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連載
おしまい
「付 き 合 え よ!!!」
「ヒッ!!」
月曜日の朝、先に出社していた私を見るなりめぐちゃんは、おお! 無事だったか! と抱き着いて来た。
会社行きたくない! 会社行ぎだぐな"い"!! と朝泣いてた私を、袴田君は「大丈夫ですよ体調不良でお休みした事になってます」と諭してくれた。
そんであんだけ行きたくなかった会社ですけど、行ってみたらまあ皆普通で体調はいいの? って心配してくれた。
むしろ、佐々木さんの異動なんかで尾台さんに仕事投げまくりだったよね、ごめんね! だって……止めて謝らないで! 寝坊してえっちしてましたぁ!
でもそりゃそうか、私だって無断で欠勤した人が後に体調不良だと知ったら大丈夫? しかかける言葉ないもんな。
が、これ罪悪感半端ないからぁーーー!!
金曜日にやるはずだった仕事を誰がどうフォローしてくれたのか調べつつ、今日の仕事の優先順位を付けながら週末の出来事を隣にいる親友に話してみたら、彼女はこの一か月で一番大きな声でいつもの言葉を叫んだのだ。
「だからさ、付き合ってからでいいじゃん! 何で知らぬ間にヤッてた男とセフレになってズルズルして週明けに結婚してるの? 付き合えよ!! まずはそれからだろ! えったん順序って知らないの? よくそんなんで親オッケーしたね!?」
「オッケーって言うか、本社会長の孫と言う圧倒的権力の前に平伏した感じかな」
「やっぱりそんなんだと思ってたよ、ラスボスみたいな肩書隠し持っていやがったかアイツ!」
「でもちゃんと結婚させて下さい! って言ってくれたよ?」
「そんなもん私でも言えるし」
「あう…………それで、会長のおじいちゃんは…………雄太が結婚したいならいいよみたいな感じだったかな平たく言うと、もちろん私も頑張って色々言ったけれど!」
「はいはい、偉い偉い。あんなのでも孫なら目に入れても痛くないのね。まあもういいや! とりあえずおめでと」
って机に置いてあったチョコくれた。
「ありがとう、ああ……でも引っ越しとかもなんだけど、クリスマスに籍入れたくてまだ期間あるから、それまではお付き合いみいたいな感じかな」
「ふぅん? クリスマス? ロマンチックですことー」
「二人ともクリスマスに思い入れがあるからね。家賃も払っちゃってるし甥があそこの部屋使いたいみたいだから、直に転居届は出さないで徐々に進めてくよ。でもちゃんと自分の気持ちに決着はつけたからさ」
「そう、えったんが幸せなら私はそれでいーですよ。今度家でお祝いパーチーしようね」
「うん、楽しみ」
それでそれで…………まああの、当たり前だけどお休みした事とか、提出する書類なんかもある訳で桐生課長の所に行って下がるだけ頭下げとく!
「申し訳ございませんでした!」
「おっはよ尾台。後五秒ごめんなさいしたら頭上げていいよ~」
「本当にすみません! ご迷惑かけて社会人として最悪です申し訳ありませんでした」
「はいはい五秒経ちました、顔上げて?」
頭ポンポンされて上げたら桐生さんはいつものさわやかイケメンで怒ってる様子はなかった。
「飲み会も、あの……色々約束したのにバックレて……でも何てゆうかその……そんな感じなのでそれが答えみたいな!!」
「仕事はまあ急ぎ以外は誰も手付けてないし、問題ないよ。でもその飲み会の色々って? …………ふぅん? 尾台、袴田君から飲み会の話聞いてないの?」
「飲み会の話? って? んっと……ちょっと思い当たらないです、袴田君に何か言ったんですか?」
「へえそっか、いいよ気にしないで尾台の気持ちも良く分かった。じゃあ仕事に戻りなさい」
「はい……わかりました」
椅子くるってさせて私に背を向けた桐生さんはボールペンで頭を書きながら、袴田君って意外と忘れっぽいんだな~携帯切るのも忘れてたし~って言った。
隣の有沢さんと目が合ったらビクってされた。
ん?
