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奥の手
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私達も二人の兄弟のような会話に釘付けになっていた。
新井さんは茶色い短髪で目鼻立ちのくっきりした明るい顔立ち。
沖田さんはワンレンの顎のラインまである真っ黒い癖毛に切れ長な目、唇の下にホクロがあるクールな顔立ち。
スポーツやってた感じのがっしりした健康そうな新井さんに、私がドン! ってやったら倒れそうな位細い沖田さん、でも身長は沖田さんの方がちょっと高い。
凄いメモしたくてめっちゃ見ちゃう!
うんうん、ずっと気になっていたんだよね。
うちの会社来た初日の挨拶、自己紹介の時緊張していた二人が後ろで服引っ張りあってるとこ見て、既に私達のセンサーは反応していた。
「二人共知り合い?」
「え? ああ桐生さんおはようございます。そうそう幼馴染みなんスよ」
「桐生さんと有沢さんは大学の先輩後輩なんでしたっけ? オレら幼稚園から一緒で小、中、高、大、会社って同じで、そんでこっちまで一緒に来てヤバくないですか」
「?!!!」
おおおおお幼馴染みぃぃい?!!!
私が小学生の時から大事に大事に温めてきた激アツシチュキタッ!!!
「寧々氏震えてるよ! どうしたんですか! やっぱり具合が?」
「つくちゃん違うわ、お母さんこれ武者震いだと思うの」
新井さんが沖田さんの頬を指先で突いて、「しかもコイツ童貞なんっスよ」ってにやってすれば、「お前みたいに焦って好きでもないブスに童貞売るよりは綺麗な自分を守り抜くわ!」って腕殴り返してて、もう止めて、私の前でそんなイチャイチャしないで!
苦しい胸が痛苦しい!!
そっか神様はこの場面を私に見せるため飲み会にお導き下さったのね?!
「そんでコイツ脇くすぐっても笑わないくせに肩揉むと笑うんッスよ、だから肩凝ってもマッサージ店に行けないのウケるでしょ」って肩揉んで沖田さんが「止ーめーろーよー」ってもうそれ前戯ですかね。
し、死ぬ……。
あまりの光景に何か得たいの知れないモノが口から出そうで震えながらそれを出さないため手で押さえていたら。
「あれ、大丈夫ですか八雲さん」
私を見た沖田さんが心配して声をかけてくれた、そんな優しさにもう胸が限界で。
「で」
「ん?」
「新井さんと沖田さんはどっちが攻めなの?」
「え」
やってもた。
「ややや! 寧々氏そうゆうのはちょっと!!」
「一般人を巻き込んではいけないのが私達の暗黙の了解でしょ!」
「ごごご、ごめんなさい!! 酔っててつい! あの私的には沖田さんが強気の受け! って感じなんですが、わわわ!! 間違ってたらすみま」
「いや、間違ってるとかじゃなくてオレ達そうゆう仲じゃないんで」
「ヒィイイ!! そうでした」
なんてこった、感動と酔いのあまりリミッターが振り切れてとんでもない事を口走ってしまったぁ!
本当に会社行けなくなる事件じゃん!
一ミリでもこの場から離れたくて座ったままズリズリ後ろに後ろに下がってったら、そりゃ当然の如く後ろの人にトンッと背中がぶつかって、
「大丈夫ですか」
当たった背中は思いの外おっきくて見上げたら、まあなんて綺麗な異邦人。
「た、た、辰巳さッ!?」
非常に自然な流れでいいこいいこされて、安心する止めてください安心する!!
「どうしたの寧々ちゃん、ちょっと外の風でも当たりに行く? 宇宙の軌道を感じに行こうか」
そんなん絶対ノー!! なんですけど、でも今は自分の失態から逃げたくてたまらない!
こくこくこくこくしたら、辰巳さんは笑って先に立ち上がって私の脇に手を差し込むと体を引き上げてくれた。
「足元気を付けて」
で、皆辰巳さんを見てる。
そりゃ見るよ、辰巳さん目立つし外歩いてるだけでも注目されてるもん。
そしてこれはいつも影として生きてきた私には恥ずかしさ2000%! 体に穴が開きそうです!
