総務の袴田君が実は肉食だった話聞く!?

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おしまいの後

桐生君と尾台ちゃん4

 大人しそうな見た目によらず、あ、こいつ度胸据わってるし仕事できるヤツだって思ったのは、挨拶の後の最後の一言だった。
 袴田君は出社初日の大勢の社員を前にしても一切怯んだ様子も見せず、眼鏡に手を添えながら言った。

「明日より、個人面談を開始します。内部調査は全て済んでいますので、それに伴う処罰も既に会長から承諾を得ています。どうぞ宜しくお願いします」

 簡潔に詳細を語らない所が逆に怖くて、何も言わずに社員を見渡しながら頷く会長を前に、昨日までどこ吹く風だった奴らも、少し焦っていたように見えた。
 宜しく、と言うか「覚悟しとけよ」と眼鏡の下の目が光っていた。



 そしてやっぱりアイツは何かあるなって脅威を感じる、袴田雄太。


 てっきり経理とか企画とかそういう比較的に障りない所から、こっちを様子を窺って面談すると思いきや。
 翌日、袴田君は朝一営業部にやってきて、「皆さんのスケジュールはもうこちらで把握してるので、時間厳守でお願いします」と分刻みの面談の時間割表を辰巳さんの横のホワイトボードに張り出したのだ。
 まず一番ヤバイ場所から手つけてくって、とんでもねえ男気だな袴田、怖いモノ知らずめ。

 案の定か? 葛西さんは面談の順番が最後だった。
 でもこれを見たって「この会社の内部事情を一番知ってるのは私なんだから当然でしょうね」っと上から目線で色々言ってやる気満々なのが、すげーな。

 面談時間は一人十分、長くて十五分、尾台ちゃんは五分で帰って来たよ。


 俺の番になって、席に着けば袴田君は手元の資料を読む訳でもなく何か社内に不満はありますかって聞いてきた。
 不満っつーか、なんつーか。

「名前も記入したし、書いた通りですよ。早く元凶になんらかの処分がほしーです。でも譴責や減給なんかだと、逆に逆恨みされそうなので……」

 答えれば、袴田君は眼鏡を直した。

「そんな処分であなたは納得しますか」
「え」
「いや誰も納得しないでしょう。不正は正す、罪は償ってもらう、当たり前の道理で、まずはそれからです。俺は、何も、誰も、一切怖くないので公平な目で導いた妥当な処分を勧告するだけです」

 具体的ではないけれど、感情がないまでの冷徹な物言いに、ああ葛西さん終わったなと思った。

 それこそ、俺も五分足らずで面談を終えた。
 パタンとドアを閉めて、少し足が震えた。

 葛西さんは今日解雇される、これで決着がつくんだ。




 そうしたら……きっと……尾台ちゃんは……桐生君と…………。




 晴れて結ばれるんだろうな。





 そりゃそうだろ、桐生君が命懸けてまでここまで築き上げたんだもん。
 私のためにありがとう桐生さん、っで肩なんか抱かなくても尾台ちゃんの方から胸に抱き付くんじゃねえの。
 拍手してやらなきゃな、できるかな。

 ドアノブから離れた手のひらをじっと見つめれば、本当に俺ってば無能だなってため息しかでなかった。

 いつもちゃらけて笑って冗談ばっかりで、本心でこの手で触れたことなんて一度もない。

 そしてそのまま俺の恋は幕を閉じるのか、あれ? 恋? いつの間にしてたんだよ。
 あんな色んな女に好き好き言ってたのに、好きなんて簡単な言葉のはずだったのに…………ああ、そうか嘘だったから好きって簡単に言えたのか。

 わかりきったことに今更気が付いて、手で目を覆って、罰が当たったって胸が痛い、自業自得だ身から出た錆だ、少し歩いたら後ろから桐生君に肩を叩かれた。

「ありがとう有沢」
「べっつにぃ? 俺はなーんにもしてないよ?」
「うん、何もしないで逃げないでいつも僕の味方になってくれてありがとう、大和は絶対側にいてくれるって凄い心強かったよ」
「あっそ」

