時の扉を開けて~初恋をこじらせたイケメン令嬢&早とちり令息の時間旅行~

壱邑なお

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【番外編】プロムの夜に2

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「ステラ! おばあ様とアンナさんも聞いてっ……!」
 とりあえず追加オーダーは、パーシーに丸投げして。
 テラス席に駆け戻ったメイベルが、『女子たち』に緊急集合をかけた。

「プロムに誘われた!? やったね、ベル!」
「何だかわたしまで、ドキドキして来たわ!」
「ステラさん、シア様。それより大事な事が……」
 はしゃぐ2人をなだめてから、
「まずはメイベルお嬢様、ドレスの準備はお済ですか?」
 アンナ・ヴァルコフ夫人が、きりっとたずねて来た。

「あっ……アンナさーん!」
 幼い祖母を連れて革命から逃げた、勇気と気概きがいにあふれる元侍女に。
「それで困ってるんですっ!」
 ベルは、全力で泣き付いた。

「なるほど、後3日しか時間がないと?」
「はい」
 しょんぼり答えたベルを見て、
「パーシー先輩、誘うのが遅いっつーの!」
「レディの身支度がどんなに大変か、分かってないわね!」
 打って変わって文句を言い始める、ステラとおばあ様。

『こほんっ!』と2人に咳払いをしてから、
「問題はドレス一式にヘアメイク、それからダンスもですね?」
「はい……」
 確認して来たアンナに、ベルはしょんぼりうなずいた。
 
「あらっダンスは、授業で習ってないの?」
 おばあ様が首を傾げる。
「習ってはいるけど——わたしが覚えたのは、男子用のステップだけで」
 何しろ『ヘイミッシュのプリンス』は、『踊って、踊って!』と、女子達に大人気ですから。

「女子用ステップ、教えるのは任せて!
 わたしプロムの実行委員長だから、ぎり当日の朝までかな?
 昼間はお互い忙しいから、早朝特訓で行くよ!」
『腕が鳴るわー!』と、ステラが笑う。
「おっ、お願いします……」
 その笑顔に『死ぬ気で付いて来い』と、極太文字で書いてある気がして。
 ベルは、無意識に後ずさった。

 そこに通りかかったのは、
「ぅおっと」
 追加オーダーの、ケーキやらお茶やら満載まんさいのトレイを、右手に掲げたパーシヴァル。
「わわっ……!」
 慌ててよろけたベルを、パーシーの左腕が、ぽすんっと抱きとめた。

「大丈夫か?」
 後ろから抱きしめられる形で、耳元にささやかれて。
「あっ、ありがと、パーシー! 今ね、皆に相談してたの。
 そのっ、プロムの、ドレスとか……!」
 かっと熱くなった耳と頬を誤魔化すように、あわあわとメイベルは答えた。


 ヘイミッシュの大通りにある、学園御用達のドレスショップは、次々と押しかけた女子生徒たちの対応で、もう手一杯。
「『プロムが終わるまで、新たなオーダーは受付中止』って聞いたよ!」
 パーシーをちょっとにらみながら、最新情報をステラが教えてくれる。
「では……お手持ちのドレスを、リメイクするとか?」
 元侍女が提案してくれたけど、そもそも舞踏会用のドレス、夜会服なんて。

「えっ、持ってらっしゃらない!? ご実家にも?」
「ないわね。この子、ドレスに興味が無くて」
「わたしのじゃ、サイズ合わないしなぁ」
「だって、夜会服って——胸元がやたら開いてて、恥ずかしいし動きづらいし。とにかく苦手なの!」
 ベルの言い訳に、そろってため息を吐く、アンナとおばあ様とステラ。

 そんな悩める女子たちの後ろで、ジャムを乗せたフルメンクッキーを、ぱくりとくわえたパーシーが、呑気に声を上げた。
「ドレスの事だったら、専門家がいるだろ? ここに」
「専門家? 『ここ』ってどこに……?」
 きょろきょろとテラスを見回す、メイベルが目を止めたのは。
 パーシーと一緒に、お茶やケーキを配っている老紳士だった。
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