総務の袴田君が実は肉食だった話聞く!?

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おしまいの後

僕の上司の袴田さん。

 




「ねえ尾台さん、こないだのバイブってどうしたんですか」
「ぶっ!!」




 時刻は十二時十分、場所は会社から歩いて直ぐのランチが評判の洋食店。
 この二年で店長や可愛いウェイトレスちゃんとも顔見知りになった馴染みの店だ。

 昼休みのチャイムが鳴って飯食いに行こー翔ぅって言ったら尾台さんが来て私達もお昼食べに行くから一緒に行きませんかだって、やったぁ。


 そんで店に着いて僕の向かいに座っている、上司の袴田さんは至極真面目な顔付きで眼鏡を直しながら水を飲もうとしていた尾台さんに卑猥な質問を問い掛けていた。

「ななななな何で今それを言うのかな袴田君!!」

 ごもっとも。

「だって家で聞くとあなた逃げるじゃない」
「に、逃げてないですよ」
「逃げますよ、わかんにゃいってその場を去るかエッチで誤魔化そうとしますよね」
「してないからぁ!! しかもこんなとこでそういう話しないで、顔近付けてこないで下さい良い匂いするあっち行って!」

 距離を詰めたら尾台さんが肩押し返してて、へぇ本当に付き合ってるんだなぁって上司ののろけを前に、正直驚いてる。

「おいハイジ、袴田さんが笑ってるぞ、しかもあんな優しそうな笑顔、こりゃ核戦争が起きるな」
「それはヤバイな、しかし僕達が出来る事なんて何もないし、大量のドロップでも購入しておくか」
「そして尾台さんがキラキラしている、あんな顔オレと食事してる時に見せてくれなかったのに」
「食事? ああ、パソコン教えた後の? 何かお前って童貞でオタクの癖に無駄に行動力だけはあるよな」
「そりゃお前、尾台さんみたいないつもニコニコおしとやかで大人しい人は実はむっつりで脱いだらスケベって相場が決まって」

 そこまで言ったらガンッて何かを蹴る音がして、うんやっぱり隣の翔が悲鳴を上げた。

「何沖田君、尾台さん脱がせて何しようとしてたんですか」
「ひっ!」
「明日からお前の家段ボールにしてやろうか」
「何もしてないですよ! にっこり笑いながら机の下でオレの膝頭陥没させようとするの止めて下さい!」
「袴田君私暴力振るう人嫌いです!」
「沖田君ごめんなさい、足が当たってしまいました。ちなみに尾台さんは脱いだらスケベではありません、脱いだらスケベです間違えないで下さい」
「袴田君ッ!!」

 何かちょっと空気悪くなってないか?! よし! ここはサッカー部のムードメーカーとして一役買ってた僕の出番だな!

「尾台さん!」
「はい?」
「で! そのバイブどうしたんスか!!」
「オレも気になります」
「俺も!」

 これで良かったのかは分からないけど空気は変えられたぞ! 三人に見詰められて、尾台さんは制服のベストのボタンをいじってもじもじしてる、か、可愛い。
 僕達が答えを待つように何も言わないでいると、沈黙に観念したのか艶々の唇が薄く開いた。

「えっと……その…………あげました」
「あげた? 誰にですか?」

 一瞬、袴田さんの眉間が寄って、尾台さんがまた閉口して下を向けば、こっちを見ろと顎を掴んで無理矢理視線を合わせてる。
 僕達にたまにやる見下した目付きと尾台さんの口を結んだ涙目と無抵抗な赤い顔が昼間からすっげーエロい。
 袴田さんの低い声が威圧的に響く。

「絵夢、誰に?」
「あっ……の……寧々ちゃ……や、八雲さんです」

 答えたら袴田さんは顔を解放して尾台さんの頭を撫で胸に寄せて、その手を自分の口に持ってくと八雲? みたいな顔して考えてる。

 ほう、袴田さんが尾台さんを好きだ好きだって感じだったから、てっきり尻に敷かれてるのかと思ったけど、この人本性ドエスだし、やっぱり袴田さん>尾台さん的な力関係なんだろうか。