ドキドキする心臓を服の上から抑えて、私は友人を待っていた。
二年ぶりに会う友人の名前はアリアちゃん。
勇気を出してメールを送ってみたら直に返信がきたのだ。
急に消えた事を謝ったら“謝らないで下さい、にゃんにゃんさんは悪くなです、でも少しだけ本人確認したいから会えませんか”って。
袴田君の了承を得てアリアちゃんを待っていた。
私はアリアちゃんの素顔を知っているけど、私の素顔は見せた事ないし、この二年でどっと老けた気するんだよね……私ってわかるかな。
アリアちゃんはセーラー服やロリータとか(どっちも私服)何でも似合う快活な可愛らしい女の子だ。
私は定時で上がって、アリアちゃんは学校帰り、塾までの間会おうって。
喫茶店でも行くのかな? 若い子ってどんなとこ行くんだろう。
時計を見て、そろそろ約束の時間なのにアリアちゃんらしき人は見当たらなくて。
そしたらいきなり「本物のにゃんにゃんさんだ!!」って後ろから抱き付かれた。
ちょっと上の角度から胸のとこに腕が回ってきて振り返ったら、え?! あ、あ、あ、アリアちゃん!!!
「わあ! 本当に会いに来てくれた! ボク感激ですぅ~!! にゃんにゃんさーん!!!」
ほっぺにちゅーして、ぎゅう~ってしてくるんだけど。
「待って待って待って待って!!! え? アリアちゃん?」
「はい、アリアですよ?」
え? 何で? どういう事?! 顔は知ってる顔なんだけど、嘘でしょ……そのブレザー見覚えが!
「あの……ちょっとその制服ってもしかして明命高校の……」
「はい、知ってるんですか? 嬉しいですぅ! またまた感激です!」
「だってそこ甥っ子も通って……え?
あそこって男子高じゃなかったっけ?」
「はい! ボク男の娘ですよ? 今日は学校行事があったのでこれですが、うちの学校校則がないし、理事長先生が寛大で女装しても注意を受けないので普段はもちろんセーラー服ですぅ!」
「へえーふーん……ソウナンダ……」
数年でアリアちゃん(?)は背が高くなっていて、顔こそ乙女で今でもコスプレ似合いそうだけど、ちょっともう何がなんだかわかりませんよ。
「ちなみに、あくまで女装は趣味で心は男の子なので興味があるのは女の人です!」
「ナルホドデス」
人差し指を立ててウィンクして、いやマジそこらの女の子より本当可愛いですアリアたん。
そしたら、
「遅くなってごめんなさい尾台さんと……ああ、アリア君?」
私とアリアちゃんの間に袴田君が割って入った、というのもアリアちゃんから会いたいって連絡きたけど会ってもいいの? って聞いたら会ってもいいけど、俺も行きますって言われたのよね。
何で? って思ったけどこういう事だったのか。
「げ、こいつカメコの」
「そうそう! たくさん写真撮ってくれた彼ですよ、十二月に結婚するにゃ」
「いやだあああ! にゃんにゃんさん!!!」
抱き付かれたら直に袴田君に引きはがされた。
「はいはい、お兄さんボクのにゃんにゃんさん、独占しないで下さいね?」
にやってしながら袴田君はアリアちゃんに言って眼鏡を直した。
仕事が終わったある日、私は総務部の二人にお時間ありますか、と呼び出されていた。
指定されたミーティングルームには先に袴田君がいて、私と目が合うとこっちにおいで、と優しく隣の椅子を引いてくれた。
が、ホワイトボードの前に立つ二人を見る目は、私にもたまにする蔑んだ目だった。
「下らない話だったら懲戒処分ですよ」
「袴田君も呼び出されていたんですね。すみません、遅くなって…………それでお話ってなんですか?」
席に座ったら、システム課の沖田君が癖のある長髪を耳に掛けて、
「オレ達の聴力が可笑しくなければ、尾台さんは今袴田さんと同棲していて、けけけけ結婚するなんて聞いたので」
