総務の袴田君が実は肉食だった話聞く!?

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あそこ

「車でデートもいいですけど、俺はやっぱり歩く方が好きだったりします。色んな物見ながら尾台さんならどう思うんだろうって聞いたり、どんな場所が気になるんだろうって視線を探ったりそういう事が出来るから楽しいです」
「ほー」
「車だと会話はできてもゆっくり尾台さん見られないでしょう」
「そうですね、あれなんだろうって思っても一瞬だし」
「熱海は……電車で行って現地でレンタカーでも借りますか? ああでも海沿いを車で走るのも良さそうですね」
「熱海……」

 日曜の人混みの中を袴田君と手を繋いで歩いて、そっか熱海。


 そうだ、そこで私も袴田君が好きだよって言ってみようかな。
 少し時間を下さいどころか、一日で気持ち固まっちゃって本当は直ぐにでもって思ったけど……。

 それで何かプレゼント用意して、それと一緒に言ったらサプライズにならないかな。
 袴田君どんな顔するんだろう、ふふふふふ超喜びそう、えへへ。
 うん、今言うよりそっちしたいふふふ…………。

「尾台さん?」
「あ! えっと……」
「具合でも悪いですか?」
「違くて、あの熱海ね……そうだ私してみたい事あって」
「はい」
「駅弁がしたいです」
「えぇ……!?」
「色んなおかずが入っているの袴田君とちょっとずつ食べたいです」
「ああ」
「景色見て電車に揺られながらお弁当食べたいなぁ」
「最高ですね! 尾台さんから駅弁がしたいって言葉聞けたのも最高でしたし、いいですねお弁当食べたいです。どっちもしましょう」
「袴田君!!」
「何か?」

 眼鏡キラっじゃないんだよ! って私が悪いのかな。




 池袋のサンシャインは買い物に行ったりするけど水族館までは来た事なくてこんなビルの中に水族館? って来る度思っていた。
 地下から入った建物は、やっぱりお洋服屋さんばっかりだし若い子がたくさんだったりで、ちょっと不安になる。
 でもエレベータを降りたら直ぐ清涼感のある滝のモニュメントが出迎えてくれて、水の音が新鮮で思わず興奮してぎゅっと袴田君の腕を掴んだ。

 何ならちょっと叩いて、こっち向いてもらってキスする……なんでしたのかは不明。

 だって、だって! 水族館デートが人生のイベントにあるなんて思わなかったんだもん!!

 どうしよう、水族館ドキドキする!! ってしてる間に袴田君は二人分のチケット買って渡してくれた。
 もうそういうのもいちいち格好いいから止めてくれていいよ!!

 一歩入って水族館特有の真っ暗な幻想的な雰囲気に吸い込まれた。

「わあキラキラ」
「そんなに混んでいなくて良かったです」
「イワシの群れだって凄いよ!!」
「いっぱいいますね」

 目についた円柱の大きな水槽には水流に逆らうようにしてイワシの大群が泳いでいた。 
 一匹一匹は小さいのに群れになると圧巻だった。
 進めば進むだけ、わぁ! ってリアクションして袴田君は一緒に見ながらついて来てくれた。
 私が水槽に張り付いて見ている間に横に書かれた説明を読んでその要約を教えてくれる。
 あれ見て! あれ! ってしたら目線まで体屈めてくれるし、その距離が近くて口もじもじしちゃったら可愛いって頭撫でてくる、な、何だよ……デートってヤバくねぇか、今日夜どうするの、ぎゅってしていいの。

 非日常的で楽しくて、暗闇の先が異世界に繋がりそうでわくわくしてくる。

「次の魚は何かな」
「走ったら危ないから歩いて下さいね」
「もう子供じゃないんだからわかってますよ、でももう少し明るいと良かったのに小さい子にぶつかりそう」
 ちょうど女の子が走ってきて袴田君の腕に掴まって避けた。

「見えないためですよ」

「ん?」
「水槽の魚からは、俺達が見えてないです」
「え? こんなに間近にいるのに?」
「魚は神経質な動物なので、俺達が見えているとストレスになります。だから水族館内を暗くすることで明るい水槽内の光がアクリル板に反射して、マジックミラーのようになるんです。なので魚側からは、水槽の外を見ることができません」
「そっか……」

 厚いガラスに手を当てて、本当にこの中は別次元なんだって思った。

「壁を隔ててるから、俺達が見えないから魚は自由に泳いでいるんですよ」
「うん」


 壁か…………壁、私にもあの壁……まだあるのかな、瞬きしてもバカだから何の考えも浮かばず袴田君の手を引いて次の場所へ移動した。


 上の階もあって水中から階段上がると鮮やかなグリーンが広がっていた。
 水辺の旅をイメージしたエリアは低い水槽から水草が生い茂っていて亀やカエルが可愛かった。

 ちなみに暗がりで見る袴田君はイケメンが3割は増していたと思う報告です、ちょっと女の子が袴田君の事見てこそこそしてたよ。
 スーツだともっと格好いいんだぞ。

 外のエリアもあって少し休む、時間的にアシカショーには間に合わなかった。
 誰もいないショーの観覧席に腰を下ろして足を伸ばした。

「尾台さん疲れていませんか」
「全然だよ! もう一周したいくらい」
「今度はもっと規模の大きい水族館に行きますか」
「品川水族館行きたいです!」
「いいですね、その次は美ら海水族館でもどうですか」
「美ら海……? ああ……そっか、えっと……今思ったら、袴田君って水族館行かなくてもいっぱい魚見てましたよね、ごめんなさい付き合わせて珍しくもなんともなかったですね。今度は動物園にしましょう」
「何言ってるの、俺は尾台さんとだったらどこでも楽しいですよ。散歩でもいいです、尾台さんといられるだけで幸せです」
「大袈裟だよ」
「本当です」

