アンダーグラウンド

おもち

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翌朝。
枕元のスマホがけたたましく震えて蓮はぼんやりと目を開けた。時刻は6時半。まだ眠い頭を振り払いながら布団を抜け出し、寝室のドアを開ける。
リビングに出るとふわりとシャンプーの香りが漂った。
そこにいたのはタンクトップだけを身に着けた下着姿の黒瀬。髪はまだ濡れていて、肩や二の腕から背中、そして太ももの裏にまで、鮮やかな入れ墨が覗いていた。

「……」

言葉を失ったまま、蓮は思わず見入ってしまう。黒瀬の体に刺青があることは知っていたけれど、こうして光の下でくっきりと目にしたのは初めてだった。

「おはよう」
「……おはようございます」
「寝起き姿も可愛いな。寝癖ついとるで」

黒瀬は冷蔵庫から麦茶を取り出し、コップに注ぎながら笑った。蓮は昨日買った惣菜パンを袋から取り出してもそもそと食べ始める。

「目玉焼きとか食べる?作ったるで」
「食べる」
「何個?」
「…2個」

蓮の返事を聞くと、黒瀬は上機嫌でフライパンを取り出して、そこに卵を割り入れた。そうして5分もかからず出来上がったキレイな2つの半熟の目玉焼きを皿に載せて蓮に渡す。

「蓮は目玉焼きって何派?」
「ご飯にのせるときは醤油かけたいけど、単体なら塩コショウ」
「王道やな」
「固めならケチャップ」
「あー、なんかわかるわ」

そう言いながら黒瀬は蓮の目の前に腰掛けて、コーヒーを片手に蓮のことを楽しそうにじいっと見つめる。

「……黒瀬さんは、どこまで入れ墨あるんですか?」
「ん?」
「尻とか、どうなってるんかなって……」

黒瀬は眉を上げ、ニヤリと口元を緩めた。

「見てからのお楽しみ。そんなに興味あるなら今すぐ脱いだろか?」
「…セクハラ」
「質問に答えただけやのに」

慌ててパンをかじる蓮に、黒瀬はくつくつと笑った。

食事を終えると蓮は制服に着替え、黒瀬も真っ黒のスーツに袖を通す。
洗面所には二人並んで立ち、歯を磨いたり髪を整えたりする姿が鏡に映っていた。黒瀬がネクタイを締めている横で、蓮は前髪を整えながらちらりと目をやる。大人の男の仕度をする姿は、やっぱり少し格好良かった。

「よし、行こか」
「はい」

靴を履いて外に出ると、朝の空気は少し肌寒い。黒瀬が車のドアを開けてくれて、蓮は助手席に乗り込んだ。車が静かに住宅街を抜けていく。

「眠そうやな」
「ちょっとだけ。…ドキドキしてあんまり眠れなかったので」
「ほな学校サボるか?」
「ダメって言ったの黒瀬さんでしょ」
「昨日の話と今日は別や」

そう言ってちらりと横目をよこす黒瀬の顔はどこか意地悪だった。

「行きますよ。ちゃんと」
「偉いなぁ」

黒瀬は片手でハンドルを切りながら、もう片方の手で蓮の頭を撫でてきた。信号で止まるたびに大きな掌が髪を梳いていく。その感触があまりに心地よくて、蓮はつい目を細めてしまう。

「……今日、このあと組に顔出さなあかんねん。しんどいわ。夕方には終わる思うけど」
「じゃあ帰りも迎えに来てくれますか?」
「甘えん坊やな」
「嫌ならいいです」
「嫌なわけない。蓮が望むならいつでも迎えに行くで。楽しみがあると仕事も頑張れるわ」

車内に小さな沈黙が落ちる。蓮は頬が熱くなるのを誤魔化すように窓の外へ目を向けた。
やがて学校の校門が近づいてきた。黒瀬は車を路肩に寄せて停める。周囲にはすでに登校している生徒たちがちらほら見えた。
蓮はシートベルトを外し、ドアノブに手をかけたあと、一瞬だけ迷ったように黒瀬を振り返った。

「行ってきます」
「行ってらっしゃい、蓮。楽しんで」

黒瀬の低く落ち着いた声が耳に残ったまま、蓮は校門へと歩いていった。
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