続けて新井君が、
「その前にちゃんと袴田さんの正体を知ってもらおうと思いまして!!」
二人は極力袴田君を見ないようにしていて、袴田君は深く椅子に腰をかけ直して、へえ? ってつまらなそうに眼鏡を直した。
「ひぃい! やっぱ怖いよ翔止めよ!」
と新井君が沖田君の腕を掴むと、
「しっかりしろハイジ! これは尾台さんの一生に関わることなんだぞ!」
沖田君は新井君の背中を叩いた。
ネームプレートに目を凝らす、ほう新井 ハイジ君と沖田 翔君なんだ初めて名前知った。
見た目気の弱そうな沖田君が一歩前に出て、頭を下げた後、ホワイトボードの一番上の横長のシートを剥がした。
隠されていたそこには
【袴田さん残酷語録トップ5】
と書かれていて、沖田君は続けた。
「それでは尾台さん! 俺達が日常袴田さんからどんな乱暴な言葉を浴びせられてるか、第五位から発表します! ほら行くぞハイジ」
「おう!」
新井君はエイってめくってその下の文字を読む。
「第五位、五体満足で帰りたいなら肯定しかするんじゃねえぞ」
「どうですか、尾台さん! こんな事言ってくるんですよ! 震える僕に「なあ新井君、どこがなくなったら一番困る?」って追撃ですよ! 次四位!」
新井君はめくって沖田君が言う。
「第四位、テメーが息を吸っていい身分かよ」
「もう恐怖じゃないですか!? 人間に息を吸うなと言ってくる訳です! それが何を意味するか分かっていながら!!! はい三位!」
今度は沖田君がめくって、
「第三位、次俺に話し掛けたら殺すからな」
「凄くないっスか? 殺すってハッキリ言ってくるんスよ! それも仕事中に!! そしてもう二、三人は殺ってそうな目で! そして二位!!」
新井君がめくって、
「第二位、うるせーんだよ、お前なんて生まれてこなくて良かったのに」
「ひどいですよね?! こんな! 人の尊厳を踏みにじってくる上司どう思いますか!? 人として一番言っちゃいけない言葉ですよね! そして一位!」
二人が同時にめくって、
「第一位、お前等が死んだ所で誰も悲しまねえよ、さっさと消えろ」
「こんな非道な人間が人事で尾台さんの夫になるんですよ、いいんですか!! これで温かい家庭築けますか?!!!」
「やばいッスよ尾台さん逃げて!!」
「はいはい、面白い面白い」
袴田君は眼鏡直して拍手してて、おお、そうかここは拍手す所なのかパチパチ。
ギシッて椅子が軋んで袴田君は肘を立てて口の所で手を組んで目を細めた。
「そんな一方的な主張に何の意味があるんですか、確かに言ったけどそれには理由があったでしょう? 五位、それ新井君が同じミスを六回もしてその度俺がフォローして一緒に残業までしてやったのに、途中で僕サッカー見たいから帰っていいっスかってとぼけたことぬかしたからですよね?」
「う!」
「四位は新井君が仕事中に十回も居眠りしてたからでしょう? 口と鼻塞いだら殺される! ってオーバーにリアクションしやがって、居眠りするための呼吸なんて必要ねえだろ、お前が吸っていい空気なんてこの地球上に存在しねぇんだよ」
「うう!」
「三位はお前等が肘が当たった当たってないって一日中クソガキみたいな喧嘩して、袴田さん聞いて聞いてって俺の業務を妨害してきたんだよな?」
「ううう!」
「二位は沖田君が「オレが幼女にモテないのは生まれてきた世界を間違えてきたからだ! 次元が違うんだ! 社会がいけないんだ! いつになったら異世界行けるんだ! 吸い込まれたい吸い込まれたいこの中に!」ってキチガイ発言しなが隣でディスプレイに頭叩き付けてたからだろ?」
「うわあああ!」