が、しかし一人で行こうとして一歩踏み出したら床ぐにゃぐにゃだし頭もふらふらなんだけど、あ、無理こんなんで人の間縫って扉まで行ける自信ない。
「はい、寧々君抱っこ」
「あ、ありがとうございま、ってちょっと待って抱っことか無理! 何でそんな事するんで」
「神の意思」
「あ、そうですか」
なら心持ち恥ずかしくありませんね辰巳さんの好意じゃないですもんねって人生初めての抱っこが金髪翠眼の白人からされるお姫様抱っこって明日死亡フラグじゃないですか!
「やっぱ止めて下さい! 本当に来週会社に行けなくなっちゃう!!」
「なぜ?」
「恥ずかしいからに決まってるじゃないですか!」
「じゃあボクを見てればいいですよ、ボクは今真っ直ぐ前を見てますから目が合いません恥ずかしくないでしょう」
いや、あなた見てるのがここ最近の一番恥ずかしい事柄なんですけど。
でもジタバタするともっと注目を浴びるので私は土偶私は土偶と自分に暗示をかける。
外に出て冷たい風が頬に当たって深呼吸した。
トイレの前のちょっとした休憩スペースに辰巳さんは優しく降ろしてくれた。
「やっぱり天使は羽のような軽さ」
「天使じゃなくて土偶です」
「縄文のビーナスじゃないか、そっかごめん女神、今まで無礼な口を利いて」
「?!」
まさかレベルが上がるとか!
でも今ちょっと疲れてて思考停止中。
辰巳さんは隣に座って私の倍はあるのでは? と見間違える程の長い足を組んだ。
「今日は随分飲みましたね」
「…………」
「何かあったの?」
「う…………と、トイレ」
「はい、いってらっしゃい」
頭くらくらする、答えられない訳じゃないけどこの年になってだってお母さんが! とかとてもじゃないけど言えませんよ!
ああ、やだパンツ下ろすのもふらふらする。
そーいえば前に尾台さんが彼氏ができたら、常に気が抜けないから大変そうだよねって言ってたんだ。
私家じゃずぼらだかそういうとこ見せられないもんな、週1で会うくらいならいいけど旦那さんなんて絶対無理だよね、そんな長時間自分作ってたら死んじゃうって言ってたのに、彼氏ができるどころか結婚するって大丈夫か。
そしたらこないだ、袴田君とお家いる時はお風呂もトイレも一緒行くよ! ずっとくっ付いてるって言ってた。
何のために? と思ったけどこういう酔った時はもれなく欲しいな。
下着下ろすのにふらついて個室のドアに頭ぶつかるし、スカート巻き込んでないか確認しようとした時にはおしっこしちゃってるし(セーフだったけど)
ペーパーのスタートが分からないしで案の定手におしっこかかるし(何で)ああ彼氏ほしい。
手超洗って顔まで洗えて化粧もコンタクトもしてない私最強!! でも顔突っ張るから全身いけるハンドクリーム塗っとく(赤ちゃんも使える奴)。
眼鏡まで洗ってスッキリなんだけど全く酔い冷めず。
でも長居して大だと思われても嫌だからもう出なきゃ。
トイレから出たら辰巳さんはまさかのいなかった。
いや、別に出てくるとこ笑顔で待っていられても困るけど。
あれ……トイレかな……んっと……これは待っていた方がいいのかな。
でもそんな理由よりも部屋まで一人で帰るのもあの場所に戻るのも辛いのでもう少しここでボッチしてよう。
はあ、楽、涼しい、一人素敵、このまま死ぬまでポーっとしてたい。
で、あ、そうだ携帯って何時間ぶりに見てみたら、お兄ちゃんから「何かあったら連絡しろよ」って来てた。
「いつもありがとう」って返しとくそれと「おやすみ」って。
お父さんからは「楽しんで」って来てた「ありがとう、何かあったら連絡するね、おやすみ」って返しとく。
それでお母さんからは……
「お母さん実はずっと体調悪くて明日病院行ってきます」
だって…………。
もう本当はああああ……しょうもなくて恥ずかしくなる。
酔ってるし、いつもよりイライラ倍増で、あああああああああああ!!!
ってなる。
こんなのがいつまで私に通用すると思ってるんだろう。
いつも最後はこれだ、突然の体調悪い宣言。
ずっと体調悪い人が良くランチ会行って今日焼き肉行くとか言ったね、小さい時もそうだった。
お母さんが気に入らない子の誕生日会や遊ぶ約束、行くって言うと嫌な顔をした。
でも私はその子が好きだし断る理由もないし行くよって言えばその時は頷いたのに当日になって体調悪くなって動けない死ぬかもしれないって言い出した、小さかったから訳もわからず布団に寄り添ったよ。断ったよ行かなかった。
はぁ……何か泣けてくる、そんなに私が自分通りに動かないと嫌なの。
もうなんなの。
飲み会にも戻れない、家にも帰りたくない。
「寧々ちゃん?」
「え?」
肩を叩かれて上を向けば辰巳さんがいて視線が合って二人で瞬きをしたら、頬が濡れた。
やだ、私は思っていたより目に涙を貯めていたみたいだ瞬きしただけで勝手に落ちてしまった。
気の効いた誤魔化しより先に眼鏡を取られて整った顔の目が伏せて私の濡れた頬に目元に唇がくっつく。
「なっ……」
「もう向こうには戻らないでしょう?」
反対の頬は長い指が拭ってくれて、流れるようにその手が背中に回って抱き締めてくれる。
「荷物持ってきたので帰ろうか」
辰巳さんは落ち着かせるつもりで、背中を叩いてくれたんだろうけど、酔った私は感情二割増しになってて、初めて乗せた男の人の肩口でせっかく拭いて貰った頬をまた濡らしてしまった。
帰りますと言うつもりなかったんだけど、ひくついた呼吸のせいで頷いているようになってしまった。
新井さんは茶色い短髪で目鼻立ちのくっきりした明るい顔立ち。
沖田さんはワンレンの顎のラインまである真っ黒い癖毛に切れ長な目、唇の下にホクロがあるクールな顔立ち。
スポーツやってた感じのがっしりした健康そうな新井さんに、私がドン! ってやったら倒れそうな位細い沖田さん、でも身長は沖田さんの方がちょっと高い。
凄いメモしたくてめっちゃ見ちゃう!
うんうん、ずっと気になっていたんだよね。
うちの会社来た初日の挨拶、自己紹介の時緊張していた二人が後ろで服引っ張りあってるとこ見て、既に私達のセンサーは反応していた。
「二人共知り合い?」
「え? ああ桐生さんおはようございます。そうそう幼馴染みなんスよ」
「桐生さんと有沢さんは大学の先輩後輩なんでしたっけ? オレら幼稚園から一緒で小、中、高、大、会社って同じで、そんでこっちまで一緒に来てヤバくないですか」
「?!!!」
おおおおお幼馴染みぃぃい?!!!
私が小学生の時から大事に大事に温めてきた激アツシチュキタッ!!!
「寧々氏震えてるよ! どうしたんですか! やっぱり具合が?」
「つくちゃん違うわ、お母さんこれ武者震いだと思うの」
新井さんが沖田さんの頬を指先で突いて、「しかもコイツ童貞なんっスよ」ってにやってすれば、「お前みたいに焦って好きでもないブスに童貞売るよりは綺麗な自分を守り抜くわ!」って腕殴り返してて、もう止めて、私の前でそんなイチャイチャしないで!
苦しい胸が痛苦しい!!
そっか神様はこの場面を私に見せるため飲み会にお導き下さったのね?!
「そんでコイツ脇くすぐっても笑わないくせに肩揉むと笑うんッスよ、だから肩凝ってもマッサージ店に行けないのウケるでしょ」って肩揉んで沖田さんが「止ーめーろーよー」ってもうそれ前戯ですかね。
し、死ぬ……。
あまりの光景に何か得たいの知れないモノが口から出そうで震えながらそれを出さないため手で押さえていたら。
「あれ、大丈夫ですか八雲さん」
私を見た沖田さんが心配して声をかけてくれた、そんな優しさにもう胸が限界で。
「で」
「ん?」
「新井さんと沖田さんはどっちが攻めなの?」
「え」
やってもた。
「ややや! 寧々氏そうゆうのはちょっと!!」
「一般人を巻き込んではいけないのが私達の暗黙の了解でしょ!」
「ごごご、ごめんなさい!! 酔っててつい! あの私的には沖田さんが強気の受け! って感じなんですが、わわわ!! 間違ってたらすみま」
「いや、間違ってるとかじゃなくてオレ達そうゆう仲じゃないんで」
「ヒィイイ!! そうでした」
なんてこった、感動と酔いのあまりリミッターが振り切れてとんでもない事を口走ってしまったぁ!
本当に会社行けなくなる事件じゃん!
一ミリでもこの場から離れたくて座ったままズリズリ後ろに後ろに下がってったら、そりゃ当然の如く後ろの人にトンッと背中がぶつかって、
「大丈夫ですか」
当たった背中は思いの外おっきくて見上げたら、まあなんて綺麗な異邦人。
「た、た、辰巳さッ!?」
非常に自然な流れでいいこいいこされて、安心する止めてください安心する!!
「どうしたの寧々ちゃん、ちょっと外の風でも当たりに行く? 宇宙の軌道を感じに行こうか」
そんなん絶対ノー!! なんですけど、でも今は自分の失態から逃げたくてたまらない!
こくこくこくこくしたら、辰巳さんは笑って先に立ち上がって私の脇に手を差し込むと体を引き上げてくれた。
「足元気を付けて」
で、皆辰巳さんを見てる。
そりゃ見るよ、辰巳さん目立つし外歩いてるだけでも注目されてるもん。
そしてこれはいつも影として生きてきた私には恥ずかしさ2000%! 体に穴が開きそうです!
が、しかし一人で行こうとして一歩踏み出したら床ぐにゃぐにゃだし頭もふらふらなんだけど、あ、無理こんなんで人の間縫って扉まで行ける自信ない。
「はい、寧々君抱っこ」
「あ、ありがとうございま、ってちょっと待って抱っことか無理! 何でそんな事するんで」
「神の意思」
「あ、そうですか」
なら心持ち恥ずかしくありませんね辰巳さんの好意じゃないですもんねって人生初めての抱っこが金髪翠眼の白人からされるお姫様抱っこって明日死亡フラグじゃないですか!
「やっぱ止めて下さい! 本当に来週会社に行けなくなっちゃう!!」
「なぜ?」
「恥ずかしいからに決まってるじゃないですか!」
「じゃあボクを見てればいいですよ、ボクは今真っ直ぐ前を見てますから目が合いません恥ずかしくないでしょう」
いや、あなた見てるのがここ最近の一番恥ずかしい事柄なんですけど。
でもジタバタするともっと注目を浴びるので私は土偶私は土偶と自分に暗示をかける。
外に出て冷たい風が頬に当たって深呼吸した。
トイレの前のちょっとした休憩スペースに辰巳さんは優しく降ろしてくれた。
「やっぱり天使は羽のような軽さ」
「天使じゃなくて土偶です」
「縄文のビーナスじゃないか、そっかごめん女神、今まで無礼な口を利いて」
「?!」
まさかレベルが上がるとか!
でも今ちょっと疲れてて思考停止中。
辰巳さんは隣に座って私の倍はあるのでは? と見間違える程の長い足を組んだ。
「今日は随分飲みましたね」
「…………」
「何かあったの?」
「う…………と、トイレ」
「はい、いってらっしゃい」
頭くらくらする、答えられない訳じゃないけどこの年になってだってお母さんが! とかとてもじゃないけど言えませんよ!
