10 / 23
10
しおりを挟む
「えっ、お客様って……!?」
慌ててぱっとパーシーの顔を押しのけて、テラスの外に顔を向けたメイベルの目に、飛び込んで来たのは。
「メイベル! 『黄金のグリフィン賞』おめでとう!」
ステラの隣で明るく手を振る——繊細なレースとブローチで胸元を飾った、灰色がかったラベンダー色のドレスに、羽飾りの付いた帽子が良く似合う——グレーの髪を綺麗に結い上げた老貴婦人。
「えっ……おばあ様!?」
いつも喪服の様な飾り気のない、暗い色のドレスしか身に着けず。
白髪の目立つ髪も、そのままに。
過去を悔やんで自分を責めて。
どんより重い漆黒の闇に、じっと沈んでいたような人が。
180度生まれ変わった祖母の姿に、メイベルは目を丸くして見とれた。
軽やかな足取りで、テラスに上がって来た祖母に駆け寄って、
「おばあ様、とっても素敵! でも、お身体の具合は? こんなに遠出して大丈夫なの!?」
慌てた声で尋ねる孫娘。
「大丈夫よ。ほら、ちゃんとお供もいるし」
後方にいた男女を、祖母がにっこりと、嬉しそうに見やった。
おばあ様より少し年上の老夫婦。
背をしゃんと伸ばした、ステッキを持つ紳士と、にっこり腕を組む優しそうな奥方。
「メイベルは、会うの初めてよね? ユーリとアンナのヴァルコフ夫妻。
2人共、わたしの大親友よ。
フロース国で、昔お世話になったイテル商会に、長年勤めていたの」
ユーリ・ヴァルコフって確か——おばあ様と一緒に逃げて、途中で亡くなった元護衛!?
笑顔がステキな奥様、アンナさんは、彼と恋仲だった元侍女だ!
「えっと……はじめまして。お会い出来て光栄です」
「こちらこそ光栄です、メイベル嬢」
「まぁっ、昔のシア様にそっくり! お会い出来て嬉しいわ」
動揺を隠してメイベルは、にこやかに夫妻と挨拶をかわした。
「あのっ『イテル商会』って——そのっ、こちらに来たときに?」
恐る恐る、アンナ夫人に尋ねると、
「シア様に聞いたのね? そうですよ。フロース国経由で逃げて来たときに、とってもお世話になったの」
革命時に思いを馳せたような目で、しみじみと答えてくれた。
やっぱり!
『光の妖精』の短編タイトル、『花の旅』(フロース・イテル)の符丁が、役に立ったんだ!
パーシーにも伝えたくて駆け寄ると、まるで軍人のように姿勢がいい老紳士を、じっと見つめている。
「どうしたの?」
きょとんと聞くと、こっそり耳元でささやいて来た。
「なぁ、あのヴァルコフ氏……似てないか? この前、サーベルで向かって来た」
「えっ、あの離宮にいた衛兵さん!? そんな偶然……また早とちりじゃないの?」
こそこそ交わしていた2人の会話。
それを漏れ聞いた老紳士が、
「『サーベル』? 懐かしいですな。これでも若い頃、ちょっとばかり得意だったんですよ」
にこりと笑いながら、癖のある白髪をかき上げて、さっと杖を構える。
その姿が50年前の、勘の鋭い衛兵と、ぴったり重なった。
『過去を揺するな』が決まりの時間旅行。
揺すったのはわたしでも、パーシーでもない。
枕元に置かれた、自分がこっそり隠したはずの本を見つけて、何事かを悟り。
得体の知れない恐怖に打ち勝って、5ヵ国分の符丁を必死に覚えて。
その小さな手で未来を変えた、11歳の皇女様だ。
「「知ってます……!」」
メイベルとパーシーは、声を揃えてヴァルコフ氏に答えてから。
藍色の波間に反射する琥珀色の光のように、目と目を合わせて。
弾けるように笑った。
慌ててぱっとパーシーの顔を押しのけて、テラスの外に顔を向けたメイベルの目に、飛び込んで来たのは。
「メイベル! 『黄金のグリフィン賞』おめでとう!」
ステラの隣で明るく手を振る——繊細なレースとブローチで胸元を飾った、灰色がかったラベンダー色のドレスに、羽飾りの付いた帽子が良く似合う——グレーの髪を綺麗に結い上げた老貴婦人。
「えっ……おばあ様!?」
いつも喪服の様な飾り気のない、暗い色のドレスしか身に着けず。
白髪の目立つ髪も、そのままに。
過去を悔やんで自分を責めて。
どんより重い漆黒の闇に、じっと沈んでいたような人が。
180度生まれ変わった祖母の姿に、メイベルは目を丸くして見とれた。
軽やかな足取りで、テラスに上がって来た祖母に駆け寄って、
「おばあ様、とっても素敵! でも、お身体の具合は? こんなに遠出して大丈夫なの!?」