「一位は君達が前日に蛍の墓見て、三十分おきに袴田さん明日僕が死んだらどしますか、オレが死んだらどうしますか、戦争を止めたい、これから蛍捕まえに行きませんか、オレ達虫ダメなんで袴田さん捕まえて下さい。ロロップロロップって仕事中にすっげーウザかったから言ったんだけど、その間仕事の手止めてるしさ? 俺何か間違ってました? 全部君達が可笑しいよねえ?」
袴田君は机の脚ガンガン蹴り出して。
「死にたくないなら(社会的に)さっさと謝れよ」
「ひゃああああごめんなさい」
って二人は抱き合っているんだけど。
「もう謝ってるから袴田君怖い顔止めてあげて」
「で? 何がしたいんですか君達は、自分等の失態を暴露したくて俺達を呼んだの? 尾台さんこれどう思いますか」
「うーん、そーですねぇ。なんか今一パンチが足りないですかね! リアリティがないというか……」
二人は、え? 何? どういう意味? って首傾げてる。
立ち上がってボートの前まで行くとペンを手に取った。
「それでは私が言われて一番グッときた袴田君のセリフも発表したいと思いま~す」
きゅきゅきゅ! っとペンを走らせてキャップを閉めると、新井君はその文字を呼んだ。
「ほらさっさと俺の所有物だって認めねえとこのまま突き上げて内臓引きずり出すぞ」
「ひぃぃええ!!」
「ご結婚おめでとうございまっス!!!」
「ありがとうございます~」
「尾台さん愛してる」
「尾ッ台さん!! だーい好き」
「あんまこっちこないで下さい!!」
そして今日もまた、私は聖橋で大好きな袴田君を待っている。
会社では相変わらずの距離感だけれど、あんまり近寄っちゃうとどっか、どっか! 空き部屋ないかな! ってなっちゃうからこれくらいがちょうどいい。
だって家に帰ったら袴田君いるしね。
一緒に家に帰れなくても必ず「ただいま」ってするし「おかえり」ってする。
朝は「おはよう」だし夜は「おやすみ」当たり前の挨拶を交わせる相手がいるってすっごい幸せだ。
毎日が楽しい、些細な事が光って見えて、一緒の空間にいるだけで自然と笑っちゃう。
あえてエッチしないでいっぱい体触り合ってしたくてしたくて堪らなくてでも我慢してイキそうになったらやめて抱き合って寝るのとかすっごい好き、次の日のエッチ倍気持ちいい、心臓の音聞いてるだけで胸熱くなる。
今度の休みに指輪を買いに行く約束をした。
クリスマスには二人で国際展示場に行って思い出を辿るんだ、初めて会った私達の場所。
そんな話をしていたら、このカメラで初めて会ったのあの場所でもう一度にゃんにゃんさんを撮りたいですって袴田君はクローゼットから古いカメラを取り出した。
懐かしそうに本体を擦って眺めて微笑んで、私に向かってカメラを構えたからこんな感じだったかにゃ? ってあの日のポーズを取ってみた。
袴田君は私を被写体に収めて…………………………。
少ししたらカメラを下げて、袖で頬から目元を拭った。
胸がジワジワして飛び付いたら抱き締めてくれた。
キスして私が眼鏡を直してあげた。
「袴田君」
「はい」
「大好きです」
「はい、俺も大好きです」
それで私達はクリスマスに無事に結婚したよ。
でもそうなると営業事務も袴田さんになっちゃうから、尾台さんと袴田君の恋のお話しはここでおしまいだ。
それじゃあさようにゃら。
「ヒッ!!」
月曜日の朝、先に出社していた私を見るなりめぐちゃんは、おお! 無事だったか! と抱き着いて来た。
会社行きたくない! 会社行ぎだぐな"い"!! と朝泣いてた私を、袴田君は「大丈夫ですよ体調不良でお休みした事になってます」と諭してくれた。
そんであんだけ行きたくなかった会社ですけど、行ってみたらまあ皆普通で体調はいいの? って心配してくれた。
むしろ、佐々木さんの異動なんかで尾台さんに仕事投げまくりだったよね、ごめんね! だって……止めて謝らないで! 寝坊してえっちしてましたぁ!
