総務の袴田君が実は肉食だった話聞く!?

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はいたい

 はぁああ!
 こういう日に限って私の髪に寝癖がついている。
 そーだよなぁ、いつもはあっちこっち向いてるけど、今日は寝た時と同じ格好で起きたもんな、髪型が固定されてしまったのだ。

「ごめんなさい尾台さん、アイロンまで持ってきてないです」
「いえいえ、縛ればいいだけなので気にしないで下さい。ほら私骨格を髪でカバーする星人なので朝から顔全開とか恥ずかしい限りですけど、なるべく今日は下向いて生きていきます」
「そんな星の人になる必要ないと思いますが」

 まあそう言ってくるだろうと思って無視してメイクして、他人の家に泊まったとは思えない位肌が快調なのは袴田君のスキンケアのお陰ですね!



「尾台さんの家から持ってきたものは会社終わったらお届けします。洗濯したものは後日」
「え? それは申し訳ないので今持っていきますよ、パジャマ位だし袋に入れちゃったけど洗濯も自分でしますよ」
「ダメ、家に届けるのでお礼期待してもいいですか」
「お礼……?」
「俺尾台さんと味覚似てるんですよね」
「ああ、あんなお夕飯でいいなら」
「じゃあ約束」

 袴田君はネクタイ巻きながらキスしてきて格好良くて引いた。





 ゴールドのカードキーで扉を施錠して幅が広くて天井高な内廊下には赤い絨毯が敷かれていた。
 大理石のエレベーターホールに袴田君の革靴の音が響く、エレベーターに乗り合わせたマンション住人は皆小綺麗で感じの良い人ばかりだった。
 聞いたらコンシェルジュは二十四時間常駐だしキッズルームやスポーツジムまで完備されてるって…………わ、私のアパートだって隣の大家さんの庭、少し借りて畑とかやっていいって言われてるし! 大家さんの孫のびのび遊んでるよ! ペットダメだけど大家さんが飼ってるゴールデンちゃんめっちゃ可愛いんだからね、って言いたかったけど恥ずかしすぎて止めておいた。

 新御茶ノ水駅徒歩三分にあるタワーマンションは通勤電車に乗らなくても歩いて会社まで行けて素晴らしい。

「快適で便利かもしれないけど、私は家賃払っていく自信がないな」
「買っちゃえばいいじゃないですか、ローンにすればそこら辺の駅近マンション借りるより安いですよ。尾台さんこの二年でかなりお給料上がったでしょ? まあ昔が低すぎたっていうのもあるけれど、まずはアパートからマンションにしませんか管理人がついてるような。じゃなきゃ俺の家で一緒に暮らし」
「でもあそこは管理人さんはいなくても隣接している家が大家さんなので何かと安心なんですよ。ある意味二十四時間いるし実家からも徒歩十分だし」
「徒歩十分……ってそれ実家出た意味ありますか?」
「まあ本当は出なくても良かったんですけど、思春期の甥がいたので」
「甥……」
「それより、袴田君は? ご兄弟はいるんですか、ああっと……言いたくない事はハッキリ話したくないって言ってもらえると助かります……私あまり自分から他人の家庭の事情とか聞かないので塩梅がわからなくて」

 バックの持ち手をギュッと握って、何ならちょっと立ち止まって言ったら、数歩先まで歩いていた袴田君は振り返って私の前まで戻ってきた。
 顔近づけられて美形が傾いて、怖くて強張ってしまった、そんな私の見て袴田君は優しく笑った。

「何で唇噛んじゃうんですか? 嬉しいですよ尾台さんが俺を知ろうとしてくれて」
「う……」
「尾台さん言ってたじゃないですか、相手の知らなった一面を見て失望したくないって、だから私は上辺だけ見て壁を隔てて付き合っていきたいって」
「ううう…………」
「でも俺の事は上辺だけで済ませたくないから知ろうと思ったの?」
「ぅあ!!」

