【R18】モブキャラ喪女を寵愛中

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ごめんなさい(が言えない)

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 昔から、ごめんなさいが苦手だった。

 そう、謝るのが怖かった。



 謝った後、それでも相手が怒っていたら、許さないって言われたら何て返していいのか分からなかったから。
 それに悪い事をしておいてごめんなさいで済ますなんて凄い自分勝手じゃない? 


 むしろ、謝らないといけないような事をしてしまったと、謝罪が必要な位相手を不快にさせてしまった自分がもっと嫌いになってしまう。
 そしてその結果更に話せない私が出来上がってしまった。

 しゃべらなければ顰蹙を買うリスクが減る、目の前で楽しそうに笑っている人が本当に楽しいから笑っているかなんてわからないじゃないか、だって私は嫌な時だって笑ってる。

 笑いたいのに、大好きな尾台さんの前で笑えない。








 お母さんは物事を何でも勝ち負けで判断する人だった、そういう所も苦手だった。

 過程も努力もどうでもいいと、結果が全てだと切り捨てた。
 だから負ける試合はさせて貰えなかった。

 なんていうか……今の私の人生は十分に負けている? ような気もするんだけど、不良な訳じゃないし正社員で働いててシングルマザーでもない、彼女にとってはまだ私は負けてないらしい。
 そんな事でしか人間を見られないなんて、実に嫌な人間だと思うけど、私を生んでくれたのは紛れもなく彼女だ。

 でも上は見ない分、まだましなのかもしれない、敵わない相手に勝負を挑めとは言ってこないから、そうそれだけ彼女は【負け】を恐れる。



 で、そんな中でお母さんの目に止まったのは私の漫画だった、物心ついた時から絵を描くのが好きだった。
 でも一言だって漫画家になりたいだなんて話していないのに、捨てるチラシをノートにして描いたマンガもどきを見て、彼女は一度は褒めたけど、その後「でも」っと続けた。




 何だってそうだ、かけっこも勉強も交友関係も、一度は冷めた声で「凄いね、頑張ったね」って言う。
 それなのに、それだけでいいのにその後必ずこれにない感情を込めた声で母は続けるのだ




「でも」




 と。





 褒めて、殺す。




 それの繰り返し、いつしか私は褒められる事さえ怖くなっていた、その後の【でも】が怖い。
 誰に褒められても、共感賛同の後の批判が怖い。
まずは子供の立場に立って共感してあげる、それから自分の意見を言う、お母さんが読んでいた育児書に書いてあった。





 絵上手だね良く書けてるね。









 でも








 漫画家なんて苦労するよ、食べていける人なんて一握りだよ、一生書き続けるんだよそんなの出来る? 才能が全ての世界だよ、隣のクラスのあの子寧々より凄い絵が上手かったよね、でも将来は学校の先生にになりたいんだって立派だね…………ね? 寧々も仕事にした方がお母さんいいと思うよ。





 ちゃんとしたって何だよ、応援してくれないんだね。
 漫画家は立派な仕事だよお母さん。




 だから私は【寧々ちゃんの描く子は皆可愛いよね】と、でもを付けずに褒めてくれた親友を思い出して漫画を書き続ける。
 ネットの称賛する声にだけ耳を傾けて自分を維持する。




 そして私はまた口ごもる、はいはい分かってる私のためを思って言ってるんでしょ。

 そういう所に反抗した時期もあった【うるさい、これは私の人生だ、お母さんには関係ないでしょう】と怒鳴り合いになれば、お母さんは決まって最後は泣きながら、だって寧々には辛い思いしてほしくないからと言った、色んな人を見てきたからお母さんはわかる、大変な思いをして欲しくないだけだって泣いたり怒ったりする。

 堂々巡りで埒が明かなくて平行線で会話するのも嫌になって、部屋から出て行って! と言った後、イライラしてたはずはのにベッドに横になって時間が経てばお母さんにひどい事言ってしまったと罪悪感が湧いてくる、だから黙って夕飯を食べた。