でもそりゃそうか、私だって無断で欠勤した人が後に体調不良だと知ったら大丈夫? しかかける言葉ないもんな。
が、これ罪悪感半端ないからぁーーー!!
金曜日にやるはずだった仕事を誰がどうフォローしてくれたのか調べつつ、今日の仕事の優先順位を付けながら週末の出来事を隣にいる親友に話してみたら、彼女はこの一か月で一番大きな声でいつもの言葉を叫んだのだ。
「だからさ、付き合ってからでいいじゃん! 何で知らぬ間にヤッてた男とセフレになってズルズルして週明けに結婚してるの? 付き合えよ!! まずはそれからだろ! えったん順序って知らないの? よくそんなんで親オッケーしたね!?」
「オッケーって言うか、本社会長の孫と言う圧倒的権力の前に平伏した感じかな」
「やっぱりそんなんだと思ってたよ、ラスボスみたいな肩書隠し持っていやがったかアイツ!」
「でもちゃんと結婚させて下さい! って言ってくれたよ?」
「そんなもん私でも言えるし」
「あう…………それで、会長のおじいちゃんは…………雄太が結婚したいならいいよみたいな感じだったかな平たく言うと、もちろん私も頑張って色々言ったけれど!」
「はいはい、偉い偉い。あんなのでも孫なら目に入れても痛くないのね。まあもういいや! とりあえずおめでと」
って机に置いてあったチョコくれた。
「ありがとう、ああ……でも引っ越しとかもなんだけど、クリスマスに籍入れたくてまだ期間あるから、それまではお付き合いみいたいな感じかな」
「ふぅん? クリスマス? ロマンチックですことー」
「二人ともクリスマスに思い入れがあるからね。家賃も払っちゃってるし甥があそこの部屋使いたいみたいだから、直に転居届は出さないで徐々に進めてくよ。でもちゃんと自分の気持ちに決着はつけたからさ」
「そう、えったんが幸せなら私はそれでいーですよ。今度家でお祝いパーチーしようね」
「うん、楽しみ」
それでそれで…………まああの、当たり前だけどお休みした事とか、提出する書類なんかもある訳で桐生課長の所に行って下がるだけ頭下げとく!
「申し訳ございませんでした!」
「おっはよ尾台。後五秒ごめんなさいしたら頭上げていいよ~」
「本当にすみません! ご迷惑かけて社会人として最悪です申し訳ありませんでした」
「はいはい五秒経ちました、顔上げて?」
頭ポンポンされて上げたら桐生さんはいつものさわやかイケメンで怒ってる様子はなかった。
「飲み会も、あの……色々約束したのにバックレて……でも何てゆうかその……そんな感じなのでそれが答えみたいな!!」
「仕事はまあ急ぎ以外は誰も手付けてないし、問題ないよ。でもその飲み会の色々って? …………ふぅん? 尾台、袴田君から飲み会の話聞いてないの?」
「飲み会の話? って? んっと……ちょっと思い当たらないです、袴田君に何か言ったんですか?」
「へえそっか、いいよ気にしないで尾台の気持ちも良く分かった。じゃあ仕事に戻りなさい」
「はい……わかりました」
椅子くるってさせて私に背を向けた桐生さんはボールペンで頭を書きながら、袴田君って意外と忘れっぽいんだな~携帯切るのも忘れてたし~って言った。
隣の有沢さんと目が合ったらビクってされた。
ん?