 その通りです! なのに私から出た言葉は「違うし!!」だった、何で。
 それでも袴田君は笑顔を崩さないで人目も気にしないでキスしてきた。

「尾台さん大好き。俺は俺の心も体も全部尾台さんに知ってもらいたいと思ってますよ」
「全部って……」

 唇離れたのにまたされて、恥ずかしいって思ってるのに正直聞くの不安だったから袴田君のキスに安心してる。

「全部です、尾台さんに聞かれた事はなんだって包み隠さず答えます。だって尾台さん俺の事何も知らないでしょう?」
「ぅん」  
「家族構成は姉が一人と両親です。姉はもう結婚して今は沖縄で暮らしていますよ」
「沖縄!!」
「はい、父が沖縄出身なもので、母はこっち出身なんですが大学の卒業旅行で沖縄に行ってそこでツアーダイバーをしていた父に一目惚れ、内定も蹴ってそのまま沖縄に残り姉が出来て一度はこっちで生活してたんですけど俺が寮のある高校に進学したのを機にやっぱり沖縄に帰るとなって今に至ります。姉も海が好きだったので付いていきました。家族でダイビングショップを経営してます母が営む小料理屋が併設されていて結構人気だそうです」
「ウチナンチュ…………」
「ああよく知ってますね」
「そっかだから袴田君て彫り深いんだ! 目の色も違うし! え? ダイビングするの?」
「掘り深くないでしょ。ダイビングはしてましたよ今はめっきりですけどね。父も母も姉もインストラクターなので小さい頃は良く潜っていました一応レスキューダイバーまでの資格は持ってますけど、尾台さんダイビング経験は?」
「ないし泳げないよ」
「そっか、未経験者だと俺が引率するまではできないのでもし海に潜りたかったら言って下さいね。皆大歓迎してくれますよ」
「海に潜りたいって…………生まれてから一度も口にした事ないかも」
「ええ、だから気が向いたら。そんなんで結婚の早かった両親のお陰で祖父母も若く元気です」
「そうなんだ」
「他に何か聞きたい事は?」
「えっと……うんないです……頭いっぱい」
「はい」

 袴田君は頷いて私達は歩幅を合わせて歩き出した。
 犯罪歴は? なんて聞くまでもなく口調からして仲が良さそうで健全な家族だった、しかもちょっとウェーイ、な感じしない? 大丈夫?
 超自己嫌悪……。
 疑ったりって訳じゃいけど、たった一言勇気を出せばなんて事ないのに。

 でもほらあれ、友達が五年付き合ってた彼氏といよいよ結婚ってなって家に挨拶に行ったら応接間に謎の神様の肖像画が掲げられてて、部屋入った瞬間彼氏にちゃんと手合わせて挨拶しろって言われて、仕方なしにやったら手合わせながら部屋に入って来た両親に謎のお茶出されて、謎の呪文唱えられてトイレ行くふりして家を飛び出した愛ちゃんの話が今更になって頭を巡ってるんですよ。
 何私! 拗らせすぎて自分でもイライラする!!

 でもちょっと待って、そんな生まれながらにして南国で育ったお父様とそれに惚れたお母様と海を愛するお姉様と、コンクリートジャングルで育った私って温度差ヤバくないかな。
 サーダーアンダーギーとかそんなに食べた事ないんだけど大丈夫かな、沖縄行った事ないし軽くコミュ障入ってるんだけど、なんくるないさしてくれるの? ケンミンショーでおさらいせな!!
 あれ、何私ご挨拶の方向で話進めてない?
 と一人で黙々とテンパってたら、

「あれ尾台? おはよ」
「はいさい!!」

 肩叩かれて、飛び上がるかと思った。
 その声は桐生さんしかいなくて桐生さんは私の横に並んだ。

「おはよ袴田君も」
「おはようございます」
「何その挨拶の仕方。ん? あれ? っつか尾台って駅こっちだっけ?」
「えっとえっと……」

 もう何か訳わからんってなってしまって、ああそっか! 一緒に出社するってこういう事態に出くわすのか! 話に夢中になってて忘れてた。
 私が使ってるの御茶ノ水駅だったのに。
 そしたら、袴田君はさっき寄ったコンビニの袋を指差した。

「今日はこっちのコンビニに行きたいって、御茶ノ水駅にはないですよね」
「ふぅんそっか」
「ええ! はい、あのいつも同じだと飽きるので」
「ちなみに尾台さん「はいさい」を挨拶に使用するのは正解なんですが、それは男性語なので、女性は「はいたい」というのが正しいんですよ」
「ほーそうなんですか」
「さすが総務だね、何でも詳しいね袴田君」
「総務関係あります? 父が沖縄出身なんです」
「そうそう! ご家族は沖縄にいるんですって」
「へぇ」

 おおお! 良かった、話が逸らせた。
 会社に近付くにつれ、知った顔が増えてきて残念ながら袴田君はその内の人に呼ばれてしまって会社に着く前に私達は別れた。

 その後も沖縄の話をしていて、桐生さんはなんと袴田君の家族の店を知っていた。
 まあ桐生さんリア充だしマリンスポーツ似合うしダイビングしてそうだもんな。

「東京にもたくさん沖縄料理店あるよな」
「ああ…………私は外食しないけどチラホラ看板見ますね」
「それにしても珍しいね」
「ん?」
「尾台が朝から髪結んでるのも、他人の家庭環境知ってるのも」
「そう…………ですか?」

 うん、珍しいよ。
 と桐生さんはもう一度言った、会社に到着して桐生さんは私の頭をポンポンすると私の分も出勤の磁石をホワイトボードに張ってくれた、振り返って。

 今日も宜しくな尾台って笑った。
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