 あーあ、俺とポジション代わってくんねーかな。
 いや、無理か一人で本社乗り込む勇気もないし代われねえわ。


 葛西さんがミーティング室に入って、桐生君が「尾台、見積書いい?」って尾台ちゃんを席を体で囲った。

 ああ、そうだないつ血眼になって出てくるかわかんねーもんな、解雇なんて言い渡されたら絶対尾台ちゃんに当たるな。
 桐生君と目が合って俺も後ろの席で待機しとく。

 見積書を見せられた尾台ちゃんは指差しながら笑顔で答えてて、桐生君は頷いてる。

 これが、数日後には部下と上司じゃなくて恋人同士になるのかな、とかぼんやり思っていた。
 お似合いだ、見てくれも綺麗で誠実で優しい完璧カップル、喧嘩もなくいつも穏やかな二人の間にはさぞ可愛い子供が生まれるんでしょうな、なんてちょっとグレタ俺の心。

 でももしかしたら、尾台ちゃん桐生君のこと好きにならないかもとか淡い期待、最低。

 だって、元カノ……実は大学のミスキャンパスだったんだよ、すっげー可愛いし頭いい家柄も最高、でも所詮セフレだった。
 好きにはなれなかったんだ、いや人並みには好きだったけど、尾台ちゃん見た時の、うわ! 何だこの人!!  ってズキンと胸に刺さる様な痛みは初めてだった。


 で、案の定数分足らずで葛西さんは怒鳴りながら出てきた。

 わかるよ、嫌いだもんな、ああいう下手に出てくれない論理的で感情ないタイプ。
 席に戻ってきた葛西さんはデスクを何度も叩いて怒りをぶつけてて、きっと何にも目に入ってないね。

 デスクが揺れて反動で飲みかけのコーヒーが倒れる。
 尾台ちゃんの足に掛かってリアクションをすれば、隣にいる桐生君無視して葛西さんは尾台ちゃんを睨みつけた。

 真っ赤な顔で目を吊り上げながら尾台ちゃんに詰め寄って、この期に及んで自分を擁護しろだなんて、あんだけ不正働いといて、どう弁明するんだよって皆呆れ顔だ。

 でも葛西さんだけはどんな夢の中なのか、あなたが辞めろとか言いたい放題言って、もう我慢する必要なくねえか? って思った時にやっぱに間に入ってくれるのは桐生君だよね。

 これ以上空気悪くさせないように、優しい口調で笑っちゃったりなんかして、本当すげーよな。
 もう全部桐生君が方をつけてくれるよって、不安そうに止めに入ろうとする尾台ちゃんの服を引っ張った。

 こっちに振り返る尾台ちゃんの泣きそうな目、涙がたくさん溜まってる、触りたい。

 どうしようって訴えてくる尾台ちゃんに桐生君に任せなって少し笑ってあげる。
 そしたら、桐生君が尾台ちゃんの手を握った。

 ピクって反応した尾台ちゃんはその手を………………握り返した。


 はいはい、両想い確定。
 俺は応援しようって決めたんだから引っ込んでろよ。
 って言い聞かせてたら、いつの間にか袴田君がいた、そして葛西さんが去った。


 ああ、これで尾台ちゃんは桐生君と…………。

 色んな二人の未来が脳裏を巡って、これで最後にするからって、最初で最後だから……。
 と尾台ちゃんの体を抱き寄せた。

 好きって言いたい、でも俺の好きは陳腐で稚拙で尾台ちゃんにまで罰が当たってしまうといけないから。
 抱き締めた耳元で今まで言えなかった言葉。


 桐生君も皆、尾台ちゃんに言わないといけなかったのに、言えなかった、好きなんかよりも言わなきゃいけなかった言葉。
 一人だけ毎日、八雲さんだけが言ってた。






「ごめんな、尾台」




 そう、謝罪。
 これを口にしてしまうと、自分達が君を生贄にいてるって認めちゃうから言えなかった。
 しかもそれすら、やっぱり桐生君に先を越されてしまった。



「うん、ごめんね」



 柔らかい髪を撫でれば、ポタポタ水滴が抱えた腕に零れる、吐きそうなくらいに彼女の涙は痛かった。
 今まで我慢した分が溢れ返って次々に零れ落ちて、細い体が熱くなって心臓の音が凄かった。

 ごめんなんて、そんな言葉で片付けて本当にごめん。

 その涙に俺なんかが触れてはいけないような気がして、こんな近くにいるのに、寂しくて苦しくて死にたくて、離したくなくて、やっぱりこれが好きって感情なんだと思った。

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