 眼鏡を直して笑ってくれて、苦しかった。
 愛しくって恋しくって何だか胸が焦がれて肩に頭を摺り寄せた、はあ超好き。

 少しの時間そうしてた、会話もなくそれでいて気まずい訳でもなかった。
 そうしたら袴田君がゆっくり独り言のように言った。


「深海の…………絵の具で表せない様な濃いブルー、先が見えなくなる深青、それなのにどこまでも透明で透き通った青色。足を沈ませたら体は深く深く沈んでいって重力もなくなっていく。体を包む浮遊感に陶酔していって、自分が人じゃなくなっていくような海と同化したような感覚。辺りを見渡せば多彩な魚が人間も恐れもせず横切って見た事のない生物が我が物顔で頭上を通過する。そこには都会の雑踏も人間関係のしがらみも嫉妬も欲も何も存在しない。還って来たって錯覚するわりに、俺達はそこで息さえ吸えない。人工的に空気を飲み込んで目の前をガラス一枚隔てなきゃその景色を見る事すらできない。ずっとそこに留まる事はできない。だからあそこは異世界なんだと思います。触れるには近すぎで壊れてしまうものばかり。蠢く珊瑚に侵入を拒むよう息を潜めた沈没船に次元が変わってしまうような海底洞窟、進めば進むほど海の底は虜になって現実を忘れていく」
「うん」
「でも結局、そこは海の中で俺達に干渉しないし人間なんて必要としてないんですよ、あんな所で生きていけないし、きっと異世界だって本当に行ってみたらそんな所なんだと思います」
「そっか」
「海で育った父は都会に病んで、都会に嫌気が差していた母は海へ逃げたけど、結局俺達は人間のままです」
「哲学的ですね、何だか海を否定しているように聞こえるんですけど、袴田君は海が嫌いなの?」
「好きだったり……嫌いだったり……ごめんなさい。自分から振っておいてハッキリしなくて、でも結論から行ったら好きなの、かな。今尾台さんと会えているのも色々な過去の巡り合わせだし」
「私と海? 関係ある?」
「ないですね、直接的には全くないです」

 袴田君の膝に置かれた手を両手で撫でてみて、ちょっと見上げて目があって恥ずかしくて笑って誤魔化して、自然と唇が重なる。

「こうやって少しずつ袴田君を知っていくの」
「はい」
「何だか……嬉しいというか……」
「うん」
「もっと知りたいって思います」
「そう言ってもらえて俺も嬉しいです」
「えへへ」
「ふふふ」
「ねえ袴田君すっ…………とぉああああああッ!!!」

 っぶなかったぁあ!!!
 ものすっごい勢いで口に手当てて立ち上がった!
 危ねぇ危ねぇ、この口が勝手に好きだと滑っちまうとこだったぜ、こいつぁいけねぇなぁ。

「どうしたんですか尾台さん最後の所聞こえなかったんですけど」
「え? ……あっと好きなお菓子はありますかって言いたかったんですよ。ほらよくあるじゃないですか、どっち派? みたいな」
「ああ、ありますね、尾台さんは? 何が好きなんですか?」
「えっと」
「きのこの山とたけのこの里と袴田のあそこと」
「ちょっと! 最後に変なの混ざってるし!! 何で一々絡んでこようとするの!!」
「選ばれたいからに決まってるじゃないですか」


 ちょっと神様! この人好きって言って本当にいいんですか!!?



 水族館を出て、買い物はまた今度って思ったのに、家にあるお皿は小さいのが二枚だけですねとか意味不明な事言ってくるから少しだけ買った。
 もちろんお揃いのだし、私も使いますから! って無理やり少し払った。
 これってもう付き合うとかのレベルじゃ……。


 帰り道初めて見た自分の手と繋がる影を見てドキドキした。

 夕日に照らされて少し伸びた私の影が誰かと手を繋いでるなんて、そんなの先月の私には想像できなかった。

 駅について、袴田君はすみません、ちょっと待ってて下さいってスイカをチャージしに行った。
 サンシャインの上で夕飯でもって誘われたんだけど、それは……うん付き合ってからがいいかなって、人もいっぱいいるし緊張するからと断った。



 これから遊びに行く人と帰る人でごった返す池袋駅のコンコース、券売機から少し離れた所で袴田君を待ってたら、















「あれ? 尾台?」


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