総務の袴田君が実は肉食だった話聞く!?

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意に反して

 PCを叩きながら左手の腕時計を見たら時間は八時を回っていた。

 はぁ、なんてこった。終業時間十分前に電話が掛かってきて、「すみません急ぎで資料貰えますか?」の問いに「はい分かりました」って答えてしまった。

「一緒にアベイラブルなリストもお願いします」ってなんだよ、最近横文字ばっかでイラッとくるな。
 契約をディールって言う必要ある? と思いつつこないだの会議で、今お配りしましたアジェンダのと言ってしまった自分が恥ずかしい、だってちょっと使ってみたかったんだもん!!

 もう無理だ、これ終わるの九時になっちゃう。
 当然めぐちゃんは帰ってる、袴田君に「お約束はまた後日でいいですか」って送ったら直に「もちろんです。残業大変ですね大丈夫ですか? 楽しみを蓄積しておきます。大好きです」だって……。

 ふわわわわわわ……何だこの表現は自分でもキモイって思うけど袴田君からのメッセージ見て汚れた心が洗われて、ふわわわわってなってしまった。

 もれなく総務の所までいって抱っこされたいんですけど、でもそんな事しに行ったらあの眼鏡に「計画通り」ってされて思う壺だよね?! む! 我慢ッ!!
え、何? 私何と戦ってるの? 


 それにしたって最近変なんだ、ああ袴田君じゃなくて仕事の方、桐生さんがスローペースなのもさる事ながら、他の社員の成績が上がってる。
 それには理由があって…………。

 課長の佐々木さんが自分のクライアントを他の社員に回してるからだ、そのせいでその社員担当だった事務の子の仕事が増えて私がフォローしなきゃで手間が増えてる。


 佐々木さん…………上層部から人事異動の内示でも出てるのかな、この状況って引き継ぎ以外のなんでもないと思うんだけど……。
 こういうのって本人がどこまで口外してるのか分からないし、下手に詮索出来ないからもやもやするんだよね、内示の段階だと公に出来ないのはわかるけど……。
 空気読めって言われても、私仕事以外で男性社員と口きかないし、飲み会は…………記憶にねぇしな!!  すまねぇな使えなくて!

 まあいいか私はただのしがない事務員なので与えられた仕事を熟すだけだ、急に辞令が貼り出されてもビビらないよに身構えとこ!!
 気合い入れるため紅茶を作ろうと思って、ああそうだ……桐生さんのお礼……メモに書いてないじゃん。

 引き出しのメモを取って、カップの上にぶどうを書いてみた。
 うん! 絵心ないから、たかが丸いっぱい書くだけでも下っ手くそ!!

 ああ、そっか……メモ帳を擦って気が付いた、次の缶で私達のこのやり取りも終わるんだ。

 次の缶を買う時私はどんな気持ちなんだろう。
 この恩返しが終わる日が来るなんて考えもしなかったや、そっか今日初めて缶を手渡ししたんだ。
 思ったより普通に渡してたな、じゃあ最後の缶はどうするんだろう。
 今までのお礼言って、渡したいけど……。

 何て考えてたら、催促の電話が掛かってきて仕事に戻った。

 家に帰ってお風呂入って寝るだけ、気付いたら朝になってて好きな歌口ずさみながらご飯食べて仕事行けば、また夜になってる、そんな日々が続いたら。

 あっという間に週末だった。
 金曜日は帰宅したのが十二時近くだったしもう面倒臭くててお風呂もご飯もしなかった。
 朝起きて晴れてて、髪一まとめにして溜まった洗濯物分別してまずはタオル類から洗濯機に放り込んだ。
 その間にお風呂に入って、排水溝に流れるお湯に色がついていて、お風呂上りにカレンダーを見た。

 ドクロのマークつけてちょっと溜め息。
袴田君、私とエッチする時はゴム着けませんって言ってたから、初めての時もそうだったのかなって考えたら、うわ何だこのクソ野郎死んでくれって思う反面、その記憶なくてマジすみませんな訳で何とも責められなった。

 だって素面でエッチな事してみたら、私の意に反して体が反応してて意地さえ張らなければもっともっとしてそうなんだもん。
 酔っぱらってる私なんて何言ってんのか分からないじゃん。
 ご主人様もっとえむをいじめてぇとか言ってたらどうするよ!? たくさん縛っていっぱいかけて下さい、ザーメンいっぱいお腹に下さいえむはご主人様の所有物ですぅ、とか言ってたらどうする?!!! 死にたくなる物件!!
 だってエッチで浮かぶセリフってそんなのしかないし!

