れ聞いた老紳士が、
「『サーベル』? 懐かしいですな。これでも若い頃、ちょっとばかり得意だったんですよ」
にこりと笑いながら、癖のある白髪をかき上げて、さっと杖を構える。
その姿が50年前の、勘の鋭い衛兵と、ぴったり重なった。
『過去を揺するな』が決まりの時間旅行。
揺すったのはわたしでも、パーシーでもない。
枕元に置かれた、自分がこっそり隠したはずの本を見つけて、何事かを悟り。
得体の知れない恐怖に打ち勝って、5ヵ国分の符丁を必死に覚えて。
その小さな手で未来を変えた、11歳の皇女様だ。
「「知ってます……!」」
メイベルとパーシーは、声を揃えてヴァルコフ氏に答えてから。
藍色の波間に反射する琥珀色の光のように、目と目を合わせて。
弾けるように笑った。
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