 そしたら、翔が。
「八雲さんってあの同じ営業事務の八雲さんですよね、ほら袴田さんあれです。うちの会社のフジョッシーですよいつもグループになってこそこそしてるでしょ、飲み会で酔っ払ってオレに「で、新井さんと沖田さんはどっちが攻めなの?」って聞いてきてドン引きしましたからね「私的には沖田さんが強気の受け!」とか、聞いてないっつーの」
「へぇ、じゃあそれでいいじゃないですか」
「嫌ですよ! オレは幼女が好きなの!」
「それで八雲さんにあげたんスか」
「うんっと……何か前に本書くのに資料が欲しいんだけど、実家暮らしだから通販頼めないって言ってて」
「へぇそれでどうぞ、って? 手渡しであげたの?」
「はい、あの……もっといいバイブ手に入ったからどうぞって……ひゃぁああだ!! 袴田君のばか!!」
「ちょっと待って尾台さん! 夫をバイブ呼ばわりってどういう事ですか!」
「お待たせしました。こちら半熟卵のナポリタンとチキンカレードリアです」

 周りも中々うるさいので僕達の会話も聞こえてないけど良いタイミングでご飯が来た。
 尾台さんは作った事あるんだけど、本物を食べた事ないんですってキッシュを頼んで袴田君さんは和風ハンバーグランチをご飯大盛りで頼んでた、相変わらず良く食う人だよな。



 カトラリーのセットが袴田さんの前にあったからだけど、無言でフォーク渡されて当たり前のようにそれを受け取った、翔も特に気を使う様子なく袴田さんにスプーンくれくれって手出してる。
 いつもと変わりない僕達の日常。

 袴田さんは何だかんだ言って優しいんだよな。
 今も減った水何も言わずに足してくれるし、もちろんこの昼飯だって袴田さんが出してくれる。
 飲み会でもうやべーなって時に進められた酒は全部代わりに飲んでくれるしタクシー代出してくれたり、僕より先に僕の仕事のミスに気が付くし、どんなに忙しくても必ず手止めて話聞いてくれる、出来るだろうと見誤っていた裁量も僕が傷付かない言い回しで正してくれて、こないだ僕の下にバイトをつけてくれた、翔の下にもバイトがついて総務部の人数が増えた。
 そりゃ、暴言だけの独裁者になんて誰も付いていかない訳で、僕達は袴田さんのそんけー出来るとこも知ってるんだ。
 っつーか一つ年上なだけなのに僕には出来ない事をしまくる、この謎の男は何なんだと思いつつも、今誰よりも信用してるし付いていく他選択肢がないのである、尾台さんも袴田さんのそーゆーとこに惚れたのかなぁ。

 本社の時は営業だったのもあって前髪をあげてて、言葉数少ないせいで感じ悪くてコネ入社で異端児呼ばわりされていた袴田さんが、ここでは敬語の草食眼鏡君だなんて吹き出しそうなんだけど、見慣れすぎてこっちが本当の姿だったのかななんて最近思うようになってきた。



「う!! やばいハイジ、このカレードリア辛くて食えない」
「ん? じゃあ僕のと交換する?」
「する、ありがとう」
「いいよ別に」
「彼女ブスって言ってごめんな」
「何しれっと掘り返してんだてめぇブチ殺すぞ」