慌てた声で尋ねる孫娘。
「大丈夫よ。ほら、ちゃんとお供もいるし」
後方にいた男女を、祖母がにっこりと、嬉しそうに見やった。
おばあ様より少し年上の老夫婦。
背をしゃんと伸ばした、ステッキを持つ紳士と、にっこり腕を組む優しそうな奥方。
「メイベルは、会うの初めてよね? ユーリとアンナのヴァルコフ夫妻。
2人共、わたしの大親友よ。
フロース国で、昔お世話になったイテル商会に、長年勤めていたの」
ユーリ・ヴァルコフって確か——おばあ様と一緒に逃げて、途中で亡くなった元護衛!?
笑顔がステキな奥様、アンナさんは、彼と恋仲だった元侍女だ!
「えっと……はじめまして。お会い出来て光栄です」
「こちらこそ光栄です、メイベル嬢」
「まぁっ、昔のシア様にそっくり! お会い出来て嬉しいわ」
動揺を隠してメイベルは、にこやかに夫妻と挨拶をかわした。
「あのっ『イテル商会』って——そのっ、こちらに来たときに?」
恐る恐る、アンナ夫人に尋ねると、
「シア様に聞いたのね? そうですよ。フロース国経由で逃げて来たときに、とってもお世話になったの」
革命時に思いを馳せたような目で、しみじみと答えてくれた。
やっぱり!
『光の妖精』の短編タイトル、『花の旅』(フロース・イテル)の符丁が、役に立ったんだ!
パーシーにも伝えたくて駆け寄ると、まるで軍人のように姿勢がいい老紳士を、じっと見つめている。
「どうしたの?」
きょとんと聞くと、こっそり耳元でささやいて来た。
「なぁ、あのヴァルコフ氏……似てないか? この前、サーベルで向かって来た」
「えっ、あの離宮にいた衛兵さん!? そんな偶然……また早とちりじゃないの?」
こそこそ交わしていた2人の会話。
それを漏れ聞いた老紳士が、
「『サーベル』? 懐かしいですな。これでも若い頃、ちょっとばかり得意だったんですよ」
にこりと笑いながら、癖のある白髪をかき上げて、さっと杖を構える。
その姿が50年前の、勘の鋭い衛兵と、ぴったり重なった。
『過去を揺するな』が決まりの時間旅行。
揺すったのはわたしでも、パーシーでもない。
枕元に置かれた、自分がこっそり隠したはずの本を見つけて、何事かを悟り。
得体の知れない恐怖に打ち勝って、5ヵ国分の符丁を必死に覚えて。
その小さな手で未来を変えた、11歳の皇女様だ。
「「知ってます……!」」
メイベルとパーシーは、声を揃えてヴァルコフ氏に答えてから。
藍色の波間に反射する琥珀色の光のように、目と目を合わせて。
弾けるように笑った。
22
あなたにおすすめの小説
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜
咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。
もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。
一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…?
※これはかなり人を選ぶ作品です。
感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。
それでも大丈夫って方は、ぜひ。
婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました
ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!
フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!
※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』
……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。
彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。
しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!?
※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる