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寧々ちゃんまだまだ寵愛中
辰巳さんの日常 ◎
しおりを挟む「辰巳さんってー」
「ん?」
始業時間10分前。
もちろん私も、隣の上司も着席済みで、尾台さんはまだお仕事モードに入ってないから、シュシュの着いてないサラサラなストレートの髪の毛先をいじりながら言う。
「ずぇーんぜん!! 怒ったりとかしなさそう」
「怒る?」
「そーだよ、寧々ちゃんと辰巳さんってケンカするの? っつかした事ある?」
尾台さんは口尖らせて聞いてきて、おお……これは尾台さん昨日ケンカしたんだな、んでそのうち久瀬さんが出勤してきて「めぐちゃん聞いて聞いて!! 袴田君ムカツク!」って始まって結局おのろけ話に繋がるアレだな、っで最終的に久瀬さんに「うるせえんだよ仕事しろ」で肩パンされる終わるパターン。
「寧々ちゃん聞いてるぅ?!」
「ああはいはい、聞いてます。ケンカは……うん、もちろんしますよ?」
「ほ?!」
「だって育ってきた環境が違うら好き嫌いはしょうがない~じゃないですか、辰巳さん僕は日本人だよって言うけど、たまに見た事ない料理作るんですよ、大体美味しいけど。でも私はシュプナニ・サラート・ス・ヤグーラタンがあんまり好きじゃなくて、でも体にいいからって食べてって……」
「シュプナニ……?」
「ほうれん草と玉ねぎ火通してヨーグルトと混ぜてチーズかけた奴です。それに辰巳さん細い癖にマヨネーズいっぱいかけるし! そういうのでヤダヤダしたりはすますよ」
「うーん、でもそれはなんか……食文化の違いだからケンカとは違うような?」
「ううっと……ああ、そっかそうですよね、食べ物の好みは誰にだってありますもんね」
「でしょ? 辰巳さんはこうなんか……何でも許してくれて、温かくって……例えばこたつで寝ちゃったら優しく抱っこしてくれてベッドに連れてってくれるイメージ?」
「え? こたつって寝たら抱っこで連れてってくれるのが普通じゃないんですか!」
「袴田君だったら、無防備な私! ってニヤッてしながら後ろからズブッ! だよ」
「んん?!! え? 何の話ですか?? は? 後ろから?!! えええ?!! 何を?!! 何をズブッ! って?!!! 何を刺されてるんですか!!」
良からぬ手の動きを見せる上司に、そこはきちんと確認しておかないと! と眼鏡直しながら顔近づけたら知りません! って顔押されて言われちゃった! なんだよズブって!!! しゅごい気になるぅう!!
が、私の追及も虚しく、尾台さんはイスの背に寄りかかって蛍光灯を眺めてる、悟ったような目で私を見て。
「でもまあ、可愛い寧々ちゃんがこたつで丸くなって寝てたら私もお部屋連れて帰って揉み揉みナデナデちゅっちゅするよな……」
「…………ぇ? 揉み揉みナデナデ……ちゅっちゅ?」
「んんん!! 何でもない! 辰巳さんは娘を労わる様な、そんな気持ちになるだろうなって思っただけ」
「ああ…………そうですか、でもそれだとなんだか辰巳さんってお父さんみたいなイメージですね」
「お父さん? おお、そうだね? 性欲とかなさそう!」
「?!!!」
「いっつも温かく見守っててくれて何でも受け止めてくれて許してくれそうなイメージよ。心も体も大人で、嫉妬もしないし口調も綺麗で穏やか……いつもにこにこ」
「…………そう、ですか」
何となく、部長の包容力のある寛大なイメージを壊したら悪いのかなって何も言わなかったけど、辰巳さんって超ヤキモチ焼くし、一言でも嫌いなんて言ったが最後、寝かしてもらえなくなるくらい怒るけど……心も体もそんなに大人ではないような?
性欲なんて私も初めはないのかなって思ってたのに、今じゃ土日に少しでも目が合えば寧々ちゃん可愛いねって捕獲してくるよ(その後捕食される)凄い目で。
上司の話に反論はしなくとも目をパチクリさせてたら、尾台さんは大きなため息ついて「それに比べて袴田君はぁ!」って机に突っ伏した。
「どうしたんですか」
透き通った高い声、それを私が聞く前に、同じタイミングでセリフを取られて、
「尾台先輩、朝から鬱陶しいですね」
と私じゃ言えない一文を付け加える久瀬さんが出勤してきた。
「あ……久瀬さんおはようございます」
「あら、可愛い笑顔しちゃって八雲さんご懐妊ですか?」
「し、してないですよ!!」
目を細める久瀬さんはそういうの大きい声で言っていつも意地悪。
「ねえねえめぐちゃん聞いてよ聞いてよぉ!! 袴田君ったら女の子みたいにいじけちゃってさぁ! 口もきいてくれないの!」
「お?」
久瀬さんが荷物を置きながらPCの電源を入れたら、尾台さんは私の眼鏡を外して、自分にかけるとキリッって袴田君の真似しながら続ける。
「尾台さんどうして俺が眼鏡変えたの気付いてくれないんですかって言ってきて」
「…………」
二人で無言になってしまった所で始業のチャイムが鳴って、久瀬さんは小指を立てながらコーヒーを一口すすると、面倒臭そうな顔で言うのだ。
「いやそこは気付いてやれよ、そっちが本体みたいなもんなんだからさ」
お、今日は袴田君の肩を持つんだ! っと思ったら、尾台さんは納得いきません! っと眼鏡をカチャカチャしながら久瀬さんに言い返す。
「フレームなら私も直ぐ気が付くよ!? そんなの当然だよ! 眼鏡は袴田君のチャームポイントですからね、イメチェンしたの? 位で言うよ!! でも変えたのフレームじゃなくて度だから!!! 気付く訳なくね?!!」
「うるせえんだよ仕事しろ」
うん、度は無理だな、と私も思った所で久瀬さんが尾台さんの肩パァーンってやって、尾台さんの髪を結わいてあげた。
よし! 今日もいつもの一日が始まる頑張ろう。
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