 翔はいそいそ皿を交換して、ああオレは初めからナポリタンが食いたいと思っていたんだよーとか言ってる。

「へぇ~幼馴染みなんでしたっけ? お二人は本当に仲が良いんですねぇ」

 と尾台さんは袴田さんにキッシュを食べさせながら言ってきて、マジこんな綺麗な彼女にお口にあーんとか羨ましいなぁ。

「そうなんスよ、幼馴染みっつーか家が隣で幼稚園の時翔が引っ越してきて以来、何の縁かクラスや学部が違う事はあっても小中高大って一緒で」
「ええ! それで会社まで一緒って凄いですね」
「最悪ですよ、オレ達好みも性格も見た目も真逆だから大して仲良い訳でもないのに勝手に親友呼ばわりされて、スゲー迷惑です。ケンカしてる時間のが長いくらいなのに」
「へぇ」
「でも何て言うんスかね、ここぞの時は翔、みたいな通じるもんがあって。最近僕、彼女と別れたんスけど、ナゼかあんまり悲しくないっつーか……いや、むしろ今までの彼女もあんましっくりくる感じがなくて……。で、そういうのを悩んでる時って必ず翔が側にいてくれて、あれやっぱりコイツなんじゃないのかなって最近翔が可愛く見えてきてるんスよ」
「おおおお!!」
「袴田さん僕の口調真似て偽りの内情を吐露するの止めてもらっていいッスか。彼女と別れてないし翔に至っては週一度でコイツ死なねぇかなってレベルの言い争いしてるんで」
「マジで鳥肌立ったんで止めて下さい」
「何だ嘘なの袴田君」
「上司ジョーク」
「くだらねぇんだよ、袴田さんのそーゆーとこ直した方がいいッスよ」
「笑えない冗談はジョークって言わねーから袴田さんのせいで、オレ達三角関係みたいになってるんですからね」

 袴田さんはにやにやしながら、ハンバーグ食ってて小さく切ったの尾台さんにあげてる、僕達を不快にさせといて美味しいですかって二人の世界に入ってんだけど。

 ああ、でも二人が付き合うって聞いて心底ほっとした。
 そりゃもう本社よりこっちの方が落ち着くし、でもそれって袴田さんが上司にいるからで、僕達だけここに残ったっていくら有能な上司が後任に就いたとしても今みたいに楽しく仕事はできないだろ。

 僕達にとって袴田さんの存在はでかくて、そんな袴田さんがこっちに来てから変わろうとしてて、きっとその理由は尾台さんで、何かを必死に守ってたのも知ってる。

 急に悪態付いてこなくなって優しくなったりなんかして本社の人間引き連れてきて、何だよもしかして会社辞めんのかなって思ったら、まさかの尾台さんにプロポーズに行くって言った日はビビったけど、僕達は袴田さんが実直に愚直にひたむきに仕事にも彼女にも向き合っていた姿を見てたから、二人が今笑っていてくれて嬉しいよ。



 私こんなに食べられないから皆さんもどうぞって尾台さんは僕達にもキッシュをくれた。
 翔はそれを摘まみながら言う。

「そういえば、尾台さんってずっと弁当持参だったのに最近外食が多いですね」
「ああ…………それは袴田君のせいで夜更かしして朝起きられなかったり、朝早起きしても作らせてくれないからですよ。今日はちゃんとお米もセットして下準備出来てたのにキッチンに行かせてくれないんだからぁ!」
 と袴田さんの膝を叩いて、
「え? 俺ベッドで何かしましたっけ?」

 腰抱き寄せて、ん? ん? って嫌がる尾台さんの顔覗き込んでイチャイチャしてるんだけど……。


「もげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろ」
「止めろ翔! お前がもがれるぞ」

 慌てて翔の口を塞いで声を大して、
「袴田さんも童貞の前でイチャイチャすんの止めて下さい!」
 って立ち上がって注意したら、思いの外声が通ってしまい周囲の注目を浴びてしまった。

 そしたら、翔がクスクスしながら、


「やぁだ~新井君って童貞だったんだ~」
「すまない新井君、童貞の前では酷だったね。これからは自重するよ」
「気、気にすることないですよ? 生まれた時は皆童貞ですから!」


 まさかの慰めまで受けて、目が合った店長は頷いてるし、会社を辞めようかと考えた昼下がりだった。




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