ドキドキする心臓を服の上から抑えて、私は友人を待っていた。
二年ぶりに会う友人の名前はアリアちゃん。
勇気を出してメールを送ってみたら直に返信がきたのだ。
急に消えた事を謝ったら“謝らないで下さい、にゃんにゃんさんは悪くなです、でも少しだけ本人確認したいから会えませんか”って。
袴田君の了承を得てアリアちゃんを待っていた。
私はアリアちゃんの素顔を知っているけど、私の素顔は見せた事ないし、この二年でどっと老けた気するんだよね……私ってわかるかな。
アリアちゃんはセーラー服やロリータとか(どっちも私服)何でも似合う快活な可愛らしい女の子だ。
私は定時で上がって、アリアちゃんは学校帰り、塾までの間会おうって。
喫茶店でも行くのかな? 若い子ってどんなとこ行くんだろう。
時計を見て、そろそろ約束の時間なのにアリアちゃんらしき人は見当たらなくて。
そしたらいきなり「本物のにゃんにゃんさんだ!!」って後ろから抱き付かれた。
ちょっと上の角度から胸のとこに腕が回ってきて振り返ったら、え?! あ、あ、あ、アリアちゃん!!!
「わあ! 本当に会いに来てくれた! ボク感激ですぅ~!! にゃんにゃんさーん!!!」
ほっぺにちゅーして、ぎゅう~ってしてくるんだけど。
「待って待って待って待って!!! え? アリアちゃん?」
「はい、アリアですよ?」
え? 何で? どういう事?! 顔は知ってる顔なんだけど、嘘でしょ……そのブレザー見覚えが!
「あの……ちょっとその制服ってもしかして明命高校の……」
「はい、知ってるんですか? 嬉しいですぅ! またまた感激です!」
「だってそこ甥っ子も通って……え?
あそこって男子高じゃなかったっけ?」
「はい! ボク男の娘ですよ? 今日は学校行事があったのでこれですが、うちの学校校則がないし、理事長先生が寛大で女装しても注意を受けないので普段はもちろんセーラー服ですぅ!」
「へえーふーん……ソウナンダ……」
数年でアリアちゃん(?)は背が高くなっていて、顔こそ乙女で今でもコスプレ似合いそうだけど、ちょっともう何がなんだかわかりませんよ。
「ちなみに、あくまで女装は趣味で心は男の子なので興味があるのは女の人です!」
「ナルホドデス」
人差し指を立ててウィンクして、いやマジそこらの女の子より本当可愛いですアリアたん。
そしたら、
「遅くなってごめんなさい尾台さんと……ああ、アリア君?」
私とアリアちゃんの間に袴田君が割って入った、というのもアリアちゃんから会いたいって連絡きたけど会ってもいいの? って聞いたら会ってもいいけど、俺も行きますって言われたのよね。
何で? って思ったけどこういう事だったのか。
「げ、こいつカメコの」
「そうそう! たくさん写真撮ってくれた彼ですよ、十二月に結婚するにゃ」
「いやだあああ! にゃんにゃんさん!!!」
抱き付かれたら直に袴田君に引きはがされた。
「はいはい、お兄さんボクのにゃんにゃんさん、独占しないで下さいね?」
にやってしながら袴田君はアリアちゃんに言って眼鏡を直した。
仕事が終わったある日、私は総務部の二人にお時間ありますか、と呼び出されていた。
指定されたミーティングルームには先に袴田君がいて、私と目が合うとこっちにおいで、と優しく隣の椅子を引いてくれた。
が、ホワイトボードの前に立つ二人を見る目は、私にもたまにする蔑んだ目だった。
「下らない話だったら懲戒処分ですよ」
「袴田君も呼び出されていたんですね。すみません、遅くなって…………それでお話ってなんですか?」
席に座ったら、システム課の沖田君が癖のある長髪を耳に掛けて、
