時の扉を開けて~初恋をこじらせたイケメン令嬢&早とちり令息の時間旅行~

壱邑なお

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【番外編】プロムの夜に1

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「あらっ、このお店……フルメン紅茶が頂けるのね!?」
『マジック・ティールーム』のメニュー表を、楽しそうにめくっていた——アレクシア・ハートリー——メイベルの祖母が、孫娘とよく似た琥珀こはく色の目を輝かせた。

「フルメン国のケーキもありますよ、おばあ様! ほらここ、『メドヴィク』にチョコレートケーキの『プラガ』、それに『シャルロートカ』も」
「シャルロートカ! 懐かしいですな!」
「リンゴ入りのケーキね? まさか、この国で頂けるなんて!」
 ぐるりと巡らせた熱魔法のおかげで、快適な温かさに包まれた、ティールームのテラス席。
 籐のひじ掛け椅子に腰をえた、祖母とヴァルコフ夫妻が、ステラの説明を聞きながら、楽しそうに盛り上がっている。

 時間旅行前にステラと話していた、『おばあ様もご招待して、皆で一緒にお茶しよう』という、夢の様な約束。
 それが、こんなに早く実現するなんて!
 あんまり近くに行ったら幻みたいに、ふぃっと消えてしまいそうで。
 テラスを囲った柵にもたれたメイベルは、少し離れた所から嬉しそうに、おばあ様たちを見つめていた。

「ベル、ちょっといいか?」
「うん、なに? パーシーもケーキ食べたいの?」
 さっきまでヴァルコフ氏となにやら、『男同士』の話で盛り上がっていた、パーシヴァルに声をかけられて、きょとんと聞き返すと。
「うん、食べたい——じゃなくて! えっと、ベルに話したい事が」
 実は甘い物好きな幼なじみが、視線を泳がせながら告げて来た。

 皆のオーダーを伝える口実で、パーシーと二人、『マジック・ティールーム』店内にあるカウンターに向かう。
 テラス席と店内を繋ぐ、白木の可愛い階段を降りかけたところで。
 先に人気ひとけの無い廊下に降り立ったパーシーが、くるりと向き直り、一段上にいるベルの手をそっと握った。

「ベル……」
 165㎝と185㎝。
 20㎝ある身長差がゼロになって、かっちり同じ高さで目と目が合う。

『えっ、この感じ……まさかプロポーズ? 「ちょうどいい機会だから、おばあ様に婚約を認めてもらおう」とか!?』
 意識した途端。
 口から飛び出す勢いで、ドキドキ鳴り出す心臓。
『しっかり、メイベル・ハートリー! ヘイミッシュのプリンスでしょ!? 黄金のグリフィンが泣くよ!』と、自分に強く言い聞かせて。
「なっ、なに、かな?」
 平静を装って、ギクシャク問いかけると。

「卒業式の夜に、舞踏会——『プロム』があるだろ? そこで俺のパートナーになってくれる?」
 はにかんだ笑顔で、パーシーがたずねて来た。

「は……?」

 誘われたのは嬉しい。
 それは間違いない、神に誓って。
 でも卒業式って、プロムって、3日後だよね?
 ドレスにアクセ、ヘアアレンジとかダンスとか……わずか3日でどうしろと!?

 かちんっとフリーズしたベルを見て、
「あれっ! ひょっとしてもう、他の誰かと約束……?」
 一気に青ざめた幼なじみ兼恋人が、また早とちりをかますから。
「してませんっ!」
 とりあえず、大急ぎで否定した。
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