ああ、やだパンツ下ろすのもふらふらする。
そーいえば前に尾台さんが彼氏ができたら、常に気が抜けないから大変そうだよねって言ってたんだ。
私家じゃずぼらだかそういうとこ見せられないもんな、週1で会うくらいならいいけど旦那さんなんて絶対無理だよね、そんな長時間自分作ってたら死んじゃうって言ってたのに、彼氏ができるどころか結婚するって大丈夫か。
そしたらこないだ、袴田君とお家いる時はお風呂もトイレも一緒行くよ! ずっとくっ付いてるって言ってた。
何のために? と思ったけどこういう酔った時はもれなく欲しいな。
下着下ろすのにふらついて個室のドアに頭ぶつかるし、スカート巻き込んでないか確認しようとした時にはおしっこしちゃってるし(セーフだったけど)
ペーパーのスタートが分からないしで案の定手におしっこかかるし(何で)ああ彼氏ほしい。
手超洗って顔まで洗えて化粧もコンタクトもしてない私最強!! でも顔突っ張るから全身いけるハンドクリーム塗っとく(赤ちゃんも使える奴)。
眼鏡まで洗ってスッキリなんだけど全く酔い冷めず。
でも長居して大だと思われても嫌だからもう出なきゃ。
トイレから出たら辰巳さんはまさかのいなかった。
いや、別に出てくるとこ笑顔で待っていられても困るけど。
あれ……トイレかな……んっと……これは待っていた方がいいのかな。
でもそんな理由よりも部屋まで一人で帰るのもあの場所に戻るのも辛いのでもう少しここでボッチしてよう。
はあ、楽、涼しい、一人素敵、このまま死ぬまでポーっとしてたい。
で、あ、そうだ携帯って何時間ぶりに見てみたら、お兄ちゃんから「何かあったら連絡しろよ」って来てた。
「いつもありがとう」って返しとくそれと「おやすみ」って。
お父さんからは「楽しんで」って来てた「ありがとう、何かあったら連絡するね、おやすみ」って返しとく。
それでお母さんからは……
「お母さん実はずっと体調悪くて明日病院行ってきます」
だって…………。
もう本当はああああ……しょうもなくて恥ずかしくなる。
酔ってるし、いつもよりイライラ倍増で、あああああああああああ!!!
ってなる。
こんなのがいつまで私に通用すると思ってるんだろう。
いつも最後はこれだ、突然の体調悪い宣言。
ずっと体調悪い人が良くランチ会行って今日焼き肉行くとか言ったね、小さい時もそうだった。
お母さんが気に入らない子の誕生日会や遊ぶ約束、行くって言うと嫌な顔をした。
でも私はその子が好きだし断る理由もないし行くよって言えばその時は頷いたのに当日になって体調悪くなって動けない死ぬかもしれないって言い出した、小さかったから訳もわからず布団に寄り添ったよ。断ったよ行かなかった。
はぁ……何か泣けてくる、そんなに私が自分通りに動かないと嫌なの。
もうなんなの。
飲み会にも戻れない、家にも帰りたくない。
「寧々ちゃん?」
「え?」
肩を叩かれて上を向けば辰巳さんがいて視線が合って二人で瞬きをしたら、頬が濡れた。
やだ、私は思っていたより目に涙を貯めていたみたいだ瞬きしただけで勝手に落ちてしまった。
気の効いた誤魔化しより先に眼鏡を取られて整った顔の目が伏せて私の濡れた頬に目元に唇がくっつく。
「なっ……」
「もう向こうには戻らないでしょう?」
反対の頬は長い指が拭ってくれて、流れるようにその手が背中に回って抱き締めてくれる。
「荷物持ってきたので帰ろうか」
辰巳さんは落ち着かせるつもりで、背中を叩いてくれたんだろうけど、酔った私は感情二割増しになってて、初めて乗せた男の人の肩口でせっかく拭いて貰った頬をまた濡らしてしまった。
帰りますと言うつもりなかったんだけど、ひくついた呼吸のせいで頷いているようになってしまった。
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