「オレ達の聴力が可笑しくなければ、尾台さんは今袴田さんと同棲していて、けけけけ結婚するなんて聞いたので」
続けて新井君が、
「その前にちゃんと袴田さんの正体を知ってもらおうと思いまして!!」
二人は極力袴田君を見ないようにしていて、袴田君は深く椅子に腰をかけ直して、へえ? ってつまらなそうに眼鏡を直した。
「ひぃい! やっぱ怖いよ翔止めよ!」
と新井君が沖田君の腕を掴むと、
「しっかりしろハイジ! これは尾台さんの一生に関わることなんだぞ!」
沖田君は新井君の背中を叩いた。
ネームプレートに目を凝らす、ほう新井 ハイジ君と沖田 翔君なんだ初めて名前知った。
見た目気の弱そうな沖田君が一歩前に出て、頭を下げた後、ホワイトボードの一番上の横長のシートを剥がした。
隠されていたそこには
【袴田さん残酷語録トップ5】
と書かれていて、沖田君は続けた。
「それでは尾台さん! 俺達が日常袴田さんからどんな乱暴な言葉を浴びせられてるか、第五位から発表します! ほら行くぞハイジ」
「おう!」
新井君はエイってめくってその下の文字を読む。
「第五位、五体満足で帰りたいなら肯定しかするんじゃねえぞ」
「どうですか、尾台さん! こんな事言ってくるんですよ! 震える僕に「なあ新井君、どこがなくなったら一番困る?」って追撃ですよ! 次四位!」
新井君はめくって沖田君が言う。
「第四位、テメーが息を吸っていい身分かよ」
「もう恐怖じゃないですか!? 人間に息を吸うなと言ってくる訳です! それが何を意味するか分かっていながら!!! はい三位!」
今度は沖田君がめくって、
「第三位、次俺に話し掛けたら殺すからな」
「凄くないっスか? 殺すってハッキリ言ってくるんスよ! それも仕事中に!! そしてもう二、三人は殺ってそうな目で! そして二位!!」
新井君がめくって、
「第二位、うるせーんだよ、お前なんて生まれてこなくて良かったのに」
「ひどいですよね?! こんな! 人の尊厳を踏みにじってくる上司どう思いますか!? 人として一番言っちゃいけない言葉ですよね! そして一位!」
二人が同時にめくって、
「第一位、お前等が死んだ所で誰も悲しまねえよ、さっさと消えろ」
「こんな非道な人間が人事で尾台さんの夫になるんですよ、いいんですか!! これで温かい家庭築けますか?!!!」
「やばいッスよ尾台さん逃げて!!」
「はいはい、面白い面白い」
袴田君は眼鏡直して拍手してて、おお、そうかここは拍手す所なのかパチパチ。
ギシッて椅子が軋んで袴田君は肘を立てて口の所で手を組んで目を細めた。
「そんな一方的な主張に何の意味があるんですか、確かに言ったけどそれには理由があったでしょう? 五位、それ新井君が同じミスを六回もしてその度俺がフォローして一緒に残業までしてやったのに、途中で僕サッカー見たいから帰っていいっスかってとぼけたことぬかしたからですよね?」
「う!」
「四位は新井君が仕事中に十回も居眠りしてたからでしょう? 口と鼻塞いだら殺される! ってオーバーにリアクションしやがって、居眠りするための呼吸なんて必要ねえだろ、お前が吸っていい空気なんてこの地球上に存在しねぇんだよ」
「うう!」
「三位はお前等が肘が当たった当たってないって一日中クソガキみたいな喧嘩して、袴田さん聞いて聞いてって俺の業務を妨害してきたんだよな?」
「ううう!」
「二位は沖田君が「オレが幼女にモテないのは生まれてきた世界を間違えてきたからだ! 次元が違うんだ! 社会がいけないんだ! いつになったら異世界行けるんだ! 吸い込まれたい吸い込まれたいこの中に!」ってキチガイ発言しなが隣でディスプレイに頭叩き付けてたからだろ?」
「うわあああ!」