 次の日は昨日の事がなかったかのように接した、だから何にも進展しないそれの繰り返しだった。
 だって現実問題、私は折れないと肝に据えたってお金がないんだ、家を出て行くお金がない、反抗を貫き通す生活力がない。

 ご飯だって作ってもらってる、洗濯だってしてもらってる減ったシャンプーの補充だって、濡れたタオルの交換だって全部母がやっている、働きながら母は完璧に家事をこなしていた。

 じゃあ自分でご飯を作るって言っても、その食材をどうやって手に入れるんだって、お金はどうするんだってなったら、当時の私には分からなかった。
 お母さんの言う事を聞いていれば何も言われる事はない、もういいよ諦めるよ。


 お母さんは初め、お兄ちゃんにもそんな感じだった、何でもお兄ちゃんの進路に口を出した私よりしつこかった位だ。
 でもお兄ちゃんが高校生になった時か、当時付き合ってた彼女の家系に難癖をつけた。
 それで今までにないくらい怒ったお兄ちゃんがいい加減にしろよって階段の壁に穴を開けた、それ以来何も言わなくなった。

 私も何も言えなかった。



 お兄ちゃんの拳からは血が出ていた白い何かが見えていた。


 怖いとかより、怪我が心配で階段にも血がいっぱい垂れてて心臓バクバクでお父さんに救急箱を押し付けられて走ってお兄ちゃんの部屋に向かった、初めてお父さんがお母さんに言い過ぎだと怒ってる姿を見た。

 私はお兄ちゃんが付き合っている彼女の事を知っていた、優しくて思いやりがあって強く誠実な人、私も好きだったし頭を撫でられた事もあった。

 お兄ちゃんが怒って当たり前だよ、お兄ちゃんは悪くないよって泣きながら血の止まらない手をガーゼで押さえた。

「何で寧々が泣くんだよ……怖かったよな? ごめん」

 ってお兄ちゃんは笑いながら、反対の手で私の頭を撫でた。

 何も言えなくてごめん、力になれなくてごめんって言いたかったけど、やっぱり口には出せなかった。
 泣いて謝るくらいなら、先に言えよって言われたら返せないから、本当に私はどこまでも腐った臆病者で、この世界で唯一味方になってくれる兄の力になれないなんて、情けないなとただ泣いて無言で包帯を巻き続けた、巻いても巻いても血が滲んだ。


 そんな私は色々あって常に喪に服したような女になってしまった。

 光の裏には影がある、その影は光が眩しければ眩しい程にその影は濃くなる。
 だからその闇が深くならないように、私は下火に生きていく。
 期待しなければ失望もしない、幸福を知らなければ不幸だって感じない、普遍なままでいい特別なんていらないから平穏に生きたい、死にたくない。
 細く息を吸えていればそれでいい、でもちょっぴり認められたい、誰かに優しくされたい、隣の人も愛してやれない癖に一瞬でいいから誰かに愛されたい。
 生きているんだから、自分を感じたい、でもそれは表に出さない現実ではいらない、ネットの中で十分だ。







 そして私は席を立った。
 そう、ミーティングルームに行くためだ。

 今日は朝礼もあったし、色々事務処理を終わらせていたら昼休み前になってしまった。

「丁度良かった話が長引いても昼休みのチャイムが鳴ってくれるね、そしたらお昼一緒に食べに行こうよ。お迎えに行くからね」と尾台さんが肩を叩いてくれて眼鏡を直して頷いた。

 本当にこの人が一生幸せに暮らせますように、って何の力もないけど神様に祈っておいた。


 で、手提げを持って苦手なごめんなさいを色々考えた。

 資格の事は置いといて、もしかしたら怒られるのかもしれないじゃないか。
 私は何度かアクションプランの設定を見誤って目標が達成できず、評価が下がりボーナスも給料も下がるしで桐生課長に注意を受けた事がある(怒ってはなかったけど)。