 ああそっか動画……撮ってあるみたいだけどそんなの絶対見れない!
 動画なんて最悪! 犯罪ッ!! って思ったけど、この二年間事ある毎に酔っ払いの介抱に付き合わされてた袴田君からしたら、証拠映像の一つや二つ残したくなるよね、って何も言えねっす。
 飲み会……私は楽しいんだけどなぁ。
 だってやっと参加できたし……でも真実を知ってしまった以上もう行けないよな……そんな迷惑かけてたとは……!!

 それで、現在私の体に袴田君との生命は宿っていなかった。
 そろそろ生理も終わる。

 安心……?
 安心したのかな、そうだよねだって結婚してないしな! 
 双方の親からして出来ちゃった結婚を反対するような家庭ではなさそうだけど、そこは順序踏んでほしいよね。
 とか言って、お酒も常識的に飲めない私が良く言うよって話ですね猛省します。

 そーいえば、飲み会の次の日また飲み会があるって言われたんだよね。
 返事してないけど……行けないって言わなきゃな。

 髪を乾かして、下着を着けていないTシャツの上からきゅって胸を掴んだ。
 良かった、今生理中で……。

 なんかもう、以前の私ならスマホ弄れば魅惑のエロバナーにほいほい引っ掛かって数多くのエッチなマンガをクリックしていたんですけれど、今じゃスマホ見るの袴田君のライン読み返すかデートスポット見る事にしか使ってない。
 後、彼が喜ぶレシピとか彼が喜ぶテクとか彼が喜ぶ服装とか…………もぉぉおおお!!!
 こう、仕事で疲れた電車の中でキラキラした画面見るだけでテヘヘヘってなって楽しい気持ちになるんだもんよ!
 で、ちょっとエッチな気分になるから困ったもんだよ全く!

 いない時位心穏やかにさせてくれよ!
 いつもはサロンで読むだけで済ませていたファッション雑誌なんて買っちゃってどうした私!

 ベッドに本開いて、見開きでこっち向いてるモデルさんと目があって、なぜかその横に袴田君を脳内で並べてみた。
 うーん、いや、この服装は違うなって次のページめくってまた袴田君並べてみる、うーんこれも違う。

 ひぃ! 何やってんだコレ! 雑誌に顔どんってやったら、洗濯機の終わった音がした。

 タオル出して服入れて二回目の洗濯機のスイッチを入れる。
 ベランダに出て、そうだ布団も干そうって手すりを雑巾で拭いた。

 袴田君はこの土日、インターンシップEXPOのお手伝いなんだって! 仕事なんだって!!!
 むむむ……!!



 こ、これから毎週俺と色んなとこ行こうって袴田君が言った癖にぃ! 一週目から約束破るんだ嘘つき! もう嫌い!! できもしない事言うなんて最低!!!



 なんて、彼女でもないのに言わないでおこう。


 と思ってたのに口が勝手に言ってた…………何なら胸叩きながら言ってた。


 袴田君は後ろによろけた後、困りつつも満面な笑みで抱き締めてきていっぱいちゅーしてくれた(鍵かかった給湯室)


「もう尾台さん俺死んじゃう」
「休日出勤頑張って下さいね!!! 離して! ばかぁ!」

 ってすげー睨みながら抱き締め返したら、

「偉い偉い、我慢させてごめんなさい本当にいい子。ねえ尾台さん、やっぱり一緒に暮らしませんか?(切実に)」
「絶対やだ!(考えておきます!)」

 そんな金曜日のお昼休みだった。



 今袴田君は何してるのかなぁ。
 晴れて良かったね、って思いながらお布団ポンポンしてたら、大家さん家のお庭でわんちゃんとお孫さんが遊んでいた。

 こないだ、家賃持ってったらリンゴくれて、孫があまり着なかったブランドの服や綺麗なおもちゃたくさんあるんだけど、尾台さんのために取っておくわねって言われたよ。
 私に気付いて手振ってるから手振り返しとく。
 可愛いなぁ……明日実家でご飯でも食べようかな、急に家族が恋しくなった。

 タオルを干し終えて、部屋に戻ろうとしたら視線の先に。

 あ、そっか……段ボール……昔の私が眠る箱が見てほしそうにこっちに向かって少し口を開いていた。
 
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