「一位は君達が前日に蛍の墓見て、三十分おきに袴田さん明日僕が死んだらどしますか、オレが死んだらどうしますか、戦争を止めたい、これから蛍捕まえに行きませんか、オレ達虫ダメなんで袴田さん捕まえて下さい。ロロップロロップって仕事中にすっげーウザかったから言ったんだけど、その間仕事の手止めてるしさ? 俺何か間違ってました? 全部君達が可笑しいよねえ?」
袴田君は机の脚ガンガン蹴り出して。
「死にたくないなら(社会的に)さっさと謝れよ」
「ひゃああああごめんなさい」
って二人は抱き合っているんだけど。
「もう謝ってるから袴田君怖い顔止めてあげて」
「で? 何がしたいんですか君達は、自分等の失態を暴露したくて俺達を呼んだの? 尾台さんこれどう思いますか」
「うーん、そーですねぇ。なんか今一パンチが足りないですかね! リアリティがないというか……」
二人は、え? 何? どういう意味? って首傾げてる。
立ち上がってボートの前まで行くとペンを手に取った。
「それでは私が言われて一番グッときた袴田君のセリフも発表したいと思いま~す」
きゅきゅきゅ! っとペンを走らせてキャップを閉めると、新井君はその文字を呼んだ。
「ほらさっさと俺の所有物だって認めねえとこのまま突き上げて内臓引きずり出すぞ」
「ひぃぃええ!!」
「ご結婚おめでとうございまっス!!!」
「ありがとうございます~」
「尾台さん愛してる」
「尾ッ台さん!! だーい好き」
「あんまこっちこないで下さい!!」
そして今日もまた、私は聖橋で大好きな袴田君を待っている。
会社では相変わらずの距離感だけれど、あんまり近寄っちゃうとどっか、どっか! 空き部屋ないかな! ってなっちゃうからこれくらいがちょうどいい。
だって家に帰ったら袴田君いるしね。
一緒に家に帰れなくても必ず「ただいま」ってするし「おかえり」ってする。
朝は「おはよう」だし夜は「おやすみ」当たり前の挨拶を交わせる相手がいるってすっごい幸せだ。
毎日が楽しい、些細な事が光って見えて、一緒の空間にいるだけで自然と笑っちゃう。
あえてエッチしないでいっぱい体触り合ってしたくてしたくて堪らなくてでも我慢してイキそうになったらやめて抱き合って寝るのとかすっごい好き、次の日のエッチ倍気持ちいい、心臓の音聞いてるだけで胸熱くなる。
今度の休みに指輪を買いに行く約束をした。
クリスマスには二人で国際展示場に行って思い出を辿るんだ、初めて会った私達の場所。
そんな話をしていたら、このカメラで初めて会ったのあの場所でもう一度にゃんにゃんさんを撮りたいですって袴田君はクローゼットから古いカメラを取り出した。
懐かしそうに本体を擦って眺めて微笑んで、私に向かってカメラを構えたからこんな感じだったかにゃ? ってあの日のポーズを取ってみた。
袴田君は私を被写体に収めて…………………………。
少ししたらカメラを下げて、袖で頬から目元を拭った。
胸がジワジワして飛び付いたら抱き締めてくれた。
キスして私が眼鏡を直してあげた。
「袴田君」
「はい」
「大好きです」
「はい、俺も大好きです」
それで私達はクリスマスに無事に結婚したよ。
でもそうなると営業事務も袴田さんになっちゃうから、尾台さんと袴田君の恋のお話しはここでおしまいだ。
それじゃあさようにゃら。
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ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
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