 それこそ、そんな注意を受けたら謝罪しかない、言い訳なんてできる程私は頭が良くない。
 でもそれが自分だけで済めばいいけど、私がしくじると尾台さんや桐生さんにも迷惑がかかるのが居たたまれない。
 部下、後輩の指導、教育ができていないと監督不行き届きだと、私のせいで評価を下げられてしまうのだ。
 そんな時、会社辞めたい……って思うし、フォロ―出来なくてごめんね、私も頑張るね、なんて尾台さんに言われた時には泣きそうになる。

 そしてその向こうにいる久瀬さんに、ほらえったん(尾台さんの事)めぐちゃんに(久瀬さんの名前)今持ってる仕事かしてみ? 皆で片付けよ、なんて私のミスのせいでおきた損害をリカバリーさせてしまった日には死にたくなる。












 納期に間に合わず相手を逆上させてしまった。








 謝ったけど、誠意がないと言われ土下座しに来いと電話口で怒鳴られて受話器を持つ手が震えた、もうどうしていいかわからなかった、初めての修羅場に生きた心地がしなかった涙を飲むのに必死だった。
 でもそれは100%私が悪かった、無理だって分かっていたのに相談できなくて指定された期日に頷いてしまった、結果やっぱり間に合わなかった焦って空回りしてどんどんミスが重なって泥沼状態で。
 しかもこれが初めてじゃなかった。


 それでも尾台さんは、大丈夫だよ皆こういう経験して成長していくんだよ、って怒らなかった。

 何も言えない私に、

「怒るって自分のいらいらしてる気持ちぶつけるって意味でしょう? そんな事したってこの場を解決できないじゃん。時間の無駄だよね、だから私は怒ったりしない。後でここが良くなかったかなって言うかもしれないけどね、でも私だって至らなかった点があるし犯人探ししないで、営業部全体で話進めていこうよ。大丈夫、私は寧々ちゃんが本当にごめんなさいって思ってるの分かってるから、でもこうやって、ただ気持ちをぶつけたい人もいるんだって頭に入れといてね。世の中にはそういう人もいるんだよ。もちろん落ち込むのは仕方ないけど明日も会社に来てね、皆待ってるからね」

 って笑って他の仕事を回してくれた。

 結局、尾台さんと桐生さん、それと営業担当していた有沢さんが取引先に行ってくれた、どんな話し合いがされたのかは教えてくれなかった、待ってたけど終業時間に帰って来なかった。
 私はその後理由も告げられずその担当から外されて尾台さんに担当が戻った、いや理由なんて一目瞭然だけど。
 尾台さんの負担を減らすため、自分から申し出て引き継いだ仕事だったのに、情けなくて申し訳なくてお風呂でいっぱいいっぱい泣いた。
 慰めて欲しいって気持ちもあったけど、それ以上怒られるのが恐くて夕飯の話題には上げなかった。





 やっぱり謝るのは怖い。





 うう、そう怖い、怒られたらどうしよう。
 ミーティングルームをノックしたら中から声がして、少し開けて私は固まってしまった。
 ええええ……だって凄い空気重いよ……。

 え? 何? 辰巳さんって割と下ネタも言う感じの(アダルトを取り扱っているのでセクハラの定義が曖昧)明るくて調子のいいTHE 外人な雰囲気で私とは上司でいなければ話もしなかったであろう人なのに!
 沈んだ空気去れ去れ! って手ぶんぶんしてみたけど意味なかった。
 先に席についていた辰巳部長は思い悩んだように下を向き額の所で手を組んでいる。

 急いで前に座ると、




「真剣に聞いてほしい事がある……」



 と部長はべっ甲フレームの眼鏡を直した。
 緊張の心音が部屋響いて、いつもの爽やかな辰巳部長からは想像もつかない重い呼吸だ。
 何を言われるんだろう、何を言われるんだろう…………!! 怖い! 怖い!! 私も眼鏡を押し込んで静かに耳を傾けた、整い過ぎた美形が沈痛な面持ちで続ける。















「宇宙との交信が途絶えてしまった」










「あ、お疲れ様です失礼します」
「待ってくれ寧々君! 神の啓示を今一度共に」
「無理です」
「もしかしたら組織が」
「話掛けないで下さい」


 違った意味で怖すぎるんだけど、とりあえず私は謝らずに済みそうだ。
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